一人称単数

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912394

感想・レビュー・書評

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  • この作品が発売された時、うる覚えですが久しぶりの村上春樹の作品とあり、絶対読みたいと言う気持ちに駆られたのに積読状態でようやく令和4年8月21日に読了しました。
    この感想を書く前、書くのに当たりこの作品の中にある8作品の短編を何度も読み返しました。
    どの作品も読み返す度に興味深くなり、村上春樹の人となりのいち部ー人間としての沢山の引き出しをお持ちしているだろうと思いますがーを垣間見れた気がします。
    そのいち部とは、既に知られている事ー音楽と野球特にヤクルトスワローズーについての作品です。
    作者はクラシックやジャスを特に好んでいたと感じる箇所があり、作品の題にもなっている『謝肉祭』はどんな曲なのかと思わせられ私はYouTubeで検索をしてしまいました。しかしながら、この行為はYouTubeのコメント欄を読むと私ばかりではないことがわかりました。
    また『ヤクルトスワローズ詩集』でも作者は、幼少期から野球を好んで観戦していたように受け止めました。
    現在ヤクルトスワローズは首位に立ち、4番バッターの村上宗隆は、アメリカで「日本の怪物」、「NPB最高の打者」と言われヤンキースのアーロン・ジャッジと本塁打を比較される特集を組まれたとか。
    大のヤクルトスワローズファンである作者は、いかにどのような感情の入れ方でこのシーズンペナントレースをご覧になっているのだろうと思います。そして私はたまにしかスワローズの試合をTV観戦しませんが、神宮球場にグローブを持って野球帽を被った村上春樹がテレビの何処かに映るのではないかと期待して錯覚してしまうのです。
    この作品について部分的な感想などを述べましたが、作者の人間としての考え方や感じ方、受け止め方等に私は多数共感出来た事やこの作品を読了出来て良かったと思えた事が嬉しく思えます。
    益々、村上春樹の作品をこれからも読んでいきたいと思う一冊でした。
    最後に作品中に出てくる作曲家や曲目などを1つずつ調べて私の心や頭の引き出しに加えていきたいと思います。

  • 村上春樹さんらしい独特の感性が光る短編集。8話が収録されています。

    私は村上さんの文体が好きなので、その時々に多用されている表現とか単語とかで、文体のクセみたいなのを見つけてほくそ笑むという読み方をしてしまうのですが(例えば、一時期“メタファー”という単語を使いがちだったなとか)、本書でいえば“チャーミング”多用。そして文末を“それでも。”で締めがちだなと。
    何か訳わからなくてスミマセン。他の方のレビューにもありましたが、私は村上さんの小説(特に短編)は音楽を聴くような感覚で味わうのですよね。しかも詩ではなくメロディー重視なので、こんな読み方になってしまう訳です。
    とはいえ、物語ですよね、はい。
    各話、“所謂村上短編”的な日常の中のシュール。それはとてもクールで、なんともいえない虚無感と余韻が残るものとなっております(ただ、第5話「ヤクルト・スワローズ詩集」は異色ですが)。
    特に第7話「品川猿の告白」は好きでした。猿さんのキャラが良いですよね。しかも<I♡NY>のシャツ着ているってどうよ(笑)。
    そして、個人的に「ヤクルト・スワローズ詩集」はすごく楽しんで読みました。(昨シーズン(2021)は日本一、おめでとうございます!)
    村上さんのスワローズ愛、神宮球場愛がめっちゃ伝わってきますし、虎党の私としては、お母様のタイガースの選手のテレフォン・カードの話は思わずニヤけてしまいました。
    ただ、選手のラインナップを見て、さすがに“テレフォン・カード”の時代ではない気がすると思わないでもないですが、それでも。(それでも。で締めてみたかったww)

  • 村上春樹さんの人柄が垣間見れる半エッセイ的な独特の世界観が広がる短編集。音楽が流れるような文章で、聴くようにして読んだ。物事に意味や答えを求めることに、大した意味はないよって…考える頭より感じる心に重きを置かれた小説だった。特に「品川猿」がよかったな。

  • 村上春樹の短編には3つの特徴がある。
    ◉実体験を敷衍し、創作に仕立てる
    ◉いかにも実体験風タッチなれどあくまでも創作
    ◉ファンタジー(荒唐無稽な話と見る人も)

    本作は8編の小説が収録されており、この3種に綺
    麗に分類できる。ただ、明らかに違うのは『自己』が色濃く出た作品が多い。ゆえに、この表題なんですな。

    実父の半生を仔細に綴った随想『猫を棄てる』を
    書いたことが『ガード』を下げるきっかけというか踏ん切りがついたのかな?『あゝ、ここまで語るんだ…』という印象を抱いた。とにかく今作は自身の体験をモチーフにしたように感じる作品が多く、『虚実皮膜』な手触りを玩味できる短編集だと言える。

    僕の中では、その『ガードを下げる』という変化は、『風の歌を聴け』から『ノルウェイの森』あたりまでは一貫して政治や社会システムに背を向けた、所謂『デタッチメント』の姿勢。1994年の
    『ねじまき鳥クロニクル』あたりから一転『コミットメント』に転向した。今回の変化は、それと同等の驚きがあった。

    【各編のさわり…】
    ◎『石のまくらに』
    かつてバイトしていた当時の同僚の女性と一夜を
    共にした僕。翌朝、彼女から「短歌を書いてるの…」と言われ、1週間後、自作の短歌集が送られ
    てくる…。

    ◎『クリーム』
    18歳の僕は同じピアノ教室に通っている女の子からピアノ発表会の招待を受ける。当日、神戸の山の手にある会場に着いたものの門は堅く閉じられ、人の気配はない。途方に暮れた僕は近くの公園へ向かう。そこで…

    ◎『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』
    『ジャズ界の巨匠 チャーリー・パーカーがボサノヴァを演奏した新譜が発表』というフェイクニュースを書いた主人公。出張でニューヨークを訪れた折、レコード店であるはずのない、そのLPを見つける…。

    ◎『ヤクルト・スワローズ詩集』
    70年代初めに上京した著者。神宮球場の外野芝生席に寝そべり、スワローズを題材に詩作に励む日々の中、幼き頃、筋金入りのトラキチの父に連れられて行った甲子園球場超満員のスタンドの記憶が交錯する…。

    ◎ 『品川猿の告白』
    ひなびた温泉街の木賃宿に泊まることになった僕。温泉に浸かっているところへ宿に勤める猿が入ってくる。『お背中を流しましょうか?』と申し出を受け、背中を流してもらいながら、猿の身
    上話を傾聴する…。

    ◎『謝肉祭』
    お互い既婚者同士の男女。時々コンサートや食事に行く関係。彼女のことを『これまで僕が知り合った中で、もっとも醜い女性』と共通の趣味であるクラシック音楽においては、シューマンの『謝肉祭』が好きと意見は一致しているのだが…。

    ◎『一人称単数』
    ポールスミスのスーツにゼニアのネクタイを締め、コードバンの靴を履き、自宅近くのバーへ。ギムレットを舐めながら、ミステリーを読んでいると、居合わせた妙齢の女性から話しかけられる…。

    以前『職業としての小説家』<Switchlibrary刊>で、確か『今後は自己について掘り下げ、自己を開拓していく』と語っていた…と記憶している。

    今回は短篇だけど、次の長編もその傾向が反映されるかもしれない。そうあってほしい。

    井戸に入ったり、空から大量の魚が降ってきたり、月が2つになったり、小人が登場したり、青豆というヘンテコな名前の登場人物とか、パラレルワールド構造とか…、このところ長編についていけない感ありありにつき、様々な表情のある短編の方がしっくりくるなぁと再実感した一冊であった。

  • 石に漱ぎ流れに枕す。
    夏目漱石の由来となったと言われる故事ですが、
    本書一つ目の「石のまくら」は少し漱石と猫を想起させる表現がまぎれてる気がした。
    名前はまだないと言うより、「もうない」と言う表現の方があってるような気もするが、それはちょっと言い過ぎかな。
    それに他の短編が漱石かと言うとそうでもないし、なんとなくなんとなくだった。

    猿並みのブスと人より人をしてる短編があったり構成自体も、どこか身近な異界に優しく身を委ねさせてくれる。その時の気分で気になる話が変わるのかな?

    個人的に神戸に住んでいたことがあり、高校は大阪にあったので、「クリーム」や「ヤクルトスワローズ詩集」の舞台はすごく面白い。「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」「騎士団長殺し」もそうだったけど、少し境界的な、特殊な土地柄の舞台設定を偲ばせるのは村上春樹の上手いところと思っていて、僕自身が水墨画家なんて余白を扱う人間からするとマージナルやらリミナリティやらの文章に触れるとテンションが上がってしまう。

    ファッション的にもキャラクター的にも「一人称単数」のスーツをたまに着る設定もまさにと肌感覚だし、最近じゃバーで酒嗜む程度になってきたし本も開いたりもするので、もはや恥ずかしくなる。女に絡まれたことはないけど、絡まれないようにウォッカギムレットは人がいないときに頼むとしようか。

  • 短編ノーチェックだった。

    全てが音楽縛りがあるような。
    「ヤクルト・スワローズ詩集」はエッセイとなにかがミックスされた作品と思うが他は全て短編小説。
    どれも好き(贔屓)だけども品川猿の告白がいい。

    村上さんは現実世界と、そことは違うどこかの空間世界にいつも連れて行ってくれるのがいいのかなぁ。とにかく好きなんです、ハイ。

  • 「人を好きになるというのはね、医療保険のきかない精神の病にかかったみたいなものなの」(P.13)
    「-ほんまに大事なことはな、学校なんかではまず教えてくれんのや。」(P.41)

  • ここ2,3年に「文學界」に掲載したものに書き下ろし1編を加えた8扁の短編。村上春樹の世界を小さいながらも窺うことが気楽に出来ました♪
    物書きを生業とする村上さん独特な言葉や文章選び、何だか含みがあるメタファの頻出などが例によって音楽や性や女性や酒等々と共に綴られています。格別、春樹ファンではないけど、やっぱり独自な世界を有する彼の作品は気になってしまいますね(笑)

  • 全体を通して、ぼく、僕、私などの一人称単数の登場がある。しかし、村上春樹は〈私〉ではない一人の人間とすれば、〈私〉にとっては、三人称単数になるはずだ。

    ところが、不可思議な世界に没入すると、〈私〉の経験のように感じてしまう。どこか上手いテクニックがあるのだろう。

    そしてまた、どこまで村上春樹の体験なのかわからなくなる。単なるエッセイとも読めるからだ。しかし、文章の構造が精密になっているので、そこはテクニシャンたる村上春樹の世界だろうことは疑えない。

  • 私小説?エッセイ?純文学?
    不思議な話が多く、ザワッとした感覚で純粋に楽しめた。
    とにかくこの一人称の彼はモテる。素敵なのだ。
    そんな中、ヤクルトスワローズ詩集は、クスッと笑えて、親しみを感じた。
    これが1番面白いと思った私は、まだまだなんでしようね。
    村上春樹作品を少しずつ読んでいって、もっと理解を深めたい。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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