砂漠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.01
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本棚登録 : 22942
感想 : 2025
  • Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101250250

作品紹介・あらすじ

入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決…。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれ成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 大学に入ったばかりの斜めな性格の主人公の北村を中心に5人で限りなく青い青春を歩む。個性的な人物と独特な雰囲気、ほかの青春小説とは一味違う。

    ある日、鳥井がほかの4人をマージャンに誘い、ここから絆を育んでいく。それからいくつかの事件を通してさらに絆を深めていく。最後の「人間にとって最大の贅沢とは人間関係における贅沢」という言葉はとても身に染みて、素晴らしい読後感を感じさせてくれた。北村の言う通り五人の絆が永遠に続いて欲しい。

    5人組という絶妙なバランスと個性的な人物、伊坂さんにしか書けないと思う。オアシスという青春はあっという間で、これから5人は砂漠という社会に入っていく。社会人になっても5人を見守りたい。若いうちに絶対に読んだ方がいい。

  • 春夏秋冬ときて、そしていつの間にか卒業の春。
    学生時代というのはあっと言う間。
    よくいる大学生のよくある学生生活に、犯罪や悪ふざけという思わぬストーリー展開、そして恋愛、挫折も絡めた五人の満ち足りた日々。大きなヤマがあったわけでなく、淡々と過ぎる時間の愛おしさにじわじわくる。その後巣立つ社会は荒れ果てた砂漠のようでもあり、学生時代は厳しさに放出されるまでのオアシスなのかもしれない。(自分は)それに気づいたのは後になってのことなのですが。
    しかし、この五人が様々な出来事で体験したことで得た結束力や、奇跡を素直に信じる気持ちがあるなら、この先もオアシスは現れるに違いないと思えた。そんな前向きな原動力が湧くような一冊だった。
    熱血な西嶋君とは対照的な、ちょっと冷めた目で世間を見る北村君の語りが良かった。ちょっとこっぱずかしいが、青春小説という雰囲気が出ていると思う。
    莞爾君の言葉が目にとまった。「本当はおまえたちみたいなのと、仲間でいたかったんだよなあ。」
    それは、こういう青春いいなぁ、と遠い目をして思った読み手の自分でもあった。

    解説を読んでどれだけ救われたことか。無駄な(無意味な)時間を過ごすこと。そうやって無意味な時間を積み重ねていくことで、ゆっくり見えてくること、分かってくることが必ずある。焦らずに、その時を待てばいい。若い頃(出来れば学生の頃)読んでいれば、尚良かったのでしょうが、その頃は刊行されてなかったわけで。
    卒業ソングが聞こえてくるこの時期読めて良かった。

  • あぁ面白かった〜!初めての伊坂幸太郎さん。
    読友さんのブックリストで「登場人物がとても魅力的でオススメ」されていたので読んでみました。
    ありがとうございます!
    かっちりしたクラスに囲われた中学高校までとは違う、でもまだ社会には出ていない大学生の不安定さ…そんな心持ちを思い出しました。

  • 青臭いセリフが心に残る

  • 愛想なしの美女東堂。平和(ピンフ)にこだわる西嶋。鳥瞰型の北村。スプーンを曲げてしまえる南。やませみのような鳥井。

    どこにでもいるようでどこにでもいない大学生たちの春夏秋冬。
    麻雀はちっとも知らないんだけどやってみたくなります。
    大学生活×麻雀ってなんかいい。
    鳥井君もなんだかんだいい。

    なにより西嶋が憎めないわけですよ。こういう、ある意味「空気を読まない」タイプが愛されて居場所を確立しているところがすごく好き。

    私も西嶋のように臆することなく、正しいと思ったことを主張し行動できるようになりたい。そのためにも大学生活をもう一度やり直す決意をした。

    なんてことは、まるでない。

    • まろんさん
      最後の1行に思わずふきだしてしまいました。
      hetarebooksさんは、そんなお茶目なところもまた魅力ですね(*'-')フフ♪

      私も麻雀...
      最後の1行に思わずふきだしてしまいました。
      hetarebooksさんは、そんなお茶目なところもまた魅力ですね(*'-')フフ♪

      私も麻雀は一度もやったことがないのですが、
      小説や映画で、大学生たちが麻雀しながらダラダラおしゃべりしていたり
      ちょっと崩れた雰囲気の男性が気怠そうに雀荘で煙草をふかしていたりするのが
      なんだか素敵に見えるのはなぜなんでしょうね(笑)
      2012/10/23
    • hetarebooksさん
      まろんさん♪

      伊坂節炸裂のお話だったので、つい伊坂氏モードで書いてしまいました(*'-')♪

      そうそう、なんだか素敵で憧れてしまったりし...
      まろんさん♪

      伊坂節炸裂のお話だったので、つい伊坂氏モードで書いてしまいました(*'-')♪

      そうそう、なんだか素敵で憧れてしまったりしますよね。麻雀、ビリヤード、ダーツ、チェス。このあたりは憧れのテッパンです♪

      麻雀といえば私の友人は寮生活でその魔力により単位を落としまくり、8年生になった子がいます(笑)君子、麻雀に近寄らず…(・・;)
      2012/10/26
  • 大学生の主人公と愉快な仲間たちの物語。合コンしたり、恋したり、麻雀したり。時には事件巻き込まれたり。登場人物の個性が光る、日常の中に起こる非日常を描いた青春物語。

    主人公が僕と同じく、法学部で鳥瞰型の人間だからとても共感できた。主人公が彼女を作るまでは。だから、僕も死ぬ気で彼女を作る。
    『なんてことはまるでない。』

  • 2021(R3)1.16-1.26

    年末年始は、管理職登用二次試験などという、受けたくもない試験を受けさせられ、その受験勉強のために読書を絶っていたのだが、それが終わってようやく本にありつけて手に取った一冊。

    大学生5人の群像小説。有川浩の『キケン』を思い出した。

    “大学はオアシスで社会は砂漠”的な表現が帯にあった。確かにそうだった。
    権利はあるが義務はなく、時間は有り余るほどある大学4年間。バカみたいなことに真剣になれる4年間。

    (長文)
    僕は3人組のバンドを組んだ。
    毎週金曜日の21時過ぎ。ギターとラジカセとキーボードを車に積んで学校へ。
    オリジナル曲を作ったり、コピー曲を練習したり、夜食をとったり。それに飽きたらドライブ。朝7時頃帰宅し、小学生の登校の声を聞きながら眠りにつく。
    学内でもそこそこ名が知れるようになり、学祭のオープニングアクトを務めたり、市内の他の大学の学祭ライブに呼ばれたり。
    学生生活残り半年というところで、市内のライブハウスで毎週歌わせてもらえるようになり、ギャラももらった。
    卒業有料ライブ、卒業式の学科別謝恩会ミニライブで僕たちは活動を終えた。ミニライブ後、バンドの2人の仲間が舞台袖で泣いていた。これで終わりなんだという寂しさだったと思う。このバンドを作った僕は泣けなかった。なぜなら、次なる場(就職)」が砂漠に見えなかったからだ。

    しかし現実は、「砂漠」どころか「地獄」に近かった。大学はオアシスであることは分かっていたけど、砂漠に出て、そのオアシスがどれほど自分を潤してくれたかを痛感した。と同時に大学生活に踏ん切りをつけたつもりが、逆に未練タラタラな自分に気付いた。

    苦しんだ20代からもう20年もたった。
    立場も変わり、若手から中堅を統括的に指導する立場になった。業務量はさらに増え、ギターを楽しむほどの時間はなかなか取れないけど、読書と同じくらいかそれ以上に、音楽は手放せない。そして時折り、YouTubeにアップしているバンドの歌を聴き、仕事また頑張ろ!どこかでギター弾こ!と気持ちを前向きにしている。

  • 二度とない大学時代の光と闇の物語。
    かけがえのない毎日を大切にしたくなる作品。

    東北の国立大学に通う5人組のお話で、
    5人の背景はそれぞれ違うのに、偶然交流を深めることになる状況が自分と重なった。

    麻雀、コンパ、バイト、恋愛、学園祭、犯罪者追跡、、生き生きとして、ぬるっとしていて、でもそこが眩しい。派手ではないけれど、大学生活の淡々とした日常が描かれる。

    大学時代は、社会に出るまでの猶予期間とはよく言うし、将来を考えて頑張る時間でもあるけど、気が合う仲間と過ごす他愛のない時間って、大切だ。

    たとえ交友関係が小規模であっても、気の合う人とは巡り会えるし、
    人間関係、というか、友情って人をやわらかく変えうるという教訓。

    砂漠に放り出されて何年も経って、オアシスに戻りたいと思う人生にはしたくないけど、オアシスにいた時の気持ちを忘れたくはない。

    4年間という年月をかけて作り上げたオアシスは、砂漠に出ると枯れてしまうのだろうか?

    そんなことは、まるでない、はずだ。


  • 再読です。正直内容もいつ読んだかも覚えていなかったのでかなり新鮮な気持ちで読めました。
    こんなにいい話だったとは。

    "砂漠"という社会を知らない大学生の5人。知らないからこその好奇心と素直な気持ちでただただ日々を重ねることが、実はとっても大切なことだったんだなぁと思わされます。まるで何もしていない自分の学生時代も肯定したくなるくらいに。。
    (でも私と違って仙台の某国立大法学部という設定なので彼らは賢いしやることはやっていると思います。それは会話や就職先からも明白。。)
    でも本当に、そんな日々の中で育まれた気持ちって一生ものなんですよね。それは大人になった今よく分かります。

    一番好きなシーンは、片腕を亡くした鳥井が、バカバカしくて元気がでる、と言って皆が必死に熱い想いを堪えているところ。私も目頭が熱くなりました。

    あと個人的には北村がプレジデントマンに襲われるシーンが最も怖かったんですが、なぜ北村は平気なんだろう、、謎です。

    全体を通して、初めから終わりまで描かれている伊坂作品はあまりないような気がしたので珍しくすっきり読み終えました。そして5人との別れが寂しくなりました。
    その後の5人が気になります。西嶋留年編。いつか読んでみたいです。

  • 初めての伊坂幸太郎です。(2005年12月単行本、2010年7月文庫本)
    遠い昔の学生時代のノスタルジーを感じさせる物語。ミステリーでもなく、ファンタジーでもなく、勧善懲悪ものでもなく、歴史ものでもなく、アートでもない。もう何十年も前の学生時代の中にすっぽりはまっている自分がいることにジンとくる。
    舞台は仙台で、国立大学の法学部の学生5人が繰り広げる4年間の友情と日常の物語で、実際の自分の学生時代とは場所も立場も全く違うが、日々の行動だとか、時間の流れや感じ方が似ているので、自分がその中に入ってしまうのである。

    5人とも主人公だと思うが、<北村>という岩手県盛岡市出身の男の目線で書かれている。授業には真面目に出席し、人を冷静に見る少し冷血感的なようにも見られるが、まともな行動を取るため人から信頼を得られやすいタイプだ。
    最初に親しくなるのが<鳥井>という横浜出身の軟派な軽いキャラクターの持ち主だ。金持ちの家に育ち、仙台でも立派なマンションに一人住まいしている。その鳥井と中学が同じだった東京の練馬区出身の<南>という人見知りする女の子が偶然にも同じ大学に入学したことで、数年ぶりに再会し、北村とも友達になる。南はスプーンを曲げたり、ちょっとした物を念力で動かすことが出来る超能力者でもあった。
    そしてモデルか女優のように抜群の容姿で数多の男子学生から言い寄られても素っ気ない態度の地元仙台出身の女性<東堂>が、どう言うわけか後ほど友達に加わる。
    そのきっかけを作ったのが千葉出身の<西嶋>だ。新入生懇親コンパで遅れてきて、いきなりマイクを取って自己紹介と言い訳の演説をした変人だ。風貌もどちらかというと不細工の部類に入り、砂漠に雪を降らせるために行動するぐらいの変人だが、行動しなければ何も出来ないという強い信念を持っている。その変人に何故か東堂が惹かれている。
    この5人が仲間になった経緯が麻雀で、東南西北が苗字になっているメンバーを変人の西嶋が集めたのが始まりだ。鳥井は自分のマンションの部屋を雀荘代わりにに提供し、麻雀を知らない北村に一から教えたことでこの仲間に入っていた。私ももう何十年も麻雀から遠ざかっているが、この小説のところどころに麻雀の役や配牌の図が出て来て一挙に気持ちは学生時代に飛んでいた。
    この5人が大学1年の春、2年の夏、3年の秋、そして4年の冬に経験する事件やエピソードがあって、卒業の春を迎えるまでの恋愛あり、友情あり、冒険あり、麻雀あり、危険な場面もあり、未熟な思考と行動と後悔もあるが、時間の流れだけは自由気ままなノスタルジー感全開の青春小説だ。

    1年の春、鳥井が女子短大生に嵌められる話。
    鳥井、北村、西嶋ともう一人加えた4人と女子短大生の<長谷川>他3人の4人との合コンで、鳥井を嵌めるための罠が仕掛けられていた。長谷川は鳥井に対して巧妙にホスト2人との賭けボーリングに陥れる。鳥井は負けて400万円の大金を失うどころか大学退学寸前のところまで行くが、西嶋が奇跡的なボーリングで何とか窮地を救う。
    2年の夏、鳥井がまたもや長谷川に利用されて事故で片腕を失くすが、友情に救われる話。
    長谷川は鳥井に詫びを入れるがまたもや今度は鳥井を利用する。ホスト礼一がホストをやめて半グレ空巣集団の手先になっているのをやめさせようとして鳥井を利用するのだ。まんまと利用された鳥井は反対する北村と西嶋を説得して空巣集団を長谷川の情報で待ち伏せるが、鳥井は礼一が運転する車にはねられ左腕を切断する大事故にあう。以降鳥井は人が変わったように口を閉じ、友達も寄せ付けない日々が続くが、これも西嶋が機転を効かせた麻雀の奇抜なユーモアイベントを用意し鳥井の心を救い出す。
    3年の秋、学祭に絡んだ恋愛と超能力の物語。
    南と鳥井は同棲し、北村はブティック店員の<鳩麦>と付き合っていた。この鳩麦がなかなかいい。絶世の美女の東堂は不細工な西嶋に交際を断られ、キャバクラでバイトするようになる。
    そんな中、秋の学祭で超能力者と超能力を否定する有名な学者の対決イベントが企画されていた。しかしその二人は繋がっていて、八百長の話を東堂のバイト先のキャバクラでしているのを東堂は聞き、その学祭イベントでインチキを暴露する。そして南が隠れて遠隔移動の超能力を使い、その学者の目の前の物を浮かせて腰を抜かせるおまけ付き。
    4年の冬、西嶋が自分の気持ちに素直になって、東堂を取り戻す恋愛の話とまたもや長谷川から礼一の空巣の情報を得た鳥井が、今度は空巣半グレ集団を一人であっという間に叩きのめす話。そして逃げた礼一の車に白いセドリックが浮いて飛んで衝突、南の4年に一度の大型遠隔移動の超能力が大成功する話。
    鳥井は片腕を失ってから、 南を守る為にキックボクシングジムに通っていて、プロはともかく街の半グレぐらいは簡単に倒す力を持っていた。
    4年の春、卒業式。学長の言葉に感動する。西嶋だけが留年で卒業式に出席できずに外で皆んなを待つ。東堂は東京本社の有名企業の内定を蹴って、ケーキ職人の修業を始める。鳥井は仙台市内の小さな広告代理店に、南は仙台の市役所職員に決まる。北村は盛岡で公務員、おそらく県庁だろう。鳩麦は仙台のブティック勤め、北村は落ち着いたら結婚を申し込むつもりのようだ。鳥井も南と結婚することになるのだろう。わからないのが西嶋と東堂だ。このケースは予想がつかないものだ。
    これから皆んな社会という砂漠の厳しい環境に入って行く。きっとそれぞれの人生を送りながら、年老いた時その絆を再確認することだろう。頑張れとエールを送っている自分がいた。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒。2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。04年に『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、短編「死神の精度」で日本推理作家協会賞(短編部門)、08年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞、14年『マリアビートル』で大学読書人大賞、20年『逆ソクラテス』で柴田錬三郎賞を受賞。その他の小説に『クジラアタマの王様』『フーガはユーガ』『ホワイトラビット』『AX』『サブマリン』『陽気なギャングは三つ数えろ』『火星に住むつもりかい?』『重力ピエロ』『グラスホッパー』などがあるほか、阿部和重氏との合作『キャプテンサンダーボルト』、八組の作家による文芸競作企画「螺旋プロジェクト」から生まれた『シーソーモンスター』がある。

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