- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101800042
作品紹介・あらすじ
いなくなれ、群青は河野裕さんのミステリー小説です。高校生の主人公が巻き込まれる事件を元にストーリーが進んでいきます。誰よりもまっすぐで正しい、凛としている少女の真辺由宇。彼女との出会いが主人公の平和な高校生活を一変させてしまいます。奇妙な島、連続落書き事件、それらに秘められた謎。ファンタジー要素のある青春ミステリー作品です。
感想・レビュー・書評
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16歳の少年、七草(ななくさ)は
4日分の記憶をなくし、気がついた時には
なぜか見知らぬ海岸に立っていた。
そこは「捨てられた人たち」の島、階段島。
この島を訪れる人はみな、
その直前の記憶を失くしている。
そしてこの島を出るには、それぞれがそれぞれの
「失くしたもの」をみつけなければならない。
そう、チルチルとミチルが青い鳥を捜したように…。
(船で海を越えようとしても気がつけばまた島に戻ってしまい、脱出は不可能なのです)
島民たちはなぜ不可思議な階段島に閉じ込められているのか?
島を支配するという
誰も見たことがない「魔女」とは
いったい誰で何が目的なのか?
ミステリー要素のある
SF(少し不思議な)な青春小説。
発売当時から一際目を引く
その美しい表紙がずっと気になっていたけど、
表紙のイメージやタイトルから想像する
「切なさ」や「儚さ」を
そのまま真空パックしたような青の世界観は
セツナフェチにはたまらなく魅力的で、
真相を知ったあとで間髪入れずにまた読み返したくらい(笑)
好きなテイストだった。
ただ生きていくだけなら、この島にお金はいらない。
山頂に住む魔女によって管理された島唯一の学校に編入すれば、
学生寮に無料で住め食事も食べられる。
階段島は地図にも載っていないし、携帯は通じない、ネットは情報を受けるのみ(アマゾンを使って通販は可能)。
公衆電話はあるが外の世界には通じない。
階段島という孤島に閉じ込められた設定からして
ミステリーマニアなら飛びつきそうだけど
そこはカムフラージュ。
この作品の肝は
どこか夢の中をさまよっているような浮遊感漂う世界観と
青春の痛みや焦燥感を見事に表現した詩的な文体と、
悲観主義の16歳の主人公、七草の葛藤にあります。
二年ぶりに階段島で再会した、
夢想家で理想主義者、
あまりに一途に正義を追い求めるため周囲に馴染むことができない16歳の少女、
真辺由宇(まなべ・ゆう)の
純粋であるが故の愚直さは美しいと思う反面、
自分がとうに失くしたものを見せられたようで
心がざわついて苦しくもあった。
いつも屋上で読書をし暇をつぶしている、
「100万回生きた猫」と名乗る17歳の不思議な少年。
前髪を髪留めで上げ、いつもおでこ全開なクラス委員長の女子、水谷。
携帯ゲーム好きのクラスメートの少年、佐々岡。
顔を白い仮面で隠したクラス担任のトクメ先生。
子供はいないハズの階段島に
突如現れた
小学二年生の相原大地。
三月荘という学生寮の管理人の男性、ハル。
など、みなワケありの登場人物たち。
中でも毎週日曜日に七草に心情を綴った手紙を送る、
コミュニケーションが苦手な少女、堀が印象に残った。
彼女の不器用だけど切実な心の叫びは胸を打ったし、
ある意味ヒロインの真辺由宇より
僕個人としては魅力的に映ったなぁ。
星と拳銃を重ね合わせたイラストの連続落書き事件。
そしてこの島を出るために
様々な方法を試す七草たち。
主人公七草が「100万回生きた猫」と交わす詩的で哲学的な会話が
どこか寓話的でもあり読んでいて心地良かった。
特にピストルスターという銀河でもっとも大きな星について思い入れを語る屋上での二人のシーンには、
「銀河鉄道の夜」に登場する孤独な少年ジョバンニと友人カムパネルラを彷彿とさせて
二人のイノセンスが胸に沁みること沁みること。
そして決して重なり合うことのない
七草と真辺の恋が本当にもどかしく切ない。
群青色の美しい夜空が
これほど似合う小説もないだろうと思う。
(読み終えたあとにタイトルの秀逸さも分かります)
どうしようもないバカだけど
ずっと変わらないでいて欲しいと思っていた人が
いつの間にか変わってしまっていたら。
群青色の空に浮かぶ、決して手の届かないもの。
ずっと輝いていて欲しかったものが
堕ちてしまったことを知ったとき
僕なら(あなたなら)どうするだろう。
一見有り得ないことが頻発する小説はその幻想的な設定に惑わされがちだけど、
そこに描かれているのは
条理と不条理の間で揺れ動く人間の心だ。
突拍子もない設定の中にも
青春としか呼べない思春期の心の揺れを丁寧に丁寧に描いているからこそ
今この時を永遠に引き延ばそうとするかのように闘争し続ける七草と真辺の
切ない抵抗が胸を打つのだろう。
大人になる過程で
自分が失くしたものについて誰もが考えさせられる儚くも美しい小説です。
村上春樹が描く喪失感や
伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」の世界観が好きな人、
(なんとなく似てます)
米沢穂信のほろ苦い青春ミステリーのテイストが嫌いじゃない人、
星や夜空を眺めてると心が落ち着く人、
トリックやプロットよりも
物語の中で登場人物たちの心の揺れ動く様を重要視する人にオススメします。
なおこの作品は、
全国の大学文芸サークルが
「この1年に最も輝いていた本」を決める2015年度の「大学読書人大賞」を受賞しております。
★新潮文庫が作った『いなくなれ、群青』のPVがありました!↓
https://www.youtube.com/watch?v=T0pIa41bLmU&feature=youtube_gdata_player -
装丁が本当に素敵で、みかけたときからずっと気になっていた一冊。
すでに読んでいた友人からも勧められたのでそのまま読んでみました。
”どこにもいけないものがある。”から始まる序文でぐっとひきこまれました。
目が覚めたら突然見知らぬ場所にいた主人公の七草。失くしたものをみつけないと、元の世界には帰れない。
そして何日か目の朝には、決して来てほしくはなかった彼女、真辺由宇がそこにはいた――。
以下ネタバレ含みます。
捨てられた人たちの島であるはずの階段島は、けれどどこか明るくさわやかな風が吹きわたっていそうで、11月というよりは初夏の印象がありました。
さまざまな事件が発生するものの、私はどうもこの不条理さとぐだぐだに少し耐えかねていたのですが、三話からは展開が早くて面白かったです。
七草は誰に捨てられたのか、七草が失くしたものは何なのか、それが分かったときは肌が粟立ちました。
(これで「僕が失くしたのは真辺由宇に恋する気持ちだ!」とかだったら壁に投げつけてた。)
階段島には、成長する過程で、不要になった、邪魔になった、捨てなければならなかった人格が掃き溜まりのように存在しているのだと思うと、どうしようもなく切ない。
この島から出ないことが現実世界の本人には望ましいのだという、その残酷さ。
自分は良いとしても、真辺由宇がここにいることが許せない七草の痛切なまでの想いがひしひと、閉口するほど伝わってきました。
…まぁ伝わってくるというか、そこはちょっと単純に文章に描きすぎでしたかね。
七草の想いはもっと読者に委ねて欲しいくらいでした。
ところで、私はこの本と並行して「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んでいたのですが、似ている箇所が多くてびっくりしました。
作者、村上春樹にむちゃくちゃ影響受けてるんだろうなぁ。
そもそもプロローグの時点ですでにどうも村上春樹っぽいぞという気はしてたのよね…。
ただ、青春ミステリと呼ぶにはとても相応しい一冊でした。
これをシリーズにしてどうなるの?と次作もちょっぴり気になります。 -
いつも最悪のパターンを考えてしまう慎重派で目立ちたくない七草とひたすら真っ直ぐにしか物事を見れない真辺。全然違う考え方の2人が惹かれあいお互いのために自分のダメなところを捨てたんだなって思うとなんだか。。とてもピュアだなと思った。不思議な島。。みんなあるよね、大人になるにつれて切り捨てた感情だったり性格。上手に生きていくために人は何かを切り捨て何かを手に入れ。。そーやって成長していくのかなって思った。
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自分の嫌いなところも、忘れたい過去も、捨てることはできないし、無くなることもない。時折、向き合って、度々、目を逸らし、折り合って、日々暮らしていくしかないんだわ。多分。
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高校生たちが織りなす、まさに青春ミステリな話。登場人物がみんな魅力的に描かれていて良かった。本格的ミステリとは違うけれど、適度にミステリアスで青々とした青春を感じました。
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【秀世界観】
小説です。
娘に借りました。
はじめは意味がわかりませんが、後半ハマります。