イノセント・デイズ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101206912

感想・レビュー・書評

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  • Xで見て気になって読み始めたら止まらず、一気読みをしてしまった。各章のタイトルが、判決理由から主文に分けられているのが好き。そして、タイトルも。最初は死刑囚がまだ無垢な子供の頃を指しているのだと思っていたけれど、彼女は死ぬまで、無実な日々を送っていたのだと、読み返してみれば胸に刺さる。

    産科医のお話までは、丹下先生がヒカルの望む中絶に承諾していたら、あの家族はずっと幸せだったのかな。と幸乃に対してそういう思いが過ったけれど、陽子、理子、聡、と重ねていくうちに、本当が霞んで見えてきて、探検隊のみんなに気を配って、理子への接し方はあまりにも無垢で、幸乃は無実であってほしいという願いみたいなものが生まれた。
    読み終えたあとでも、「うん、そうだよね。理子ちゃんには悲しむ人がいるんだもんね」この一言が頭から離れない。

    読んでいくうちに、この小説で訴えているものにハッとした。自分も無意識のうちにレッテルを貼られた人のことを、真相も知らずに悪意で人のことを見ていていることは多々ある気がする。テレビでのニュースでも、報道されたことが完璧でないとわかっていても、それを真実だと飲み込んでしまう。
    殺人などの犯罪行為だけでなくても、容姿、性格でその人を決めつけ「この人ならやりそうだ」という先入観が私にも確かにあることに気付かされ、恥ずかしくなった。

    正義はひとつじゃないかもしれないけど、真実はひとつしかない。
    幸乃の受け止め方は客観的にみるとあまりにも辛く、救いようのないものだけど、彼女にとっては誰にも迷惑をかけることなく死を迎えられたことを、幸せに思ったのは間違いなくて、きっとこの話は幸乃にとってはハッピーエンドなのかもしれない。

  • 早見一真さんの「八月の母」が好きだったので、著者の代表作である本作を購入しておりましたが、しばらく積読状態でございました。しかし、久しぶりに戸棚から本作を見つけ、手に取り読むことに。

    本作は、元恋人の一家を放火によって惨殺してしまったとある死刑囚の物語。あまりにも残忍な事件であったため、雑誌やテレビといったマスコミに多くその事件は取り上げられ、死刑囚の凶悪さが世間に広まっていく。しかし、彼女を担当する看守が彼女と接する中で、世間の報道と実際の彼女との姿に差異があることに気づく…というストーリー。

    本作の導入として、看守からの目線でスタートしますが、そこからは彼女の幼少期や中学時代、社会人生活が第三者からの視点によって語られていきます。その語りからは、凄惨な事件を起こしたとは思えない純真さと優しさが見られ、なぜこんな事件を起こしてしまったのか?とすごく読者の興味を惹く構成になっており、私もその展開に魅せられました。

    ネタバレになるので、物語の結末については触れませんが、個人的には悪くない結末だったのかなと思います。まぁ本作はミステリー要素も強い社会派の作品であるため、話したいことは多いけれど、全部話しちゃうとネタバレになって面白さが半減してしまうのが、本の感想を書いてる自分としては辛いところです。

  • 読後3日寝込むという触れ込みを聞いて、とんでもない鬱本なのかと思ったら読みやすいライトミステリ

    目次を見て一章を読んだら全体のプロットが見えてその通りに展開されていく

    主役がかわいそうとか世の不条理とかいった負の感想は一切なく、むしろイヤミスとは真逆なのではという印象。死刑という自死を望んで叶った

    関わる登場人物たちの行動原理は理解しやすく因果も妥当

    ミステリ要素に突っ込むならば、特に放火事件についての警察がまるで無能。灯油缶のくだりと入手手段はしっかり詰めて欲しかった
    1番重要な点では?

  • 何だろう、この気持ちは。
    こんなに相反する感情が共存するのは初めて。
    自分がどんな感情を抱いているのか分からない。
    感情を言葉として表現できないことはあるけれど
    自分の感情が分からなくて言葉にできないなんて。
    どの登場人物の立場から考えるかで気持ちが変わるのだろうか…。
    どの登場人物にも共感できなくいから自分の感情が分からないのか…。

    日常において、その人の見た目から、発する言葉から、今までの行いから、「こんな人なんだろうな」「今こう思っているだろうな」と想像することは多い。
    そうやって想像することで相手の気持ちを察することができるし、円滑な人間関係を築く上で大切なことだと思っていた。
    心ない言葉を発するのは想像力の欠如だ、という誰かの言葉に共感し、想像することの危うさなんて考えたことがなかった。
    この本を読んだ今は、想像することの怖さを知った気がする。
    分かったつもりになっているだけなのでは?
    想像から勝手に決めつけて、
    それは無実の人を死刑執行に追い込むことにだって繋がるのではないか、と。

    これから死ぬために
    必死に生きようとする姿を初めて見た。
    そのラストシーンが何より印象的だった。

  • 元恋人の家に放火し、妻と双子の子どもを殺めた罪で死刑宣告をされた田中幸乃の姿を、田中幸乃と関わりのある周りの人々の話から、紐解く話の構成に読む手が止まらなかった。

  • 転職をして半年とちょっと。
    おもいのほか早くなじめた、と思う一方で、生活リズムや仕事には、まだまだ慣れていないような気もする。
    通勤時間が短くなったのはかなりありがたい。
    でも、転職前は通勤を読書の時間にあてていたので、今の生活は本を読む時間を自分で意識して作っていかないと、なかなか時間がとれない…

    それなりに残業も多いので、結局読書が後回しになってしまって、寝る前に読み始め、数行読んでは眠り、というのを繰り返し、こんなに読み始めたら止まらなくなる系の作品を読了するのに、膨大な時間がかかってしまった。
    読書の時間をどう確保するか、というのがわたしの今後の課題だ。

    帯の言葉「読後、あまりの衝撃で3日ほど寝込みました…」「少女はなぜ、死刑囚になったのか」とあり、解説が辻村さんということもあって、手に取った。
    放火事件を引き起こしたとされる田中幸乃。30歳。彼女は、死刑判決を言い渡される。
    プロローグ「主文、被告人を―」
    第一章「覚悟のない十七歳の母のもと―」
    第二章「養父からの激しい暴力にさらされて―」
    第三章「中学時代には強盗致傷事件を―」
    第四章「罪なき過去の交際相手を―」
    第五章「その計画性と深い殺意を考えれば―」
    第六章「反省の様子はほとんど見られず―」
    第七章「証拠の信頼性は極めて高く―」
    エピローグ「死刑に処する―」

    判決文が各章のタイトルになっているという構成で、これだけでもかなり興味を惹かれる。
    各章ごとに語り手は異なり、その語り手の目線で、田中幸乃という人間像が語られる。彼女はいったいどんな道のりをたどって、死刑囚となったのだろう。そう思いながら読み進めていく。この終わり方は、果たしてハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。タイトルの『イノセント・デイズ』の意味とは。

    田中幸乃が産まれた日。P61「昭和六十一年三月二十六日、午前六時二十分」。
    わたしと同じ学年で、「2480グラム」で産まれた幸乃。彼女が過ごしてきた日々は、わたしが過ごしてきた日々と同じテレビ番組が、同じ音楽が流れていたのだなと、そんな思いを馳せながら読みすすめる。
    しかし、途中からそんな思いを馳せる余裕もなくなるくらい、幸乃がたどった日々は残酷なものであった。

    P34「判決理由とは本来誰のためのものなのだろう?はじめて死刑判決の理由を聞いたとき、そう感じたのを覚えている。これから死を宣告される者に対し、だから納得しなさいというものなのか。それとも怒りに駆られた遺族や市民に対し、これをもって溜飲を下げろということか。」

    わたし個人としては、死刑制度には反対です。ただ、この国には死刑制度があって、わたしはこの国に産まれ、今この国に住んでいるということは事実。
    この作品の中に、この制度に対するメッセージも込められていたのだろうと思う。

    田中幸乃の生い立ちや、彼女を知る人たちの気持ちや行動。最終的にすべてがしっかり繋がった、という感じはあまり持てていないのだけれど、これが、自分の読書の仕方(数行読んでは眠るスタイル)によるものの可能性も高くて、うまく評価をつけられない。
    でもたぶん、この作品は、すべてがしっかり繋がったかどうかじゃなくて、辻村さんの解説の言葉を借りると、P466「“暗い”や“明るい”、“幸せ”や“不幸”という一語だけの概念を超越した場所で彼女を救おうと格闘し、味方であり続けたひとりの作家の誠実さの熱」P467「激しく熱いだけでなく、哀しみや怒り、絶望にも似た、こんな静かで凄絶な熱もあるのだ」ということなんだと思う。

    • 土瓶さん
      辛くて重たい話でした。

      「店長がバカすぎて」
      とても同じ作者によるものと思えない。
      辛くて重たい話でした。

      「店長がバカすぎて」
      とても同じ作者によるものと思えない。
      2023/11/26
    • naonaonao16gさん
      土瓶さん

      こちら、埋もれてしまって返信ができておらずですみませんでした。

      早見さんの作品初めて読んだんですよ~
      『店長がばかす...
      土瓶さん

      こちら、埋もれてしまって返信ができておらずですみませんでした。

      早見さんの作品初めて読んだんですよ~
      『店長がばかすぎて』みたいな作品の方がこの作者さんらしい作品なのでしょうか?
      他の作品を読むかどうか悩み中です。
      2023/12/03
    • 土瓶さん
      ああ。コメントの返信は気が向いたらでいいですよ^^
      俺も忘れてるので(笑)

      早見さんの作品は俺もその2作しか読んでないのでわかりませ...
      ああ。コメントの返信は気が向いたらでいいですよ^^
      俺も忘れてるので(笑)

      早見さんの作品は俺もその2作しか読んでないのでわかりません。
      いろいろ書ける人なのかな?
      奥田英朗さんなんかもそうだし。
      2023/12/03
  • 以前から気になっていて、ミステリーと思い読み始めました。
    読み進むにつれて、重くて目を背け難い内容と分かり、どうか結末は救われてほしいと願いながらあっという間に読み終えました。

    結末のあの瞬間は幸せだったのか?幸せであってほしいです。

  • メディアによるほぼ決めつけの「見出し」が、深く関わった人の目線で語られる真実により、一つ一つ払拭されていくのが、苦しくもおもしろかった。読み進めるごとに、自分もいかに表面から抱いた先入観にとらわれているかに気付かされる。やっと辿り着いた真実が間に合わなかった最後には呆然としたが、幸乃はしっかりと「必要とされていた」し、生きることを求められていたという結末に胸が熱くなった。読む手が止まらず一気に読んでしまったので、またじっくり読み直したい。

  • うわべだけ聞いて判断しているようなことも、内情は違うのかもしれない
    自分の生に絶望して自死ではなく裁かれて無実の罪で死ぬことを選ぶ主人公
    できれば真相が間に合ってほしかった

  • ──正義は一つではないけれど、真実は一つ


    ある事件を、主人公を特定せず多角度的に反芻していくミステリー。とにかく暗い。大好物なんだけど、読んでいる途中は息が苦しかった。
    別著の『店長バカすぎ〜』の感想に作品間のギャップが凄すぎる、とあったけど実際その通り。ただひとつ共通しているキーパーツは「文学」。改めて本の力を信じる著者の思いが伝わってくる気がした。

    全ての事件関係者の生い立ちからストーリーが骨太に形成されていく。誰からも必要とされない、そして必要とされる期待すら投げ捨ててしまった被告人。その姿を通して、私は必要以上に誰かを必要としたいと強く願ってしまう。(ややこしい)

    ただ、、その力は当たり前ながら遠く及ばない。
    それが天窓から見上げた流星と重なる。
    両手の指の数だけ守れればいいんだと教えてくれる。


    グローブ6万個は贈れそうにない。
    いやそれは守ると違うか。

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著者プロフィール

1977年神奈川県生まれ。2016~2022年に愛媛県松山市で執筆活動に取り組む。現在は東京都在住。2008年に『ひゃくはち』でデビュー。2015年に『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞、2019年に『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞とJRA馬事文化賞を受賞。その他の著作に『95』『あの夏の正解』『店長がバカすぎて』『八月の母』などがある。

「2023年 『かなしきデブ猫ちゃん兵庫編  マルのはじまりの鐘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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