幕臣たちの明治維新 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879316

感想・レビュー・書評

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  • 旧幕臣たちの側から明治維新後の日本を考察した本。
    徳川家について静岡藩へ移動したもののジリ貧の幕臣や、
    徳川家への思い入れが根強く残る東京市民の様子など興味深かった。

  • 大政奉還後の徳川家幕臣についての新書。
    明治政府関係者や、上野戦争や西南戦争関係者の本はよく見ますが、
    あまり徳川家のその後ってのは知識がなかったので借りてみました。
    なんかほんのーり平和に過ごしてるかと思ってたら全然違っていました。

    旧幕臣の数は旗本6000人+御家人26000人、合わせて3万人ほど。
    けれど明治政府によって静岡藩に封ぜられた徳川家が養えるのは、
    かなり給与カットしても5000人が限界でした。大リストラと大賃金カットです。

    徳川家も慌てて、
    ①明治政府に出仕する(明治政府に5000人の採用枠があったので)
    ②御暇願を出して農業や商業を始める
    ③無禄(給料ゼロ)覚悟で静岡に移住する
    この3つの選択肢を藩士たちに提示しました。
    しかし①は従来の江戸屋敷も禄高も保証されているにも関わらず、
    徳川についていればなんとかなるだろうという希望、
    および政治的感情からほとんどの人間が③に入ってしまい徳川家も困ってしまいました。
    まぁ江戸の商人たちも徳川のお膝元という誇りが大きく、
    実際に朝廷に出仕した人間には魚や野菜を売らないとか、
    街を堂々と歩けないような徳川味方の世間の風潮もあったのですが。

    ただ②と③の幕臣には非常に厳しい現実が待っていて、
    ②はやはり急に商売をしても失敗する例が非常に多く、
    料理屋は大赤字を出し、金貸しは踏み倒しにあい、
    道具屋にいたっては江戸を離れる幕臣が家財を二束三文で手放したため
    市場価格が暴落し、商売で1年もった者などほんの一握りだったようです。
    少しあとに政府が奨励した商売などもあったのですが(うさぎ飼育とか)
    政府も曖昧にすすめてたので結構一文無しもザラだったみたいです。

    ③についても、まずは静岡までの移動で地獄が起きました。
    家臣団の移住では陸路のほかに海上輸送(船)もあったのですが、
    人人人のすし詰めでこれだけで死者も数名出たほどでありました。
    しかもやっとの思いで辿りついた静岡でも厳しい現実が待っていて、
    給与カット率99%というとんでもない状況に
    その日食べるものにも困る幕臣が続出していました。

    けれど幕臣の集まるだけあって静岡藩の知的水準は非常に高く、
    静岡学問所では漢学・国学・英語・仏語・蘭語・独語のコースがあり
    沼津兵学校では兵法以外にも政律・史道・医科・利用などの課があり
    その最先端の学問に各藩からの教員としての派遣の要望も多くありました。
    藩だけじゃなく明治政府からの出仕命令(引き抜き)もありましたし、
    藩の赤字状況などを体験して言論界や財界に行く者もいたそうです。
    でもやっぱり多くは農業(茶園や牧場作業)などに付いたり
    開墾に携わったりとかなーりしんどい感じだったみたいですね。

    徳川っていう名前だけでまあ大丈夫でしょとか思っていたので、
    結構読んでいて衝撃というかびっくりしました。
    他にも江戸っ子の心情だとか、他の旧徳川派の藩のゆくすえだとか、
    いろいろあるので歴史好きにはちょこっと目から鱗で面白いかもしれません。

  • 明治維新。
    どうしても明治新政府に目がいきがちなこの時代。
    この本を見つけたとき、ハッとさせられました。
    そういえば徳川家臣団、どこへ行ってしまったの…?

    中学校の実習で、ちょうど明治維新あたりの
    授業をすることになり、本屋へ直行。
    そこで見つけた本がこれ。

    ある旗本の御家人1人にクローズアップして
    取り扱っているのでとてもわかりやすい。
    そこから徳川家臣の動きや生活の様子へと
    広がりを見せているのがとても読みやすかった。

    面白かったのは、生活苦の士族たちが
    明治期に牧場経営に参入し始めたのだが
    乳牛は広い土地がいる…そうだ!うさぎにしよう!
    とうさぎを飼い始めたものの、肉や皮の利用法は知らないわ
    うさぎはどんどん増えていくわ…
    で困ってしまった、というエピソード。

    東京にうさぎがはねまわってたなんて!

  • 幕臣たちが明治維新後、どう生き抜いたかを徳川宗家の静岡藩を中心に描く。山本政恒ら旧幕臣の回顧録などを随所に引用している。
    さらに幕臣の個人生活を知ろうと思えば「幕末下級武士のリストラ戦記 (文春新書)」も。

  • 平成20年11月7日読了。

  • 10/3

  • 『幕臣たちの明治維新』安藤優一郎・著(講談社現代新書)


    これは…。
    と思いました。
    タイトルが私好みです。言わば敗者(賊軍)とされたひとからみた、明治維新なのですから。
    歴史は勝者により作られます。それは各国共通。
    例えば『封神演義』という小説にもなった殷周革命。殷の最後の王さまの名前は紂王。ちゃんと名前があったのにいつの間にか紂王。紂たれる王なんて、ひどすぎる。
    そんな風に昔から勝者の都合のいいように書かれてきたのが歴史です。そして、日本にとっては男性に都合よく、ね。この著者で前に読んだ『大奥』の一般的イメージもそういうのって強く関係していると思うのですが。

    読み進めるうちに、うん?と思いました。
    以前読んだ『憑神』(浅田次郎)の時代背景とでもいいましょうか。
    でも、私は『憑神』の後半は随分馴染めなかったのです。前半は神さまがとりついてのどたばたなのに後半になると歴史の王道が絡んできて(慶喜とか榎本武揚とか出てきちゃって)、いわばファンタジーと主軸の歴史が混在してしまうのがどうも駄目だったのでした。
    まあ、幕末期の御家人の話だったので、仕方ないかもしれませんが。

    そして、その主人公とは違う生き方を選んだのがこの本に出てくる人々です。伝統や理想、思想、誇りによって散る生き方は確かに美しいかもしれませんが、それが最近過剰に美化されているようにも思います。
    どちらかといえば、私はこちらのほうが好きです。百凡であると罵られようと今をきっちり生きるために右往左往する人々。
    幕府消滅という天地がひっくり返った世の中を、それでも必死に生きたひとたち。
    貧困と差別、勝者によって傷つけられた誇り。
    それでも生きるために、やったことのない農業をし、実力も変わらない(もしかしたら自分より劣るかもしれない)薩長人の下で黙々と生きる。
    理念によって散るよりも、こちらのほうが何十倍も大変かもしれません。でも、地味すぎて全然振り返ってもらえない。
    そこに光を当てるのは、なんとも嬉しいことではないですか!


    文中で、静岡藩は慶喜の後継者であった家達が送られて、彼についていった藩士たちが壮絶な貧困を味わいます。今までの生活では有り得ない貧困のなか、知恵をしぼりだし、それぞれがそれぞれ、必死に生きていきます。
    しかし「餓死」が点々と生まれていく。まさしく、生きるか死ぬかなんです。理想や理念に散ったら美しいでしょう。でも、その死はある意味夢の中の死です。その他大勢は現実の死を逃れなくてはなりません。
    そんな危機的状況の中でも、優秀な人材を育て、茶畑を作り根付かせ、なんとかみんな生きていきます。自分史を残してくれた山本政恒氏もそのひとり。
    その人々がやがて中央に出て、明治政府を支えていきます。どんなに優秀でも薩長が優先していきます。こういうのって、今もかわらないのですね、学歴優先、コネ優先。

    でも、薩摩の人間と長州の人間は少しずつ感覚が違うみたい。
    それが、幕臣たちが中心になって主催した、江戸ブームの火付け役『東京市誕生三百年祭』にも現れていたようです。私はこのお祭りは知らなかったので、「なんだ?それは」と思いました。東京市って明治後でしょう…と思ったら、なんと家康が江戸を作ったことをはじまりとしていたのです。だから正確には『江戸誕生三百年祭』。どれほど江戸と銘打ちたかったでしょうか。
    このお祭りを舞台に小説が一本書けてしまいそうな迫力です。
    幕臣であったことが足をひっぱる。けれど、幕臣であったことが、誇り。
    そんな人々が、捻じ曲げられた『江戸』を思い、思い切り誇りを謳いあげようとする…有名無名に関係なく。
    それは、「なんとか生き抜いてきた」という凱歌でもあるように思えました。それほど切実なお祭りだったのでしょう。


    この本の中で一番印象に残ったのは、戦後のエピソードです。
    薩摩の大久保利通の孫が、国会図書館に新設された憲政資料室主任に任命され、挨拶回りに行ったとき、参議院議長に「歴史を書くなら公平にやったもらいたい」と言われたのです。
    当時の参議院議長は会津・松平容保の子。
    もちろん、議長は私念からそう言ったわけでもないし、相手が大久保利通の孫だからそう言ったわけでもないのでしょう。
    新設された資料室の室長が薩摩系でなかったとしても、そう言ったかもしれません。もちろん、わかりませんが。
    けれど、明治政府が作った天皇を中心とする開かれた日本…薩長中心の日本がなくなった戦後。新たな日本のなかで、それでも、「歴史を書くなら公平に」という言葉が出るくらいそれまでがあまりにも幕府が軽視され、薩長土肥に偏ったものが流布し、『賊軍』の子孫達は傷ついていたのでしょう。

    周が崩れ去っても『紂王』と呼ばれ続ける…そんなことが江戸という時代にも起こらないようにしてほしかったのでしょう。江戸を尊べ、といっているのではなく、あくまで公平にしてくれ…というのは、敗者にとってとても切実で、けれど当然な願いなのだと思います。

    やはり、一部だけを学ぶのって駄目ですね。
    いろいろな立場から見て学ぶのが面白い。そして、学ぶことはまだまだたくさんあります。

  • 幕府崩壊後、徳川家とともに駿府へ下ったり表だって交戦しなかった幕臣たちの、その後。

  • 080419購入

  • 幕末の歴史において、雄藩・志士・将軍・大名・朝廷の動きや観点は多く出版されているが、徳川幕府で禄を食み、一生を捧げようとして生きてきたはずの多数の武士たちは明治維新後どんな人生を歩んだのか? 取り扱った本は少ないように思う。以前から、時代の急激な変革に出会った庶民(この本の場合は武士であり、庶民とは言えないが)がどのように対応したのか、自分の人生との対比の意味でも興味があった。そういうモチベーションを刺激してくれる本である。

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著者プロフィール

歴史家。1965年、千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程満期退学(文学博士)。JR東日本「大人の休日倶楽部」など生涯学習講座の講師を務める。おもな著書に『江戸の間取り』『大名格差』『徳川幕府の資金繰り』『維新直後の日本』『大名廃業』(彩図社)、『15の街道からよむ日本史』(日本ビジネス文庫)、『東京・横浜 激動の幕末明治』(有隣新書)、『徳川時代の古都』(潮新書)などがある。

「2024年 『江戸時代はアンダーグラウンド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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