- Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101215211
感想・レビュー・書評
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好きな人に、標本にして欲しい気持ちは、良くわかる。
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いや、わたし小川洋子すきなんだなって思いました。独特の世界観に惹きこまれる感じ。薄暗いような、朝焼けの眩しさのような。ニジュウマル。なんと伝えたらいいかわからないけど、一般的なしあわせのイメージとは少し違うしあわせのカタチを読んだ感じ。
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再読,短編集2編
足を侵食してくるようなぴったりとした靴に包まれる幸せとは何だろう?自分と他者との境界のあやふやさが,恐ろしくもあり夢見るような心地よさを伴っている不思議な感覚がある.最後,地下室の先に何があったのか,今も分からない. -
図書館で借りて表題作のみ読んだ。
耽美的で幻想的。物語を静寂が支配する感じは、標本室に関する事柄以外を一切排除した語りから生まれるものだと思われる。例えば、主人公は前職の飲料水工場では仲間とおしゃべりしたりしていた。しかしその後、標本室勤務となってからは私的な部分の話はほとんど出てこない。住んでいる部屋や食事といった、生活感のある描写が排除されている。これが、主人公が標本技師にのめり込み、支配され、それ以外の事柄を全て削ぎ落とされてゆく(と同時に自らの意思でそちらへ進んでいく)過程の表れであり、標本技師からもらった靴以外を一切履かない点にもそれは表れている。
この削ぎ落とされていくという状態は、薬指の欠損ともリンクする。主人公は薬指に始まり、色々なものを削ぎ落としていった上、ついに全てを無にして標本技師の懐に飛び込むこととなる。これは愛なのか、私には愛というよりも、欠損したもの、削ぎ落とされて今は跡形も無くなったものへの執着の裏返しであるように感じられた。
唯一、他に行き場のない標本室という閉塞された場所に外からの新鮮な風が吹き込んだのは、靴みがきのおじいさんの訪れだった。主人公は初めて能動的に標本室から出て、おじいさんの元へと向かうが、それは標本室に取り込まれることへの意思を固める結果となった。
主人公には、はじめから無くした薬指を埋めるものはこの標本室と標本技師の元にしか無いことが分かっていたのだろう。 -
ひどく静かに描かれているが、これは痛々しいくらいの危うい恋の話だ。指先を失ったショックは大きかっただろうが、標本室の他の客と違って主人公が薬指を標本にしてもらいたいと思ったのはその心の傷からではない。先の欠けた薬指に自分だけの唯一性を見出し、永遠に彼のものになりたいという盲目的な恋心からである。指を標本にするって、痛いだろうに。後々後悔するだろうに。でも彼女は構わないのである。完全に恋する乙女だよ。彼しか見えてないよ。でもこの恋で傷ついても、標本室を訪れる人々と同じように、然るべき時が来たら心の傷とケリをつけ、成長していくのだろう。きっと人はそうやって痛々しくも成長していくものなのだ。彼女の盲目さが痛々しくも気持ちよかった。
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いったいどこにいて どこに向かうのか わからないままお話が終わりに近づく
わかろうとしちゃいけない感覚には、委ねてみるしかない
不思議な世界。何だかありそうで やはりありそうにもないそんな世界の片隅。 -
ぼーっと読んでいて、ふと博士の愛した数式と同じ人なの?!という吃驚。
たまたま帯に「フランス映画…公開決定」と書いてありまして、おお、まさにそれの空気の湿気り具合と温かさと重さと難解さであるなと。 -
静かで官能的ながら、絡めとられるような怖さのある表題作と、同じくあるものごとに魅せられて、分かちがたく吸い寄せられていく主人公のお話、2篇。
いずれも、知らず知らずのうちに自分を失っていく、美しいおとぎ話のような怖さがあり、読み終わったときに登場人物のその後が気になりつつも、自分がその小説世界から抜け出せたことにほっとする。映像化したら素敵だろうな、と思ったところ、すでに映像化されていて、しかもフランス映画というのはものすごくしっくりくる。観てみたい。 -
ダメだと、恐らくはわかっていて。警告もあって。そこにたどり着いてはいけない、という世界に、だけどもう、居て。悲観されるべきではない、欠落と引き換えにしか触れることのできないぬくもりを知ること。
小川洋子さんの小説世界が持つ静謐な空気、やはりとても良いです。 -
どうしようもなく人を嫌いになったり好きになったりする事がある。心の襞の奥を上手く描き出す作家さんだなぁと思った。
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再読
前に読んだときは別に好きではなかったけど、読み返したら面白かった。大人になったのかな。大人な小説というイメージ。
薄いガラスみたいな雰囲気。強く押すと割れちゃいそうなやつ。上品な変態(貶してない)。 -
短編二編、どちらも共通して静謐な、閉じられた空気のある話。冷たく湿ってる、柔らかい指に触ってる感触がする。
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読書loversの会で知り合った人のおすすめ本。
その方、とってもおきれいな方なのでその人はどんな本をよんでいるんだろうと思い、よんでみた。
精神的SMの話よね。
でもね、わかんね。
わからなくもないけど、わかりたくないっていうのが本心。
最後、どうなるんだろう。
身体ごと試験管に入れられて標本にされちゃうのかな、といろいろな想像がかけめぐり、ちょっと気持ち悪くなった。
でも、小川洋子さんの文章、好き。
他の小説も読んでみようと思えるほどすっと入ってくる。
空気で以心伝心しちゃうようなSM。
「わからなくもないけど、わかりたくないっていうのが本心。」っていうのは人間の根底にあるSMなんだと思う。それが露呈されるのが嫌だから(恥ずかしいから)そんな表現をしたんだと思う。
『六角形の小部屋』の方はそんなにおもしろくない。 -
大好きな作品です。
綺麗で少しゾクゾクして
温度や空気感がとても伝わってくる。
情景がはっきりと浮かび
その世界観に入り込むことができる。
小説を読むようになった
きっかけである大切な本です。 -
耽美な世界観にゾクゾクしながら読みました。
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初小川洋子。
サイダーを桃色に染める薬指の肉片ら。黒い皮靴、白衣、古い浴室のタイル、靴だけは脱がせないセックス、火傷のある頬、エロティックでフェティッシュなんだけども、どうもお上品。匂い立つエロスを感じられないなー、と読んでたら、和文タイプライターの活字盤を落とすシーンで度胆を抜かれる。
和文タイプライターなんて、知る人も少ない中途半端に古い機器が出てくるのが不思議だったが、これが活きる。床一面に散らばった活字盤に収められていたた活字。それを這いつくばって拾う女と、それを穏やかに冷やかに眺める男。無秩序に広がった活字をひとつずつ秩序へと戻すという途方のない行為、いやー、これはゾクゾクする。なんともエロチック。この場面だけで満足。 -
楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡―。
人々が思い出の品をなんでも標本にする「標本室」。そこで働いている“わたし”は、ある日標本技術士に自分の足に吸い付くようにぴったりと合った靴をプレゼントされる。
古いフィルム映画を見ているように情景が広がる。
「標本室」という閉ざされた空間のなか、危ういバランスで保たれた甘美な関係。人に溺れるとはこうゆうことかもしれない。 -
小川洋子さんの、独特のゆらゆらした文章が大好きです。
青い海の近くの工場でサイダーが桃色に染まったかと思えば次の舞台はモノクロ感が漂い、主人公の心理描写には透明感があり、この色彩感がなんとも言えない。
かと思いきや、ストーリーはかなりブラックです。
2編の短編からなりますが、「薬指の標本」の方が好き。官能的なのに恐ろしい。