風の歌を聴け (講談社文庫)

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感想 : 1965
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062748704

感想・レビュー・書評

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  • 意味のなさそうなことに意味を与えるのが青春。
    乾いた時間をやり過ごすのも人生の大切なアクセントと思わせてくれる。

    真実よりもその瞬間に価値があり風のように瞬く間に過ぎ去ってしまう儚いものが、そんな時間が自分にもあった気がする。

    鼠と僕と4本指の女のドライな関係。
    何となくオシャレでカラッとした一冊。

  • あんなに村上春樹が好きだと言いながら、処女作を読むのはこれが初めてなのだった。多くの作家にとって、最初の作品ってその作家の全てが詰まっているって言うじゃない?今までどうしても手が伸びなくて、だけど今回初めて読みたいと思って読んだ。今だから楽しめたのかも。

    いつも、冒頭から既に特殊な語りで、構えて読んでいるからか知らないけど空気も特殊だった。はっきり言って主人公の気持ちがよくわからないまま何かが起こり、周りが動き、主人公が行動して、話が進んでいき、前とは何かが変化して、物語が終わる。
    ・・だけど、これは読み始めから身近だった。何にもトクベツなところがなくて・・エッセイみたいな。主人公の感覚は私の中にもあるものだと感じたし、心が動いていることがわかったし、少なくとも共感できた、すんなりと。

    『完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。』
    よくネタになる言い回しは、この本の冒頭だったのか・・村上さんはこの一節が書きたかったらしい。英語にするとなんだろう?
    There's no such thing as perfect writing, just as there's no perfect despair.

    やたらペラペラと内容のない軽口をたたく主人公が・・かなりアメリカン。女の子誘う時とか、どれだけくだらないこと言えるかってくらい喋るじゃない?
    主人公のこれがどういう意図か・・照れ隠しか?気持ちを分散させるためか知らんが発せられる口から出まかせ(というか創作というか)が時々うざくてチャラいw よく思いつくねって感じ。
    そしてユキにバサっとやられているのが面白かった。

    『かつて誰もがクールに生きたいと考える時代があった。』
    心に思うことの半分しか口にださないようにしていたところ、自分が、思っていることの半分しか語ることができない人間になっていた。
    『語ることができない人間』?
    語りたいと思っても?心の中にたくさんいろんなものがあっても?
    『文明とは伝達である、と彼は言った。もし何かを表現できないなら、それは存在しないのも同じだ。』
    え、え、どういうこと?
    ・・・パチン。 OFF。わからないけれども繋がっているのか?

    『だけどね、人並み外れた強さを持ったやつなんて誰もいないんだ。みんな同じさ。何かをもっているやつはいつか失くすんじゃないかとビクついてるし、何も持ってないやつは永遠に何も持てないんじゃないかと心配してる。みんな同じさ。だから早くそれに気付いた人間がほんの少しでも強くなろうって努力するべきなんだ。振りするだけでもいい。そうだろ?強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。』

    ↑↑これなんだよなぁ。みんな、同じ。村上さん、いろんなところで繰り返し言ってる。私もこうありたいなって思う。
    そんな中で、発せられる言葉。
    『僕は・君たちが・好きだ。』
    人は例外なく1人で、全員が孤独だけれど、こういう一言が毎日やりすごす糧になると。

    『あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。』
    鼠にはそうは思えなかったんだろうか? 否、僕だって強くはないのに。強い振りをしようと、TRYしているんじゃん、みんな。それなのに1人だけが弱い気になって、君は僕とは違うとか言うんじゃないだろうね?

    あと、村上さん、つくづく女の子が1人でお店で時間を潰しているのが好きなんだなぁ。

  • 読み終わった後の爽やかさたるや。
    一回読んだだけでは内容を咀嚼できなかった気がするが、「この作品は理解するものではなく、感じるものなのだ!」ということであれば、私は十分に青春の1ページを感じられたと思う。
    時間をあけて、もう一度読みたい。

  • なんだろうかこの世界観。
    なぜかすごく惹かれるものがあってすごく読んでると時間を忘れる、不思議な体験。
    これが村上春樹ワールドというものなのだろうか。

    翻訳されたかのような文章だと思って読んでいたところ、アメリカ小説に大きな影響を受けたのだということであった。納得である。

    それから、あんなに色んな場面で登場したデレク・ハートフィールドは架空の人物らしい…

    続編の1973年のピンボール、早く読まなければ。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    海ばかり見てると人に会いたくなるし、人ばかり見てると海を見たくなる。


    P.147
    あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
    僕たちはそんな風にして生きている。


    何かを持ってるやつはいつか失くすんじゃないかとビクついてるし、何も持ってないやつは永遠に何ももてないんじゃないんじゃないかと心配してる。みんな同じさ。だから早くそれに気づいた人間がほんの少しでも強くなろうって努力するべきなんだ。振りをするだけでもいい。

  • オシャンティー

  • アルコールを飲んでいるような感覚が残る、ノスタルジーに浸る本。
    言いたいことははっきりとは伝わらないけど、昔にこういう「喪失感」であったり、感傷に浸る経験が多くある人に、寄り添ってくれるような本。
    “僕は・君たちが・好きだ。”
    これはこの本を読んで感傷的になっている全ての人に向けられた言葉なのかな、と勝手に受け取った。
    私もこの村上春樹の文体が好きです。

  • 村上春樹のデビュー作。それでいてもう春樹ワールドは完成している。交わされる会話の中のジョークや、音楽、ビール、バーなどは、舞台は日本であってもアメリカの匂いがする。
    序盤の「良い文章」について述べるくだりで、象の話から始まり、ハートフィールドという架空の作家が言う「物差しを用いることが良い文章」という場面があまりに流麗で、今まで読んできた本の中でもトップクラスに美しかった。象の意味が初めはわからないが、数行読んだ後にその意味が頭の中で絵となってはっきり浮かび、物差しとはそういうことかと愕然とする。ここまで読者の視点を操れる物なのかと感動してしまった。
    この世界観はアルコールをずっと飲んでいるような物だと思う。語り手の視点がはっきりせず、目が霞んでぼんやりとしていてる。それは恐らく登場人物たちが時間一直線に進んでいないからで、過去の回想と現在と夢の中を往復し混雑しているからだと思う。主人公の「僕」、鼠、指が一本ない女の三人は春樹特有の少し気取ったように見える孤高なところは確かにある。しかしこの孤高というのは気取りから来るものだとは私はどうしても思えない。彼らはこのような性格になるべくしてなってしまった、またはならざるを得なかったのではないだろうか。彼らは過去にとても悲惨な経験をしていることが仄めかされている。また、鼠の科白の中に「強い人間なんてどこにもいやしない。強い振りのできる人間がいるだけさ。」というのがあるが、彼らは孤高のようでいて、本当は去勢を張って生きているのだと思う。大丈夫な振りをし、前を向こうとする気持ちは女にもある。女が「お母さん」と呟きながら眠る場面においても、そのような虚勢が保てなくなった瞬間であろう。主人公の僕にも昔寝た女との話を回想し、存在理由のような物に懊悩する場面がある。鼠もまた、自分の金持ちの生まれにコンプレックスのようなものがある。早熟そうに生きざるを得ない彼らだが、彼らが求める物は凡庸な人間と同じで、彼らのこの行動などは周りより不遇なことから起こる、未熟な青春の蹉跌であるのかもしれない。

    調べてみると、この小説は「鼠三部作」とよばれる作品の一作目であるらしいので、早急に残りの『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』も読破したい。

  •  デレク・ハートフィールドというアメリカの作家、38歳でエンパイアステートビルの屋上から、傘をさして飛び降りてぺちゃんこになって死んだ男だが、ともあれ、彼の作品をまず読んでみればどうだろう。この小説の面白さにたどり着けるかもしれないし、1979年当時、20代の学生だったぼくたちの、静かな熱狂も理解していただけるかもしれない。
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201910070000/

  • 何回か読んでるけど、いつも内容をすっかり忘れてしまう。それで、短いからとタカをくくって読むと、うわわかんないってなってる。今回も、そう。飲みながら、ポテチ食べながら読んでたら、グッと入り込んでくらくらした。笑

    ケネディ、4本指、ラジオ、いくつかの太字など
    さまざまな「あれ?」という疑問が頭をかすめながらも
    謎だらけをそのまま読み進めてもなんだか面白い。

    デビュー作で原点だけど、いろいろ読んでから読むと、
    大学時代の彼女の自殺や4本指のモチーフなど、
    彼の中で書きたいことはそんなになくて、決まってるのかな・・・と思った。

    謎を解くには日にちを推測すると良さそう。
    いろんな人の考察ブログを読むのも楽しいです。

  • ピンボールとかこれとか初期の短編とかなんかヒリヒリしてるところがいいし読むたびに形がぐにゃぐにゃ変わって飽きない本

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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