困ってるひと

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591124765

感想・レビュー・書評

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  • つらくしんどいことを、うらみつらみをこめて書くのは簡単で。それを一歩ひいた視点で「面白く」書いてることがすごい。

    もちろん、渦中ではしんどさ1000%だったと思う。友人に頼り過ぎて決別してしまったりなどのエピソードもあるけれど、それはあって当然だし。

    彼女のすごいところは、いつまでも自分の境遇に酔ってたゆたっていないところ。状況を変えようとする行動力。
    デートしたい!っていう自分の欲望をかなえてあげる素直さ。

    刺激を受けた。

    そんな彼女だからこそ、すてきな「あの人」との出会いも引き寄せたんだろう。出会いのエピソードや、引っ越しで発揮される彼の得意分野にシアワセな気持ちになった。そこだけ二度読みしちゃったし。

    世界を広げてくれる一冊です。

  • すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保証するのが国家の役目なんではなかったのか。なぜ自治体によって受けることのできる福祉の内容が変わってしまうのか。なぜ障害者手帳の等級はひじやひざの曲がる角度で決められてしまうのか。
    難病を患いながら生きることは病気と闘うことと同時に、彼女いわくモンスターの日本の不条理な制度との戦いでもある。彼女の戦いがいつの日か実を結ぶことを祈る。あらゆる人に読んでほしい本。

  • ビルマの難民支援に奔走していた大学院生が、難病に冒される。「困ってる人」を助ける側にいた彼女は、一転、自ら「困ってる人」となる。行く手に立ちはだかるは、難病の山・制度の谷。生き抜こうとする「難病女子」は幾多の「モンスター」たちとの闘いを余儀なくされる。

    軽い筆致だが内容は重い。闘病記ではない、と著者は書くが、立派な闘病記である、と思う。ただ、著者の病気がなかなか診断の付かなかった難病であることもあり、治療法や入院先といった点で多くの人の参考になるような本ではないだろう。
    だがもっと普遍的に、「理不尽で困難な状況に陥ったとき、人はどうすればよいのか」を考えるとき、「このように戦っている人がいる」という不思議な希望を抱かせる本である。

    例えば自らを「難病女子」と呼び、病院を出て一人暮らしを試みようとする計画を「N・M・I(難病・ミッション・インポッシブル)」と名付ける。こうした本書の文体は、受け付ける人と受け付けない人がいるような気はする。しかし、この文体でなければ、著者はおそらく本書を書き通せなかったのではないか。そしてこの文体で書き通すことが、著者の心の杖となっている、そんな気がする。

    病気には限らないが、社会の弱者となったとき、どのような状態になりうるのか。そしてそこを切り抜けることは果たして可能なのか。「秘境」はジャングルにばかりあるのではない。望んで踏み込むのではなく、気がついたら否応なく抜け出せなくなっている街の「秘境」もまたあるのだ。制度の隙間に落ち込み、肉親や友人も疲弊してしまったら、脱出する術はあるのだろうか。

    「難病女子」を先導に、ニッポンの中の「秘境」をさまよう冒険は、おもしろくも恐ろしく、目を開かされる。


    *難病ということに加えて、ゼロ年代の著者の現実は、明らかに20年前の20代より厳しい。若い人が希望を持てるようにしていかなくてはいけないよなぁ・・・。

    *でもこの発想の柔軟さはこの世代ならではのものかもなぁとも思う。

    *独り立ちを決心するきっかけともなるクマ先生の一言、その前後の著者の気持ちというのが、すごくよくわかる。うんうん、そういうことってある。

  • 医学生としての自分にとっては、筆者の立場と、登場する医師たちの立場、両方から考えさせられるものがあった。
    本書には「先生は医学の面ではプロフェッショナルだとしても、激動の現代に関してはただの年齢相応のおっさんである」というような一節がある。
    医学的見地からのみならず、日本の医療制度、社会福祉制度を含めて幅広い面から患者さんにとっての最良の治療は何なのか、患者さんとともに探っていける医師にならねばならないと感じた。
    「世界を変えられると思っていた」筆者ではないが、日本の医療や社会福祉に対して提言できる医師になれればと思う。

  • 難病、と一口にできない日々の困難さ、その辛さに対する闘病の気持ちを余すことなく、コミカルに表現しているのが痛々しいけど、すがすがしい。

    人が前向きに生きていくのに、人生への期待や希望がいかにその人を奮い立たせるのか、最後に夜明けを感じさせるラストですこし救われました。

    少しでも病状が快方へ向かいますように。

  • 201303/
    その国の「本質」というのは、弱者の姿にあらわれる。難病患者や病人にかぎった話ではない。あらゆる、弱い立場の姿に、あらわれる。ビルマ女子は、タイやビルマで、路上や難民キャンプで、苦しむ人たちの姿を見てきた。貧困の姿もまざまざと見てきた。しかしそれは、いくら旅を続けようが「他人事」でしかなかったのかもしれない。
    「これが、苦しむ、ってことか」
    わたしははじめて日本の、自らの「本質」と向き合った。/

  • この方の疾患は壮絶で、はっきり言ってとてもヘヴィな内容(の筈)。ですが、活字離れが著しいアラフォー社会福祉士の厚い脂肪で覆い尽くされた『読書欲』を見事に引き出してくれる素晴らしい文章力のお陰で、夢中になって読みました。難病を抱え生きるだけでも大変なのに、一念発起して自力生活をされるくだりは凄まじさを感じました。新人社会福祉士としては、MSW(医療ソーシャルワーカー~同業の方)に相談し結局「お気の毒に…」と言われるくだりはかなりショックでした。これからこの世界で生きていくうえでよく考えなければならないと思いました。星でいうなら☆×5です!

  • ポストゼロ年代ゲンロンブームで、大野更紗の名前は知っていたし、現代思想やBSフジの情報番組で、障害当事者なんだけどシニカルなモノのいい方が気になっていたわけだが、忙しさを理由に未読でいたのだが、ポプラ社文庫版が発売された事をきっかけに購入し、一気読み。

     話そのものは、障がい者当事者による壮絶闘病記に過ぎないし、医療者である自分としては目新しい事はないのだが、病状が重い事もあってか、文章に力が抜けている感じがちょうど良いし、何より医療者や家族・友人に至るまで、鋭い人間洞察によるユーモアのある文章の展開が魅力で一気に読む事ができた。

     そして、患者の立場で書かれた文章が気づかせてくれる事は多い。

    ・患者さんは、医療者という未知の存在に対して、イケメンであったり、手技が巧いというものを求めており、ときに誇大妄想しているという事

    ・患者さんは主治医の事を信頼しており(信頼しないと入院生活を送れないという言い方が正しいのかもしれない)、主治医が「患者さんの困っている事」を知ろうとしない(または、日常の経験慣れのために、想像する事ができない)ことで傷ついたり、諦めを与えたりする事。

    次の一節
    「医師は、患者のデイリーライフにおける「難」を、病院内の世界だけで判断している傾向があると感じ始めていた。」

    ほとんどの医師は、研修病院で急性期を中心とした総合的なスキルを学び、専門に進む。これが、医師として成長していくシステムのデフォルトである。慢性医療に携わることや、在宅医療に進むことは、デフォルトの医療の中にはほぼ存在しない。急性期病院で忙しく働く中で、「医師意見書」がいきなりやってくる。それが、患者のどのような援助になるのか、どう書けば患者さんにとって利益になるのか、多くの医師はわからないまま〆切までに書く事を求められてしまう。

     「先生たちの脳内の「シャバ暮らし」のイメージは、せいぜい高度経済成長期、はたまたバブル時代くらいで止まっているということだ。・・・たいてい、献身的に支える妻、優秀な子供たち、ホームドラマにそのまま出てきそうな「ご家庭」持ちである。勤務医は激務ゆえ、時給換算するとぜんぜん高給取りではないのだが、社会的ステータスや価値観はやっぱりブルジョワっぽい。昭和の「三丁目の夕日」のような、ノスタルジーの幻想につかりまくっているような気がする」

    中略

    「聖なるパパ」たちは、誇り高く、頑固で、ちょう頑張っちゃう人たちである。ひとは誰しも、自分が「主人公」だ。先生たちにとってわたしは、超ガンバって制作した「悲劇的で美しい作品」なのかもしれない。だから、障害や福祉について、それがわたしにとって生死を分ける問題であるにもかかわらず、軽視し敬遠する。

    ずばっと直球の指摘。筆者は、文章の中で何度も主治医に対する感謝を述べているし、医師のキャラクターもおそらく好意的にデフォルメされて描いている。ほぼ全編に渡って、重い病気の暗い闘病を感じさせない、テンション高く突っ走ったタッチで描かれているのだが、随所に今の医療・福祉制度や病院の構造的な問題に対する怒りが垣間見える。それも直球。

    「困ってるひと」の感想からだんだん外れてきたが、医者の話。医者でも、政治家でも、(教師でも?)そうなのだが、早くから「先生」と呼ばれる職業は、社会常識が育ちにくいんじゃないだろうか? 病院でも、指示系統はすべて「医師→看護師」だし、そこに経験は関係ない。医師が自分の仕事を自分で規定する事なく「マニュアル」ができているために。特に在宅・ソーシャルワーク的な「多職種が関わる事が要求され、地道に時間をかけて進めなければ行けない事」に弱い。そもそも、大学の医学部って単科の事も多いし、総合大学でも部活は「医学部」だけ別だったりするし、そもそもが閉鎖的な社会なのである。生死に関わるという職業的特質性ゆえの保守性もあると思うが、私はそのような保守性に違和感を覚える。
     
     医師の学会は、細かく専門化されており、学際的かつ領域横断的な学会は少ない。
     
     きっと、こういう問題って、永田町にも、学校の中にも、原子力ムラにも共通しているんじゃないかなあ。

     最近、行きつけの飲み屋に行っていて良く思う。飲み屋で知らない人と語らう事はとても豊かだ。本来の下町の共同体である、八百屋の○さん、魚屋の×さん、金物屋の△さんっていうくくり。ネットでつながる共同体、シェアハウスで目的を同じくする共同体。

     荻上チキと大野更紗が立ち上げたメルマガ「困ってるズ」も、障がい者当事者のゆるやかな連帯として期待している。
     

  • 内容はガツンとくる衝撃。
    でも深刻になりすぎずに読めるのは、そういうのを通り越したところにいるような著者の語り口のおかげだと思う。
    生きるエネルギーに溢れてる。

  • 「独立国家のつくりかた」と「ニートの歩き方」に並んで、現代の日本社会の矛盾を鋭く突いた本。
    私たちの時代は自分でやるしかない!

    結局最後の最後に頼れるのは、セーフティネットだという切実な現実を忘れてはいけませんね。友達・家族・ひとの絆は脆いもの…。生保の不正支給が問題になったりしていますが、それでも困っている人が必要な助けを得られるような社会にしていかないと…。
    ルーマニアの独裁政権時代、セーフティネットがまったく機能していない社会で堕胎(違法)を試みる女性の映画を観たけど、ひとの絆しか頼るものが無い社会は、とっても不条理で、とてつもなく面倒なんだって思った。当たり前のように享受している社会の恩恵を忘れてはいけませんね。

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