不連続殺人事件 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101024035

感想・レビュー・書評

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  • 古今東西、多くの文豪たちがミステリ仕立ての小説を書いている。物語の多くが何らかの謎をはらんだものであるからそれは当然のことであり、また当人たちもミステリを書いたつもりは毛頭ないだろう。

    しかし、中にはミステリを愛し、正面から四つに取り組んだ文豪もいる。その代表的な作家といえば、福永武彦(加田怜太郎)と坂口安吾だろう。

    「不連続殺人事件」は、日本ミステリのアンソロジーが組まれる際には、十中八九、収載される名作である。複雑怪奇な人間関係、やたらと多い登場人物(しかもそれぞれにあだ名がある)にたじろぐが、最後まで読み通せば、ミステリにかけた安吾の思いを感じることができるだろう。すなわち、ミステリは論理的で、かつ読者が答えを導き出せる知的ゲームということである。トリックのためのミステリは否定されるし、トリックが論理的であったとしても心理描写が矛盾していれば、それもまた否定される。かくて、安吾は幕間に挑発的な「読者への挑戦状」を挟むのだ。

    私が初めて「不連続殺人事件」を読んだのは大学生のころ、その時も犯人はわからなかったが、今回もまるで分からなかった(要するに忘れていた)。学生時代にはあまり感じなかったが、再読して、かなり露骨な女性蔑視、差別表現があることに驚いた。時代の流れを感じる。

    この新潮文庫版は創元推理文庫版を底本としており、その編集にあたった東京創元社の名編集者・戸川安宣さんと北村薫さんの対談も収められている。それだけでも手にする価値はある。

  • 角川からも文庫が出ていたけれど去年新潮文庫から出た新しいほうを。こちら昭和22年からの連載当時に、安吾自身が真犯人を当てた読者に懸賞金を出すという豪華企画があったそうで、太っ腹だなあ。連載当時の「読者への挑戦状」も各話ごとに収録されている。楽しそう。

    それにしても登場人物がとにかく多い。しかも人間関係が複雑で、情報量の多さをどう処理するかが読者としては大変。できるだけ一気読みしないと、誰が誰のなんだったか関係をすぐ忘れてしまう(それは私がおばちゃんだから)

    語り手は作家の矢代。探偵役は、矢代の弟子である巨勢博士。矢代は友人で詩人の歌川一馬の邸宅に招待され妻の京子と訪問するが、この京子は、一馬の父親で大金持ちの歌川多門の元・愛人。一馬の現在の妻・あやかは、画家の土居光一の元妻、一馬の妹・珠緒は奔放で、嫌われ者で下品な作家の望月王仁ともデキている。一馬の元妻で女流作家の宇津木秋子は現在は作家の三宅木兵衛と再婚。

    さらに屋敷には、歌川多門の妹夫妻とその娘でブサイクな千草、多門が使用人に手をつけて産ませた美貌の娘・加代子も同居、この加代子は腹違いの兄・一馬に恋している。さらに屋敷には弁護士の神山夫妻、お抱え医者の海老塚、愛想のない看護婦・諸井琴路らがが我が物顔で出入り、料理人や使用人も数人。そこへ一馬らの友人である他の作家や女優やら大勢がやってきて、三十数人が集まったところで殺人事件勃発。

    登場人物を覚えるだけでせいいっぱいだった私は誰が犯人かはほとんどわからなかった。というか、犯人と動機の目星はついても、実行手順について整理して説明するのはちょっと面倒という感じ。しかし読者に謎解き懸賞をかけてるだけあって、ちゃんと書かれている内容から推理すれば正解にたどりつけるようになっているので、突然読者の知らない登場人物や情報が後だしで出てくるようなことがなく、とても良心的。おかげで自分で犯人を当てるまでの熱意はなくともゲーム感覚で楽しめて気持ち良く読み終えられました。

    余談ですが1977年に映画化されたとき、土居光一は内田裕也だったんですね。妙な説得力。見てみたい。

    ※収録
    不連続殺人事件/アンゴウ/対談:戸川安宣・北村薫

    • 淳水堂さん
      こんばんは!
      こら昔読みましたが、無茶苦茶で面白かったですよね。
      登場人物たちがワケアリ過ぎて、殺人が事件におもえないくらいというか(笑...
      こんばんは!
      こら昔読みましたが、無茶苦茶で面白かったですよね。
      登場人物たちがワケアリ過ぎて、殺人が事件におもえないくらいというか(笑)
      2019/04/08
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^)
      そうなんですよね、登場人物の多さと、そのキャラの濃さ、関係性の複雑さに気を取られて、事件が頭に入って来ない...
      淳水堂さん、こんにちは(^^)
      そうなんですよね、登場人物の多さと、そのキャラの濃さ、関係性の複雑さに気を取られて、事件が頭に入って来ないという…^_^;

      犯人分かってしまえば、いたってシンプルな事件なのに…
      2019/04/09
  • 犯人当てゲームに特化した話。
    派手なトリックとか探偵の大活躍とか期待してると、あれ?とか思うかもしれないけど、作者が『ミステリはヒントを読者にも見える形で正々堂々と書いてちゃんと犯人をあてられるようにしてある論理的なのが一番良い』みたいな考え方の人なのでそういうところを目指した作品としてはすごく面白いと思う。
    些細なこととかあれは何か関係してたのかな…みたいなとこが全部ちゃんと考えられて書かれてたってことが最後わかるのですごいなぁと。
    犯人を知ってる状態でもう一回読みたくなる。

    最初は登場人物の多さと、やたらと入り乱れた関係性についていけなくてなかなかノれなかったけど、それに慣れてきて事件が起き始めたあたりからはテンポもよくなって読みやすかった。

    この新潮社版には登場人物表がついてたのが本当にありがたかった。これがなければさらに覚えにくかったと思う。
    安吾から読者への挑戦状も載ってて面白かった。

    他に『アンゴウ』と、戸川さんと北村さんの対談が載ってるのも良い。

  • 登場人物を覚えるのに苦労しました。
    「誰が犯人か推理してみてください、証拠をあげてトリックも全て正解した人には賞金を贈呈」と著者からの挑戦状があり、場面を自分なりに想像しながら読みました。
    その結果、違和感を覚える箇所はいくつかありましたが、あーそういう理由かぁーなるほどねぇとなるところもちらほら…自分は賞金には程遠かったようです。

  • 本格ミステリとして楽しめるだけでなく、ことばのテンポがとても良い。
    一方、巻末に収録されている「アンゴウ」は別の作者かと思うほどしんみりしてまたいい。

  • 目次
    ・不連続殺人事件
    ・アンゴウ

    ずっと読みたかった坂口安吾のこの本。
    ところが本の厚さよりも登場人物表に載る人物名の名前の多さにうんざりし、それが揃いも揃っていけ好かない人たちばかりなのにさらにうんざり。
    もう、夫婦や元夫婦が不倫やら何やらで、戦後の倫理観ってどうなってるの?って感じ。

    けれど、一つ一つの事件で誰が犯行可能で誰が不可能なのかを考えて読むにつれ、誰が犯人なのか、動機は何かがわからなくなってくる。

    犯人捜しの再会者発表の中で安吾が書いている。
    『犯人の間違った答案の多くは、消却法を用いられているが(中略)ところが、消却法による限り、必ず犯人は当たらない。いわば探偵小説のトリックとは、消却法を相手にして、それによる限り必ず失敗するように作られたものである。』

    なるほど、そう考えたことはなかったな。

    何度かさしはさまれる安吾からの挑戦状の最後通牒を読んだ後まで、犯人に気づけませんでした。
    最後の事件が起こった後、動機から逆算して犯人に辿り着きましたが、これでは遅すぎる。

    ちなみに尾崎士郎は「坂口安吾の小説はいつも「私」が悪者に決まっているから、「私」が犯人である」と推理。
    太宰治は「最後の海にたった一度、何食わぬ顔で顔を出すやつが犯人」と。
    どちらも「作者の挑戦状を受けるだけの素質がない」と安吾に一刀両断されている。

    文壇も巻き込みながら楽しんでいたようで、いい時代だったんだなあなんて関係ないことまで思ってしまった。
    だけど正解者の住所までバッチリ記載されているのもまた、時代なのね。

    事件のトリック自体はそれほど難しいものではないけれど、というか、それが安吾の狙いなのだけど、事件の真相は納得のいくものだった。

    そして「アンゴウ」。
    安吾だからアンゴウなの?なんてふざけたことを思いながら読んだけど、最後は胸にぐっと来た。

    主人公がたった一枚の紙を妻の不倫の証拠と断定するのは、それなりの理由があるにしても短絡的だなと思った。
    最後にアンゴウの意味を知ると、戦争が遺した傷のむごさ、戦争がまだ身近だったころの時代感覚などを考えさせられる。
    いい作品だった。

  • なんでもそうだけど、トリックわかってしまうとあっけない。
    面白かったけど人が死に過ぎで探偵何やってんだ感

  • 安吾は堕落論と桜の木の下しか読んだことなかったんで、推理小説書いてんのか〜!と今頃知りました。
    しかしブンガクしてない!(笑)
    というか、古い推理小説てなんか文体、登場人物がやたらデカダンで変なしゃべり方するの多いよね?(ざっくりしたイメージ)
    最初はどうも読みづらかったけど、進むうちにおもしろくなってきました。

  • 山奥にある資産家の邸宅に集まった、詩人、作家、画家、弁護士といった人びと。横恋慕、嫉妬など人間関係が複雑に絡み合うなか、つぎつぎと殺人事件が起きる。

    坂口安吾ははじめて読んだが、文章が読みやすく、テンポよくあっという間に読み終わった。

  •  『白痴』など純文学の作家が書くから遊びだろうと思っていた。いやいや本格的。
     古い作品なので差別用語のオンパレード。今なら訴訟もの。しかもアクの強い登場人物がぞろぞろ出てきて覚えられない。彼等の人間関係もぐちゃぐちゃどろどろ。わけがわからん。殺された人物がどんなやつなのかもわからん。何度も挫折しそうになる。
     しかし、犯人がわかった途端、全ての人物がくっきり姿を現し、人間関係も腑に落ちる。お見事。

著者プロフィール

(さかぐち・あんご)1906~1955
新潟県生まれ。東洋大学印度倫理学科卒。1931年、同人誌「言葉」に発表した「風博士」が牧野信一に絶賛され注目を集める。太平洋戦争中は執筆量が減るが、1946年に戦後の世相をシニカルに分析した評論「堕落論」と創作「白痴」を発表、“無頼派作家”として一躍時代の寵児となる。純文学だけでなく『不連続殺人事件』や『明治開化安吾捕物帖』などのミステリーも執筆。信長を近代合理主義者とする嚆矢となった『信長』、伝奇小説としても秀逸な「桜の森の満開の下」、「夜長姫と耳男」など時代・歴史小説の名作も少なくない。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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