世界のすべての七月 (文春文庫 オ 1-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (570ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167705732

感想・レビュー・書評

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  •  舞台は2000年、アメリカ。1959年に大学を卒業した人々の、31年目の同窓会。五十代になった彼ら、彼女らが抱えるそれぞれの後悔、苦悩、古傷、孤独。
     五十代。結婚と離婚を経て、あるいは病気を抱え、叶わなかった夢を思い、失ったものを数えて。かつての恋を思い出し、センチメンタルになったり、もう一度情熱を燃やしかけて、途中でくじけてみたり。

     スーパーヒーローが出てくるわけでもなければ、幻想ものでもSFでも、ミステリでもロマンあふれる歴史ものでもなく。そこにはただ、それぞれに生きて苦しむ、普通の人々の姿があるだけで。そのうえ舞台がアメリカで、主役たちは五十代。
     自分が共感する要素なんて、ほとんどないようにも思えるのに、とにかくのめりこんで読みました。

     感傷、それから、孤独。

     戦争文学で有名な作家さんで、実際「ニュークリア・エイジ」や「本当の戦争の話をしよう」は、どちらも戦争をメインテーマにすえた素晴らしい作品でしたけれど、戦場から離れた本作も、やっぱりよかったです。
     つらく苦しいシーンも多いので、誰にでもオススメしていいかということを考えれば、ちょっと悩みますが、個人的にはすごく惹かれる作家さんです。

  • 人生の半ばを越え、ただひたすらに自分の人生や境遇を皮肉るみじめな女性の会話を読むのは少ししんどいが、読み慣れた村上春樹の平易な日本語訳と「どこかで何かが起こっている」と思わせぶりな並列の書法が奏功して、どこか「めぐりあう時間たち」と似たような静けさを感じる。が、最後までエイミーとジャンの、言い切ってしまえば「腐れた」会話には、「うまい」とも「しゃれている」とも思えないただの痛々しさしか感じられず、ここにはまだ年齢を積み重ねないとたどり着けない響きがあった。

  • 数年前から積読してたのを、やっと読破しました。
    カタカナの名前が覚えられなくて、中盤までいちいち登場人物一覧に戻らないと、誰が誰か分からない状態で(笑)
    訳者あとがきにあるように、きっと同世代の方が読めば「うんうん、気持ちはわかるよ」ということがあるのだと思うけど、19歳の私に共感することはできず。ただ、今50代半ばの人にも自分たちのような大学生時代があって、自分たちのように中年になるなんて思ってもいない日々やったんやろうなーと。

  • 『世界はいつもすべて七月だった』のラストがいい。もしくはこの邦訳をした彼が素晴らしいということなのかもしれない。

  • 運命とは一体どんな手順で出来上がっていくものなのだろう。そんなことを考えている間にも運命は容赦なく眼前に広がる。今日の風はただ淡々と事実だけを運び、明日の風は知らん顔、昨日の風はガレキだけを残してどこかへ行ってしまった。
    ティム・オブライエンは行き場のない時間の中に生きる者たちの恐怖を曝け出す。「ハッピーエンドを探し当てる能力」とは、無限の幸福を求めることではなく、幸福に有限の線を引くことなのだ。皆わかってる。でも知らんぷりして前者のハッピーエンドを求めるようになる。そうすると、いつしかハッピーエンドとかいう得体のしれないものに、気づけば幸福を吸い上げられている。無限ほどゼロに近いものは無いのだ。
    虚無主義になりそうだが、「だからどうなのよ」と文章化されることで考えることに至ることができる。サイケみたいなラストといい、最高の小説だった。

  • 世界の村上春樹が「ノルウェイの森」1作読んだだけでお手上げになるほど苦手で、でもいつもタイトルには惹かれていて、とはいえあまりにも相性が悪そうだったのでそれ以来読まずにいた村上さんが個人的思い入れがあって訳した、という作品。どうにも苦手な作品を書く人が気に入って訳す作品なのだからたぶんダメかなと思いつつ読んだらやっぱり苦手でした、残念、と言いつつ、相性は悪いけれどもとことんきちんとしているので、最後まで読みました。村上春樹作品が好きな方は、好きなのではないでしょうか。 

  • 瑣末なメモ:スプークと村上春樹の子供時代の共通点

  • 「ニュークリア・エイジ」、「本当の戦争の話をしよう」という小説を書いた、ティム・オブライエン氏の作品。

    1969年度卒業生たちの30年ぶり同窓会に参加した11人のエピソードが、時間と空間をさまよいながら、一見無秩序のようにも感じられる位目まぐるしく語られていて、正直言うと一回読んだだけなので、ストーリーをしっかりと把握できたのか、かなり怪しい。

    11人の卒業生がそれぞれ悩みや苦しみを抱えながら、それぞれのハッピーエンドを目指して生きている。彼らの感情や行動についていけなかったりするところもあるが、これはまぁ、日本人とアメリカ人の思考回路や行動の違いなんだろうと、自分を無理やり納得させながら読んだ。

    この作家は村上春樹氏が常になんとなく気になって仕方がないということであり、オブライエン氏の「へたうま」(古い)な書き方が結構気に入っているようである。僕も読んでみて、混沌としているのだけれど結構引き込ませるだけの力を持っている作家だと思った。

    ちなみにオブライエン氏の3作の中では「ニュークリア・エイジ」が一番好きだ。ちょっと訳分らないが、ものすごく力感に溢れているところが気に入っている。

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著者プロフィール

(Tim O'Brien)1946年ミネソタ州生まれ。マカレスター大学政治学部卒業後、1969年から1年間ベトナムで従軍。除隊後ハーヴァード大学大学院博士課程で政治学を学び、1973年に自らの体験をもとにしたノンフィクション『僕が戦場で死んだら』(中野圭二訳、白水社)を出版。『カチアートを追跡して』(生井英考訳、国書刊行会)で1979年に全米図書賞を受賞した。他の著書に、『ニュークリア・エイジ』(1985年)、『本当の戦争の話をしよう』(1990年)、『世界のすべての七月』(2002年、以上村上春樹訳、文春文庫)、『失踪』(1994年、坂口緑訳、学習研究社)などがある。

「2023年 『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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