さくら (小学館文庫)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094082272

感想・レビュー・書評

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  • 美人で明るい母と物静かな父、人気者の兄とエキセントリックな妹と、犬の「さくら」に囲まれて育った主人公。ある出来事をきっかけに家族がばらばらになり、やがて再生するまでを描く。

    幼少期からの溌剌とした明るさと、一転してからの家庭内の雰囲気のギャップが大きく、あまりにも痛々しい。
    たまたま近所の古書店で手に入れた一冊なのだが、作者の初期の作品だそうで、文章の瑞々しさと弾けぶりが光っている。ただ、『サラバ』『i』ほど熟してしない分、そのポップな振り幅についていけず、少し疲れた。
    しばしば出てくる「そうゆう」という表記や、封の「つぼみ」は女性用のはずとか、その都度気になってしまった部分も。

    さくらの決まり文句「ボール!、あの軽やかな跳ね!」は、最初は翻訳のような違和感があったのだが、徐々に強く胸に響くようになる。
    我が家のワンちゃんを見るにつけ、何度もよみがえってくるフレーズとなった。

  • 西さんの、たとえば美貴が生まれる前後とかの、聞いてしまうともうそれしかないという例えや描写が、本当に上手いなあと思いながら読んでいた。大切なことを思い出した素敵な長谷川家は、書かれていない先の話でもっと素敵になってるんやと思う。映画も楽しみ。

  • 私の泣き声は多分大きい
    それ は犬みたいな猫みたいなものだと思う
    喜びも悲しみも気付いてほしくて泣いている
    私の部屋の床は薄くって、母は地獄耳で
    私の音が聞こえているらしい
    わたしはなく 静寂が鳴る夜に
    音がするわたしの部屋は明かりがつかない
    母は私の泣き声を静かに聞いている
    幼い頃、母に私の名前の由来を聞いたとき、
    さくらって名前はお姉ちゃんがつけたねん
    それで さくちゃん 
    セカチュー(世界の中心で愛を叫ぶ)
    の朔太郎のさくちゃんって
    あだ名が可愛くってつけたねん
    って教えてくれた。
    さくら うーんと。
    クラスには同じ名前の人がいつも何人かいて、
    さくらはありふれていて
    わたしはそれが嫌だったんだけど
    さくら この名前じゃなかったら
    この本を年明けのあの古本屋で選ぶことも
    目に留めることもなかったんだと思う
    そして季節を好きになったり
    嫌いになったりすることも。
    さくら さくらはありふれていて
    春になると咲く。空の近くで花を咲かせる
    春を包み込むように咲く さくら
    愛のある、愛しかないこの本 
    私はこの本の中のさくらにはなれないし
    他のさくらにもなれないけれど
    私にはわたしの、さくらの愛がある気がして
    ああ、大丈夫。なんとか、きっと。
    って久しぶりにそういう涙が出た
    出会えてよかった。愛の本。

  • 「この世界のもんはぜえんぶ誰かのもんで、ぜえんぶ誰のもんでもない」

    後ろにとても重たい事実があるのに、日常のとても些末なことまでもが丁寧に描かれていて(そして、それは読者だけでなくて薫の心にも引っかかっていたりして)とても真摯だと思ったし、それでいてとても軽快で笑える。

    「がんばっておしゃれしました!という格好ではいけない。何気なくそこいらにあるものを着てきたけど、それが図らずもおしゃれになってしまった、という風でなければ。」はいつも出かける前に考えていることだ。

  • ちょっと変わった家族のお話。
    愛にあふれた家族だな。

    ミキがせっかく美しい子なのにもったいないと思ってしまった。自由に育つのはいいけども、中学生?高校生?で、兄の葬式で音をたてておしっこ漏らすってなんだろう(´×ω×`)
    映画化するのはどこまでだろう

    ミキの行動にハラハラしたけど、はじめと薫の、妹に対する愛情が微笑ましい

    居心地のいい家庭なんだろうな
    大学生の薫が、彼女との約束をやめて、家に帰ってサクラに会いたくなる気持ちも分かるような気がした

    サキコさんの言う「愛のある嘘をつきなさい」
    サキコさんがついた、愛のある嘘にちょっと泣けた


    文章としては、言葉の選び方や、表現の仕方、比喩がいちいちステキで、メモしながら読んだ。でもこれは、映画には表現されないのかな。して欲しいな。

  • 悲しいけど幸せで、幸せだけど悲しいお話でした。
    人生がぎゅってつまった1冊。

  • 長谷川家と犬のさくらの物語
    家族それぞれのキャラクターの強烈さもあるが、最初に違和感を感じた。
    その違和感は読み進めていくとわかるが、薫の兄が亡くなってからの展開は特に辛くて悲しかった。
    さくらのおかげで家族の関係は少し良くなるが、それぞれが抱えている問題を解決して前に進むにはかなり時間がかかりそう。
    みんな幸せになってほしい。

  • 永遠に「西加奈子」の文体で殴られる感じがした。正直前半は読むのが結構辛い(一見無駄な展開や描写が続くから)けど、その細かすぎる描写とか、冗長に思える描写があるからこそ、長谷川家の子供たちの成長を1番近くで親とか兄弟のように見守っている感覚になる。そしてそれが後半の美しい絶望へと繋がるという構成が本当にうまい。レビューを見ても、美貴を好きになれない、美貴が気持ち悪いっていう人が多い印象だけど、それはものすごく当たり前のことだと思うし、私も好きにはなれなかった。ただ、美貴の純粋すぎる愛情や涙の描写は怖いくらいに美しいと思った。

  • さくらはいつも冷静に家族を見ている。
    人間は生きている間にいろいろあって、プラスにもマイナスにも大きく振れていく。

    さくらがいたから、ゼロに戻れたのかなあ。

  • 初めて読んだ「西加奈子さん」の作品。切なくて本当に印象深い作品でした。

  • 前半は主人公である薫とお兄ちゃん、ミキ、そして3人の子どもを育てる幸福この上ない父と母の様子に心が温かくなった。こんな家庭の一員だったらいいのにと感じた。
    著者の用いる比喩表現も秀逸だった。
    だが、物語が進むにつれて暗雲が立ち込める。兄の交通事故と重い後遺障害、お兄ちゃんはかっこ良かった頃からかけ離れたまま、現実を受け入れずにギブアップしてしまう。
    そして、お兄ちゃんの幸福に深い傷を与えたミキとその心の闇。
    それでも、犬のサクラを中心に家族がばらばらになることはなく、最後は希望を持って物語を終えることができる。
    もっと若い頃に読みたかったけど、今読めて満足でした。

  • ひとつひとつの表現の描写が、具体的かつ美しくて魅了されました。
    ほのつらい感じが段々と辛くなってくるけどさくらに救われます。
    僕は次男で真ん中なのに、変にすれてなくて出来の良い兄に対し変な嫉妬や対抗心がなくアイドル的存在の兄を俯瞰で見れてるところが少し現実感がないと思った唯一でした。
    でも、変わり者の美しいミキに対しても美人としても相当な変わり者であることを普通に受け入れているあたり主人公はかなりフラットで物事を俯瞰で見れる人物なのかなとも思いました。
    性についての描写もちょいちょい出てきますが表現がキレイでわかりやすく子どもでも勧めやすい書籍かもしれないと感じました。
    ミキは、産まれてからずっと苦しかったと思うけど、苦しい原因と奇行に見える行動は結びついているのか単なるキャラなのか読み取れませんでした。
    この家族を犬の立場で見届けて語りかけた賢いサクラが愛しいです。

  • なんて幸せな家庭なんだろうと思いながら読むと同時に、物語の先に一の死が待ち受けていると思うと心がギュッとなりました。

    「心温まる」と表現するには、辛すぎる思いを抱えた家族。そんな中でさくらの存在が唯一の変わらない幸せ。

    人間が都合の良いように解釈しているだけかもしれないけれど、黙ってそばに居てくれる動物たちの存在は大きいと思います。
    同じ名前の犬を飼っていたので余計にそう思うのかもしれません。

  • iの時にすごく感じた、村上春樹感。それを覚悟しながら読んでみたら、これはちょっと違いました。関西弁のやり取りが地元感良く出てて楽しいです。変質者をからかってるシーンで、笑いすぎて娘8歳が寝室覗きにきました笑
    本棚に西加奈子カテゴリ追加します

  • 「さくら」というタイトルから、今の時期にぴったりな本に出会えたと思い、手に取りました。
    読後の感想ですが、上手くまとめるのが難しい。
    読む人によって、心に残る部分が大きく変わってくる作品だと思います。
    前向きな終わり方だったようにも思えますが、私は後味がすっきりしないなあと思いました。でもそれがこの作品の魅力なのかな。
    暖かく、希望に満ちていて、でもどことなくすっきりしない、そんな不安を感じる春という季節に、この本を読めて良かった。

  • 単なる家族のハートフルストーリーって訳ではなくてゆったりと進んでくエピソードなのに引き込まれた。

    同じ家族でも一人一人愛の形は違くて、お互いが知らない部分で各々影響を受けている感じ。

    兄の死をきっかけにゆっくり家族の関係に歪みが出てくるが、さくらが全員を裏でつなぎ止めているような気がした。

    読んでいる最中は西加奈子さんの巧みな表現に気づかなかったが、後々、あの長編小説をサラッと読み進めることができたのは表現のうまさだと思った。

  • この世界にはこの幸せな、残酷な、キラキラしてて、眩しくて、でも頼りないほど不確かで脆い世界しかないんじゃないかって思ってしまうほどこの家族の魅力に惹きつけられて、自分の感情を吸い取られてく感覚になった。

  • 自分には面白さがわからなかった

  • どこにでもある何気ない家族の風景の見えないところに存在する悲しみや逞しさや健気さが淡々と描かれれば描かれる程涙が出てきてしまうような作品でした

  • ちょっと風変わりな家族を取り巻く物語。西さんの表現力に脱帽でした。特に性についてお母さんが娘に話すシーンは印象的でした。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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