- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101347165
作品紹介・あらすじ
空虚な日常、目を凝らせど見えぬ未来。五人の男は競馬場へと吹き寄せられた。未曾有の犯罪の前奏曲が響く-。その夜、合田警部補は日之出ビール社長・城山の誘拐を知る。彼の一報により、警視庁という名の冷たい機械が動き始めた。事件に昏い興奮を覚えた新聞記者たち。巨大企業は闇に浸食されているのだ。ジャンルを超え屹立する、唯一無二の長篇小説。毎日出版文化賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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R1.11.27 読了。
昭和に聞いた被差別部落、部落解放同盟なる団体、巨大企業、うだつの上がらない人生、競馬場、誘拐計画など、気になるワードが多い。誘拐事件発生後の警視庁の対応、新聞社の対応も面白い。また、人間臭いところが良い。
文章は読みやすく、映像が浮かんできそうな感じも良い。
中巻も楽しみ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本有数のビール会社”日之出ビール”の社長、城山恭介が誘拐される。犯人グループは城山とある取引を結び彼を解放、事件は日之出ビールに警察、マスコミを巻き込み、裏社会の人間たちも暗躍する様子を見せ、静かに波紋を広げていく。
高村さんの作品を読んでいて圧倒されるのが、文章に込められた力です。その力というものは他の作家さんの作品と比べても突出していると思います。
その力の根底にあるものは作者の高村さんの一種の情念にあるように思います。この本で描かれる問題は自身の闇を隠し通そうとする企業の姿に、被差別部落、政治と権力のつながりとどれも複雑なものばかり。しかしそれでもそうした問題を組み伏せ、話を作り上げる情念が感じられるからこそそう感じるのではないか、と思います。
そして、この本を読んでいてもう一つ感じるのは犯人グループが感じる閉塞感。犯人グループのメンバーはそれぞれ自らの人生に対し、何らかの言葉にできない感情を抱えています。それがこの誘拐につながっていくわけですが、その閉塞感の描き方がとにかく巧い!
この本の単行本版が出版されたのは1997年だそうです。現代の日本も”希望のない社会”や”格差社会”と言われるように一種の閉塞感があるように思います。そうした閉塞感の芽生えをいち早く察知し、個人の言い知れない感情すらも描き切ったからこそ、この本の厚みはさらに増したように思います。
まだ上巻ですが今後の事件をめぐりどのような人間模様が繰り広げられるのか、非常に楽しみです。
第52回毎日出版文化賞
1999年版このミステリーがすごい!1位
このミステリーがすごい!ベストオブベスト9位 -
言わずと知れた高村薫の長編小説。
上巻ではレディー・ジョーカーの生まれる経緯から、巨大ビール会社社長の城山恭介の誘拐劇、新聞記者の奮闘など最初から盛りだくさんの内容。
久しぶりの合田との対面に、思わず内臓が震えまくった。
それから、「ああこれだこれ、合田のこの刑事にしてはあまりにも繊細で壊れやすいギリギリさと、それに絡み合うようにして彼を支える加納の、こちらもまた張り詰めんばかりの緊張感が高村薫なんだよ…!」と一人興奮しているうちに上巻を一気に読み終えてしまった。
本当に久々の高村作品で、訛っていた脳が彼女の独特の筆致の難解さによじれねじれしたが、それも一瞬で、グリコ・森永事件を髣髴とさせる不気味さと、とても一個人では敵わない大きなものの存在に翻弄されていく合田たち個人たちの息遣いに、すぐに引き込まれていった。
個人的には、物井のおっちゃんの中に潜む鬼の部分が、殆ど記憶さえない兄の清二という人間一人が怪文書の中に籠めた心情と呼応するようにして、フッと物井を突き動かすあたりが好き。 -
大学生の頃?その前に?読んだものを、20年以上経ってAmazonオーディブルで聴いたけど、かったるくなって休止。
つまらなくはないんだけど、進みがゆっくり…。
そのうち続きを聴こう…気が向いたら…。
昔読んだときは合田は年上だったのに、作中の合田は30前で、めっちゃ若いな!
複雑な気分(^_^;) -
「牛馬ではない人生」
「自分探し」などという概念がなかった頃、取り立てて才覚があるわけではない者たちは、生きるため、いや食べるためにただただ黙々と働いた。
脚光を浴びることもなく、伴侶は冷たく、週末の競馬場でささやかな賭けに興じる。
平穏な生活は「幸福」と呼べないこともないのだろうが、人生の節目節目で突きつけられてきた自身の「尊厳」を揺さぶる出来事は、ぶつけようのない怒りを澱のように積み重ねる。
物井清三が七十歳を前に思い出した、美人だった妻の醜い死に顔、兄の乾ききった最期、子供の頃見た東北の死んだ牛馬、そして五十年間隠れていた自分の中の「悪鬼」。
共産主義を信奉する気など欠片もなくとも、「労働の成果、つまり自分の人生を搾取して金に替えてきた誰か」に対して「仇を取ってやる」という心情は誰の中にでもあるのではないだろうか。
革命の幻想は潰え、「自己実現」というまやかしも化けの皮がはがれたとき、名もなく、才もなく、幸福も掴めなかった人々の怒りはどこへ向かうのか。 -
まだ上巻だが、高村薫の最高傑作だと思う。
グイグイ引き込まれていく。
登場人物の個性をきめ細かく描き、まるでこの時代に生きているかのような世界観。
登場人物も多いのはこの物語なら当然。
奇想天外なストーリー。
最高!
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かなり重厚なもののようで、
これからの展開もひっしについていけたらなと。 -
毎朝の短い通勤時間で読むと、とにかく登場人物が多くて思い出すだけで時間がかかり、ほとんど頭の中に入らないで終わってしまった。
これから読む方はぜひ腰を据えてじっくり時間を確保してから読むことをお勧めします。