ボタニカ

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636173

感想・レビュー・書評

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  • 牧野富太郎の世界にどっぷり浸かった。
    植物への愛情がどこまでも深く、ご本人は幸せな人生だったと思う。
    しかし、私生活の奔放さにはただただビックリ。
    実家のお金は使い果たして、あちこちから多額の借金をするような暮らしなのに、生まれた子どもは13人って!
    「なんとかなるろう」って、ならないでしょ。
    と、突っ込みながら読んだ。

  • 牧野富太郎とはこういう人物だったのか。牧野富太郎の業績だけでなく、その人物像が立ち上がってくる。富太郎に対して感嘆の「へぇ〜」に続いて落胆の「へぇ〜」怒りの「へぇ〜」と目まぐるしく気持ちが揺れる。なんておもしろくて、ちょっと嫌で、魅力的な人なんだ。
    本妻の猶、そしてスエの人物像も、これがこの時代の女の在り方だったのか。なぜ我慢できるのかと疑問だったが、猶の言葉に、スエは「たたひたすら、あなたに夢中だったのかもしれませんねぇ。草木に夢中なあなたに」
    ああ、そうなんだ。
    富太郎とスエは似ている。牧野富太郎の草木に対する一途さとスエの富太郎に対する一途さは同じだ。これ程一途に富太郎を想えたら、尽くすことは幸せであり、おもしろい人生だったのだと気付く。貧乏や苦労が可哀想と思うのは余計なお世話なのだ。
    そして猶はどんな思いで生きてきたのだろう。富太郎に顧みられずとも旧家の嫁としての矜持を貫いた生き方に感服する。
    富太郎の人物を追いながら、二人の妻たちの生き方にも目を向けさせられた。
    植物を見つめ語りかける富太郎の姿がいいなぁ。

  • 私は、実在の人の物語は取っつきやすいし、
    偉業を成し遂げた人の生い立ちや素顔を知ることを面白いと思っている。
    この物語は、主人公の視点からの語りが主だから、周りの人物の心情はあまり語られない。主人公に感情移入できず、脇役の人物と共に主人公に振り回されている感じ。
    物語的な場面や台詞は少なく、特に後半は業績を羅列した感があったので、飛ばし飛ばしになってしまった。それでも主人公の行く末が気になるので一気に読んでしまった。
    所々にある逸話をもう少し広げて物語的になっていたら面白いのかな。それをしなかったのが今回は狙いなのか?

  • 小説NON2018年11月〜2020年11月掲載のものに加筆修正を加えて2022年1月祥伝社刊。朝井さんの植物ものなので期待した。牧野富太郎のシッチャカメッチャカぶりや、助力してくれる人々の話は楽しいが、展開が冗長で疲れました。

  • NHK朝の連続テレビドラマを見る前に読めばよかった(. ̯. )だいぶ印象が違うので。
    牧野富太郎は植物を愛し、ひたすら採取と研究にあけくれた人というのは分かっていたし、妻や家族がそれを支えていたのも分かっていたけど、お金の苦労を全て妻に押し付けていて、くれるという学位も一般人に堕ちてしまうようで嫌だという理由で60代まで拒み続け、そのため薄給に喘ぎ借金を膨らますなんて、有り得ない( т-т)
    壽衛はいい人すぎる。本人が幸せだったならいいけど。
    人々に自分の知識を分け隔てなく与え、いつでも前向きに植物学を追求して生きる富太郎を周りの人は応援したくなってしまうんだろうな。

    この頃の世界に追いつけ追い越せという時代の勢いはとても前向きで、影日向なく努力する日本人の国民性?も手伝って新しい知識を貪欲に取り込み、より良いものを作ろうとする、そういう社会の姿勢が開国後、日本が列強の属国にならずにすんだ理由のひとつではないか。
    牧野富太郎も世界に学び、日本の植物を全て明らかにしたいと考えた。
    それにしても、植物愛好家を日本中に育てたのは牧野富太郎だったとは。正に生き字引だった。
    もう一度高知の植物園に行きたいな。

  • 日本の植物学の父、牧野富太郎の波乱万丈な生涯を描く。
    一 岸屋の坊  二 草分け  三 自由  四 冬の庭園
    五 ファミリイ  六 彷徨  七 書読め吾子
    八 帝国大学  九 草の家  十 大借金
    十一 奇人変人  十二 恋女房  十三 ボタニカ
    主要参考文献有り。
    野山を彷徨い、草や花、木々に喋りかける少年。
    五感で感じ、自然と戯れる、牧野富太郎。
    圧倒的な自然描写に彩られる彼は、植物に導かれ、
    植物を愛で、研究する生涯を生きることになる。
    それは凄まじいまでの波乱万丈な人生。
    成長の中で、多くの師に学び、書物に親しみ、知識を吸収。
    それらは植物学のため、一生を捧げるための試金石となった。
    小学校中退ながら、東京大学理学部植物学教室への出入りが
    許可され、文献や資料を使用することも出来た。
    だが、植物のことは詳しいけれども、人の心情には疎い。
    植物学教室での人間関係による軋轢で、出入り禁止や罷職し、
    妻たちの心を推し量ること無く、我が子を亡くし、
    金に無頓着で生家の身上を潰す。そして大借金の山も。
    それでも彼は呟く。「まあ、なんとかなるろう」
    やがて、彼の植物学への情熱に引き寄せられる人々の姿が。
    捨てる神あれば拾う神あり、人の縁の稀なることよ。
    植物を知り、その生きようを究めて識を弘げる、
    好きな事を一生を掛けてとことん極める、その人生の過酷さ。
    惚れ抜いたもののために生涯を尽くす・・・その幸福を知る
    “奇人変人”でなければ成し遂げられないのかもしれない。
    でも、少しずつ“人の心”が備わるようになったのは、
    祖母、妻たちや子どもたち、親友たちの存在でしょう。
    特に、誇りをもって彼を支えたお壽衛の姿。
    彼女の名を新種のササにつけ、
    最敬礼で感謝を告げる場面には、涙が浮かびました。
    また、南方熊楠や森鷗外、長谷川如是閑等、
    大正・昭和初期の著名人の名や姿が出てくるのも、
    興味深かったです。

  • 494ページ
    1800円
    4月3日〜4月6日

    『らんまん』の牧野万太郎をイメージしながら読んだ。こちらが原作なので、史実に忠実なのだろうと思うと、ちょっと富太郎に幻滅するところもあった。富太郎の奔放さや金遣いの荒さに呆れると共に、スエさんを置いてロシアに行こうと思っていたのだなんて!人を妬んだりする心も描かれていて、どんなに立派な人でも、人間くさいところもあるものだと少し安心もした。

  • まさに奇人変人による波瀾万丈人生。
    今度(2023年らしい)朝ドラでも「らんまん」として主人公に取り上げられている牧野富太郎。
    本書は親戚縁者による情報提供・膨大な参考資料をもとに描かれた、植物学者・牧野富太郎視点で語られる彼の植物学に捧げる人生の物語。

    富太郎は文久何年かの生まれで江戸・明治・大正・昭和を生きた。土佐の佐川の生まれで、その町では名の知れた岸屋という酒造の店の長男。両親を物心のつかぬうちに失い、祖母様に自由奔放に育てられた。
    子どものうちから日々野山を駆け回り、草花に「おまんは何者じゃ?」と問いかけ、彼らの名前は?彼らは一体どんな存在なのか?を考え過ごす。
    そして成長するにつれ、勝手にグルグルなどと名づけていた草花たちに正しい名前があることを知る。
    「ボタニカ」
    本書のタイトルでもある言葉、一体どう言う意味だろう?と考えながら読んだ。
    ぜひ読んで意味を知ってほしい。かなり序盤で分かるので。
    ボタニカは、富太郎の人生の主軸であり、生きがいであり、己が使命となった。
    富太郎にとってこの言葉を知った瞬間は、まさにエウレカ!であったろう。

    富太郎の奔走ぶり・奇人変人ぶりには受け入れられんと感じる人も多いだろう。
    実際大成したからこそ、こうして語種となっている彼の人生だが、家族であったらと思うと、もし富太郎が父だったら嬉しいかと問われると否と答える笑。
    けれど家族への思いやりがなかったわけではない。
    妻も子どもたちも苦労したに違いないが(少なくとも本書では)、仕方のないけど憎めない父親像として描かれているように感じる。
    本人も「こんなわしにようついてきた」と自覚している描写があることにあたたかな苦笑。
    家族にはなりたくないが上司だったら頼もしいかも。などと勝手なことを言ってみたり。
    10代のうちから独学で研究に邁進し、難しい専門書も読み込み、とても正確な植物図を描くさまは、まさに才能の塊と言ってもいいだろう。
    フットワークの軽さや体力も化け物じみている。
    研究者に関わらず何かを極めたい人間には羨ましい才能だろうと思う。
    学校制度がもっと早くに整っていたら、富太郎の学歴に対する考えや立場も変わったろうか(変わらなかった気もする)と思ってしまう。

    植物学に人生の全てを費やしたいと思うも、家庭を支えなければという意識もあり苦悩する様も描かれ、このような猪突猛進、奇人変人でも苦しむのだなあ、どうしようもなく人の子なのだなあと思わされる。
    そこが一番、本作を読んで胸に残ったことだろうか。

    私、ものすごく影響されやすいタチなので、学問に邁進する富太郎の人生(作者視点の富太郎像だが)を読んで、私ももっともっと勉強したいぞー!好きな学問に励むのはいいよな!!と触発された。
    とはいえ平々凡々な人間なので、富太郎のようになろうとは思わないが。というかできない笑。
    影響といえば、本書に書かれてる土佐弁があまりに流暢なので、実際に音声で聞いてるかのように身体に流れ込んだ。うっかりエセ土佐弁を口にして地元の方に怒られそうだ。
    方言だけでなく日本語全体が、なんというか美しい。
    ああ、綺麗な日本語だ、と感じた。

    本作はもちろん植物学にも深く触れる。
    なんせ富太郎の人生そのものだから。
    植物図鑑はそうして生まれたのか、などと今気軽に気になる植物をネットで検索すればある程度名前がわかることに思いを馳せる。富太郎含め先人の植物学者の方々の研究の賜物だ。
    本書ですごく植物学にハマったというわけではないが、今様々の植物の名前が分かるありがたさは沁みる。
    ということで一つ詫びたいことがある。
    どうでもいい話なので読み飛ばしてくれて全然構わない。
    高校生の頃、無知で馬鹿で他人への心遣いまでもない、ない物づくしの当時の私の発言についてだ。(今もないものづくしに変わりない)
    植物が大好きで、誰かがあれは?と適当に指差した植物の名前をなんでもすらすらと答えていた同級生がいたのだ。高校生にして素晴らしい知識量と植物愛だ。
    その同級生に対して私は「その辺の草なんて全部雑草じゃん。雑草でいいじゃん。」などと馬鹿発言をしたのである。
    アホだ。ついでに情緒もない。今の私なら、かの同級生に飛びついてありがたく貴重な話を聞くだろう。
    その同級生は私より数段大人びていて、私の発言に対して苦笑いに押し留めた。私のアホさがさらに際立つ。
    今は交流はないが、その当時の同級生に敬意を示しつつ、当時の自分がアホでごめんなさいと、当時の己の発言を思い出すたびに心中で詫びていた。
    もし私が発したようなアホ発言を受けたことのある才覚ある方(もちろん小中学生などの学生さんもですよ)、こんなアホの発言に出会ったら鼻で笑うのが正解です。
    己が好きな道を、誰にアホ発言かまされようと貴方に落ち度はさらさらないので突き進んでください。
    でも富太郎ほど突き進むとかなり才能がないと富太郎以上に苦しくなるかもしれません。

    あれ、誰に対して言っているんだ…?
    しかもすごく長くなった…肝心の本作の感想よ。
    でも本作を読んだからこそ、自分のあの発言は阿呆だったなぁと、より深く思わされたのだ。
    何かを極めんとする人々に幸あれ。

  • 明治初期の土佐・佐川の山中に、草花に話しかける少年がいた。名は牧野富太郎。
    小学校中退ながらも独学で植物研究に没頭した富太郎は、「日本人の手で、日本の植物相(フロラ)を明らかにする」ことを志し、上京。東京大学理学部植物学教室に出入りを許されて、新種の発見、研究雑誌の刊行など目覚ましい成果を上げるも、突如として大学を出入り禁止に。
    私財を惜しみなく注ぎ込んで研究を継続するが、気がつけば莫大な借金に身動きが取れなくなり……。

    4分の3ぐらいまでは我慢したのですが、いくら私が植物好きといっても、あそこまでいっちゃうと学術的過ぎて小説としての面白みに欠けるというか。
    まかてさんの小説は「ボタニカ」前の「白光」あたりから史実が優先され偉人伝に近い感じになってきているような気がしてならない。「類」までは好きだったんだけど・・・。大浦おけいにしても、まかてさんは最近実在した人を取り上げた作品が多い。
    また日本初のイコン画家となるた山下りんの生涯を追った「白光」にも登場した、宣教師ニコライ。彼は日本にロシア正教を伝道した聖職者だが「ボタニカ」にも出てくる。ロシア正教は他のキリスト教の宗派よりも日本の文化や伝統を敬い尊んだとあり見直していた私。でもプーチンのウクライナ侵攻でロシア正教会との関りが深いと知り落胆している。

    • 5552さん
      しずくさん、おはようございます。

      こちらの小説、興味ありますが、そうですか、ちょっと学術的すぎるきらいがあるのですか…。

      あと、...
      しずくさん、おはようございます。

      こちらの小説、興味ありますが、そうですか、ちょっと学術的すぎるきらいがあるのですか…。

      あと、牧野富太郎、朝ドラになりますね!
      研究以外はけっこうダメ男っぽい?牧野富太郎をどう描くのでしょうか。
      楽しみです!
      2022/04/22
    • しずくさん
      コメントありがとうございます。
      そうね、植物博士牧野さんを語るには必要なのでしょうが。。。。
      神木くん演じる牧野さんに期待しています(*...
      コメントありがとうございます。
      そうね、植物博士牧野さんを語るには必要なのでしょうが。。。。
      神木くん演じる牧野さんに期待しています(*^-^*)
      2022/04/23
  • ノーベル賞の授賞式などの時に、受賞者たちがこぞって
    「この賞は妻に捧げます」とか「妻のおかげです」とか言っておられるのを見て、なんだなんだ、妻に感謝ってのがスピーチのお決まりなのか、なんて思っていた。

    けれど、これを読んで納得。
    学者の妻は、ちょっとやそっとの覚悟じゃ務まらない。

    「日本植物学の父」として誰もがその名を知る、牧野富太郎。
    彼の人生がこんなにも「ひどい」ものだったとは!!
    土佐の実家の家業は義母と本妻に押し付けたまま東京で若い妾と暮らし植物採集にあけくれ、裕福だった実家の財産を喰いつぶす。妻と離縁後籍をいれた妻スエへの苦労のかけっぷりたるや。
    読んでいるうちに、腹が立ってくる。なんじゃそれ!とあきれてしまう。食べるものにも着るものにも困り、借金は膨らみ首はてんで回らない。それでもひたすら植物を求め日本中を駆け巡る。
    学者とは、研究とは。
    けれど彼の残した成果が今日の日本の植物学の基礎となっているのも確か。彼がいたからこそ。そしてスエと仲間がいたからこそ。
    こんな常識はずれな偏屈な変人なのに、彼の周りには人が集まってくる。
    植物に愛され人に恵まれた男、牧野富太郎。見ていて腹は立つけど心の底から尊敬してしまう。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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