- Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
- / ISBN・EAN: 9784270005620
感想・レビュー・書評
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発見された貴重な本、サラエボ・ハガダーにまつわる物語でした。物語は本の保全修復家のハンナが、その過程で得た本にまつわる手がかりと、その手がかりがどうして本に残されたのかが描かれる歴史物語とが、交互に描かれます。
知的好奇心を刺激される、とても面白い物語でした。特に、サラエボのユダヤ人ローラの物語が、心に残りました。
全体的にとても満足度の高い内容でしたが、ハンナの最後の物語がスパイ小説のようだったのが少し残念でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
14世紀半ばに作られた、サラエボ・ハガターとして知られる実在書物に着想を得た小説。
ハガターとは、ユダヤ教徒が過越しの祭で使う本なのだが、このサラエボ・ハガターはユダヤ教が禁じている絵画的な表現を使って描かれていた。
サラエボ・ハガターが作られたのは、14世紀半ば、ちょうどユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒が比較的平和に共生していた時代のスペインと考えられている。
それから長い長いユダヤ迫害をどうやってかいくぐってきたのか?
サラエボの民族紛争の戦火をどうやって免れたのか?
民族紛争からようやく平和が戻ったサラエボ国立博物館での展示に向けて、サラエボ・ハガターの修復を依頼された保存修復家のハンナは、修復中にサラエボ・ハガターの中からいくつかの小さな物質を発見した。その物質を調べることにより、サラエボ・ハガターが作られてから現在までどのような旅をしてきたがが想像できる。
ハンナがその謎を解明していく物語と、実際にハガターが辿ってきた500年もの物語が交錯する。
サラエボ博物館がそのハガターの終着点かと思いきや、ハガターの旅はまだ終わっていなかったのだ。
また、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の対立と融合が、サラエボ・ハガターによって表現されているのだということ、その最後の安息地が民族紛争から平和を手にしたサラエボであるということも、意味が深い。
500年もの壮大な歴史ミステリーである。 -
1月10日読了。図書館。
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「サラエボ・ハガダー」と呼ばれる、実在するユダヤ教の手書き写本の歴史を巡る、ほぼ完全なフィクション。
主人公の古書修復家と彼女の物語があまり好きになれず、最初ちょっと辛かったけど、一冊の写本の歴史、それに関わった、たいていは名もなき人々の歴史の物語部分が力強く書かれていて、惹き込まれた。現代で起こる話の部分はなくても良かったのかなと思ったり。
ほとんど何も知らなかった東欧の歴史や、中世末期〜の東欧におけるユダヤ人の歴史を垣間見ることができて勉強にもなった。 一冊の手書き写本からここまでの物語を紡ぎ出せるなんて、素晴らしい。作者はオーストラリアの人。 -
一冊の古びた本はどこで生まれ、どこから来たのか。本に挟まっていた蝶の羽や動物の毛からそれを解き明かしていく。
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100年ものあいだ行方が知れなかった稀覯本「サラエボ・ハガダー」が発見された――
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐさまサラエボに向かった。
ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で使われるヘブライ語で祈りや詩篇が書かれた書である。
今回発見されたサラエボ・ハガダーは、実在する最古のハガダーとも言われており、
500年前、中世スペインで作られたと伝えられていた。
また、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていることでも知られていた。
それが1894年に存在を確認されたのを最後に紛争で行方知れずになっていたのだ。
鑑定を行ったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。
それを皮切りに、ハガダーは封印していた歴史をひも解きはじめ・・・・。
異端審問、焚書、迫害、紛争――
運命に翻弄されながらも激動の歴史を生き抜いた1冊の美しい稀覯本と、
それにまつわる人々を描いた歴史ミステリ。 -
おもしろかった
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大方の日本人同様、ユダヤ人やユダヤ教について知っているのは僅かな事だが、もっと詳しければ…と残念に思う。彼等の苦難の歴史に寄り添うように紡がれる、一冊の本をめぐる物語。細やかな痕跡の裏から、異端審問や迫害といった辛く苦しい歴史が垣間見える構成が面白いが、現代のパートの最後に出てくる古書のすり替え云年からの件は些か唐突に感じられるのが惜しい。