とにかくうちに帰ります

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103319818

感想・レビュー・書評

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  • 会社員たちの日常を描いた短編集。どの話もクスリと笑えて面白かった。私もスケートが好きなので、ヤグディンやキャンデロロの名前が出てきて嬉しかった。最後の話は、豪雨の中、ずぶ濡れになりながらなんとか家に帰ろうとする人たちの話。家でくつろぐって幸せだよね。

  • *豪雨で帰宅困難になった人たちの心模様を描く表題作はじめ、それぞれの日々の悲哀と小さな誇り、職場の人たちとのすれ違いや結びつきを丹念に描き出す6篇。働き、悩み、歩き続ける人たちのための物語集*

    もうね、最高です、津村ワールド。特に前半の「職場の作法」、ここまでOLの心の機微を切り取って表現できるなんて、感嘆しかありません。表面上は淡々と見せかけて、実は鋭い突っ込みを連打するOL達に、始終にやにやしっぱなし。突っ込む方も突っ込まれる方もどこか憎めなくて、なんだか牧歌的なのもいい。ほわりとした読後感、最高です。

  • うちに帰りたい。切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい。

    おれも帰りたいです。自分と周囲の人たちの健康を願うように、うちに帰りたい。

  • 『職場の作法』は4編の連作短編。
    続く『バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ』も、『職場の作法』で登場した人物たちが登場する。
    表題作の『とにかくうちに帰ります』は全く別の物語である。
    この6編、どれも日常の些細な悲劇や喜びを描いている。
    淡々としていて盛り上がることはないが、それなのに叫びたくなる衝動が抑えられない時もある。
    それはこれらの物語が、あまりにも普通の日々だからかもしれない。

    『とにかくうちに帰ります』
    大雨でバスの運行が遅れ、電車が止まった。
    登場人物たちはひたすら歩く。
    雨が体温を奪っていく。
    このなんだか惨めな帰り道。
    ぐちょぐちょの靴、服に染みこんでくる雨、なんで俺は、私はこんなことになっているんだろう。
    覚めた唐揚げがこんなに美味しい。
    自販機の緑茶がこんなに暖かい。
    家に帰って、乾いたタオルで頭を拭いて、湯船で手足を伸ばして、寝っ転がってテレビをつけて、すごい雨だったよなぁなんて誰かに話して、自分がどれだけ大変だったかを面白おかしく説明する。
    たったそれだけ。
    そこにたどり着くまでが本当に大変なのだ。
    バスには乗れず、橋は揺れ、おっさんに突き飛ばされたり舌打ちされたりして、ちょっと凄んでやりたいのに面倒に巻き込まれたくなくて「あっすいません」とか言ったりして。
    どこかでいつか体験したことがあるような気がする。
    気がするだけで、この通りの経験なんてしていないはずなのに。
    でもまあいいや、とりあえずうちに帰ろう。

    『職場の作法〜ブラックボックス〜』
    田上さんの閻魔帳には何が書いてあるのだろう。
    幸いなことに、私の勤務先には、女だから、男だからと仕事を分ける人はいない。
    重量物を運ぶ時は男性が指名されることも多いが、せいぜいそんなもの。
    妊婦に対してもわりと優しい。本当に恵まれた環境だ。
    しかしこの物語の会社では、そうではない。
    おい、とか、ちょっと、とか、そんな旧態然としたものがまかり通る(と思っている社員がいる)会社のようだ。
    それに対するささやかな反抗。
    ......ではない。
    仕事への心構えとはこういうことか。
    仕事とは難しい。
    だからやり甲斐もあるものなのだと、気づかされた。

  • そうか。ラストの表題作があるから前出の2作が生きるんだな。

    「職場の作法」は、職場あるある。忙しいアピのうざい山崎さんとか、同郷者の噂話を通して自分自慢したい北脇部長とか、所有物に無頓着で人のものを借りパクして平気でいられる間宮さんとか。いるよな、普通にこういう人。

    表題作は、とにかく寒さが伝わってきて、登場人物全員の口に今すぐ温かいおでんを突っ込んであげたい気分になった。(備品室内で性交していたイシイさんと千夏ちゃんは除く)都会はひとたび災害が起きると、すぐ交通網がマヒするな。やはり日頃から鍛えておくこと、チャリ通を推奨することを考えたほうがよいけどムリなんだろうな。やはり帰宅は諦めて会社に残って備品室で…のほうが正解かもしらんよ。知らんけど。

  • cakesで海猫沢めろんと末井昭だったか西加奈子だったかの対談の最後におすすめされていた本。

    突拍子もない行動や思考が共感できるように書かれているのがよかった(程よい挿し込み方。ひっかかる時もあったが)。

    職場やアルゼンチンのスケート選手カップル、埋立洲から帰還する4人。そういった人間関係が時間経過で変わったり変わらなかったり、それくらいの時間の織り込み方もよかった。

  • ずっと気になっていた津村記久子さんの小説を初めて読んでみた。正直、こういうことを書くならエッセイでもよいのでは、と思わないでもなかったけれど、面白く読めた。なかでも、マイナーなフィギュアスケート選手に対するファンとも言えないようなファン心理のようなものを描いた『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』が好き。普通の人の日常における、テレビに映っちゃうようなスポーツ選手との距離感ってまさにそんな感じだなあ、うまいなあと思った。
    松田青子さんのお仕事小説を思い出したりもしたけど、たぶん松田さんのほうが実験的で高尚でオサレなんだろう。読んでいてワクワクもする。だけど、きわめて個人的に言えば、津村さんの作品の温かさ、ほっとする感じのほうが、私は信頼できる。つっこむ対象への愛を感じる。

  • なんだろう、この、後味が全くない感じ。
    面白くないということはなくて、むしろ楽しんで読めた。
    あまりにも日常のヒトコマ感が強くて後味ゼロなのかな。
    ありふれた日常の中にこんな瞬間ございますね、という感じで、それをとてもユーモラスかつリアルに描写されているなぁと思いました。
    他の作品も読んでみたいと思いました。
    特に表題作は、色々なものが素敵に展開していきそうな雰囲気の中終わってしまったので、続きがあれば読みたいなぁ。

  • 2014.3.5
    表題作ではなく、ファン・カルロス・モリーナがいい。
    実在する人かと思って、ググっちゃったよ(笑)

  • 世の中のほとんどの職場はおそらくこの小説のようにはいかない。似ているけれども決定的に違う。なぜならこの小説には「悪意」の居場所がないからだ。いろいろうっとうしい同僚とかはいるけれど、思いやりのある同僚もいることだから、その返礼といってはなんだけれど自分も同僚に気配りしないといけないな、と思いたくなるような、恵まれた職場環境を描いている。
    こんな会社なら、働いてみたいと、ふと思ってしまうような小説。でも個人的にはあまりどっぷりとは浸かりたくない世界。
    人によってはもっと評価が高くてもよい小説。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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