「本をつくる」という仕事 (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.66
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本棚登録 : 703
感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480815347

感想・レビュー・書評

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  • 「『本をつくる』という仕事」稲泉連
    ノンフィクション。紙の色。

    「ぼくは『本』という形あるものが好きだ。」。
    僕が本をつくることに関わる仕事に就いたのも、あとがきにあるこの一言に尽きる。

    本は、文化を支える媒体であり、研ぎ澄まされた表現であり、人を内省に向かわせる薬であり、暴力装置を監視する武器であり、コミュニケーションの手段であり、そしてひとりひとりの大切な財産だ。
    考察すればいくつも、本の持つ魅力や特性が出てくるけれども、正直なところそれは後付けであって、モノとしての本のない生活が考えられないということだけかもしれない。

    目的のある読書というのが苦手で、もちろん嫌いなわけではなく自己実現欲求としてあるんだけれども、やはり本との向き合い方は、その世界に没頭できるかどうかで決まってくる。
    その没頭感を与えてくれるのが、本という媒体の完成度であり、身体性であると思う。

    本書はそうした身体に馴染む本を「つくる」人々に焦点を当てたルポルタージュ。一貫して感じたのは、本に携わる人々がつくっているのは、その中身に表現されている文章や物語を届けるための(文字通り)媒体である、という意識であること。
    これは、最終章で取り上げられている児童文学作家の角野栄子さんも例外ではないと思う。

    人間は、実際に会って話をして、という対面のコミュニケーション以外にも、文字を介した非対面のコミュニケーションの世界を持っている。
    本は、そうした非対面コミュニケーションのなかでも、より影響力のある書き手が、より多くの人々に対して表現する、という手段に特化してきた。
    情報通信機器とはまだまだ並存していくと思うし、インターネットが普及すればするほど、本を無意識的に好きだという人々には、その良さが際立ってくる。
    そうした「傍にある本」をつくり続けていくために、僕はまだまだ本に関わって生きていきたい。
    (4)

  • 著者の仕事観の本ではなく、外からはなかなか認知されない本にまつわる職についている人、数名を取材した本。
    書体デザイン、製本マイスター、活版印刷屋、校正校閲などなど。さらっと読み。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    「本」をつくる仕事と聞いて、最初に思いつくのは作家、次に思いつくのが編集者辺りではないかと思う。この本では余り知られていない本をつくる職業の人々にインタビューを実施し、どのような職業なのかを紹介している。
    この本を読むと自分が今までに読んできた本が多くの人達によって生み出されてきたことにちょっとした感動を味わえる。また、この本を読んだ後では本を読むとフォントや紙質、カバーデザインなど今まではほとんど気にならなかった部分が急に気になるのが面白い。

  • 本は決して、作者が文字や絵を書いて、それを印刷すれば出来上がりというわけではない。内容を誤りのないものにするためには校閲の作業が必要だし、印刷された「紙の束」を本にするには製本や装丁が要る。そもそも、文字の形(フォント)や本の紙にも色々な種類があって、それはそれぞれ本のために誰かが作ったものだ。
    本は、特に紙の本は、そんな多くのプロフェッショナルたちの仕事で成り立っている。これはそんな人々に焦点を当てた本だ。

    自分は電子書籍はあまり得意ではなくて、コレクション的な意味も含めて紙の本が好きなのだけど、その割に、本がどのように作られているかということにはあまり目を向けていなかったような気がする。だから、本が絶版になったというような話を聞くと、「データはそこにあるのだから、絶版なんて言わずに刷ればいいじゃないか」と思っていた。文字通り、刷ればそれで本ができると漠然と思っていたのだ。でも、違う。私たちが欲しいのは本であって、紙の束ではない。それが本になるには、また多くの手をかける必要がある。
    売れない本は絶版になってしまう。残念なことでもあるけれど、それは、本というものが多くのプロフェッショナルの仕事を経て生まれてくることの裏返しなのだと分かった。

    様々な仕事が本書では取り上げられているけれど、自分が一番好きなのは新潮社の校閲部を紹介している章。ある作家さんが、新潮社の校閲はすごい、と言っているのを見たことがあって、興味があった。どちらかというと「古き良き時代」のことについて多く語られてはいるけど、総じて校閲という仕事の意義や使命について熱く語られている。校閲は出版社の良心だ、と。校閲が、単に誤字脱字のような明らかな誤りだけでなく、ストーリー構成の矛盾点までも指摘する仕事だとは知らなかったので、驚いた。

    この本を読んだ後に、古本屋で昭和10年代とかの本を目にする機会があった。当然活版印刷で、装丁も豪華というわけではないけれどどれもとてもこだわりを感じられる作りだった。自分がその時見たのは価格にして数百円だったけど、それでもだいぶ興奮したので、『ビブリア古書堂』シリーズなんかで高価な古本を犯罪を犯してでも手に入れようとする人に、初めてちょっと共感できた気がする(笑)

    本は文庫本も良いけれど、本書を読んだ後は、より個性の出る単行本を読みたくなる。本屋さんで製本や装丁に着目したフェアなんか組んでくれると面白いのになあ、と思った。本好きは読んで損のない一冊だと思います。

  • 内容は、私が期待したほどではなかった。残念。

  • とても面白そうな本。

    <blockquote>本書は、「書店は広大な読者の海と川とがつながる汽水域であり」、本づくりとは「源流の岩からしみ出た水が小さな流れとなって集まり、次第に1本の川に成長して海に流れ込む」ようなものだと考える著者が、8つの目的地を求めて川上へと遡っていく物語である。
    </blockquote>
    電子版でないかな〜。しばらく待とう。

  • 本というのは不思議なものです。嗜好品のようでいて、世の中ではとっても重要なものと認識されてもいて、意識して手に取らない限り一生関わらない本が大多数を占める。それだけ沢山の本があるのに街中で本読んでいる人なんて一握りで、誰が消費しているのやらさっぱり分からない。本作りに携わっている人は(売り手も含め)殆ど求道者のような扱いで、とてもじゃないけれど経済活動しているように感じられない。
    一部の話題の本や映画化された本以外は本当に地味に展開されていて、本好きではない人にアピールする方法なんて思いつきもしないです。そう考えると王様のブランチって大事だなと思います。
    そんな中で、まさに本作りの裏方中の裏方から、書き手まで本を作り事に関する手が沢山描かれています。
    紙までは何とか認識していましたが、書体迄作らなければならないという所で頭叩かれたようなびっくりが有りました。そうだ、本もPCも携帯もまず字が全部作られ登録されていない限り使えないんだと思ったらば、この駄文を何気なく打っている事が申し訳ない位です。何万語という字を一つ一つ検証するなんて考えもしませんでした。
    紙も今となっては中性紙が普通ですが、ここ数十年に確立した技術なんですね。その技術が有ればこそ読めているんだと思うと、ひたすらひたすら感謝感謝です。

  • 本好きにはたまらない本オタクの為の一冊。

  • 紙の本・電子書籍 みなさんの好みはどちらですか?
     どちらもメリット・デメリットをいくつもあげられますが、私は紙の本が好みです。
     その理由は、めくる時の紙の質感が好きであるから、紙の本の装丁は本の内容と結びついている気がするから・・・。あげだしたらきりがありません。
     この本を通して、私は更に紙の本の魅力を感じることが出来ました。なぜなら、この本を通して1冊の紙の本を作りあげるプロたちの技と心意気に強く魅せられたからです。紙の質感・文字のフォント・装丁(以下略)そして著者…1つ1つのプロが本気で向き合って1冊の紙の本は出来上がっているのです。普段なかなか気付けないプロたちの仕事ぶりに心を止めることで、電子書籍派のあなたも、紙の本を手に取りたくなるでしょう。

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著者プロフィール

稲泉 連(いないずみ・れん):1979年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒。2005年に『ぼくもいくさに征くのだけれど 竹内浩三の詩と死』(中公文庫)で大宅賞を受賞。主な著書に『「本をつくる」という仕事』(ちくま文庫)、『アナザー1964――パラリンピック序章』(小学館)、『復興の書店』(小学館文庫)、『サーカスの子』(講談社)などがある。

「2023年 『日本人宇宙飛行士』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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