闇で味わう日本文学: 失われた闇と月を求めて

著者 :
  • 笠間書院
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本棚登録 : 106
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305709554

作品紹介・あらすじ

『源氏物語』、『今昔物語集』、『雪女』、『舞姫』……。
時代を超えて愛される名作には、印象的な「闇」の場面が登場することが多い。
目の前の人の顔も見えない闇とほのかな灯り、怪しいモノの存在を感じさせる山道の真っ暗闇、夜を明るく照らす神秘的な月の光など、人工的な明るさに慣れた現代人にはなかなか想像しにくいものもある。

そんな文学作品の闇の舞台を“闇案内人”である著者が実際に歩いたり、暗くした室内で線香花火を楽しんだりと、五感をフルに活用して雰囲気を体感。
時に恋人たちの逢瀬や詩情を盛り上げ、時に幽玄味に彩られた怪異・伝承を生み出した「闇」という物語装置にスポットを当て、作品世界をより深く楽しむ新しいアプローチを紹介してくれる。

夜の小倉山登山から平安時代の肝試し跡地の散策、古の灯り・油火を身近なもので再現してみたシミュレーションまで盛りだくさんの16章からなる、ユニークな「日本文学体験案内」

【目 次】
巻頭カラー口絵
はじめに
第一章●肝試しの歴史—闇と戦うツワモノたち
(『大鏡』、『十訓抄』、『今昔物語集』、『吾妻鏡』)
第二章●光る茸とかぐやの梯子—八月十五夜には月と地球がつながる
(『竹取物語』『夜の寝覚』『今昔物語集』)
第三章●冬の屋内で線香花火を囲む—座敷花火と寒手花火
(寺田寅彦『備忘録』、正岡子規『俳句稿』)
第四章●ヒグラシと暮らし、ヨアカシと明かす—万葉の蝉
(『万葉集』、内田善美『ひぐらしの森』ほか)
第五章●小倉山と嵯峨野の真っ暗闇を歩く(一)―関西の都は闇放題
(紫式部『源氏物語』、吉田兼好『徒然草』、『小倉百人一首』)
第六章●小倉山と嵯峨野の真っ暗闇を歩く(二)―夜の鳴き声に心を澄ます
(『小倉百人一首』、西行『山家集』)
第七章●月の飲みかた、捕まえかた—月遊びの世界
(土井晩翠「荒城の月」、西行『山家集』)
第八章●雪女は水女—小泉八雲の闇を歩く
(小泉八雲『雪女』)
第九章●望遠部屋とムーンルーム—天の川流域で暮らす
(小林一茶『七番日記』ほか)
第十章●月を直視するなら裏三日月—有明待と今月今夜
(『和泉式部日記』、菅原孝標女『更級日記』、清少納言『枕草子』、尾崎紅葉『金色夜叉』)
第十一章●無月・雨月も月のうち—大正ロマンと少女の夜
(野口雨情「雨降りお月さん」、加藤まさを「月の沙漠」)
第十二章●よばいの闇といにしえの透明人間(一)―なぜ夜にやるのか
(紫式部『源氏物語』)
第十三章●よばいの闇といにしえの透明人間(二)―松の照明を嗅ぐ
(『今昔物語集』)
第十四章●二重の行灯闇の中で—モーモー時から十三夜
(泉鏡花『高野聖』)
第十五章●昔の街灯は火の鳥だった!―舶来の闇を照らす
(芥川龍之介『舞踏会』、森鴎外『舞姫』)
第十六章●おとめの百夜連続単独ナイトハイク―闇富士に恋した娘
(乙女峠の伝説再話)
おわりに
おもな参考文献

感想・レビュー・書評

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  • 切り口が「闇」というところに興味を覚えた。

    今の生活からは、古典文学に書かれるような夜や闇って、なかなかイメージしにくかったりする。
    肝試し、線香花火、有明の月……。
    文学作品を取り上げつつ、闇案内人の筆者?がエッセイのような軽い語り口で、分かりやすく取り上げて説明してくれる。

    肝試しのくだりもそうなんだけど、作品からナイトハイクに至る章も割と多い。
    興味はあるけど、明かりがまったくない中で一人で散歩は、ちょっと自分にはハードルが高いな……。

    ガス灯の裸火とマントルの違い。
    『舞姫』は裸火だったのではといった、知らなかった面白い知識にも触れられて、満足。

  • ※本稿は、「北海道新聞」日曜版2023年7月30日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。

    ・夕影に来鳴くひぐらしここだくも日ごとに聞けど飽かぬ声かも
     「万葉集」

     日本の文学には、月明かりの風情や、豊かな闇の文化が保存されている。そう語るのは、「闇歩きガイド」として文筆活動を続ける中野純である。東京はじめ、関西や神戸などでも闇歩きツアーを開催し、五感を研ぎ澄ます闇の魅力を伝えているという。

     夏と初秋、そんな闇の入り口にいざなうのが、ヒグラシ。日を暗くするので「ヒグラシ(日暗し)」と呼ばれるそうだが、北海道でも、夕方と明け方に聞こえる「カナカナカナ…」という鳴き声は親しいものだろう。

    「万葉集」にはセミを歌った歌が十首あり、うち九首がヒグラシの歌という。掲出歌の「ここだくも(幾許も)」は「たくさん」の意で、しきりに鳴くヒグラシの声が、毎日聞いても飽きることがないと歌われている。万葉人に愛されていたことの証だろう。

     本書の第四章「ヒグラシと暮らし、ヨアカシと明かす」では、「暮れ直す」という言葉を知った。明るさに合わせて鳴くヒグラシは、雨雲が垂れ込めて暗くなると、夕方でなくても鳴くことがある。雨雲が去って陽光が射すと鳴き止み、再び夕方に鳴き出す。その二度鳴きを「暮れ直す」と表現しているのだが、味わい深い詩語と思う。

     現代では、深夜でもコンビニの明かりがこうこうと街を照らしている。夏の夜、少しだけ明かりを消して、「闇」という物語装置にひたってみるのも一興だろうか。

  • 闇と日本文学。やっぱり平安の京都のおどろおどろしい雰囲気は、文学にも色濃く反映されている。
    その闇は現代でも同じらしい。著者は実際に闇を歩き、報告する。京の闇を歩いてみたくなった。

  • 日本文学に出てくる地を実際に歩いてみるという
    闇歩き
    日本の闇は豊かでやわらかい
    面白かった。
    藤原道長たちが肝試しをやっていたとか
    大鏡
    座敷花火
    寒手花火
    冬に線香花火をやってみたい
    ヒグラシとヨアカシ カナカナカナカナ
    夕暮れと夜明けに鳴くセミ
    嵯峨野行きたい

  • 同じような結論に至る話も多いので後半ややだれてしまいましたが、闇をテーマにした本は初めてで興味深かったです。思い返せば自分が真の闇に触れたのは人生のうちで数えるほど(善光寺のお戒壇めぐり/直島の家プロジェクト、南寺/子供の頃、友人の家で雨戸を閉めた部屋の電気を消して布団に潜り込むまで)。自分と世界の境界線もわからなくなるようなあの感覚は人間にとって大事な気がしているのですが、やっぱりこわいんですよね。その「こわい」って感覚も含めて大事なんだろうなとは思うんですけど。

    ―ヒグラシが鳴かないと日が暮れない、だから都会はいつまでも夜にならない。(70P)

    ―旧暦併記をやめたときから、日本人の生活は徐々に月と訣別していく。関東大震災以降の電灯の普及がそれに追い討ちをかける。電灯が月光の夜間照明としての利用価値を奪っていったことで、日本人は決定的に月と別れ、電気と結婚したのだった。(174P)

  • 文学と夜の闇の深い関係。趣がある。

  • 実話怪談が大好きですが、夜に読めません。
    それはやはり夜の闇にひそむモノたちがいるのではないかと思っているからだと思います。
    『闇で味わう日本文学』は副題が“失われた闇と月を求めて”で暗闇がただ怖いだけじゃない美しさや畏怖のようなものだと、改めて思わせてくれたとても面白い読書でした。
    文学をひとつの方向から読んで批評する仕方にも通じるし、これから闇を感じて読むのは面白いかもと思います。
    作者が主催される闇を歩くナイトハイクやナイトウォークがとても楽しそうです。
    文学の舞台になった場所はたくさんあって、京都や富士山はモチーフとしても秀逸なんだろうなと思います。
    家のなかでも闇を味わうことはもちろん出来ると提案されていて、それも良いです。
    家のなかでやる線香花火や、月をお酒などの飲み物に浮かべてそれをストローで飲むとか、家の近所で聴くヒグラシのカナカナカナという音など、闇を知る作者の文章はとても良いものです。
    月を見上げること。
    私はあんなに近くにあるのに行けない場所なんだなぁと思うタイプです。
    月の呼称が日本語にはたくさんあり、月を見て月と暮らすくらい闇が近くてそれが普通だったんだよなぁと思ってしまいます。
    金色夜叉の章には、日本人がいつ月と別れたかを考察されていて、作者曰く関東大震災以降、電灯が復旧したことで日本人の生活が徐々に月と訣別していき、日本人は電気と結婚したと書かれていてめちゃくちゃ納得しました。
    今年の夏は電力がかなり逼迫するとか言われていますが、この本を読んで今こそ闇に回帰するときなんじゃないかと思ったわけです。
    闇だって楽しんじゃえばいいんですよね。
    この本はそのための指南書になること間違いないと思いました!

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著者プロフィール

中野 純
<プロフィール>
体験作家、闇歩きガイド。一橋大学社会学部卒。闇をテーマとした文筆活動やナイトハイクの案内の傍ら、夫婦で少女まんがの専門図書館「少女まんが館」を運営。主な著書に『「闇学」入門』(集英社新書)、『闇と暮らす。』(誠文堂新光社)、『庶民に愛された地獄信仰の謎』(講談社+α新書)、『闇を歩く』(光文社 知恵の森文庫)、『月で遊ぶ』(アスペクト)、『少女まんがは吸血鬼でできている』(大井夏代との共著、方丈社)など。東京造形大学非常勤講師。

「2022年 『闇で味わう日本文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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