冷血(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347264

作品紹介・あらすじ

井上克美、戸田吉生。逮捕された両名は犯行を認めた。だが、その供述は捜査員を困惑させる。彼らの言葉が事案の重大性とまるで釣り合わないのだ。闇の求人サイトで知り合った男たちが視線を合わせて数日で起こした、歯科医一家強盗殺害事件。最終決着に向けて突き進む群れに逆らうかのように、合田雄一郎はふたりを理解しようと手を伸ばす──。生と死、罪と罰を問い直す、渾身の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 高村さんの作品は最初は我慢。そして気が付くと惹き込まれている。
    今回もそんな感じ。
    育ってきた環境は人格に大きな影響を与える。
    殺人に理由など無いこともある。

  • 90年代の髙村薫の作品が大好きなのだけど2000年代以降の作品が私には難しいです。
    晴子情歌も冷血も、私には読み進めるのが困難で途中から「とにかく最後まで読もう」という使命感のみで読んでました。
    戸田と井上、そして殺された一家の虚無感と孤独感と、後は自分自身が置いてきぼりになってる感覚しかなくてどう読めば良いのかしら…と戸惑いました。
    あと10年くらいしたらまた読み返してみよう。もしかしたら別の感情が湧くかもしれないです。別の感情が湧くかもしれない自分に期待したいと思います。笑

  • 「高村薫」の長篇ミステリ作品『冷血〈上〉〈下〉(『新冷血』を改題)』を読みました。
    『四人組がいた。』に続き、「高村薫」の作品です。

    -----story-------------
    〈上〉
    刑事「合田雄一郎」は歯科医一家殺害事件に何を見る。
    生と死を問い直す、圧巻の長篇。

    クリスマスイヴの朝、午前九時。歯科医一家殺害の第一報。
    警視庁捜査一課の「合田雄一郎」は、北区の現場に臨場する。
    容疑者として浮上してきたのは、「井上克美」と「戸田吉生」。
    彼らは一体何者なのか。
    その関係性とは? 
    「高梨亨」、「優子」、「歩」、「渉」――なぜ、罪なき四人は生を奪われなければならなかったのか。
    社会の暗渠を流れる中で軌跡を交え、罪を重ねた男ふたり。
    「合田」は新たなる荒野に足を踏み入れる。

    〈下〉
    刑事 「合田雄一郎」シリーズ
    逮捕、それは巨大な謎の始まりだった。
    罪と罰を根源から問う、圧倒的長篇!

    「井上克美」、「戸田吉生」。
    逮捕された両名は犯行を認めた。
    だが、その供述は捜査員を困惑させる。
    彼らの言葉が事案の重大性とまるで釣り合わないのだ。
    闇の求人サイトで知り合った男たちが視線を合わせて数日で起こした、歯科医一家強盗殺害事件。
    最終決着に向けて突き進む群れに逆らうかのように、「合田雄一郎」はふたりを理解しようと手を伸ばす――。
    生と死、罪と罰を問い直す、渾身の長篇小説。
    -----------------------

    2010年(平成22年)から2011年(平成23年)に、毎日新聞社が発行する週刊誌『サンデー毎日』に連載された作品… 連載時は『新冷血』というタイトルだったようですね、、、

    「合田雄一郎刑事」シリーズの第5作目にあたる作品… 同シリーズの作品を読むのは『照柿』以来で2作目です。

     ■第一章 事件
     ■第二章 警察
     ■第三章 個々の生、または死

    2002年クリスマス前夜、東京郊外で発生した歯科医師一家殺人事件… 衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち、、、

    二転三転する供述に翻弄される捜査陣… 容疑者は犯行を認め、事件は容易に解決へ向かうと思われたが……。

    彼らはいったいどういう人間か? 何のために一家を殺害したのか? ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実… 都市の外れに広がる<荒野>を前に、「合田雄一郎刑事」は立ちすくむ……。


    徹頭徹尾、硬い筆致で描かれた作品で、ずっと緊張感を維持しながら読み進めた感じ… ルポルタージュを読んでいると感覚に陥るほどの生々しさを感じるリアリティのある物語にぐいぐいと惹き込まれ、心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えました、、、

    凶行に至った犯人の証言は、「歯が痛かった」「ずるずると勢いで」「何も考えていなかった」「目が合ったから」…… と、どれも犯意にならない理由ばかりだけど、犯人たちが何かを隠している素振りはなく、嘘の気配もないのに、なぜ事件が起きたのかがわからない……。

    面白い… というよりは恐ろしい と感じる作品でした、、、

    ホラーよりも、リアルな人間の物語の方が怖いなんてね… エネルギーがないと読めない作品、そして、あまりにも深く思い読後感に、どう心の整理をしたら良いのか、未だに戸惑いを隠せない作品でしたね。

    人間存在の根源を問う、圧巻の物語… 私には到底答えを出すことができません。

  • 第三章「個々の生、または死」
    第三章「○○」のような名詞でスタートするのだとばかり思っていたので、三章のタイトルだけで何かに打たれたような思いがした。
    犯人が捕まっておしまい、ではなく、その後を丸々下巻に充てた高村薫さん。
    一人一人の思いにぐーっと焦点をあてていくような作風が色濃く出ている。

    上巻にあった、
    「機械が強盗に及んだような無機質な現場の様子と、事件前後のホシ二人の様子の間の距離が、捜査が進むにつれてどんどん開いてくる感じ…………それが一段と顕著になった」
    の距離を埋めるべく、戸田・井上の聴取は進む。
    戸田は歯痛の治療を受けたものの、中長期的には再発の可能性ありとされる。
    井上はといえば、"相変わらず机に張りついたナマケモノ"のようであり、"心身のギアはなおも一速に入ったまま"だ。

    でもここへきて井上の精神疾患の有無が浮上する。
    あらら…上巻から感じてた不安定で危なっかしい感じはそのせい???
    どうする、合田。

    それに下巻では、世間から見た被害者家族や、捜査員たちの燻された事情など、違った背景も描かれる。

    正直、戸田と井上が辿る結末は予測出来てしまった。
    被害者遺族の反応も然り。
    そして裁判所の罪状などが慣れていないせいで読みづらく、必死で文字を辿った感じだった。
    その為、下巻は☆3かしら?と思いながら読んでいた。

    それが私の中でひっくり返ったのは、ラストもラスト、436ページ後半からだった。
    情が厚いと言うと言葉が薄っぺらいけれど、こうして揺らいでしまうところが合田の魅力なんだよなぁ。
    事件が自分の手を離れてからも頭を離れず、手紙や文庫を贈ってしまうところ。
    こういうところが無かったら、今も最前線で現場に立ってギラギラした感じでいたのかもしれない。
    だからこそ農作業に打ち込む合田がいるのだろうけれど。

    私の気持ちは429ページ「2005年 夏」から波立っていた。
    (戸田の件あれこれでも切なくなっていたが。)
    合田の手紙に対し、たまに送られてくる井上からの返事。
    ここまで読み進めてきた私は、それ以前に記訴状などが並んでいたせいもあってか、フィクションなのかノンフィクションなのか分からなくなるような気分に陥った。(またいつもの、入り込みすぎ 汗)
    いやフィクションなのだけど、井上克美という人物の存在が、読み終えてから暫く心を掴んで離さなくて、実在しない人物が脳裏から離れなくて、
    帯に書かれていた「"罪と罰"を根元から問う」との文言が、ここへきて急に重みを増したように思えた。

    そして急に泣けてしまった。
    残された井上に関して、もっと何とかならなかったんだろうか。
    いや、あれだけの罪を犯したのだから、あれでも精一杯何とかなったと言っていいのだろうか。
    危なっかしい精神状態で、稚拙で自分勝手で、眼が合っただけで何度もスキを振り下ろすような罪人なのに、悲哀を感じてしまった。
    「刑事さんにはマジで感謝しています。」
    「キャベツ食いてぇーーー!」

    戸田と井上は罪に見合った裁きを受けるべきではある。
    ただ、タイトルの『冷血』は戸田と井上なのか、
    1回も公判に訪れることもなかったうえで、被疑者を殺してやりたいと言った遺族なのか、
    ベルトコンベアーのように起訴へ持ち込んだ警察か、
    戸田が運ばれたICUの医師か、
    戸田と井上を囲む親族か、
    こんな事件でさえ時と共に忘れ去る社会か、
    あるいは死刑という刑罰の存在か。。。
    私には分からなくなった。
    おそらく全てなのだろう。

    合田の言葉が胸に残った。
    『支援団体もない貴君の近況が外に伝わってくることはないこの現状は、折にふれて貴君のことを考える外の世界にとっても、実に孤独です。』



    個人的に、読んでいて"とまれ(=ともあれ)の多用"が目につき、少々読みづらかった。
    私自身が"とまれ"を使わないからかもしれないけれど。
    合田が考えを巡らす際に"否"も多用されていたが、何故かこちらは気にならず。

  • 井上と戸田が逮捕されてからの話。犯行の動機を探っていきます。とはいえ、大まかな心の動きは、上巻にてすでに語られています。それを何度もなぞる形になり、それはそれで面白いのですが、やや退屈な部分もあります。
    健康ランドに向かうとき、井上の姿が見えなくなり、心を乱される戸田のエピソードが、少年時代のものとリンクしていたところは、意表を突かれました。
    カポーティの「冷血」のオマージュ作品ですが、読後感も似ています。すっきりしないというか、なんというか。カポーティの方はノンフィクションですから、しょうがないとして、こちらはフィクションですから、これという決着をしてもらいたかったです。
    もちろん人間なんて割り切れないものなんだということを表現したかったのでしょうけれど、もう少し何とかならなかったのかなぁと思いました。

  • 最初は一家殺害の残虐な事件のあらまし。しかし、事件後は犯人が捕まるまでの警察の捜査の様子と判決が出るまでの動きで、個人的には今ひとつだった。
    ただ、犯人の供述、生育歴など、捕まって事件解決ではなく犯人の様子を細かく描写していて、違った角度からでそれは良かった。

  • 2023.04.30
    この本で語られる世界は2003年である。その時代から20年を経ているが、この本で語られる人間、命、死、喪失、こういったテーマに対する答えは相変わらず一つに絞れない。
    そういう意味で犯人の二人、合田、彼らの心理描写が延々と続く下巻は、ツボにはまる人にはピッタリだが、そうでない人にはつらくて読み通せないだろうと感じている。

  • レディ・ジョーカーやマークスの山のようなスリリングな物語を期待したら思いっきり裏切られた。長く救いがない物語。根性で読了した。この本読むのなら他の高村薫さんの小説を読んだほうが断然いい。

  • 数年ぶりの再読。

    登山からバイオリン、キャベツ…と私生活も大きく変わって来た合田雄一郎。警察としての立場も現場から、一歩離れた管理職、しかも犯罪というよりは、善悪もないような、立証も出来ないような案件が多い役回り。
    マークスや照柿、LJのような熱量とは違う接し方になるのは理解するが、世間の抗いようもない多数の、元嫁含む(これ、さらっと書かれてて逆に怖い)死に無力感を抱きつつ、でも最後まで抗いつつも一歩引いているのでどこか遠くに感じつつも進む、どうしようも無い大人がいた。仕事では無駄に引っ張られないか、冷や冷やさせられる。しかし、朝から農作業でひたすら自然を感じ、仕事以外の人間関係も構築できる器用さもある。

    一方の井上、戸田の両人は何のタイミングの悪さか、ずるずると最悪へと進む、どうしようも無さ。実際の事件であれば、嫌悪するし、理解できなささに座り心地の悪さを覚えて、あの証言と異なる、分かりやすい判決に安心するんだろう。動機ってなんなんだろう、ないといけないのか、本当にわからなくなる。合田の接し方が余りにもフラットなので、更に混乱させられる。

    被害者遺族、判決、担当弁護士、検事、犯人、犯人親族、合田、誰もがわかりやすい熱がなく、世界観がつかめない。感情をどこに持っていけばいいのかわからない不安定さを判決までの長い間、繰り返し繰り返し突きつけられる。警察の理解も承知もしないが、証言は証言、と一見、投げたような発言が、一番腑に落ちた。

  • 上巻に引き続いてスゴいの一言。ただ最後は私には難しくて,トルーマンカポーティの方が胸に響いたかな。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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