川端康成集: 片腕 (ちくま文庫 ふ 36-1 文豪怪談傑作選)

著者 :
制作 : 東 雅夫 
  • 筑摩書房
3.81
  • (25)
  • (30)
  • (44)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 383
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480422415

作品紹介・あらすじ

日本初のノーベル文学賞に輝いた川端康成は、生涯にわたり幽暗妖美な心霊の世界に魅入られた作家であった。一高在学中の処女作「ちよ」から晩年の傑作「片腕」まで、川端美学の背後には、常に怪しの気配がある。心霊学に傾倒した若き日の抒情的佳品や、凄絶な幻視に満ちた掌篇群、戦後の妖気漂う名品まで、川端文学の源泉となった底深い霊異の世界を史上初めて総展望する、至高の恋愛怪談集成。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 難しい印象がある文豪ですが、短編だと読み易いし、文章も綺麗で良い!色んな『怖さ』のお話があって面白い。

  • 文豪というと教科書とかテストとかで難しい話を読まされたような印象が強くなってしまいますが、怖い話を読むと「これだから文豪といわれるのか!」と思うこと多々あります。
    川端康成の怪奇譚は怪しげな纏わりつくような雰囲気が漂います。全体的に霊体験が多いのですが、幽霊というよりも心霊というか降霊というか、霊が現世に出てきたというよりも、人間が霊界に片足突っ込んだような印象です。

    【片腕】
    <「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。>
    なんという始まり方、なんとう幻想的でなんという艶めかしさ。
    娘の片腕と一緒に帰る濃霧の道でのすれ違うタクシー、非現実的なラジオなど、悪夢世界にこれから入っていきますよ感覚がもう最高。
    川端康成すごい、いや本当に凄い。

    【ちよ】
    高校の時の処女作らしい。
    語り手の一族には「ちよ」という女性に受けた呪いでもあるらしい。
    「千代」だけカッコでくくられる不自然さ。不穏さ。

    【処女作の祟り】
    『ちよ』を書いた自分がその処女作に付きまとわれるという現実なんだか非現実なんだかのお話。『ちよ』と②連続で読むともう読者も逃げられない巻がする。
    <所ぞ咲くだけは明るい幸福なのをお書きにならなければいけません。人間はその誕生を祝福されなければならないのと同じです。」P66><とにかく処女作の祟り以来、僕は芸術想像の恐ろしさを知ったのだ。僕が作品の中に格人物名や、事件や、場所の選択は、僕がこの世に生まれたのと同じように偶然であり、また必然なのだ。(中略)僕の筆は自分ばかりでなく他人の運命までも支配する魔力を持っているのだから。P66>

    【怪談集1―女】
    泣いた女は悪女なのか、そのように吹き込んだ坊主こそが悪僧なのか。

    【怪談集2―恐しい愛】
    妻を極度に愛した男が、日に日に妻に似てくる娘により復讐されるということ。

    【怪談集3―歴史】
    立派すぎる道の意味を考えずにただ与えられ、奪われる村人たち。

    【心中】
    逃げた夫から手紙が届く。「子供にゴムまりをつかせるな、その音が俺の心臓を叩くのだ。」母親は娘からゴム毬を取り上げた。「子供を靴で学校に通わせるな。その靴音が俺の心臓を叩くのだ。」母親は娘から靴を取り上げた。「子供に茶碗で飯を食わすな。その音が俺の心臓を…」

    【龍宮の乙姫】
    父を後妻と愛人に殺された息子たちは、二人を船に繋いで流し…。

    【霊柩車】
    恋人を忘れない妻を妻と呼べないまま、夫は妻の恋人に手紙を書く。
     君がみているのがほら、愛人の葬式なのかもしれないのだよ。

    【屋上の金魚】
    屋上庭園の水槽で飼われていた金魚に、捨てられた女の影が…。

    【顕微鏡怪談】
    顕微鏡には全てが出るのだよ。君が何を食べたか、どこに寄ったか、そして誰と会ったのか。
    …読んでいて「痛い〜(><)」と感じてしまう。

    【卵】
    娘は夢で卵の部屋から昇天した。
    それなのに卵を出されて食べられるはずがないじゃない!

    【不死】
    恋人のように寄り添う老人と若い娘。
    それは添い遂げられずに死んだ娘と、年取った男だった。
    また会えたんだからいいじゃない。

    【白馬】
    自分を乗せる白い馬を描いた少女がいた。
    夢の中でその馬を見ることはあったが、目の前に現れたのは初めてだったのだ。

    【白い満月】
    療養中の男のお手伝いに来るお夏は、人が死ぬ夢を感じるらしい。
    そんな男もとに妹が訪ねてくる。もうひとりの妹を巡って二人の男が決闘をしたが、すぐに仲直りしたのだという。これは女としての屈辱だろう。
    そしてお夏の見る夢。
    男は二人の妹たちの関係を改めて考えてみて…。

    【花ある写真】
    子宮を取った女と、子宮を移植してもらって結婚する娘。結婚したのはどっちの女なのだろう?

    【抒情歌】
    男を追って家を出た娘が、男の妻の詩に寄せる抒情歌。

    【慰霊歌】
    目の前にいるのは、自分の知る女なのか。死んだ娘の霊なのか。

    【無言】
    倒れて書けなくなった老作家。かつて「何も書いていない息子の原稿を読む母と」いう小説を書いた。老作家の娘にはその小説が書けるのだろうか。

    【弓浦市】
    作家の自分を訪ねてきた女は、自分にはまるで記憶のない昔のロマンスを語る。
    弓浦市なんて場所はないではないか。あたまのおかしい女なのか。だが自分が知らないところで、人々は自分の記憶を沢山作り上げているのだろう。

    【地獄】
    七年前に死んだ自分だが、かつて妹と心を通わせ合った友人の西寺のところを訪ねて話をする。
    妹の最期の夜に何があったんだい?そして君の妻はこれから死のうとしているのかい?

    【故郷】
    自分は空を飛んで故郷に来たようだ。幼い姿のかつての友達、そして幼い頃の自分の姿を見た。

    【岩に菊】
    岩影で男を待ち死んだ女の幽霊が出るという。岩には菊の花が植えられた。
    自然と植えられた花、自然と造られた墓。それなら全ての岩が自分の墓のように感じる。

    【離合】
    娘と結婚したいと言って訪ねてきた青年に連れられて、男は町へとでかけた。娘は、離縁した母とも会いたいという。妻は心の不貞を働き離縁した。その妻がそっと娘の家にいる男の元を訪ねてくる。

    【薔薇の幽霊】
    田舎の村のその家は、薔薇の家と呼ばれていました。かつて令嬢が薔薇を植えて、まだ咲ききらないうちにひっそりと亡くなりました。令嬢は今でも薔薇の庭に留まっているのです。

    【蚕女】
    約束を果たすために蚕の天女となった娘の話。

    【Oasis of Death(ロオド・ダンセイニ)】
    ダンセイニ卿の短編の翻訳かな?
    敵国で埋められた兵士を悼む人々の小品。

    【古賀春江】
    川端康成が交流の合った日本画家古賀春江に寄せての随筆。

    【時代の祝福】
    この退屈な講演を終えて、鵜飼の篝火を見に行かなければいけません。六年前と同じように。
    そんな処女作書いた私ですが、やはりこんな退屈な講演を終えて篝火を見に行きます。

  • 備忘録に残っていないが、2006年刊行のアンソロジーなので、それ以後にざっと読んだはず。
    それを川端マラソンの最後のほうにもってきたのは、別の文庫に散らばっているということもあるが、この本こそが我が川端観を形成してくれたからだ。
    最近既読のものもざっと再々読して、やっぱり凄い作品集だわ、と。
    ランダムにどのページを開いてもほぼゾッとする話に出会える。

    ■「片腕」 ※既読「眠れる美女」新潮文庫
    ■「ちよ」 ※既読「川端康成初恋小説集」新潮文庫
    ■「処女作の祟り」 ※既読「掌の小説」
    ■「怪談集1―女」 ※既読「掌の小説」
    ■「怪談集2―恐しい愛」 ※既読「掌の小説」
    ■「怪談集3―歴史」 ※既読「掌の小説」
    ■「心中」 ※既読「掌の小説」
    ■「龍宮の乙姫」 ※既読「掌の小説」
    ■「霊柩車」 ※既読「掌の小説」
    ■「屋上の金魚」 ※既読「掌の小説」
    ■「顕微鏡怪談」 ※既読「掌の小説」
    ■「卵」 ※既読「掌の小説」
    ■「不死」 ※既読「掌の小説」
    ■「白馬」 ※既読「掌の小説」
    ■「白い満月」 ※既読「川端康成異相短篇集」中公文庫
    ■「花ある写真」 ※記憶が薄いので再読。
    心霊写真。しかも子宮の入れ替え。引き取った少女が起こすポルターガイスト。こりゃ面白い。
    ■「抒情歌」 ※既読「伊豆の踊子」新潮文庫
    記憶が薄いので再読してみた。
    凄い。
    ■「慰霊歌」 ※既読「伊豆の踊子・禽獣」角川文庫
    記憶が薄いので再読してみた。
    「抒情歌」とセットで並べられているのは意味があることで、どちらも心霊趣味と性愛とを重ねた、独特な芸風なのだ。
    そして川端作品ならではの特徴としては、視点人物がすでにして向こう側に片足突っ込んでいるということだ。
    また本作では、鏡の向こうの女たち、とか、マッチの火で女の裸体を凝視しようとする、とか、やはり眼の感覚が強烈。
    舞台劇にしたら素敵そう。
    ■「無言」 ※既読「抒情歌・たまゆら」旺文社文庫「川端康成異相短篇集」中公文庫
    ■「弓浦市」 ※既読「川端康成異相短篇集」中公文庫
    ■「地獄」 ※既読「川端康成異相短篇集」中公文庫
    ■「故郷」 ※既読「掌の小説」「川端康成異相短篇集」中公文庫
    ■「岩に菊」
    記憶が薄いので再読してみた。
    美術好き→墓の思索→幽霊を呼び出して会話してみる。
    面白い。果ては自然があれば墓は不要と。実に面白い一篇。
    ■「離合」 ※既読「抒情歌・たまゆら」旺文社文庫「川端康成異相短篇集」中公文庫
    ■「薔薇の幽霊」
    記憶が薄いので再読してみた。
    キュート・ゴースト・ストーリー。
    ■「蚕女」
    記憶が薄いので再読してみた。
    ■「Oasis of Death ロオド・ダンセニイ」
    記憶が薄いので再読してみた。
    ダンセーニを選んだのもグッとくるが、若い頃にはこの文体もあったのだな。
    ■「古賀春江」
    記憶が薄いので再読してみた。
    「窓外の化粧」くらいしか知らなかったが、友人であった川端の推し作品をしることができた。
    「文化は人間を妨害する」「深海の情景」「サアカスの景」そして「素朴な月夜」「そこにある」「牛を焚く」「煙火」さらには「埋葬」「肩掛の女」および「二階より」「魚市場」を検索。
    ■「時代の祝福」 ※既読「川端康成初恋小説集」新潮文庫
    ◆解説 心霊と性愛と 東雅夫

  • 夏なので幻想怪奇系積読を消化するぞのコーナーです。
    5冊目?結構読んだ。

    これもかなり前から積んでた本。「片腕」目当てで買ってそれだけ読んでたんじゃなかったかな。「片腕」やっぱりすごいよ。冒頭のインパクトもすごいし、最後までしっかり純文学だよ。
    他にも冒頭の吸引力がすさまじい話が多かったなー。川端さんは冒頭作家なのか。
    特に好きやった話は「故郷」。時空が入り組んでてずっと向こうと隣り合わせで、そういう雰囲気がすごいよかった。
    あとは「顕微鏡怪談」も好き。やべーやつの話って面白いんだよ。「薔薇の幽霊」もいかにも少女小説って感じでよかった。

    これ読んでて思ったけど、怪談は純文学と紙一重なんやね…怖さや面白く読ませることだけを追求したものはエンタメだと思うけど、人の深いところを表現するための手法としてそういう不思議な世界観になってるわけだからね…
    怪談傑作選いうとるけど怪談て感じがぜんぜんせんのも多かったよ。

  • 本作品集の中だと「片腕」が有名どころかもしれませんが、おすすめは「ちよ」と「歴史」です。

  • 乗代雄介「本物の読書家」 茨城・土浦市
    「わたしは『片腕』を川端先生にくれてやったのです」
    2020/5/16付
    日本経済新聞 夕刊
    〈「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。〉

    東京からの常磐線列車が土浦駅をたつと、ハス田が広がる。立ち枯れたハスが茎を突き出していた=山口朋秀撮影
    1963年に連載が始まった川端康成の「片腕」の冒頭である。
    多くの言語に訳され、世界の人々が知るところになった実験的な小品には、無名の原作者がいた。東京・上野から茨城・高萩に向かうJR常磐線の車中で、その驚くべき秘密が解き明かされる――。
    もちろん、虚構だ。
    本作はミステリー仕立てでありながら、カフカ、ナボコフ、サリンジャーなどの作品が随時、参照される。そして推理小説の「叙述トリック」とでもいうべき語り……。この辺でやめておこう。
    もし、読者が文学愛好家、ミステリーファン、鉄道マニアのいずれか、または全部だったら、この小説を存分に味わい尽くすだろう。再読したくなる。と言うより、せざるを得ない厄介な一編だ。
    〈土浦駅を発つと蓮田が連なって続いた〉

    何気ない描写から、物語は一気に佳境に進む。
    茨城・霞ケ浦周辺は屈指のレンコン産地だ。老人ホームに入所するため常磐線に乗った寄る辺ない〈原作者〉は、車窓に広がるハス沼の記憶をきっかけにノーベル賞作家との秘めた因縁を語るのか。それとも語りとは、心底、共感する聞き手がいない限り、語られないほうがましなのか。
    列車が土浦駅を出て20分ほどの間。その問いをめぐる山場が訪れる。老人と、真相を探ろうとする探偵役の博識の「読書家」が交わす緊密な対話は、それが小説家が仕立てた虚構だと分かっていながら、いや、虚構ゆえに読み手の心をひどくざわつかせる。

    読むこと。書くこと。語ること。あるいは、誰にも届かなかった言葉。それらの営みには、たどり着く岸辺のようなものがあるのだろうか。
    そんな思いに浸りつつ、常磐線のボックス席から霞ケ浦湖畔の景色をぼんやり眺めた。列車はハス沼に別れを告げ、古歌に詠まれた恋瀬川の鉄橋を渡る。古い商家の建築群で知られる石岡駅が近い。
    そう言えば当駅は、若き作家の近著「最高の任務」に描かれた舞台のひとつだ。途中下車して山に向かって歩いてみようか。急ぐことはない。楽しみにとっておこう。
    (編集委員 和歌山章彦)

    のりしろ・ゆうすけ(1986~) 北海道生まれ。2015年、デビュー作「十七八より」で群像新人文学賞を受賞。多和田葉子さんらが推した。受賞作は、早世した叔母を追慕し、日々、故人と対話を重ねることで自己形成する〈阿佐美景子〉という若い女性が視点人物で、一種の「教養小説」のような味わいがある。
    17年に刊行された「本物の読書家」に併載された「未熟な同感者」、昨年下期の芥川賞候補作になった近著「最高の任務」は、いずれも阿佐美家の物語だ。「フラニーとゾーイー」など、「グラス家」の人々を描いたサリンジャーの連作のように、乗代さんのライフワークになるのだろうか。

  • ノーベル文学賞受賞作家の、怪奇幻想系の作品を集めた掌短編集。
    親しみやすく味わい深い佳品揃い。
    作者は心霊現象や神秘学に強い関心を抱いていたらしく、
    それらをテーマにした小説が多く収録されている。

    以下、特に心惹かれた作品について、ネタバレなしで。

    ■片腕
     (前段の説明はなく唐突に)片腕を貸してもいいと言い出す
     若い女。
     語り手の男は彼女の右腕(肩から掌まで)を持ち帰り、
     新鮮な驚きと喜びと後ろめたさに酔い痴れたが……。
     「脚フェチ」という言葉をしばしば耳にするが、
     「腕フェチ」とは(笑)。
     ただ、手(主に指)からは――恐らく脚が醸し出すことはない――
     繊細な感情表現や色気が漂うのは確かだと思う。
     ちなみに、Wikipediaには、執筆当時、
     川端には睡眠薬の服用を中断した時期の禁断症状があり、
     それがシュルレアリスム的な表現に繋がったのでは……
     との指摘あり。

    ■ちよ
     祖父が千代松という男から金を借りて亡くなったため、
     学生である「私」は証文の書き換えを迫られた。
     親類たちのお陰で借金の問題は解決したが、千代松の娘も、
     また、その後、心を惹かれた女性たちの名も皆「ちよ」
     であることに因縁を感じ、
     生涯「ちよ」から逃れられないのでは……
     という強迫観念に怯える「私」。
     その後に続く作者解題「処女作の祟り」によれば、
     現実に作者を苛む「ちよ」の呪縛が原稿を書かせた由。
     言霊のポゼッション/オブセッション。
     偶然が必然を招き寄せる恐怖。
     しかし、自らの筆力に
     自身のみならず他人の運命をも左右する力があると確信して
     小説を書き続けた川端は、
     日本人初のノーベル文学賞受賞者となった――。

    ■白い満月
     温泉場の別荘で療養する「私」の許へ
     家事を担うために通ってくる「お夏」には
     不思議な能力があった。
     タイトルは幻視の力を宿すお夏の眼球の比喩。
     1925年12月発表の小説で、
     川端作品にはこの頃から神秘性が加味されてきたとの評あり。

    ■弓浦市
     来客の多い五十代の作家・香住庄介宅で
     三人の相客が雑談を交わしていると、新たな訪問者が。
     若く見えるが50歳前後と思しい、品のいい女性が
     三十年ぶりに再会出来たと言って喜びを露わにする。
     だが、香住には彼女も、彼女の郷里である「弓浦市」も記憶になく、
     一方的に思い出話に興じる彼女を見て首を傾げる。
     時代を超えた普遍的な、
     誰の身にも降りかかる可能性のありそうな不気味な話。
     一方には一笑に付すべき妄想でも、
     他方にとっては紛れもない現実らしく、
     前者が次第に
     「むしろ自分の記憶が、頭がどうかしているのでは……」
     と思い始めるところが恐ろしいが、
     「あちら」と「こちら」の連絡口は
     どこに開いているのだろうか。

    ■地獄
     雲仙のホテルに滞在する西寺を訪(おとな)う、
     七年前に死んだ村野(=語り手)。
     死者と生者の、愛と死と温泉を巡る対話。
     タイトルは
     「温泉地で絶えず煙や湯気が立ち、熱湯の噴き出ているところ」
     を指す。
     確かに、寺社と結び付きがなくても、
     噴泉のある場所には
     この世とあの世の朦朧とした境目のような雰囲気がある。

    ■離合
     中学教諭・福島を、娘・久子の婚約者・長雄が
     迎えにやって来て挨拶する。
     娘の人を見る目に安心し、誇らしくも思いつつ、
     福島は長雄と共に上京し、久子の部屋に泊まる。
     久子は結婚に当たって、
     別れた母=福島の元妻の明子を招き、
     両親揃って祝福してほしいと言って連絡を取る。
     久子が出勤し、
     ぼんやり過ごす福島の許へ明子が現れたが……。
     互いを尊重し、大切に想い合う父と娘の姿と平行して、
     憎むほどではなかったが別れないわけにいかなかった
     夫婦の経緯が語られ、切ない結末に。
     人の優しさが丁寧に描かれていながら、
     どこかひんやりしたタッチはまるで久生十蘭作品のよう。

    • 淳水堂さん
      深川夏眠さんこんにちは。

      川端康成の「片腕」とても好きです。
      主人公の帰り道の濃霧とか、ラジオとか、このまとわりつくような妖しさ!
      ...
      深川夏眠さんこんにちは。

      川端康成の「片腕」とても好きです。
      主人公の帰り道の濃霧とか、ラジオとか、このまとわりつくような妖しさ!
      川端康成を読む前は、ノーベル文学賞とったり試験に出たり、お堅い作家かと思ったら、この素晴らしさ。
      こちらの短編集読んでみます!
      2022/11/26
    • 深川夏眠さん
      わぁ、いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。
      世界に名を馳せた文豪……だけども、
      この作品集だけを読むと「結構ヘンなヒト」
      ...
      わぁ、いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。
      世界に名を馳せた文豪……だけども、
      この作品集だけを読むと「結構ヘンなヒト」
      という印象を受けますね。
      自伝的小説とされる「少年」の抜粋版を読みましたが、
      これも何だか……何だかなぁ、と(笑)。
      https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4582769179
      2022/11/26
  • asahi.com: 愛でたい文庫 の書評で欲しくなる。 http://book.asahi.com/bunko/TKY200608010208.html紀伊国屋で購入。紀伊国屋で本を買うのもしばらくはナイかなぁ。慣れた本屋との別れが引っ越し族には辛いっす。怪談というより、幻想小説に思える。 * 「片腕」 なまめかしく妖しい。可愛らしくてコワイ。「○」 * 「ちよ」 著者の生い立ちと深く関わった作品。 * 「処女作の祟り」 上記「ちよ」について * 「怪談集1―女」 猪突に成敗すんなよぉ(笑) * 「怪談集2―恐しい愛」 「○」<blockquote> どの女も妻と同じように肴の匂いがする</blockquote>というのは良い。P71 * 「怪談集3―歴史」 * 「心中」 「お前達は一切の音を立てるな。その音が聞こえて俺の心臓を叩くのだ」と手紙を寄越す逃げた亭主。準じる女房と娘。「○」 * 「龍宮の乙姫」 * 「霊柩車」 * 「屋上の金魚」「○」 * 「顕微鏡怪談」 * 「卵」 夫=異物に微笑む。P97 * 「不死」 * 「白馬」 * 「白い満月」 「死んだっていい人間は沢山あると思います」P113 * 「花ある写真」 * 「抒情歌」鬱陶しい。「△」。 * 「慰霊歌」 * 「無言」口を利くことも文字を書くことも止めてしまった作家。その作品「母の読める」「◎」 * 「弓浦市」「○」 * 「地獄」「○」<blockquote> 「君の細君は、君が死んでから七年後の今でも、君のために嫉妬するのを、君は知っているかね」と西寺は言った。 「これには僕もおどろいた。君の細君は内職に 〜略〜 僕も知り合いの婦人を紹介してやったところが、君がもし生きていたら好きになりそうな人だと 〜略〜 僕はおもしろいから、その通りに相手の婦人にしゃべってしまった。その婦人はどう感じたのか、非常にいやがったよ。なるほど考えてみると、女が聞けばいやな話かもしれないね」</blockquote>P266 * 「故郷」<blockquote> 「あっ、お父さんじゃありませんか」 「静かにしないか。今お前が生まれるところだぞ。難産だぞ」 「難産ですか」 「静かにしないか。難産だということをよくおぼえておけ」</blockquote>P287 * 「岩に菊」 * 「離合」「◎」 * 「薔薇の幽霊」 * 「蚤女」 * 「Oasis of Death(ロオド・ダンセイニ)」「△」 * 「古賀春江」 * 「時代の祝福」「△」

  • 処女作『ちよ』からの『処女作の祟り』の流れで、こんなメタな作品を書いていたのかと驚きました。
    文豪の作品を読もうと思うと、有名作から手に取られがちですが、こういう掌編含めた自分の好きなジャンル(怪談モノ)だけ集めたものは、手に取りやすいし読みやすいのでありがたいですね。
    『片腕』の幻想味と色っぽさ、『弓浦市』のサイコホラーっぽい後味、『薔薇の幽霊』から感じる少女小説めいた耽美などが気に入りました。
    「怪談」と言われるほど怪談してない作品が多いですが、面白かったです。

  • シュールレアリズムな作品、と評価されている。
    私もそのように思う。
    幻想的であり、エロティックだ。
    愛玩する、少女の肉体の一部。
    倒錯か、偏執か。

    “娘の夜の癖をしらない”
    妖しい⇒なまめかしさ。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      これは少女性愛のお話ですか?
      それとも芸術ですか?
      そう言えば、私の読んだ川端作品は少女が主人公の作品ばかりです・・...
      こんにちは。

      これは少女性愛のお話ですか?
      それとも芸術ですか?
      そう言えば、私の読んだ川端作品は少女が主人公の作品ばかりです・・・。
      2014/09/22
    • だいさん
      vilureefさん
      こんにちは
      >少女性愛のお話
      こっちじゃないですか。
      でも、エッチな表現は出てきませんよ。あくまでもイメージで...
      vilureefさん
      こんにちは
      >少女性愛のお話
      こっちじゃないですか。
      でも、エッチな表現は出てきませんよ。あくまでもイメージです。
      2014/09/22
全29件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川端康成の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×