失踪日記2 アル中病棟

著者 :
  • イースト・プレス
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781610726

感想・レビュー・書評

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  • なぜ人間の業はこんなにもおもしろいのか。

  • アルコール依存の専門病院の治療や生活が分かった。登場人物が皆おかしく、話としては面白いが実際に会うと、自分には耐えられないかもしれない。

  •  予約しておいた吾妻ひでおの『失踪日記2 アル中病棟』(イースト・プレス/1365円)が届いたので、さっそく読んだ。
     本日発売。かなり前に予約したのに、今日届いたものは第2刷だった(マニアなら怒るぞ)。予約だけでも相当売れたのだろう。

     言わずと知れた大傑作にして、30万部のベストセラーとなった『失踪日記』の続編。

     2005年に『失踪日記』が出た際、著者プロフィール欄に「入院後半のエピソードは続編にて」とあったので、すぐにでも続編が刊行されそうな印象を受けた。にもかかわらず、延々と待たされることじつに8年(正直、「もう出ないんじゃないか」と思っていた)。満を持しての続編である。

     正編は、①失踪後のホームレス生活、②配管工事の肉体労働をしていた時期、③その後マンガ家として一度復活するも、アル中になって強制入院させられた日々――という3つのパートに分かれていた。
     この続編はタイトルどおり、③の入院生活のつづき(退院まで)が描かれている。

     330ページを超えるボリュームに驚かされる。正編より130ページ以上も多い。それだけのページ数でアル中病棟暮らしの後半2ヶ月間が描かれているから、ディテールはすこぶる濃密。

     ただ、正編と比べてしまうと、面白さは一段落ちるかな。
     正編は短いページ数の中に印象的エピソードがギュッと詰め込まれていたから、密度とスピード感がすごかった(逆に言えば「駆け足感」もあった)。対して、本書はゆったり、じっくりと描かれている。
     けっしてつまらなくはなく、十分面白いのだが、正編がすごすぎた分、割りを食って見劣りがするのだ。

     比較すべきはむしろ、花輪和一の『刑務所の中』だろうか。『刑務所の中』が作者自身の獄中体験を描いたものであるのに対して、本作は作者自身のアル中病棟への入院という体験を描いている、という意味で……。
     優れたマンガ家が特異な実体験をマンガ化すれば、観察眼や描写力、デフォルメの巧みさ、キャラの立て方の技術によって、必然的に面白いマンガになるのだ。アルコール依存症を描いたマンガで、本作を超えるものはおそらく今後出ないだろう。

     アル中の恐ろしさが身にしみるマンガでもある。酒飲みのハシクレとしてはとくに……。
     たとえば、アル中真っ只中に見た幻覚の恐怖を表現する言葉――「恐ろしいと頭で考える自分の声すらも恐ろしいんだよね」は、実体験からしか生まれ得ないリアルな表現で、ゾッとする。

     また、断酒1年目に突如襲ってきた強烈な飲酒欲求に、「ほっぺたの内側の肉噛んで血流して耐えた」なんて一節も、これまた恐ろしい。

     『失踪日記』では悲惨な体験が突き抜けた笑いに昇華されていたが、本作は総じて笑いの要素が抑えぎみだ。
     退院後の「不安だなー 大丈夫なのか? 俺……」という作者のつぶやきで幕が閉じられるのだが、それ以外にも、心に暗雲が立ち込めるような場面が随所にある。いかな吾妻ひでおでも、アル中病棟への入院という体験をそっくり笑いに転化することはできなかったということか。
     ただ、全編に漂う暗さと寂寥感、ペーソスが、捨てがたい味わいになっている。

     また、正編よりも絵のクオリティにこだわった作品でもある。
     たとえば、コマは総じて正編よりも大きく、背景などもていねいに描き込まれている。「あじま」キャラは正編の二頭身から三頭身へと変わり、少しだけリアル寄りになっている。
     正編にはまったくなかった1ページ1コマの大ゴマもくり返し登場し、それらは絵として強い印象を残す。

  • 終始憂鬱感が漂う。お酒で憂鬱を散らしてたのに、そのお酒が飲めなくなってどれほどしんどかったんだろう。読んでいて一緒に憂鬱になってしまった。

  • つながる、て気持ち悪い表現やなっていうのが、なんか妙に分かる。
    アル中になってもたら好きな酒も飲まれへんようになる、て、なんて厳しい闘いなんだろう。

  • 一時は人気を誇った漫画家・吾妻ひでお。私も子供の頃に
    作品を読んだ記憶がある。

    その人気漫画家が仕事を放り出して失踪。自殺未遂、路上生活、
    肉体労働、そしてアルコールに溺れ、家族に入院させられるまでを
    描いたのが前作『失踪日記』だった。

    本書は『失踪日記』の終わりの方で「続きはまた」と書かれていた
    アルコール中毒治療の病棟での日々を綴ったものである。あ、
    勿論、漫画です。

    入院生活を送るなかで体験した治療内容や、他の入院患者を
    観察した描写なのだが、禁断症状やら鬱に晒されながらよくぞ
    これだけ記憶していたなと思う。

    依存症からの脱却って辛いと思うし、その治療の過程でも
    しんどいことがたくさんあったと思うんだ。でも、それを作品
    として昇華出来てしまうのって凄いわ。

    作品として出版される以前の初稿の段階ではもっと暗い話に
    なっていたそうだが、決定稿でも十分に辛い部分は伝わって
    来る。それを、吾妻氏の作風が緩和しているんじゃないかな。

    入院中に外泊許可が出て自宅に帰るシーンもいいのだが、
    やっぱりラストの退院して帰宅するシーンは読んでいる方
    もなんだかほっとする。

    尚、吾妻氏は今でも断酒に取り組んでいる。これは一生、
    努力しなきゃいけないんだろうな。

  • 前作『失踪日記』の続編、
    アルコール依存症治療のために
    家族に強制入院させられた著者が
    その3ヶ月間の入院生活について描いた作品。

    「精神の人」という呼び方がリアルでよかった。

    アルコール依存症は本人だけではなく家族の問題である。
    だから家族間の共通の認識が必須になる、
    という視点が目からウロコだった。

    依存症には過剰適応的な性格の人が多い。
    がんばりすぎる、頑固すぎる、高望みしすぎる、
    割り切りすぎる、惚れ込みすぎるなど、中庸がない。
    独自性にこだわりすぎないのが大切だと著者は説く。
    「完全主義者は身を滅ぼす」
    何度も自分に言い聞かせてるシーンが胸を打つ。

    「共依存」について書かれた部分が特に印象に残った。

    男運が悪いと嘆く人ほど何故か得意気に話すのはどうしてなんだろう、
    少しだけうれしそうなのは何故なんだろうと思っていたけれど
    こういうことなのかもしれない。

    「共依存」は自分を犠牲にして他人に尽くし、
    そのことで自己の存在価値を証明して自己陶酔に陥る
    「自己愛」がその根本にある。
    自己評価の低い人は
    何故か問題のあるパートナーばかりを選んでしまう、
    というか、問題のあるパートナーでなければならない。
    尽くすことで自己の存在理由を示しているんだ。

    そこから抜け出すためには
    他人のために生きるのではなく、
    自分自身のために生きることなんだけど、
    それはまた別の話。

    酒が埋めていた空虚感を酒以外のなにで埋めるか。
    著者は幸運にも家族と漫画が埋めてくれたけど、
    自分だったらどうするんだろうと考え込んでしまった。
    家族がずっと待っていてくれた、
    というのは著者にとって救いだったんだと思う。

  • 失踪日記から8年後に出版された本。買ってからパラパラ拾い読みしていたが、ちゃんと最初から腰を据えて読もうと、大阪から東京に向かう新幹線の車中で向かい合う。

    成程。アル中って内臓の病気じゃなくて、精神科なんだな。知ってはいたけれど、再度認識を改める。幾つか壮絶な話もあるけれど、吾妻ひでおの丸っこい絵柄に救われる印象。
    このマンガに出てくるキャラクターの本人を見たら、ああ、この人かと思うんだろうなあ。ギャグタッチなのに実在感がある。嫌な奴と吾妻さんがいっている杉野もそんなに嫌な奴には見えないんだよね。作者の感想とは別に、マンガに客観性があるってことかな。

    野川沿いの散歩道とか、野川公園、深大寺と知っている場所が多く、M鷹、C布、F中と知っている地名が沢山。断酒会とかAAとか知らないことも多かった。まあ、世話になることはないだろうけど。たぶん。

    あと、ナースの女性が可愛らしく描かれていて、それも救いになっていると思う。

    吾妻さんのマンガは高校生の頃に少年チャンピオンなどで読んでいた。それから、35年位かな。失踪日記も含めて、まさかこういう作品を読むとは思っていなかったな。

  • 吾妻ひでおの新作。
    「失踪日記」から、続くドキュメンタリーです。

    単純に、吾妻 ひでおの新作が読めるのがうれしいなぁと思います。しかも、マンガ!!
    そして、これ、傑作だと思います。

    「失踪日記」は、個人的なことが中心になるお話でしたが、今回は、人と人とが一緒に生きるということを考えさせるお話でした。

    なんで、アル中になるのか、なんでスリップするのかというと、やっぱり、さみしいからなんだろうなぁと思います。

    人間関係煩わしいと思いつつも、誰かがいないとやっていけない。
    そういう感じが、伝わってくるなぁ。
    そして、アル中病棟でも、人間関係に悩んだりする。
    でも、そういうのが、人の幸せにはつながっている気がします。

    わたしは、アルコールは飲まない(飲めない)ので、その誘惑とかはわからないけど、ついつい食べ過ぎてしまったりするのも、根底には、さびさがあるような気がします。

    こうやって、今まで知らなかった世界を知ることで、今まで偏見をもって見ていたものを見直せることもあるかもしれません。

  • 巻末の対談でもとり・みき氏が指摘しているが、作者の俯瞰力・客観性が物語の救いであり、だからこそ作者が最後につぶやく一言が深く印象的。
    「不安だなー、大丈夫なのか?俺・・・・・・」

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著者プロフィール

漫画家。1950年、北海道生まれ。1970年代に『ふたりと5人』『やけくそ天使』などで人気作家に。その後、不条理漫画や自費出版の同人誌「シベール」でおたくの教祖的存在になるも、80年代末から失踪やアルコール依存症を繰り返す。その体験記『失踪日記』で、日本漫画家協会大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞、日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門を受賞、話題に。

「2015年 『文庫 逃亡日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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