- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480039637
作品紹介・あらすじ
耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、切り取られた乳首…「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」-老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が死者たちの形見を盗み集める。形見たちが語る物語とは?村で頻発する殺人事件の犯人は?記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。
感想・レビュー・書評
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ある村の大きなお屋敷に住む、ちょっと気難しい風変わりな老婆に雇われた、若い博物館技師の物語です。
屋敷には老婆と一緒に暮らしている少女と、離れには庭師と、その妻である家政婦が住んでいます。
故郷を離れ、この村にたった一人で訪れた技師は、亡くなった村人たちの形見を集め、それらを展示、保存する博物館を作ってほしいと老婆に頼まれます。
閉鎖的な世界で起こる奇妙な出来事が、小川洋子さんの手にかかると、なぜこんなにも美しく魅力的になるのだろう。
名前のない登場人物たち。次々に起こる殺人事件の犯人は? 博物館技師の行く末は?
謎が深まり、非現実的な世界にどんどん引き込まれていきます。
“人々から忘れられた世界の縁にひっそりと建っている” 沈黙博物館というタイトルがとてもいいです。
物語の終わりには、悲しい現実を知るとともに、こんな隔離された場所にいることが居心地が良いとさえ思ってしまいます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ゾクゾクする系の小川洋子さんだった。
これくらい怖いのもいいなと思った。
質問のくだりとか、涙が出る -
ある小さな町の老婆に依頼され、
形見の博物館を作る事になった博物館技師。
様々な人の様々な生き方を見て、知って、
生を感じれるというか…
もう、どちらが生きてどちらが死んでいるのか
分からなくなってくる。
死者も形見を通して生きていると強く思える。 -
スリルのある小説です。見事に感情がぶつかり合い、不思議なパズルを完成させます。主人公が戸惑い、躓いたりして沈黙と戦います。謎めいた小説の好きな方におすすめです。何か返事があるかもしれません。
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ある村に博物館を建築するため、博物館技師が呼ばれた。
博物館で展示するのは死んだ村人たちの形見。
小川洋子さん独特の世界観。
静かに時は流れるが、なんとなく不穏な空気が漂います。
そこは音は聞こえるのに音がない世界。
震えました。 -
博物館技師として長閑な村を訪れた僕。
荷物は兄から譲り受けたお古の顕微鏡と
何度も読み返しているアンネの日記。
依頼主である老婆の面接を受けるのだが
そこは、形見の品々を展示する博物館だった・・・
後半に入ってから、物語の様相が変化してくる。
そういえば・・・
という空気は最初の頃から感じていた。
雰囲気に馴染んでスルーしておりました。
色んなところに違和感という形で存在してました。
最初の段階で僕が語っている博物館技師の仕事。
なるほど・・・沈黙を守る博物館・・ -
博物館技師の青年は、ある依頼を受けて小さな村を訪れます。
その依頼とは「形見の博物館を創ること」。
依頼主の指示を受け、技師は形見の整理や保存、収集など、博物館オープンに向けた準備をはじめるのです・・・。
読んでいる最中、ほどよい緊張感が持続していました。
形見という、死者の生きた証を扱う博物館がテーマだったからかもしれません。
それとも、村で起こる連続殺人事件のスリルからでしょうか?
物語がどう進むのか、どんな結末を迎えるのかが予想できず、ある種の怖いもの見たさのような力に押されてページをめくっていました。
小川さんの物語、独特のなまめかしさにドキドキさせられます。
物の輪郭の描写やちょっとした感触の描写。
艶やかでも、ざらついていても。
はっとするほどの美しさでも、思わず眉をひそめてしまう汚さでも。
小川さんの文章では、それらが登場人物の魅力となり、時にはとてもセクシーに感じられるのです。 -
幻想的な長編小説。「博士の愛した数式」以来、小川洋子の長編はあまり読んでこなかったのだけれど、すごく良かった。
博物館技師の「僕」が訪れた幻想的な村。そこで「僕」は形見を陳列する「沈黙博物館」を作ることになる。形見を収集してきた「老婆」と、その娘だという「少女」、屋敷に代々仕えている「庭師」と「家政婦」とともに…。
相変わらず身体の表現、触感の鋭さが際立つ。老婆の皺とそこにたまる垢、昔一部を切除された歪な耳。少女のまつ毛や指先。体のパーツ一つ一つを慈しむように丁寧に表現する。
村の伝統や仕来り、不思議な涙祭りや、沈黙の伝道師、卵細工、森や屋敷の様子も、目の前に浮かんできそうなほど繊細。
そして、博物館技師がいかに博物館を愛してきたか、老婆がいかに形見に思いを注いでいたか、その奥深さ。
長さを感じさせない、読みやすく儚い小説でした。
途中で、ホラー?サスペンス?な雰囲気になりつつ、グレーエンド、というよりはセピア色の落ち着いた幻想的なエンディングでした。
彼は沈黙博物館に取り込まれてしまったのでしょうか…。
今後博物館に行ったときの受け取り方が変わりそうです。