カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社
3.82
  • (272)
  • (255)
  • (350)
  • (29)
  • (8)
本棚登録 : 3253
感想 : 237
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (501ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751173

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 4

  • ⑤ロシアの修道僧
    第2部の後半はゾシマ長老の自伝が中心となる。長老自身が死ぬ間際に、集まった人々に語ったことを、後にアリョーシャが文章にまとめたという設定になっている。この、ゾシマ長老、いろいろな奇跡を起こすということで、町の人々の中でも大変敬われていた。アリョーシャもそれにひかれて修道院での生活を始めている。しかし、もともと、若いころから善き人で、修道僧としての生活をしていたわけではなかった。陸軍幼年学校を卒業した後、ゾシマは軍の仕事についていた。社交界にも出入りし、派手な生活を送っていたようだ。そのころ、美しい女性と出会い、その女性と結婚したいとまで思うようになっていた。しかし、最後の一言を口にすることができない。相手も自分のことを好きでいてくれていると思っていた。ところが、しばらくその地を離れてもどってくると、その女性は別の男性と結婚している。前から婚約もしていたらしい。自分のことを情けないやつと思ったことだろう。その後、その男性に決闘を申し込むことになる。決闘の準備をしてその場に向かう前に、なぜか宗教的な?気持ちにおちいる。前日に自分の部下であるところのアファナーシーを何らかの理由で(たぶん大した理由ではない)殴りつけていた。それが、とても罪深いことと感じ、決闘に行く前に、アファナーシーのもとに向かってひざまずいて謝っている。決闘(19世紀中ごろにまだそういうことが行われていたのだ、禁止されているという記述はあるが。)の場で、まず相手がピストルを放つ。その弾はゾシマの体には命中しなかった。次は自分が打つ番だったが、ピストルを林の中に投げ捨てる。そして許しを請う。怖気(おじけ)づいたのか、男としてはなんとも、情けない姿ではあった。周りの人からもそうののしられる。その後、ゾシマは軍を去り、僧侶となる決心をする。このときのことが世間にも知れ渡る。それで、ある人物が足しげくゾシマのところを訪ねてくることになる。そして、次第に自分のことを語りだす。このエピソードが実に興味深い。この男性、若いころに好きな女性がいた。そしてプロポーズをする。しかし、その女性には別に好きな男性がいた。よくあることだ。そして、女性からは二度と家へは来ないようにと告げられる。しかし思いはつのるばかり。そしてとうとうある行動に出る。夜、男は鍵がかけられていなかった窓からその女性の家に入る。そして寝室に向かい、身勝手な憎しみから、その女性を刺し殺してしまう。そんな中ではあるが、自分に嫌疑がかけられないように、冷静に部屋の中のものを手にしてそこから去っている。その後、女性の屋敷で問題があって追い出されていた下男が犯人として捕まる。しばらくして、下男は病死し、そのまま事件は解決したことになる。その後、男性は別の女性と結婚し、子どもをさずかる。しかし、その男性は自分がした罪にずっとさいなまれ続けることになる。そして、最近では何度も夢に現れるようにもなり、苦しみが増していく。もうどうにもがまんできない、皆の前で自分の罪を告白したい、そうゾシマに伝える。しかし、それでも幸せに暮らしている妻や子どもたちに迷惑がかかると、何度も何度も迷い続ける。ようやく、人々が集まる機会があり、その場で、長年隠し持っていた証拠の品々とともに、洗いざらい自分のした罪について話しをする。警察にも届ける。しかし、結果は、皆が彼は気が変になったのだ、ということで済まされてしまう。一週間後男は病死する。男性の妻などは、ゾシマの部屋に通い始めてから男が変になったと言い、ゾシマを悪もの扱いするようにもなる。それで、ゾシマはその町から去ることになる。それから、ずいぶんとたって、ゾシマが巡礼の旅にあるとき、軍にいたころ部下であったアファナーシーとたまたま出会うことになる。アファナーシーはゾシマに何の恨みもなく、逆に今は修道僧であるところのゾシマに、家族のことを祝福してほしいという。しかし、ゾシマは、自分は貧しい修道僧であり、祝福なんてできない。ただ、神に子どもたちのことをお祈りして差し上げると言う。さらに、毎日欠かさず、アファナーシーのことを祈ってきたとも言う。このようになれたのはあなたのおかげだとも。最後にゾシマは言う。「私は彼の主人であり、彼は私の召使だったが、今私と彼がたがいに愛情をこめ、心からの深い感動でキスを交わしたとき、私たちの間には、偉大な人間的一体化が生じたのだ。」

    ⑥アリョーシャ・ミーチャ(ドミートリー)
    ゾシマ長老の死後、人々は何らかの奇跡が起こることを期待していた。ところが、それどころか、しばらくするとその死体から腐臭がただよい始めた。人々の間では、聖人の死後、その死体からは腐臭はせず、場合によっては芳香がかもしだされるとまで信じられていた。ところが、ゾシマ長老の死体が置かれた部屋は、窓を開けて空気を入れ替えなければたえられないほどのにおいが立ち込めていた。そのうわさはたちまちに町の人々にも知れわたった。そして、あれほどゾシマ長老をほれ込んでいたアリョーシャまでもが、そのことが原因で、気持ちが離れようとしていた。自分が今まで信じてきたものはいったいなんだったのか、自分はこれからどう生きていけばよいのか、そんな気分だったのだろう。そこへ、ラキーチンという人物が、アリョーシャを俗世界へ引き込もうと現れる。ラキーチンはグルーシェニカのいとこだ。以前から、アリョーシャを家に連れてくるよう、グルーシェニカに頼まれていた。グルーシェニカはまじめなアリョーシャを誘惑しようと考えていたらしい。自分の魅力で、このまじめで幼い青年を自分の思い通りにでもしようと考えていた。もちろん、このグルーシェニカとは、アリョーシャの兄ドミートリーと父フョードルの気持ちをとらえて離さないあの魅惑的な女性だ。グルーシェニカの家に到着したアリョーシャがソファに腰をかけると、グルーシェニカは自然にアリョーシャのひざの上に乗り、手を肩に回し、あまい声をかける。しかし、アリョーシャは意外と冷静だ。グルーシェニカのことを姉ぐらいにしか思っていない。自分のことをふつうにとらえてくれたことに感動したグルーシェニカは、アリョーシャに今の自分の気持ち、これからどうしたいのかなどを話し出す。彼女には5年ほど前に分かれたポーランド人の男性がおり、いまだにその人のことが忘れられないでいる。そして、その男性から最近手紙が届き、近々、近くまでやって来るという。今日にでもその知らせが届くのだという。その純情な思いを知った、アリョーシャは、ますますグルーシェニカのことを一人の人間として認めるようになっていく。そんな中、待ちに待った知らせが届く。そしてすぐに馬車に乗ってグルーシェニカはその男性の待つ町へ向かう。そのころ、兄のミーチャ(ドミートリーの愛称)はどうしていたのか。婚約者であるカテリーナから預かった3000ルーブルを何とかして返そうとかけずりまわっていた。そのお金は、一月ほど前グルーシェニカといっしょに一晩で大騒ぎをして使い切ってしまったものだ。それをしっかり返してしまわないと、グルーシェニカといっしょにはなれないと感じていた。それなら最初からそんな無駄遣いをしなければいいものを、グルーシェニカのことを、お金が目的で父フョードルにも近づいていると感じていたものだから、お金のない、あるいは借金をしているような自分のもとには来てくれないだろうと考えていたようだ。そんな中、グルーシェニカの居場所が分からなくなったミーチャは、きっと父フョードルの部屋に行ったものと思い、そこまでやって来る。事前に下男のスメルジャコフから聞き取っていた合図で油断させ、フョードルを部屋からおびき出す。しかし、それで、グルーシェニカがそこにはいないことを知ると、すぐにそこから逃げ出す。そのとき、下男のグリゴーリーに見つかり、塀をよじ登ったところで足を捕まえられる。ミーチャはグリゴーリーの頭を持っていた銅製の杵(きね)で殴りつける。倒れた男の頭に触れると、血が流れ出ていた。それをハンカチでふき取った後、急いでその場から離れる。そして、グルーシェニカの家に向かう。そこで、下女からすでに彼女がそこにはおらず、その昔の恋人の待つ場所へ向かったことを聞き出す。ミーチャは大急ぎで追いかける。その手には大金がわしづかみにされており、コートは血まみれであった。

    ⑦予審
    ミーチャ(ドミートリー)はグルーシェニカと彼女の昔の恋人、その他数名の人がいる部屋に、ずけずけと上がりこんでいく。グルーシェニカは恐れ、おどろき、あぜんとする。ここでいったい何が起こるのか。ミーチャは意外と紳士的に(?)、みなといっしょに楽しく過ごそうとする。場所はこの間、3000ルーブルを手に、大騒ぎしたのと同じところ。今日もまた、3000ルーブル使って、飲めや、踊れやの大騒ぎ。またお金がもらえると、人々も集まってくる。ポーランド人の元恋人と、カードでかけ事を始めたりもする。ところが、そこにいた二人のポーランド人、どうもいかさまをしているらしい。ミーチャはどんどんお金を絞り上げられていく。どうやら、このポーランド人はお金欲しさに、グルーシェニカを呼び出していたらしいということも次第に分かってくる。ミーチャは二人のポーランド人を別室に呼び、3000ルーブルをやるから、グルーシェニカのことは忘れて、ここから出て行って欲しいと告げる。ところが、手元にきっかり3000ルーブルがないことを知った二人は言うことを聞いてくれない。そんなゴタゴタの中で、グルーシェニカも自分が5年間思い続けてきたこの男性はすっかり変わっていて、全く魅力のない人になってしまったことに気付く。そして、ミーチャへの思いを強めていく。ミーチャとグルーシェニカ、その二人の仲は急接近していく。ところが、ミーチャの頭の中にはグリゴーリーの血のことがある。もしも、死なせてしまっていたとしたら。せっかくうまく行きそうなこの恋はどうなるのか。そこへ現れるのが、警察署長に予審判事、検事などだ。やはり自分の犯した罪をとがめに来たのか。しかし、死んでいたのは下男のグリゴーリーではなく、父フョードルであった。グリゴーリーの方はけがをして一時意識をなくしていたが、今はもう意識も回復しているという。ミーチャは喜んだ。自分が殺してしまったと思っている男が、ちゃんと生きていたのだから。ところが、予審判事たちはミーチャが父殺しの犯人だと思ってその場にやってきていた。そして、いよいよ取調べが始まる。当時の、警察とか裁判所・法律などがどうなっていたのかは分からないが、警察へ連れて行くのではなく、その場で取調べが始まる。しかも、どう考えてもそれはかなり夜遅くだったはずなのだが、そのまま取調べは進み、朝まで進んでいく。そのため、ミーチャも途中で居眠りしているくらいだ。今なら考えられない。さて、ミーチャは正直に答えていく。確かに下男のグリゴーリーを傷つけたのは自分だ。しかし、父フョードルを殺したのは自分ではない。そこで、問題になるのが3000ルーブルという大金の出所だ。実はフョードルの部屋からあったはずのお金がなくなっている。ミーチャはここに来る前にはお金をほとんど持ち合わせておらず、質屋に自分のピストルを預けて10ルーブルを借りたりしている。しかし、父親殺し(?)の後に大金をにぎったミーチャはピストルをもう一度取り返している。どうやら、ここで騒ぎを起こした後、そのピストルを使って自殺をするつもりだったようだ。なぜ、ミーチャが今夜もそんな大金を持っていたのか、それが話の焦点となる。しかし、その点についてはなかなか話したがらない。そして、とうとう、なんとか予審判事たちに自分の無実を証明するためにもそのお金の出所について話し始める。実は一月ほど前にカテリーナから3000ルーブルを預かったとき、そのすべてを使ったのではなく半分だけを使っていた。したがって、手元には1500ルーブルが残っていた。それを、カテリーナに返して残りもいずれ必ず返すと言うつもりだったらしい。けれど、結局そのお金はお守りのように小さな袋の中に入れて、胸元にかけたままにしていた。なんとも情けない話だけれども、グルーシェニカにいいところを見せたいけれど、カテリーナに対しても完全な悪者にはなりたくなかったのだろう。そんなところが自分自身とてもはずかしい気持ちでいっぱいだったのだ。これで分かった。実は第2部の後半でミーチャ(ドミートリー・・・主人公アリョーシャの兄)は、アリョーシャに対して、自分の胸をたたいて、ここで破廉恥(ハレンチ)が行われようとしている、と言っていた。それが何のことかさっぱり分からなかったけれど、実は胸には、そのどうも煮え切らない、中途半端な1500ルーブルが隠されていたのだ。ここで、ミーチャの言うことをすべて信じれば、そういうことになる。しかし、いろいろな状況証拠やまわりの証言から、だれにもそんなことを信じてもらえないまま、連行されることになる。さて、ドミートリー(ミーチャ)の運命はどうなるのか。ところで、ミーチャは取り調べの中で、スメルジャコフ(カラマーゾフ家の下男・父フョードルから唯一、グルーシェニカに教えた合図を知らされていた。そして、それをドミートリーに教えてしまっていた。)がフョードル殺しの真犯人であると断言している。しかし、フョードルが殺された夜、スメルジャコフは癲癇(てんかん)の発作で寝込んでおり、意識もなく、医者にはあと何日かの命と宣告されるような身であったのだ・・・。

  • 一巻がまあまあ面白かったのと、本作の評価がすさまじいことから二巻を手に取る。
    数日かけて読んだので後半の印象が主になってしまうが、内容のほとんどを宗教の話題が占めていたように感じる。無宗教の私には「大審問官」は画期的な思考とは映らなかったが、これには私の教養不足が原因にあるのかもしれない。
    他のレビューによると3巻から一気に面白くなるらしいので、続きを読むのが少し楽しみである。
    【他の方の解説を読んで追記、星5に修正】
    時代背景や内容の解釈を知ると、この小説の面白さや普遍性、なぜ評価されるのかが分かってきた。この小説のテーマは「自己欺瞞」と言えるのではないか。ミーチャとイワンはヒョードルにネグレクトされたことを許せず、しかしそんな自分を認めたくないため様々な行動に出る。例えば、グルーシェニカを奪おうとすること、大審問官、カテリーナがミーチャと婚約することである。あまり面白くなかった、よくわからなかったという人は、以下のリンクの解説を聞くとこの小説の魅力に気づけるのではないかと思う。
    https://www.youtube.com/watch?v=4T3rttOZgGw&t=1685s

  • 長い!

  • 『カラマーゾフの兄弟 2』あらすじ

    第2部第4編 錯乱【2日目 午前中】
    長老制に偏見を持つ見習僧ポリフィーリーが修道院を訪問し、苦行僧フェラポントの奇行に強い印象を受ける。
    アレクセイは約束通り、ドミートリーに襲われたフョードルを見舞うが、なんのことはない、いつも通りの品のないヒョードルであった。
    引き続きホフラコーワ夫人のところへ向かうが、道すがら小学生のグループに出会う。彼らは剣呑にも川を挟んだ向こう岸にいるひとりの小学生に石を投げてぶつけようとしている。事情を聞けば、こちらの子のひとりは対岸の子にナイフで刺されたのだという。向こうからも石は投げられ、その石はアレクセイに当たる。アレクセイは川を渡って石を投げた小学生を追い詰めるが、何か自分に恨みでももっているかのようなその子供に逆襲され、中指の爪の根元にひどく噛みつかれる。
    ホラコーワ夫人の家に着くと、アレクセイは夫人とリーズに指の手当てを受ける。
    夫人宅にはカテリーナとイワンがいる。アレクセイはカテリーナをめぐるドミートリーとイワンの関係に胸を痛める。カテリーナ曰く「わたしあの人(ドミートリー)の幸福のための道具となり、機械になります」。アレクセイはカテリーナが本当に愛しているのはイワンだと反論する。するとイワンは、「(カテリーナ、あなたは)義務を果たしたっていう気持ちを糧に生きていくんです! (そして自分が征服したということを)意識することが、いずれあなたにこれ以上望むべくもない満足をもたら(すことになる)」 「あなたには兄貴が必要なんです。ご自分の献身的な行いの正しさをたえず確かめ、彼の不誠実を叱ってやるためにです。なにもかも、あなたのプライドの高さからそうなるんです」。と捨てぜりふを残してカテリーナの元を去る。
    カテリーナは、ドミートリーに侮辱を受けたというスネギリョフに、謝罪の気持ちとして二百ルーブルの見舞金を届けてくれるようアレクセイに頼む。アレクセイは自分の指に噛みついた男の子こそはスネギリョフの子供イリューシャで、ドミートリーに対する意趣返しから自分に噛みついてきたんだと確信する。
    訪ねてみるとスネギリョフの家は果たしてひどいありさまだった。イリューシャは先ほどのけんかで胸に石をぶつけられたせいで寝込んでしまっている(結核を病んでいる)。背中の曲がった天使ニーナはリューマチで両足が麻痺している。主婦アリーナは歩けることは歩けるが足が悪い。アレクセイはスネギリョフからドミートリーのいきさつを気かされ、イリューシャが父親思いで、感じやすく、負けん気も強いことに感心する。しかしスネギリョフは、アレクセイが差し出した、今は喉から手が出るほど必要な二百ルーブルを靴で踏みつけて立ち去る。

    第2部第5編 プロとコントラ【2日目 昼頃~深夜】
    カテリーナのところにもどったアレクセイはスネギリョフとの一件をリーズに報告する。この場合いったんお金を拒否されたのは逆にいいことなのだとリーズに教える。アレクセイはリーズと結婚の約束をする(「あなた以外、だれがぼくを選んでくれるというんです?」)。リーズからの恋文の行方をめぐるほほえましい話がある。
    アレクセイはスメルジャコフから、イワンが「都」にドミートリーを誘ったという話を聞き、ドミートリーに会うために「都」に行く。が、いたのはイワンだけであった。
    カテリーナと別れ明日出立するという上機嫌のイワンの話が止まらない。「若葉がだいじ」「青空がだいじ」「(おれは)三十前で人生の杯から唇を離す」「おれは彼女(カテリーナ)のことがほんとうにすきだったんだよ!」「彼女がドミートリーを少しも愛しておらず、自分が苦しめているこのおれの方を愛しているってことを悟るのに、…二十年はかかる」「おれが受け入れないのは神じゃない、…神によって創られた世界」。ブルガリアのトルコ人による子供の虐殺の話。家畜同然に虐待して育てられたリシャールが老人をあやめ、回心して断頭台の露と消える話。馬を鞭打つネクラーソフの詩。両親に顔にうんちを塗られ食べさせられ、冬のトイレに閉じ込められ「神ちゃま」に祈る女の子の話。母親の前で猟犬に生きたまま引き裂かれる男の子の話。「で、もしも、子どもたちの苦しみがだ、真理をあがなうのに不可欠な苦しみの総額の補充に充てられるんだったら、おれは前もって言っておく、たとえどんな真理だろうが、そんな犠牲には値しないとな。」
    引き続きイワン自作の物語詩『大審問官』が披露される。ロシアでは現在、科学の飛躍的な発展、社会主義思想の興隆、国内経済のひっ迫、身分制度の崩壊…、社会情勢の不安定さがそのまま神の存在の疑へとつながっている。しかし前提として、神なしの精神というのはロシア民衆にとってはありえない。イワンの考え出したのは、栄光の、進むべき先にある、限られた者だけがたどりつける神ではなく、陰に隠れ、罪もいとわず実行するが、あまねく民衆に現世での幸福な夢を見させる悪魔という存在。それを真正面から肯定しようとする逆説。アレクセイはイワンの後ろ姿に悪魔の影を見ながら彼と別れる。
    (この話のあと作者の視点はしばらくイワンのものとなる。)イワンはこの地での最後の夜を迎えるため、フョードルの家に戻る。家ではスメルジャコフが待ち構えている。イワンとスメルジャコフとの間に掴みどころのない、いらいらするような会話が続く。スメルジャコフから、明日癲癇の発作が起こりそうだと予告される。グレゴーリー夫妻が治療のため薬用酒を飲むがそうなるといつもぶっ倒れて長い時間起き上がれないと明かされる。グルーシェンカが訪ねてきた時のためにフョードルから教えられた秘密の合図をイワンに教える。またその合図をドミートリーにもこっそり教えていると打ち明けられる。フョードルとグルーシェンカが結婚すると三兄弟には遺産は全くのこらないが、フョードルがこのままぽっくり逝くと4万ルーブル入ってくるとそそのかされる。そして明日イワンに、フョードルから依頼があるとおり、チェルマシニャーに仕事で行ってそのあいだ家を留守にすることを進言する。イワンは部屋に引き取るが午前2時まで興奮して眠れなかった。
    翌朝イワンはフョードルに、チェルマシニャーに寄ってやるといって家を発つ。スメルジャコフは発作が起こって穴蔵の底で発見される。グレーゴリーはいつもの薬用酒を飲んで寝たきりになる。イワンはヴィローヴィア駅まで行くが、そこで気が変わって***駅まで一日馬車を走らせ、19時発のモスクワ行き列車に乗り込んだ。
    こうしてフョードルの周りには誰もいなくなった。

    第2部第6編 ロシアの修行僧【2日目 夜】
    一方、イワンと別れたアレクセイはゾシマ長老の庵室を訪ねる。死の床に臥せるゾシマ長老を囲むのはヨシフ神父、パイーシー神父、ミハイル神父、そしてアンフィーム神父、ポルフィーリー。ゾシマ長老はアレクセイを迎え、最後の法話を語り聞かせる。すでに結核で若くして亡くなったがその晩年、死期を悟ると突然別人みたいに神がかったようになった兄マルケルのこと。ゾシマ長老がまだ若く血気盛んな頃、決闘に赴く朝、突如回心して決闘相手に詫びをいれたエピソード。その回心のきっかけになった、従卒アフィナーシーを殴りつけた事件。謎の訪問客と彼の犯した罪、彼の抱える苦悶、そして彼の懺悔と死。アフィーム神父との巡礼の旅、アフィナーシーとの再会など。
    ゾシマ長老はその夜天寿を全うする。

  • 2巻は順調に読み進めた。中々高尚な話しが多かった。

  •  1巻に比べ、人間の本質を突くような内容がちりばめられていて、ぎくりとする。
     印象深かったのは、第6編の2-d謎の訪問客 『私はあなたを殺しに来たんですよ。あなたを殺しても、後々その罪を背負うことも考えずに、その時はそんなことも考えずにあなたを殺そうとしました。』結果この人は殺さなかったのだが、殺されそうになった人は大きなわだかまりを持つ。
     私もある事件で人が憎くて、人を殺したいと行動しそうになったことがある。本人の前で「それ以上しゃべるな!殺したくなる」と言ったことがあり、「殺せるものなら殺してくれ」と返されたことがある。その時私は思った。「(空白何も考えられなかった後)こいつはずるいやつだ!!わたしの今の苦しみを解消させようとさせながら、後で殺したことを後悔させることで、私を苦しめようとしている。どの道を選んでも、こいつに縛られるんだ!!!その時は殺さなかったが、私が壊れることで、その衝動はなくなった。苦しみからは解放されたが、壊れる前のあの生活はもうできないんだと思うと、何とも言えない空白がよぎる。
     自分のような経験は過去の本に書かれており、そんなに珍しい事ではないんだと思わさられ、知らされる。ドストエフスキーに尊敬と共に感謝の気持ちを持った2巻目だった。
     また1巻でさらされた多くの伏線が引っかかる点が面白かった。
     解説で書いてある、『ファウスト』にも挑戦したいと思った。

  • みんなセリフ長い

  • 第1巻ではカラマーゾフ家をはじめとする主要な人物をそれぞれに描いていたが、第2巻ではその人物たちの結びつきがより深く描かれている。
    なかでもイワンが物語詩をかたる「プロとコントラ」、ゾシマ長老の半生の回顧と説教を繙く「ロシアの修道僧」が表裏一体、相反するテーマをもって絡み合う。
    まだ若いイワンの『神は存在しない』という思想と、老いて間もなく死を迎えるゾシマの『神は存在する』という教え。
    それぞれ単独の物語といっても差し支えないのに、あくまで長大な物語のなかの一篇にすぎない潮流が、不吉な予兆を孕んで更なる展開を呼ぶ。

    イワンとゾシマ長老の考えは全く反対のようだが、実は「人間を信じている」という点では共通するのではないかと思う。
    イワンにとっては人間を信じるがゆえに、神の許しなど不要で、不死である必要もなく、教会も天国もまた不要なものなのだろう。人間は人間の力で罪を許し合い和解することができるし、その瞬間を見たいと思っている。
    ゾシマ長老にとっては人間を信じるがゆえに、神の存在も、許しも、愛も、世界に満ちていて、人間はみな平等ゆえにそれらを遍く享受できる、その日を迎えることができると信じている。
    このふたつの物語が、今後の展開の中にどう影響してくるのか、俄然楽しみになってきている。そしてまた、この作品が文学の最高峰といわれる意味も分かりかけているような気がする。

    富めるものと貧しきもの、これから変わっていく、変わらなければならない国、そして不変の価値観について。
    明治時期から戦前までの日本の学生が、ことのほかロシア文学を読み込んだ理由も、わかるような気がした。

  • ゾシマ長老の衰弱を気にしつつもアリョーシャはカラマーゾフの問題を解決するために奮闘する。カテリーナとグルーシェニカ、ドミートリーの間で生じている生々しい問題はイワンやヒョードルなどの人物をも巻き込み、より複雑怪奇な物語へと導いている。その問題について追究していくうちに我々読者はドミートリーの人物像を築き上げている。この第2部の謎めいた箇所といえばやはりイワンの話す大審問官の章。人間の姿として現れたその人に対して大審問官は、あなたが自由を与えたから人々は苦しんだとして批判した。これは聖書を読んでいないと分からないなと思った。そもそもこのカラマーゾフの兄弟を読むにあたって聖書の基礎知識が無ければ理解は不十分に終わる気がした。この物語は宗教面、ロシア情勢、階級社会、金銭面など様々な背景を含んでおり、重層的で多義的な物語であることがこの第2部で分かる。つまり様々な視点で見つめなければならないと感じた。また、第1部では説明的な文章が多く、物語の流れをいまいち掴めなかったが第2部でドミートリーの不穏な動きなどが目立つのを認めると我々読者も少しずつ何かしらの予期が生まれてきたではないだろうか。この予期がどんな形で生まれるのか第3部を読んで確認したい。

全237件中 61 - 70件を表示

著者プロフィール

(Fyodor Mikhaylovich Dostoevskiy)1821年モスクワ生まれ。19世紀ロシアを代表する作家。主な長篇に『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『未成年』があり、『白痴』とともに5大小説とされる。ほかに『地下室の手記』『死の家の記録』など。

「2010年 『白痴 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドストエフスキーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×