- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062882507
感想・レビュー・書評
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タイトルで受ける印象を、良くも悪くも裏切らない本である。
著者は裁判官として勤務しながら、研究・執筆活動を行い、後、大学院教授に転身した人物。内情を知りつつ、外からの目を持つという点で、裁判所全体を批判するには、ある意味、適任者であるのだろう。
本書の言わんとすることは、タイトルの「絶望の裁判所」につきる。
要するに、裁判所組織は、真に裁判に当たるべき人を正しく選び出し、そうした人が取り立てられるように機能していないというのである。
組織が淀み、情実人事がはびこり、上に阿り下に厳しい者ばかりが出世する。少しでも人に違うことをすれば執拗に叩かれ、人事で不利な待遇を受けるため、心ある者の多くは出て行き、人材の劣化が起こる。結果、無理な「和解」を進める裁判官、事件の本質をまったく考察しない裁判官などが残り、国民にとっても不利益きわまりない状態になっているといった主張である。
暴露本といえばそうなのだろうが、著者が、幅広い教養のある人物であることもあって、徒に露悪的、とまでは感じられない。
トルストイの『イヴァン・イリイチの死』やカフカの『流刑地にて』への言及は興味深かったし、また刑事・民事・家裁といった裁判所のセクションについての説明もわかりやすかった。
但し、読者である自分はまったくの門外漢なので、著者による腐った内情の描写を文字通り受け取ってよいのか、判断に困るところがある。
本来なら、ある業界の腐敗、みたいな本は、自分でどうしようもないので、手に取らないのだが、どこかで見かけた本書の書評で裁判員についても触れられているようであったため、ちょうど裁判員制度に興味があったこともあって読んでみた。
裁判員についての記述は思っていたより多くなく、あまりにもタイトル通り、表紙から受ける印象通りだったので、通り一遍の感想しか持てなかった。
一番は、「任に当たるべき理想の人を選び出し、理想的に運営される組織を構築して維持することの難しさ」である。ある組織にどのような人物が適任であるかを判断するということは、(受験や入社試験を含めて)本当に困難なことなのだと思う。
あとは、つまらないことだが、やはり必要以上に裁判所のお世話になる事態は避けた方がよいなという感想だろうか。
もっと漠然としたところでは、組織が淀み、歪んできたときに、まったく別の視点から見てみることも必要なのかもしれないな、と。これはただの思いつきでしかないけれども。
「絶望」的であったとしても、絶望しても仕方がない。絶望の先に何かがあると信じて進むしか、ないではないか。
大きすぎる、漠然とした、すなわち具体的解決策がまったく見つからない問題を抱えつつ、いつか、(別の問題かもしれないけれど、根は同じ)問題を解決する日のために、考え続けていくこと。そうして考えた1つ1つの小さなことがいつか実を結ぶと思ってあきらめないこと。
とりあえずはそんなことしかないかなぁ・・・というため息混じりの茫漠とした感想を持った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本の司法の最高峰である最高裁や、しのピラミッドに翻弄されている裁判官という職業と制度の話しである。著者の元裁判官であり、現在学者という経歴によるバイアスを差っ引いても確かにあまり希望的観測が出来ない実情が垣間見える。あれだけ、閉ざされた世界だと人はおかしくもなり、浮世離れしてしまうのか。。。
清廉潔白なイメージはすべて崩れ落ちる…。 -
最初はよくあるドロップアウト側からの告発本かと思いながら読み始めたが、すぐにそれが皮相的な短絡だということに気づかされる。裁判所は外部からの観察に曝される機会が少ないうえ、代替組織もないため競争原理とも無縁。そんな組織が自己目的化を始めたら、確かに筆者の言うとおり権利侵害の防壁としての役割は期待できないだろう。トルストイの短編を引き合いにした「空疎な知識人」としての裁判官批判も興味深く読めた。
ただやはり残念なのはどうしても「グチ」っぽく聞こえてしまう箇所があるところ。ある意味仕方ないのかもしれないが、そのために本意が伝わらない読者もいるのでは。売れているところを見ると杞憂か。 -
元判事によるある種の暴露本。しかし社会に広く暴露、というよりは、自分の身に降りかかった出来事、こんな奴がいた、というニュアンスがやや強いように感じる。ただ全体的に言えることは、裁判官の能力が落ちている、もうちょっと有り体にいうと阿呆が増えている、と。司法改革系の話は、このようにスピンアウトしてきた人からの話ぐらいしか視点を持ちづらくて、本当に中の人たちがどう考えているのかは、こういうヤメた人の話からしかうかがい知れない。著者がもし裁判をするなら、判事はスーパーマンではなく自分の能力とその限界を謙虚に認識している人に担当して欲しいという。でもスーパーマンでも謙虚でもない人が多いんだろう。日本のキャリアシステムが悪いんや、と。裁判官の嫉妬深さや幼稚性もすごいんや、と。酸いも甘いも噛み分けられるようになってから裁判官になるようにしろ、と。そうするとスーパーマンが出てきそうですな。
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裁判所に絶望して退官された本裁判官。
いろいろ日本に司法の絶望について書かれた本はあるが、著者の属性は貴重であろう。
結果的に内容がちょっとウザくなっても
いずれにしろ、日本の裁判が、ヒラメ裁判官による、組織優先の状況になっていることは間違いなさそうだし、そもそも、学生上がりで世間を何も知らないバカが、試験に合格して至高感のまま任官される組織が、人を判断できるわけもないのはその通りだろう。
しかも、法に基づくわけでもないのだから。
滅入るな。
検察も酷いし。
そういう、司法による救済が期待出来ない世界に生きているわけだ。
じゃあ対抗出来るのは、権力と暴力しかないよね。
その取り合いが色んなことを歪めてるんだろうなあ、と思った次第。 -
日本の裁判所の構造が、最高裁判所事務総局といういわば司令部による一元統制、上位下達のシステムとなっており、地裁・高裁など現場の裁判所に自由な裁量がなく、また、統制強化により、言うことを聞くヒラメ裁判官だけが昇進し、裁判そして裁判官のレベルが落ちているという指摘。そして、その解決策として法曹一元化として、弁護士・検察官・裁判官の垣根を低くする取り組みを主張する。
筆者は、裁判官を世間知らずと喝破し、学者の世界を称賛するが、実はこの本で指摘する内容は、どこの行政官庁、大企業、一流大学にもある問題では無かろうか。それが、人を裁く裁判所組織で起こっているから特殊かもしれないが、本質は変わらないと思う。ただ、皆が仰ぎ見る裁判所も普通の組織と変わらないよ、ということを示してくれたことには一定の価値がある。 -
裁判所の問題点をボロカスに恨みつらみを込めて色々暴露してる。けども、よくよく考えてみたら別に裁判所だけでなく民間企業だろうが役所だろうが、どこでも似たようなことは起きてるよな。
と
とまぁこれは作者の価値観についての一方的な暴露なのでどう考えるかは読者自身が考える必要があるとして・・・だ。
してだ・・・。
暴露するだけ暴露ってあとは自由に研究するって、ちょいおま、それはどーなんだと思わないでもないが、まぁ他人の人生なんだから好きにすればいいかとも思う。
できればそこまで暴露するなら改革をしようとする意思を見せてほしかったけど投げっぱなし感がある。もちろん暴露するだけでも十分意義はあると思うが・・・ -
裁判官としての実体験を踏まえた日本司法の問題を暴露する。
筆者の言っていることは一貫しており分かりやすいが途中から大体こういうことを言うんだろうなと予想ができ、それを覆すような内容もなく、飽きが生まれた。 -
「絶望の裁判所」瀬木比呂志 著 読了 著者のルサンチマンが隅々に染み込んでいる感はあるものの、情報として貴重。法曹一元制度を導入しないと解決しない問題だが、その実現性はほぼ皆無。
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元裁判官による裁判所内部の暴露・告発本。
自身の経験から裁判所事情を分析していて興味深いが、著者の個人的な恨み辛みや、「邪推」ともいうべき推測、単なる制度論の意見も混じっており、3、4割減で受け止めるべきか。
もうちょっと公平な記述で書いてほしかったところ。
ただ、弁護士をやっていて感じることは、裁判官には「木で鼻を括った」物言いをする人が多く、たまに記録を読んでいなかったり、全然事件や当事者の想いを理解しようとしない人もいることは確か。
こちらが新しい先鋭的な争点を持ち出したり、珍しい申立てや裁判を行うと、途端に消極的な態度を取る裁判官が結構いるのも、本書で描かれている内部事情を考慮すると、いくぶんかはなるほどと納得。