- Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004309208
作品紹介・あらすじ
「万葉集にたどりついたとき、古い日本語というよりも、とても新しい文学に出会ったという不思議な感じがした」英語を母語としながら、日本語作家として現代文学をリードする作家の感性が、英語という鏡に古代日本語の新しい姿を映し出す。全米図書賞を受賞した名訳から選りすぐった約五〇首の対訳に、作家独自のエッセイを付す。
感想・レビュー・書評
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「春過ぎて 夏来(きた)るらし 白妙の 衣乾したり 天の香具山」
ブク友の皆さんもよくご存じの一首を載せてみた。
万葉集巻1にある持統天皇の三十一文字の歌である。
明るい光の中に、遠く白い衣が映える季節の移りをうたったもの。
これが著者の英訳だとこうなる。
Spring has passed,
and summer seems to have arrived:
garments of white cloth
hung to dry
on heavenly Kagu Hill.
ふわりとしたイメージだった歌が、俄然現実的になる。
日本語と英語はこんなにも違うというサンプルを見るようだ。
実際に香具山を見たことがなかったため「山」はmountain だった。
現地に行ってみるとさほど高くもない。それでHill になる。
「天」の性質をもった美しい丘、heavenly Kagu Hill。
時間を視覚的に描く「過ぎる」というのはきわめて重要な日本語なので「pass」「 passing」「 passed 」は頻繁に出てくる。
万葉集が翻訳しやすいと言われるのは、鮮やかな視覚的イメージが伝わりやすいからだ。
そんなリービさんの解説が、英訳の次に掲載。
万葉集に心酔し、どうにかして英語に近づけたいという様々な工夫が見て取れる。
語源を調べ、妥当な英語を列挙し、幾度も推敲し、現地まで出向く。
私たち日本人でも、ここまで万葉集を調べつくしたことがあるだろうか。
著者はブリンストン大学とスタンフォード大学で日本文学教授をつとめ、82年万葉集の英訳で全米図書賞を受賞している。
本書はその中から選りすぐりの50首の対訳とエッセイを掲載。
万葉集の解釈と英語について学べ、日本語のルーツを考え、英語の語感を愉しめる。
ゆっくりと英訳を音読すると、自分が日本人以外の存在になって万葉集を味わっているような、なんとも不思議な気持ちになるのだ。
英語の詩には見られないものが、「詞書(ことばがき)」。
歌の前にくるもので、その歌が生まれた「とき」と「ところ」と「情景」が細かく書かれている。リービさんはどの歌の「詞書」も載せている。
「人麻呂」と「家持」と「憶良」にとことん惚れこみ、前書きだけで熱いものが伝わる。
万葉集を世界文学に昇格させてくれたのは、著者の力によるところが大きい。
ところで「恋ふ」をどう訳すか。
loveでは結ばれている状態を表すから、だいぶ違う。
憧れたり、離れたところにいる相手を人知れず恋焦がれる。
どれもloveの現象だが「恋ふ」の動詞は英語の to love を意味しない。
一緒にいないことが淋しいという意味で「longing (思慕)」や「 yearming(切望)」をあてはめている。いやぁ、素敵だ。
万葉集の頃は、現代よりもはるかに繊細に心の動きを表現していたのね。
古文や英語のサブリーダーだったらどんなに授業が楽しかったろう。
リービさんの「理解しようとし続ける」姿勢に、感動さえおぼえた。
よろしかったら皆さんもぜひお読みください。
逆輸入の万葉集で、古のひとびとの心にふれる体験はとても新鮮なのだ。 -
英語に訳された万葉集を音読してみる。リズムがある、思った以上に心地よい。ただ、どうも解説的にならざるを得ないところもあるようで、原文より長くなるのは仕方がないだろう。リービ英雄さんの翻訳する際の苦労を述べた解説が秀逸だ。その歌ばかりでなく、万葉集全体、日本語の歌というものまで、深い理解をしたうえで翻訳しているのが分かる。その解説から浮かび上がってくるのは、まずは直截的な比喩の力強さだ。畳みかけるような柿本人麻呂の比喩は圧倒的な迫力で迫ってくる。自然現象と心の動きを結び付けて不可視なものを可視にする比喩は、唯一無二の詩歌の武器ではないか。枕詞、地名の力も見逃せない。万葉集によって、日本中の自然に、大地に呪縛が掛けられたのだ。
柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良、それぞれの歌の個性が余りに違うことにも驚かされる。大伴旅人と大伴家持の万葉集の編集方針によるものだろうし、カバーしている期間も長いからだろう。-
goya626さん♪
端的にまとめられた素敵なレビューです!
私は他の方のレビューは読まなかったのですが、なかなか好評なんですね。
柿...goya626さん♪
端的にまとめられた素敵なレビューです!
私は他の方のレビューは読まなかったのですが、なかなか好評なんですね。
柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良は、万葉歌人とひと言で言えないほど個性があって、そこも新発見でした。
見慣れたものでも違う眼で見ると、新しい理解が生まれるんですよねぇ。
リービさんに俄然興味が湧いた本でした。2021/03/25 -
nejidonさん
素晴らしい本を紹介してくださってありがとうございました。非常に面白かったです。なんとなく万葉集に親しんでいて、分かった...nejidonさん
素晴らしい本を紹介してくださってありがとうございました。非常に面白かったです。なんとなく万葉集に親しんでいて、分かったように錯覚していたことを再認識しました。万葉集は大伴家の私家集ということらしいですが、その辺のことも知りたい。後の勅撰和歌集に万葉集の和歌が採用されていますが、貴族たちは何によって万葉集を知ったのか、気になります。万葉仮名が読めたとは思えないからです。当然、かなに直されたテキストがあったのではないかと思われます。2021/03/25
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リービ・英雄はなぜ、日本語で小説を書くのか。ボクに、ずっとあるのはその疑問です。この本はアメリカでも有数の日本研究者である彼の代表的な仕事である「万葉集英訳」の、たぶん大衆化書籍だろうとたかをくくって読み始めましたが、噛んで含めるように、万葉語から英語へ移し替えていく作業の実況中継を語りながら、万葉集そのものに対するリービ英雄自身の考えや感想や、柿本人麻呂をはじめとする万葉歌人の生活や、その時代状況の解説も語られているうえに、「詩とは何か」という根本問題に触れていくという、とんでもない万葉集入門書でした。「名著」といっていいですね(笑)
読み終えて、矢張り、彼がなぜ日本語で書くのかはわかりませんでしたが、彼の日本語が半端でないことはよく解りました。
ブログにもあれこれ書きました。覗いてやってください。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202303160000/ -
万葉集を英語にしようという’無謀な’試みの本。
無謀な、というのは著者も感じており、7世紀の日本語独特の表現や感性を現代英語にすることの限界を幾度となく論じており、それを通して原文の美しさを伝えている。
英語はどうしてもストレートになりがち、説明がちで、「久方の 天より雪の 流れ来るかも」を「Is this snow come streaming from distant heavens?」と疑問形にしたり(p69)、「不尽の嶺を 高み恐み」を「Because of Mt. Fuji’s lofty heights」としたり(p43)、そうしたところから古文の、そして和歌の美しさを改めて感じさせてくれる。
中には行き過ぎと感じるものもあり、天皇御製の「我こそは 告らめ 家をも名をも」を「l will tell you my home and my name. 」としたり、「夜道は吉けむ」を「the night road should be good」としたりは簡略化しすぎでしょとか。
「玉裳のすそに 潮満つらむか」をcouldやI wonder ifを使うとわざとらしいと言ってあえて「Can the tide - ?」と簡単な質問形式にしたとあり、著者の趣味のよう。著者がスタンフォード大教授ということでアメリカ英語だからこんなストレートなのかなあとか思った。言語ごとの独自の感性とか文化があり、それは代替不可能なのだという、文化人類学とか1984で学んだことを改めて感じさせてくれた。
それはそれとして、英語でももっと婉曲で奥行きを感じさせる表現はもっと可能だと思う。その辺もっと勉強して語彙の幅を広げたい。万葉集自体もかなりはまりそう。 -
おそらく新書で満足を得られる著書に出会うのは福岡伸一先生の「生物と無生物のあいだ」以来。情けないことに全く原語で理解できない万葉集を英語で読むことで、こんなに万葉の世界を味わえるとは想像だにしなかった。
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万葉集にほれ込んで図書館にこもりながらひたすら訳を続けた著者。英訳してあーでもない、こうでもないと頭をひねり続けた様子から対訳の解説を読むと伝わってくる。
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プリンストン大学やスタンフォード大学で日本文学の教授を務めるリービ英雄氏の万葉集への熱い思いが伝わる。母国語ではない日本語で創作をする作家でもある。万葉集をどのように英訳したかという経験と日本文化へのほとばしる情熱が伝わってくる作品。リービさんのような人が教壇に立って万葉集を講義してくれていたならば、ぼくの学生時代もさぞかしアグレッシブで面白いものになっていたのになと思う。
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万葉集のことはほとんど知らないけれど、それでも知ってるような有名な歌もたくさんあって、それが英詩の形になってよりはっきりとした輪郭で見えてきてとてもよかったです。山上憶良は恐らく著者の思い入れの強さもあるのでしょうが、特に感動しました。原詩に触れて驚き、英詩を読んで比較を楽しみ、解説を読んで納得と、全く飽きさせません。翻訳という行為そのものの愉悦をまるごと伝えてくれます。
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古典が個人的にまだ苦手なので、英訳で読む方がよく理解できた気がする。そういう意味で、リ-ビ氏にとても感謝している。
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和歌を英訳なんて、できるの?七五調のリズム感とか、日本文化特有の表現とか、再現できるの?と興味を持って読みました。リズムは再現できない部分もあるけれど、可能な限り、歯切れよく、リズムを感じられました。また情景やイメージは英語になっても鮮やかだったし、「love」とは訳せない「恋」も、見事に表現されていました。和歌って日本人が読んでもよく分からないものなのに、英語に訳されるとなるほどなるほどと分かること!
うわぁ、嬉しいです!
goya626さんはどの記事をピックアップするかしら。
今から予想を立てて楽しみます(笑)
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あはは!そのくらいの楽しみは与えてやってくださいな(*^^*)
いや、それ以前に楽しんで読んで下さるともっと嬉しい...
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いや、それ以前に楽しんで読んで下さるともっと嬉しいです!