青木きららのちょっとした冒険

著者 :
  • 講談社
3.22
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065296547

作品紹介・あらすじ

そっちはどうですか? あいかわらず最悪ですか?
こっちはこっちでまぁまぁ最悪かな!

無責任な暴力、すれ違う意識、のしかかる思い込み――
8人のきららの8つの人生が照射する
残酷でかすかにあたたかい世界の物語  

人気モデル兼女優の偽物、痴漢された女子高生、特別な日を撮影するカメラマン、推しの若き死を願う会社員……
あちこちに現れて 誰かであり 誰でもない
名前のない私たちみんなが
「きらら」として生き抜いている

感想・レビュー・書評

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  • 藤野可織作品の魅力 へんてこでファニー、そしてクレバーな作家について語りうる、2、3の事柄|コラム&アーカイヴ|ロームシアター京都
    https://rohmtheatrekyoto.jp/archives/fujino_enami/

    『青木きららのちょっとした冒険』(藤野 可織)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000370179

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      不安定な状況、理不尽に扱われる女性 人生をサバイブするのは大変だ! | レビュー | Book Bang -ブックバン-
      https://...
      不安定な状況、理不尽に扱われる女性 人生をサバイブするのは大変だ! | レビュー | Book Bang -ブックバン-
      https://www.bookbang.jp/review/article/743933

      『青木きららのちょっとした冒険』藤野可織著(講談社) 1760円 : 読売新聞オンライン
      https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20221206-OYT8T50084/
      2022/12/09
  •  青木きららという女性が各編に必ず登場する短編集だが、青木きららは同一人物ではない。現代日本に似たパラレルワールドのような世界を舞台としているが、夢の世界を彷徨っているみたいな読み心地。
     「わかった」とは言えないが、響いた。寓意や暗喩のようなものを、掴めそうで掴めない、掴めたと思った瞬間にふぁっと霧になって消えてしまうような、「なに、わかった気になってるの」と氷の眼で見つめられているような緊張感が、このわかりやすさの求められる時代に、独特の歯応えを差し出してくる。

     以下、個人的な備忘メモ。タイトル前の記号は、「◯=好き」「◎=特に好き」を表す。

    ◯トーチカ
    青木きららの偽物を探せ、てな感じではじめちょっと不思議面白く読める。終章につながる。

    ・積み重なる密室
    出張先(京都かな?)のホテルにて、女性専用フロアへのグレードアップの申し出を受ける。他の部屋も選べるのか?と質問すると、スタッフは顔を曇らせ、他のフロアは満室だという。

    ・スカート・デンタータ
    スカートが、許可なく持ち主の体を触る者を食いちぎる歯を持つ。

    ◎花束
    川で殺された青木きららの死を悼む人々が全国から手向けの花を持って河川敷に集まる。センチメンタル?が束になって、謎のカタルシスが。

    ◎消滅
    青木という女性が、将来子どもができたら「きらら」と名付けたい、青木きらら、なんて素敵な名前だろうと夢想するが、よほどの強い心を持って青木姓を守るために戦わない限りまあ無理だろうということをわかっている。夫は何の努力も必要とせずに自分の姓のままでいられるというのに。短編集を貫く象徴的な名前「青木きらら」が存在できないという矛盾。

    ◯幸せな女たち
    結婚式の写真撮影という仕事から、女の幸せについて。結婚だけが幸せではないみたいな次元の話ではもちろんなく、女が幸せになることを心から憎む存在が描かれる。

    ・美しい死
    クリスマスケーキ理論。

    ・愛情
    「愛情が制度の肩代わりをすることがないよう整備された社会」。

    ◎トーチカ2
    はじめの章の続き。マイナポイントみたいなものの恩恵を受けながらマイナンバーカードみたいなもので管理されないと自分が誰なのかも証明できないような世界で。ラストが刺さる。こうする以外どうしたらいいかわからなかった、ただそこそこ安心してそこそこの暮らしをしていきたかっただけなのに、「今、『放送局』の翼の下で震えるよるべない隷属者として立っている近子は、同時に特権を行使する冷酷な共犯者だった。」

  • 青木きららという女性がキーパーソンとなる短編集。
    どの話にも青木きららが登場するが、同一人物ではなく、話自体にも繋がりはない。しかし、どの物語も、同じような空気をまとっているような気がした。
    静謐だが、どことなく不安。
    きっと不安に感じるのは、読者である自分たちが普段気づかないようにしている不条理や未知のものを、あえて全面に押し出しているからだろう。
    社会にあらがうことなく受け入れ、そこでの不満はあれど不都合はないくらいの幸せを享受できれば良しとする「トーチカ」。
    未知のものに対して、ささやかな抵抗を試そうとする「積み重なる密室」。
    この2篇が特にお気に入りの話だった。

  • 様々な青木きららがあちこちで顔を出すことが、この短編集の繋がりの一つ。
    もう一つは、フェミニズムを芯に持っていること。
    『来世の記憶』もとても良かったけど、今作も良かった。
    女性の不安定な雇用や社会的地位について、痴漢被害について、更にはフェミサイドまでテーマとなっていて、とても痛ましいのだけど、藤野さんの筆の軽やかさと、女性たちへの強い連帯の志が、辛いだけの話にはさせず、読み終わって自分の一部が回復したような気持ちだった。
    「幸せな女たち」が特に最高!

  • タイトルから、青木きららという名前の主人公が活躍する連作短編集かなと想像していたら、なんと青木きららは同名のすべて別人だったことに驚いた。といっても別に同姓同名の人の話であることがテーマなわけではなく、つまり「青木きらら」はひとつの象徴にすぎない。青木きららは偏在している。これを読む私自身も青木きららかもしれない。すべての女性は青木きららたりうる。青木きららはそういった存在として描かれている。

    抜群に面白っかったのは「スカート・デンタータ」。なんと、女性たちのスカートの中に歯が生えて、彼女らの体に許可なく触れる男たちに噛みつき、食い殺し始める。最初にスカートが凶器化した人物の名が青木きらら。しかし語り手は青木きららではなく、ある男。ひらたくいえばこいつは「痴漢」である。狂暴化したスカートが女性をガードしているため痴漢できなくなったこの男は被害者ぶり、スカートの非道を批判する。このクソ野郎、と思いつつ、結果的にスカート側が勝利する痛快さ。本当にこんなスカートがあったらいいのに。

    最初と最後を飾る「トーチカ」も印象深かった。最初の「トーチカ」では、『放送局』と呼ばれる場所で派遣の警備員として働く女性が、仕事熱心なあまり次第に家に帰らず職場に住み着くようになっていくのが、ありそうでシュールだったし、ラストの「トーチカ2」ではもはや放送局がちょっとしたティストピア化しており、自己喪失感がすごい。ここでの青木きららは、主人公が偏愛するタレント。

    その他、川辺で変死体でみつかる少女・青木きらら、アラフィフで独身のOL青木きらら、生まれてこなかった青木きらら、フェミサイドと戦うカメラマンの青木きららなど、さまざまな青木きららが登場する。もちろんすべての青木きららの共通点は「女性であること」。

    ※収録
    トーチカ/積み重なる密室/スカート・デンタータ/花束/消滅/幸せな女たち/美しい死/愛情/トーチカ2

  • さまざまな「青木きらら」たちの物語を集めた短篇集。シュールでユーモラス、そして少しほっこりするかもしれない読み心地の一冊です。
    お気に入りは「スカート・デンタータ」。ある日痴漢に対して文字通りに牙をむいたスカートと、そのおかげで強くなってゆく女性たち。その状況に憤慨し苦悩する痴漢の主人公。もちろん痴漢はダメですよ。こんなことが起こったとしたら、多少はいい気味だとも思います。だけれどまるで被害者であるかのように悲哀を切々と語る主人公の姿がもう面白くって仕方がありませんでした。違う、悩むのそこじゃない。
    「花束」」「消滅」はシュールな光景と、愁いを抱えた物語の対比が印象的でした。無数の花束や無数のビニール傘という視覚的なイメージが鮮烈です。

  • 9篇を収録した短篇集。驚くのは、全篇に“青木きらら”が登場することだ。最初と最後の作品は繋がっているので、別人格の青木きららが8人登場する。主人公のときもあれば、脇役(しかも憎まれ役!)のときもあり飽きさせない。そして描かれている内容もなかなかシュールだ。
    藤野さんの著作は『来世の記憶』しか読んでおらず、合わない作家だと思っていたが、本作はとても好みだった。

  • 物語の設定やら登場人物の背景やら
    なかなか理解できなくて、
    ものすごく不安になりながら読み始める。
    ちょっとこつが分かってくると
    今度はそこに潜んでいたテーマに圧倒されてしまう。
    私が生きてる場所って、もしかしたら
    ものすごく不自由な世界なのではなかろうかと
    別の不安がムクムクと心に沸き起こって来るのだ。
    女性ならば思わず「そうだったのか!」と膝を打ちたくなる言葉がたくさん出てくるのだけれど
    男性はこの物語をどう読むのだろう。
    特に「スカート・デンタータ」・・・
    感想を誰かにきいてみたいものだ。

  • はじめて読む作家。
    現代作家をもっと読んでみようキャンペーンの一環で手に取る。

    読み始めてすぐには不条理小説なのかな、と戸惑う。
    二話目、三話目に読み進めてやっと外格が掴めてきた。
    青木きららという名前の周辺にある、主に女性の上に起こるさまざまな現象と現代の世界との摩擦。
    『花束』、『幸せな女たち』、『愛情』のところが面白かった。
    フェミニズム文学、と括られてしまうのだろうけど、この本をそんなふうに束ねないで、と思った。
    『幸せな女たち』の、結婚における苗字のくだりも泣けてくる。
    いま読めて良かった。
    毎日毎日みんなが感じていることをうまく言い当ててくれたことに感謝。

    短編集が最初のトーチカ、最後のトーチカ2に挟まれているので、そういう仕組みの 番組 なのかなと思った。

  • 不思議な感じですね。

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著者プロフィール

藤野可織(ふじの・かおり)
1980年京都府生まれ。2006年「いやしい鳥」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2013年「爪と目」で芥川龍之介賞、2014年『おはなしして子ちゃん』でフラウ文芸大賞を受賞。著書に『ファイナルガール』『ドレス』『ピエタとトランジ』『私は幽霊を見ない』など。

「2022年 『青木きららのちょっとした冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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