サラダ記念日 (河出文庫 227A BUNGEI Collection)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309402499

感想・レビュー・書評

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  • 一番好きな歌は、「自転車のカゴからわんとはみ出して なにか嬉しいセロリの葉っぱ」という歌。青春の風が吹いているような、爽やかな読後感だった。

  • 「人生はドラマチックなほうがいい」ドラマチックな脇役となる

    我が髪を三度切りたる美容師に「初めてですか」と聞かれて座る

    上の歌なんかは読んでいてドキッ、となった。こういう自己の他人から見た他者性みたいなものを掴むのが上手いなと思う。基本的には自分の人生は自分のものだけど、ふいに他人から見た自分のことを思って、何となく微妙な気持ちになる。その気持ちを上手く掴んでいるというか、何というか。

    明るい。そしてシンプルでわかりやすい。俵万智以前にも口語短歌はめちゃくちゃ存在していたらしいんだけど、この「等身大な短歌」を発明したのが偉い。特に韻文って、長年の日本文化の継承がどうたらとか、正直その衒学性みたいなものが癪に触ったりもするし、玄人しか寄せ付けない感じがなんかイヤ〜に思えたりする。それを上手く取っ払ってる。

    歌としては、助詞とか、吾とか、完全には口語とは言い切れない言葉も多分に含んでて、意外とそういう感じなんだ、って思った。伝統と新しさを上手く取り合わせている。サイコ〜。

  • 読むとき読むときでまったく受ける印象が違う。
    想像掻き立てられ動悸動悸してしまう日もあれば、薄っぺら…と投げ出したくなる日もあって、自分がいまどんな状態にあるのかを朧げに掴むバロメータになる。
    ときめきのあまりキャアキャア身悶えしてしまうようなときはきっと恋の渦中にあって、なにに触れても勝手に連想を膨らませる、やかましくも微笑ましい時期。
    いま、ぽいと『記念日』を投げ捨ててしまえるのは、動騒に包まれたあの焦熱の日々をすっぱり過去と切り離す余裕ができたからか。どちらがいいのやら。

    そういえばバロメータとパラメータ、ときどき怪しくなりませんか。
    ドラクエの呪文みたいで、言葉の響きが意味内容から微妙に浮いている。

  • 有名なサラダ記念日は知っていたが、朝ドラ『カムカムエブリバディ』でも出てきてこの本に興味を持った。歌集はあんまり読んだことがないが、日常の身近な題材にクスッと笑えたり、共感できたり面白かった。




    ♦︎「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

    ♦︎君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ

    ♦︎「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

    ♦︎いつもより一分早く駅に着く 一分君のこと考える

    ♦︎ 一週間会わざりければ煮返して味しみすぎた大根となる

    ♦︎一年ののちの私の横顔は何を見ている誰を見ている

    ♦︎会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く

    ♦︎「この味いいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

    ♦︎東京へ発つ朝母は老けて見ゆこれから会わぬ年月の分

    ♦︎不快指数信じて過ごす木曜日元気がないのは天気のせいだ

    ♦︎天気予報聞き逃したる一日は雨でも晴れでも腹が立たない

    ♦︎愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人

    ★出会いは偶然だった。が、いま私が歌をつくりつづけていることは、偶然ではない。表現手段として、私は歌を選んでいる。惚れてしまったのだ、三十一文字に。

    ★生きることがうたうことだから。うたうことが生きることだから。

  • 初めて短歌を読んだが、短歌というのは言葉の良さを最大限引き出せるものだなと思った。短いながらも小説以上にそこにある風景を生き生きと説明していて心の琴線に触れるような作品が多い。
    短歌に興味を持つきっかけとなった作品です。

  • 「うわっ」と衝撃を受けたり共感したりした歌の載っているページに付箋を付けながら読んだら、結構たくさん貼っていました。俵万智すごい!と今さら痛感しました。いくつか抜粋して下に書きます。


    生ビール買い求めいる君の手をふと見るそしてつくづくと見る(17ページ)

    真夜中に吾を思い出す人のあることの幸せ受話器をとりぬ(21ページ)

    愛ひとつ受けとめかねて帰る道 長針短針重なる時刻
    (35ページ)

    妻のこと「母さん」と呼ぶためらいのなきことなにかあたたかきこと(48ページ)

    思いきりボリュームあげて聴くサザンどらもこれもが泣いてるような(66ページ)

    泣いている我に驚く我もいて恋は静かに終ろうとする
    (106ページ)

    明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終列車
    (126ページ)

    なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き(145ページ)

  • 死んだら棺桶に入れてください

  • 「白よりもオレンジ色のブラウスを買いたくなっている恋である」

    「何してる?ねぇ今何を思ってる?問いだけがある恋は亡骸」

    「この時間君の不在を告げるベルどこで飲んでる誰と酔ってる」

    が特に好き。「白よりも〜」は、純粋な恋の始まりが現れていて良い。「何してる?〜」は恋人と別れた時の心情が絶妙に現れていて、すごく好みだった。「この時間〜」は、恋人がいるとこういう不安も付きまとうよね。みたいな、共感がある。

  • この時代の現代をこんなふうに切り取ってくれてありがとうとおもう。時代の風がふわっと流れてくるようでうれしい。
    コンタクトレンズの歌が何首かある。どう見ても私がいま使っているコンタクトレンズと同じなのだけど、この時代の万智さんの書き方だと、目にものを入れているという意味合いがちゃんとコンタクトレンズのなかにふくまれていると感じる。そういうきらきらとした感覚が他にいくつもあった。そのときの流行を描くと後の時代に残らなくなるなんて言うけれど、万智さんの歌は流行やその瞬間の現代を描いてくれているから歌を読んでいるとふわりと風が吹いてくる。
    この本は誕生日プレゼントで妹にあげる。

  • 俵万智(1962年~)氏は、早大第一文学部卒の歌人。大学卒業後、神奈川県立橋本高校の国語教員として働きながら発表した『野球ゲーム』が1985年の角川短歌賞次席となり、その奔放で斬新な表現で現代口語短歌のホープとして一躍脚光を浴びた。『八月の朝』で1986年の角川短歌賞を受賞。翌年に発行した第一歌集『サラダ記念日』は刊行前から話題を集め、歌集としては異例の大ベストセラーとなり(280万部で1987年度ベストセラーランキング1位)、社会現象を引き起こした。その後も、歌集、エッセイなどを多数執筆。
    私は、俵万智とほぼ同世代であるが、本屋で文庫本の棚を見ていたときにたまたま本書を目にして、懐かしく手に取った。(発売当時に買ったものは、引越しを繰り返すうちになくなってしまったのだ)
    30余年ぶりに読んでみると、当時も今も変わらないであろう歌と、あの時代だからこその歌が、ほどよくミックスしているように感じたのだが、ネットで当時を振り返ると、次のようなワードが挙がっていて、
    <1985年> つくば万博、日航ジャンボ機墜落事故、プラザ合意、「スーパーマリオブラザーズ」、夏目雅子死去、流行語「イッキ!イッキ!」、CDプレーヤー、日本語ワープロ(パソコンはまだ普及していない)、ハーゲンダッツ、居酒屋(村さ来、つぼ八)、小林明子「恋におちて」、チェッカーズ、阪神タイガース初の日本一
    <1986年> 伊豆大島三原山大噴火、チェルノブイリ原発事故、流行語「新人類」、高級外車、テレホンカード(スマホはおろか、携帯電話も存在しない)、アークヒルズ
    <1987年> 国鉄民営化、ブラックマンデー、大韓航空機爆破事件、流行語「朝シャン」、スーパードライ、CDソフト(LPレコードを抜く)、フィットネスクラブ、宅配ピザ、「独眼竜政宗」、「ねるとん紅鯨団」、「マルサの女」、「サラダ記念日」、PL学園春夏連覇
    改めて見ると、これらを直接取り上げていなくても、こうした時代背景があって詠まれている歌も少なくなく、懐かしさが込み上げてくる。
    俵万智の瑞々しい感性から生み出された歌は、今の若者が読んでも心に響くと思うが、同じ年代を生きた者としては、あの時代に俵万智が現れて、自分では言葉にできない思いを残してくれた僥倖に、感謝せずにはいられない。

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著者プロフィール

1987年の第1歌集《サラダ記念日》はベストセラー。歌集に《かぜのてのひら》《チョコレート革命》《プーさんの鼻》《オレがマリオ》《未来のサイズ》《アボカドの種》、評伝《牧水の恋》、エッセイ《青の国、うたの国》など。2022年、短歌の裾野を広げた功績から朝日賞を受賞。読売歌壇選者のほか、宮崎で毎年開催される高校生の「牧水・短歌甲子園」審査員もつとめる。

「2023年 『旅の人、島の人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

俵万智の作品

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