それでも、日本人は「戦争」を選んだ

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  • 朝日出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255004853

感想・レビュー・書評

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  • 加藤陽子が、日清戦争から太平洋戦争終結までの歴史を、高校生との対話を通して行われた授業をまとめた一冊。

    栄光学園高等学校の生徒のレベルの高さに、驚きつつも日本の未来に微かな希望がもてる一冊でもあった。

    加藤陽子は、大東亜戦争を講義する前に、国民を戦争に動員するための社会契約及び、戦争終了後に於ける敗戦国の国体改造という現実を解説。
    それによって、日本国憲法の原理及び、現在の日本の歴史的位置づけを、再定義している。
    こういった解説は、一般的に講義する人間の歴史観に左右されるのであるが、加藤陽子はここでE.Hカーを持ち出す。
    フラットな視線で歴史と対話するスタンスは、加藤陽子自身の宣言であり、栄光学園生徒との意識共有をはかることを目的としているのだろう。

    例えば、日清戦争の項では、東アジアにおける西欧列強の進出と、華夷秩序のほころびから、外交問題・民衆・思想家・議会と内閣など、日清戦争に至る経緯を多角的に解説することで、一元的な歴史観で捉えない注意を払っているのも好感が持てる。


    本書は全編を通して、明治維新以降、日本のターニングポイントとなった、様々な事件に対する理解を深めることができる一冊となっている。
    個人的には、この時代を扱った書籍は、毎回同じポイントでため息が出る。

    永田鉄山惨殺事件、熱河事変、ミッドウェイ海戦だ。
    このあたりも、本書できちんと取り上げているだけではなく、歴史的文脈としてとらえているあたりが好感をもてた。

    また、知識不足で知らなかったのだが、日中戦争に突入していた時期、国民党政府の戦略家にいた「胡適」という人物。
    国民党政府が日本に勝つためには、二〜三年は負け続けて、日本の兵站を伸びきらせた上で、ソ連やイギリス・アメリカの参戦をひきだし、最終的に一挙に挽回するという、大胆な戦略を上申したという。

    オセロで序盤勝ちすぎたがために、有効的に駒を置く場所が無くなり、終盤でほとんどひっくり返されるというのを見た事があるが、そんなイメージが浮かんだ。

    全体的に非常に整理されてますし、文章も丁寧ですので、日本の近代国家の歩みを理解する上では非常に頼もしい一冊だと思います。

  • タイトルに魅かれ、久々に小説やエッセイ以外の本を読んだ───

    子どもの頃から、歴史が好きである。
    小学校のときに戦記物に興味を持ち、太平洋戦争の本などを片っ端から読んだ。
    ノンフィクションの世界で、ガダルカナルの悲劇や、キッツ、アスカ島玉砕などの話を読み、その悲惨さに落涙した覚えがある。
    大学受験も世界史を選んだ。
    私の受験した大学は、世界史のなかでも重箱の隅を突くようなところしか出題しないので、通常の教科書の本文内を覚えるだけでは合格ラインに到達しない。
    ページ脇の脚注の細かい説明部分などからの出題が多く、その部分を集中して覚えた。
    だから、一般的な年号の丸暗記などをした記憶があまりない。
    何処の出版社か忘れたが、『世界の歴史』という全12巻ほどの文庫を書店で見つけ、それを歴史小説のように読んで受験に備えた。
    そのほうが、教科書を読むよりよほど日本や世界の歴史を大局的、相関的にとらえることができて、頭に入った。
    私にとっては“歴史”はけっして暗記科目ではなかった。

    この本で著者も「歴史は暗記ものではない」と断言している。
    歴史的思考力とは、“日本や世界の歴史的事象についての因果関係を読み解き、それをしっかりと論述できることにある”と語っている。
    歴史を学ぶのは、“年号や人物名、地名を暗記することではなく、歴史的事件が、どういう必然性で起こったか、その背景には何があったのか、そしてそれを踏まえた上でこれからの日本や世界の情勢を正しく理解し、認識するための手段“だということだ。

    昨今、尖閣諸島問題や竹島問題で、中国や韓国との間の歴史的事実を今一度再確認しなければならない事態に直面している。
    ──日本が何故に太平洋戦争に突入していかなければならなかったのか?
    このような時代にあっては、日清戦争から始まる日本の対外戦争に関する歴史的背景を正確に理解することは極めて重要なことだ。
    正確な歴史的事実を知ることなく、雰囲気や、政治家の発言、マスコミの扇動に軽く流されてはいけない。
    太平洋戦争、あるいはそこに至るまでの過程で、何をしてきたのかを正しく把握し、それを考慮した上で、現在の領土問題に自分なりの意見を持つのがあるべき姿ではなかろうか。

    この本は、神奈川県の優秀な進学校、栄光学園の歴史好きな中高生に向けて、東京大学の教授が冬休みの期間中に行った自由講義がベースとなっている。
    なので、文章も語り口調で分かりやすく、でも内容は奧が深い。
    緊迫した国際情勢を迎えつつある現在、中高生のみならず、大人の方々にも読んで欲しい、なかなかの名著だと思う。

  • 著者の語り口そのままに名講義を聴くことができる良書。
    ベストセラーなので、訂正箇所を以下のHPで確認できるところなど出版社も丁寧にフォローしてくれています。
    さすがの加藤先生も年月日を間違えることはあるでしょうが、それにしても大勢の方に読まれる、ということは、このように完璧な作品に育てることになるのですね。著者にとって、また書物にとっても実に幸福なことだと思います。
    http://www.asahipress.com/soredemo/teisei.html

  • 『感想』
    〇日清戦争から太平洋戦争までの、日本人がなぜ戦争を選んできたのか、戦争の具体的状況ではなく、始めるまでの過程を解き明かす。

    〇日清戦争と日露戦争では死者が10倍も増えた。そこまでしないとロシアと対等に戦うことはできなかった。

    〇真珠湾攻撃は、戦艦に対して戦闘機から直接爆弾を投下したと勝手に思っていたが、それだと反撃を食らってしまうため、離れた海面に魚雷を打ち込み、遠距離から攻撃していたとは。

    〇太平洋戦争は戦死者の約9割が終戦前1年半で亡くなっている。もうここでは日本の勝ち目がない状態で、人もどんどん死んでいった。こんなことを続けた日本政府は一体何なんだろう。

    〇日本人捕虜は過酷な状況にあったことは間違いないだろう(特にシベリア抑留)が、逆に日本人は敵国の捕虜をもっとひどい扱いをしていた。捕虜になることを拒んだ日本人からすれば、捕虜になった敵などどうでもよかったのだろうか。

    〇戦時中の日本は国民の食糧を最も軽視した国であったそうで、命を繋ぐ基本となる食糧を確保できない国が戦えるのかとは確かに思った。人の命の重みがなさすぎる。

  • 東大で日本近現代史を研究、教える著者が、ある私立中高一貫校の20人ほどに講義した数日間をもとにした本。分かりやすいだけでなく、興味を持って考えるためのヒントが満載。こんな歴史の見方、考察の仕方があると、初めて知った。こういう本を中高生くらいで読んでいたら、もっと興味を持って歴史を勉強できたかも。

  • 話題の(学術会議任命外し)の6人のひとり、いちばんポピュラーそうな加藤陽子氏の著書を読んでみた。

    中高生に現代史を連続講義した際のやりとりを、受講生からの質疑やコメントも含めて書籍化したもの。

    現代史というものの性質上、いまだ定説の定まっていない出来事や、当事者の立場によって見える世界が大きく異なることも多いが、そのあたりを捨象し、一面的な解釈を事実のように語る姿勢が、中高生相手(中1から高2)の授業として適切なのかという疑問は残る。

    「#それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社、加藤陽子著)
    Day246


    https://amzn.to/30rKIKz

  • 高校生への5日間の講義から日本近現代史を語る本。

    当時の日本が「もう戦争しかない」と思ったのはなぜか?
    という問いに対して、回答がないような気がするのは自分だけ?単純には読み解けなかった...

    本書では、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争と、大きく5つに分けて、5日間で栄光学園の生徒さんに講義をおこなったものです。
    中高校生にもわかりやすい語り口で語られていますが、内容は濃い!ついていけない(笑)
    それぞれの戦争の事象、経緯が様々な文献から解説されています。しかし、「もう戦争しかない」といういところまで読み解くことができませんでした。
    それぞれが詳しく語られていると思うのですが、もっと全体の流れを中心に語ってくれればなぁっと思います。

    AMAZONの書評を読むと、理由がよく分かったと書いている方々も多いですが、うーん。

    とはいえ、日本近代史を戦争という切り口で解説してくれるのはありがたい。当時の日本、世界情勢が理解できます。

  • ぐいぐいと加藤氏に引き込まれて、今度は批判的に再読したい

  • この本も目からウロコ。日本の明治、大正、昭和の歴史の動きがわかる。
    一読を勧める。

  • 積ん読で2年近く肥やしになっていたベストセラー本をいまさら通読。そのタイトルから太平洋戦争へと突き進んでいった政治の強権と、日本の病んだ精神について語られているのかと思い込んでいたが、そうではなかった。植民地主義をとる国際的な動きの中での大日本帝国の相対性や、日清戦争から始まる時系列、経済的要請などを冷静に分析しながら、戦争を選んでいった「合理性」に目を向けて無茶な戦争へ至った理由を探っている。

    太平洋戦争時、たとえばフィリピン戦線などの話を読むと、兵站というものが一切考慮されていないような、精神論(竹槍で飛行機と対峙するなどとが典型とされる)と人間をいささかも尊重しないファシズムがまかり通っていたことに愕然とさせられ、それがすべてと勘違いさせられてしまう。結果、あの時代とのつながりようのないギャップに、いまを生きる自分とは別の世界、非合理の別次元として近代日本を捉えてしまう心持ちになる。だが本書を読むとそこに生きる民がいて、天皇を最上位に掲げながらも行政・立法・司法も当然そんざいしていた近代日本を、いまと地続きのものとして捉える契機となり、目を開かされた。

    高校生に向けた授業を書籍化したということだが、自分の知識が偏見に固まり、その程度にあったことを知る。ベストセラーの理由があるように思う。

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2023年 『「戦前歴史学」のアリーナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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