アラブの春は終わらない

  • 河出書房新社
3.50
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309245713

作品紹介・あらすじ

若者の焼身自殺から火の手は上がった。独レマルク平和賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • Cf. ポルトガル「カーネーション革命」p31

    チュニジア国歌 by 詩人アブール・カセム・シェビ
    「民衆が生にめざめた暁に
    運命はそれに応えるはず
    闇は晴れ渡り
    鎖は断ち切られるはず」p39

    【火花 in チュニジア】p49
    シディ・ブジドという小さな町。
    大学出だったが、職がなく野菜の露天商。
    警察官の許可がいる。(しばしば賄賂によって)
    許可がない彼は商売道具を没収される。ある12月の日に。
    7人兄弟を養わなければいけない彼は途方に暮れる。
    そして県庁前での焼身自殺を決意する。
    12月19日、シディ・ブジドの住民はデモを決行した。これが後に「ジャスミン革命」と呼ばれるものの端緒である。

  • 昨年著者の『火によって』を読み、気になっていた本書を手にしてみた。

    本書は2011年末の出版であるが、同時期に書かれた『火に~』は、一年ほど遅れての邦訳だったようだ。訳者あとがきで未邦訳作品として紹介がある。

    『火に~』はあくまでも小説としての作品だったのだが、本作は脚色を交えつつも、事実に即した「アラブの春」を著者なりの捉え方で描き出している。
    しかも、執筆時点ではまさにその革命があちこちで進行中で、その後の展開は読めていなかったはずだ。だが、著者は本を書かずにはいられなかった、それほど、著者の中で「アラブの春」に対する思いが深く、また命を賭して自由と尊厳と人権を求めた人々の魂の叫びに強く共感し、著者自身が突き動かされたからに違いない。

    訳者あとがきで、この年の秋のベルリン国際文学祭での著者のスピーチの一部が紹介されている。
    「作家とは時代の証人、しかも警戒を怠らず、ときに能動的に行動する証人である。作家は単に世界を見るのではなく、観察し、ときには裏まで詮索し、自分の直観にしたがって、想像力の源の奥底までおりてゆき、世界を記述する」
    その思いにまっすぐしたがって、書き上げた作品が本書と『火によって』であったということだろう。

    著者が語る、チュニジアやエジプトなど取り上げられている国々の独裁ぶりはすさまじく、これほど長い間、こんな横暴が続いていたとは、ここまでの悪政に(「政」とすら言えないかもしれない)人々が苦しめられ続けていたとは、まったく理解していなかった。
    単に、虐げられてきた人々がついに立ち上がって大きな革命を起こした「アラブの春」と、ひとくくりにしか捉えていなかった自分が情けない。

    『火によって』同様、訳者あとがきに、大まかながらも背景や関連のある事柄の解説がある。また、執筆当時は描けなかった各国のその後にも少し触れられており、私のようにアラブ諸国の事情に全く疎くても、ざっくりとした全体像は理解できるのではないだろうか。

    本書と、「アラブの春」の発端となったムハンマド・ブアズィーズィ青年(本書ではモハメド・ブアジジと記述)の物語『火によって』も併せて読むといいかもしれない。

    シリアとイエメンの今後が気になる。

  • ムスリム同胞団はエジプトや周辺諸国で脅威となるだろうか。
    新世代のメッセージはいたるところに広がっていく。国内にいながら国外に住む人々とコミュニケーションをとる。
    ここ何年もアラブについてはネガティブな報道が多かったから、アラブの春という表現は喜ばしい。

  • 恥ずかしながら「アラブ諸国」とひとまとまりで感じていたけど、
    この本で各国それぞれの文化や体制の違いがあることを知った。
    出版されてから今日までの期間の各国の出来事を、
    改めてニュース記事で見直すと、
    新しい視点で理解できることが多くなったのがよかった。

  • モロッコ出身の著者によって、現在のアラブの春の嵐が巻き起こっている国々の政治、社会的背景が時代を遡って解説と分析がされている。かつて独裁国家の内側にいた人物だからなのかはわからないが、一言一言が淡々と、時に挿入される個々の人間の感情が悲痛な胸の内を容易に感じることができる。ぼくは最初、このアラブの人々の「自由」「尊厳」「人権」を取り戻す反抗があまりにも多くの犠牲をはらっていること、政権打倒で終わりでないことから「アラブの春」というにはまだ早くて「アラブの発芽」あたりがちょうどいいと感じていたのだけど、読後、「まだ終わりじゃないんだ」「始まったばかりなんだ」「枯れちゃだめなんだ」という熱い思いも込められているような気がして、やはりポジティブな「アラブの春」なのだなと思い至った。著者は「文学に何ができるか?」というスピーチの中で「発言し、想像し、糾弾し、叫ばねばならない。」といった。その著者の叫びがこうしてぼくのもとに届いた。次はぼくら読者が「なにができるか?」について考え、行動起こす番ではないかと思う。なぜなら、実際春の嵐が吹き荒れたのは、そういった個々の無名の人々がFacebookなどSNSの連鎖と行動で彼らの世界を変えた。だから次は外にいる僕らが手を差し伸べる番なのかもしれない。

  • ムバラクやベン・アリの頭の中について描写してるのが面白いですね。
    ニュースではチュニジア、リビア、エジプトのことくらいしか見なかったので、それ以外の国の様子も知れたのは良かった。
    既に出版から数か月、事情も変わってると思うので改めて知る必要あり。

  • モロッコ出身・フランス在住の作家によるエッセイ。
    事実を淡々と述べるものではなく、著者の豊かな想像力を駆使した内容となっており、好みがわかれるところだと思う。
    個人的には★3~4の間。

    最低限の知識はあることを前提として書かれていると思われる(注釈がない)ため、私のような無知な人間には関係性がわかりづらい箇所もあった。
    しかし翻訳自体は読みやすく、文字数も多くはないので、アラブの春に感心がある方は読んでみて損はないと思う。

  • 2011年に中東諸国で起こった「アラブの春」について。現在進行形。
    ある程度の知識(近い国なら毎日のニュースを見ていればわかる程度)を前提に書かれているから、例えば十年後に日本の子が読んでも何がなにやらわからないんじゃないかと思う。
    日本でもそれなりにニュースを見ればアラブの春という言葉くらいは耳にしたけれど、3月以降の報道はそれどころじゃなかったから空気を共有できてない。

    著者はモロッコ出身、フランスで活動する作家。
    その場に居るわけではないけれど完全に欧米でもない、当事者に近い立場からの声。
    で、作家としてのアプローチだからドキュメンタリーやジャーナリズムとは違う口調で物語られる。
    実在の人の考えを想像で書いてしまうのは、私は好きじゃない。
    ただ、ノンフィクションとして読むならダメな書き方だけど、これは「主張」であり「発言」だから、私が楽しめる読み物にしなさいってのも違う。

    感情の言葉は感情的であるべきだけど、感情によって立つ言葉は背景を踏まえて(前提を共有して)読ませなければ曲解の余地を生んでしまう。
    感情の言葉を違う場所に持っていくと、正しく読むことが難しくなる。

    私のいる場所からは地理的にも心情的にも文化的にも距離があって、ここにとどくまでにメッセージが変質してしまう気がする。
    (ねじまげた受け止め方をしてしまうんじゃないかと懸念する)

  • (2012.01.13読了)(2011.12.20借入)
    【アラブの春・その⑨】
    アラブの春関連の本は、今まで日本人の書いた物ばかり読んできましたが、この本は、フランスの作家の書いたものです。フランス人と入っても、生まれは、モロッコで、イスラム教徒のようです。従って、今回の民主化運動には無関心ではおられず、執筆したということでしょう。
    この本は、フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・デンマークでほぼ同時に刊行され、ドイツでは、レマルク平和賞が授与されている。(138頁)
    アラブ事情に精通しており、実にわかりやすく説明してくれています。読みやすさは、訳者もいいということでしょう。

    目次は以下の通りです。
    ・ムバラクの頭のなか
    ・ベン・アリの頭のなか
    ・反抗? 革命?
    ・チュニジア
    ・エジプト
    ・アルジェリア
    ・イエメン
    ・モロッコ
    ・リビア

    ●口を噤んで(7頁)
    「アラブ知識人の沈黙」を嘆く声をテレビやラジオの討論でしばしば耳にする。だが、アラブの知識人が口を噤み、差別や屈辱を甘んじて受けいれたことなどかつてなかった。多くの知識人は政治的意見を表明することで、拷問つきの禁固刑に処せられ、ありとあらゆる残忍な迫害を受ける犠牲を払ってきたのだ。人権擁護を主張して命を落としたものを数えあげればきりがない。
    ●アラブの春の勝利(9頁)
    アラブの春の勝利は、まず何よりも機が熟したことによってもたらされた。人々は自発的に、そして最後までやり遂げる決意でデモに参加したのであり、政党の指導者など、誰かの指示に従ったのではなく、ましてや宗教運動の指導者に従ったのでもない。そこに勝利がある。
    ●ヨーロッパの責任(33頁)
    不人気の独裁政権が温存されてきたことに対する、ヨーロッパ首脳の責任は重い。彼らが独裁政権の横暴に見て見ぬふりをしていたのには、二つの理由がある。第一に、ムバラクもベン・アリも、イランのようなイスラーム主義共和国の勃興を阻んでいると考えられていた。第二に、事業や取引から期待できる利益が莫大で、人権尊重を閑却するだけのことはあった……。
    ●クルアーンには(68頁)
    サラフィストは神の教えを一字一句実践するが、ミサ中の教会に爆弾を仕掛けるべしなど、クルアーンのどこにも書いていない
    ●ムスリム同胞団(79頁)
    ムスリム同胞団はエジプト共和国及び周辺地域において脅威となるのだろうか? ある調査によれば、自由で公正な選挙によって彼らは国会の議席の二割を獲得するとされる。たとえ、ムスリム同胞団がイスラーム主義国家の建設を夢見ているとしても、エジプト国民の大部分はそのような夢を共有しない。何百万もの民衆がデモを行って求めるのは、独裁的で汚職にまみれたムバラク政権の終焉であり、自由と民主主義であり、搾取と屈辱の停止である。
    ●リビアは国家ではない(114頁)
    重要な点、それはリビアが国家ではなく、カダフィが荒唐無稽なフィクションのなかにまとめている部族や氏族の寄せ集めだということだ。近代国家にあるような政府も議会も政党も存在しない。リビアというまとまりを保証しているのは、カダフィその人なのだ。
    ●カダフィは精神異常(122頁)
    ジャーナリストも証人もなく、カダフィは不可侵の尊大な絶対君主である。しばしば精神異常の疑いが取り沙汰される。精密検査などせずとも、はっきりしている。彼を見れば一目瞭然、ナルシシズムは病的で、自己中心主義は悲劇的、傲岸不遜は恐怖を覚えさせる。

    ☆関連図書(既読)
    「原理主義の潮流」横田貴之著、山川出版社、2009.09.30
    「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
    「革命と独裁のアラブ」佐々木良昭著、ダイヤモンド社、2011.07.14
    「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
    「レバノン混迷のモザイク国家」安武塔馬著、長崎出版、2011.07.20
    「〈アラブ大変動〉を読む」酒井啓子編、東京外国語大学出版会、2011.08.10
    「アラブ革命の衝撃」臼杵陽著、青土社、2011.09.09
    「グローバル化とイスラム」八木久美子著、世界思想社、2011.09.30
    (2012年1月15日・記)

  • 「アラブの春」を早い段階(フランスでは7月に出版)でまとめたもの。エジプト、チュニジア、リビア、モロッコ、イエメンと、マグレブ地域の国々を中心として一連の「反抗」(著者は「革命」という言葉を嫌う)における各国の対応をコンパクトに分析。青年たちの具体的エピソードが面白い。彼らによる新しい形の革命にベン=ジェルーンはかなり期待を寄せる。
    もう少しつっこんだ話を次に期待。注釈はほしいところ。未邦訳だが、「反抗」の契機となったチュニジア人青年ブアジジにスポットを当てた"Par le feu"(『火によって』)も読みたい。

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