- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106107931
作品紹介・あらすじ
大ベストセラー『国家の品格』著者による独創的文化論。教養はどうしたら身につくのか。教養の歴史を概観し、その効用と限界を明らかにしつつ、数学者らしい独創的な視点で「現代に相応しい教養」のあり方を提言する。
感想・レビュー・書評
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【感想】
近代の世界史について、筆者の客観的な視点も相まって、読んでいて非常に勉強になった。
どの国の歴史を見ていても、(当たり前だが)やはり自国の国益を最優先に考えて動いており、その中で社会主義や資本主義が発展しているのが読んでいて分かった。
正直、「教養」というのは一文の得にもならないということを分かった上で、ただ欲望にまみれた本能を抑制する手段として身につけなければならない。
ナチスドイツの発展やソ連の誕生なども、国民の教養不足の合間を縫って発展したのだから、その点は非常に頷ける。
ただ、作中にもある通り、利害損失のみで動いている人間が多い今世において、果たして「教養」という剣が本当に役に立つかどうかについては、甚だ疑問とも思った。
これから必要な教養として、「人文的教養(哲学や古典)」「社会的教養」「科学教養」「大衆文化教養」などが挙げられているが、この世で生き抜くにあたっては、メシのタネになる、あるいは自身を守る盾になる「実学」を身につけなければいけないのではないか。
自身の仕事に直結するための勉強や、収入につながる勉強、誰かに騙されないよう見抜くための勉強など・・・
多少軽薄なのかもしれないが、誰かに欺かれたり競争で勝ち抜くためには、そういった知識も身につけないといけない世の中なんだと個人的には思っている。
「教養が大切だ!」という意見は勿論頷けるが、綺麗事だけではこの世の中で生きていくにあたってハズレを引き続けてしまう気もする・・・
リベラルアーツなど、知識として身に着けておく重要性も感じたが、それと同時に、いやそれ以上に、「VUCA」と称されるこの世の中を生き抜くためにも、別ジャンルで必要な知識やスキルを身に着けていく必要がある。
「性善説」を貫いて生きるのは確かに素晴らしいが、それは疑う事を怠けてしまっているのと同義である。
この世に悪意が潜んでいる限り、「清濁併せ吞む」覚悟で生きていく必要があるなと、最近になってとても感じる。
とても面白い本だったし、勉強にもなったが、結局は筆者の主張とは大きく異なってしまった。
結局、マジメな人間が損をしてしまうリスクが大いにあるこの世の中では、「功利性」や「金銭」の大切さから極端に目を背ける事が今の自分には到底できない。
前記したが、「清濁併せ吞む」スタイル。
また、「性善説」に依存しすぎないスタイル。
「教養」をしっかりと身に着けつつ、決して貧乏くじを引かないためにも、打算的に狡猾に世の中を生きていくダークスキルも併せて今後は身に着けていこうと思った。
【内容まとめ】
1.「教養」とは、世の中に溢れるいくつもの正しい「論理」の中から最適なものを選び出す「直感力」、そして「大局観」を与えてくれる力。
2.アメリカのトランプ大統領も、口ではウォール街を牽制しているが、実際は金融規制緩和などでウォール街を喜ばせ、国益を優先としている。
アメリカに限らずどの国も、弱者や敗者への惻隠などはどうでもよいこと。
世界中の99%の人々は、ほとんど利害得失だけで行動しており、そういった人々から成る国家がそのような浅ましい行動やさもしい行動に向かうのは、残念ながら仕方のないこと。
そんな中で、「教養」は本能を制御する力として大きな意味を持つ。
3.リベラルアーツの起源
アリストテレスは数学中心主義から離れ、広く人文、社会、自然からなる3つの科学が体系的に教えられた。
アリストテレスはリュケイオンで教えながら哲学・論理学・生物学・修辞学・倫理学・政治学をはじめ諸分野で膨大な業績を残し、「万学の祖」と呼ばれるようになった。
4.※補足「リベラルアーツとは?」
リベラル・アーツとは、 ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科のことである。
具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何・天文学・音楽の4科のこと。
(Wikipedia引用)
5.これからの教養とは?
書斎的の知識ではなく、現実対応型のものでなくてはならない。
現実対応型の知識とは、屍のごとき知識ではなくて、生を吹き込まれた知識、情緒や形と一体となった知識。
実体験は擬似体験により補完され、健全な知識と情緒と形、バランスのとれた教養を!
【引用】
「教養」とは、世の中に溢れるいくつもの正しい「論理」の中から最適なものを選び出す「直感力」、そして「大局観」を与えてくれる力だ。
では、教養を身につけるためにはどうしたらいいのか?
教養の歴史を概観し、その効用と限界を明らかにしつつ、数学者らしい独創的な視点で「現代に相応しい教養」のあり方を提言する。
p25
誰しも、有限の人生において、無価値の情報に関わっているヒマはありません。
自分にとって価値のある情報だけを選択したい。それらがその人の判断力の基盤となるからです。
ありとあらゆる情報から、どんな物差しにより自分にとって有意義で価値のある情報を選ぶのか?
その嗅覚は何によって培われるのか?
教養とは一体何か?
p28
紀元前三三一年、ギリシア人の国家マケドニアのアレクサンダー大王は、念願のペルシアとの戦争に勝利しました。
その後10年も経たないうちに32歳の若さで病没してしまい、大帝国は将軍達により三分割されました。
そのうちの一つが、アレクサンドリアを首都としてプトレマイオス一世の創立したプトレマイオス朝エジプトです。
アレクサンダー大王は「父から生を受け、アリストテレスから高貴に生きることを学んだ」と言うほどアリストテレスを崇拝し、その下で教養を積んでいましたが、このプトレマイオスも同様に学問や文学を愛好していました。
彼は首都アレクサンドリアに学術研究所「ムセイオン」を作り、文献学を中心に、数学、物理学、天文学など70万巻以上の蔵書数を持ち、大いに隆盛しました。
プトレマイオス朝は300年ほど続きましたが、陰りの見えてきた紀元前30年、絶世の美女クレオパトラが即位し、美貌美声媚声を駆使してローマ帝国の英雄を籠絡したが、乳房をコブラに噛ませて自殺してしまい、その後プトレマイオス朝はローマに滅ぼされました。
p41
・12世紀ルネサンス
バグダッドを拠点としたイスラム国家アッバース朝が地中海沿岸を占領してから3世紀あまり、地中海貿易は停滞し、この海はいわば閉ざされた海となっていました。
アッバース朝の勢いが衰えた12世紀になって、ジェノヴァやヴェネツィアなどの北イタリア都市国家が地中海貿易の主導権を握るようになりました。
ヴェネツィアの貿易商人だったマルコポーロはジェノヴァとの戦争中に捕虜になりましたが、その時に著したものが「東方見聞録」です。
日本をジパングとして初めてヨーロッパに紹介しました。
ギリシア古典は千年間もビザンティン帝国やイスラム国家に保存されましたが、衰退する帝国に見切りをつけた幾多の学者たちがヨーロッパに里帰りしました。これがルネサンスです。
知識人は新たな知識を求め、これら古典をむさぼり読みました。
p49
・リベラルアーツの起源
アリストテレスは数学中心主義から離れ、広く人文、社会、自然からなる3つの科学が体系的に教えられた。
アリストテレスはリュケイオンで教えながら哲学・論理学・生物学・修辞学・倫理学・政治学をはじめ諸分野で膨大な業績を残し、「万学の祖」と呼ばれるようになった。
※補足
リベラルアーツとは?
リベラル・アーツとは、 ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科のことである。
具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何・天文学・音楽の4科のこと。
(Wikipedia引用)
p52
現代人は、科学技術や生産手段の進歩を人間性の進歩と勘違いしたまま、自惚れと傲慢に身を置くようになっている。
このような現代人は、生存競争に勝つためにも、生活を豊かにするためにも役立ちそうにない教養などは、遺物であり暇人の時間潰しと見下すようになっている。
功利性、改良や発明、金銭は確かに大切だが、教養が疎かになってしまうのは、、、
p55
アメリカのトランプ大統領も、口ではウォール街を牽制しているが、実際は金融規制緩和などでウォール街を喜ばせ、国益を優先としている。
アメリカに限らずどの国も、弱者や敗者への惻隠などはどうでもよいことなのです。
世界中の99%の人々は、ほとんど利害得失だけで行動しており、そういった人々から成る国家がそのような浅ましい行動やさもしい行動に向かうのは、残念ながら仕方のないことなのです。
そんな中で、「教養」は本能を制御する力として大きな意味を持つのです。
p60
ヨーロッパでは「大戦争」と言えば第二次ではなく、より多くの死者を出した第一次世界大戦のことです。
大戦勃発の引き金は「サラエボ事件」です。
1914年6月に、オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻が、サラエボでセルビア人に暗殺された。
事件の発生とともにオーストリアでは新聞などが国民を煽り始め、それに反応した国民が激昂したため、政府は事件のひと月後にセルビアに対し宣戦布告をした。
p67
・近代ドイツの振り返り
長い中世を抜け出たものの、16世紀にはルターの宗教改革、17世紀には30年戦争と、プロテスタントとカトリックの抗争で人口は激減し、国土はすっかり荒廃していた。
約300もの領邦に分かれ、それぞれが主権や外交権まで持っていたため、国としてのまとまりはなかった。
1807年にナポレオンに国土を蹂躙された挙句に国土の7割あまりを奪われ、巨額の賠償金を課せられた。
ナポレオン失脚後もドイツを弱体化させたままにしておくというコンセンサスがヨーロッパにはあった。
このような数重なる国家存亡の危機に立たされたところでドイツはやっと目を覚まし、国家主義の気運が一気に高まった。
果敢な政治改革、軍制改革、そして教育改革が断行されてゆく。
p81
産業革命を経た19世紀末から、ドイツでは大衆の精神的空隙に、まずマルクス主義が、ついでフェルキッシュ運動(民族運動)、そしてついにナチズムが怒涛のように入り込んだのです。
p114
第一次大戦末期、ロシア革命(1917年)が起きてロマノフ王朝は滅び、1922年にソ連が誕生しました。
その間にレーニンにより、世界革命を目指すコミンテルン(共産主義インターナショナル)が組織化されました。
日本共産党は、その日本支部にあたる組織です。
満州との国境を平穏に保つため、同じコミンテルンの出先である中国共産党を用い、日本軍を挑発し続けて中国と日本の戦争を泥沼化させました。
またドイツ軍に追い詰められたソ連を救うため、アメリカを世界戦争に参加させます。
そのためには日独伊同盟を結んでいる日本に、アメリカに対して最初の一発を撃たせることを行います。
日米通商条約の一方的破棄、在米日本資産の凍結、鉄鉱石や石油の対日禁輸、日本を真っ向から侮辱するハル・ノートなど。
p127
・独ソ不可侵条約の密約
ソ連がバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)を併合し、独ソでポーランドを分割するというもの。
結果、1937年9月にドイツがポーランドに突如侵攻して第二次世界大戦の引き金を引き、密約通り18日後にソ連が東からポーランドに侵攻、独ソに占領・分割統治されました。
ポーランドは両国に対しいかなる敵対行動をとったわけでもなく、それどころか両国と不可侵条約を結んでいました。
しかもこの密約の存在は独ソが明かさなかったため、ゴルバチョフが1989年に情報公開するまで、50年間も隠蔽されていた。
p148
・これからの教養とは一体なに?
書斎的の知識ではなく、現実対応型のものでなくてはなりません。
現実対応型の知識とは、屍のごとき知識ではなくて、生を吹き込まれた知識、情緒や形と一体となった知識です。
実体験は擬似体験により補完され、健全な知識と情緒と形、バランスのとれた教養を!
p175
・これから必要な教養
何かが突出しているだけでは、いくら論理的であっても間違った方向に行ってしまう。
人文的教養(哲学や古典)
→長い歴史をもつ文学や哲学など
社会的教養
→政治、経済、地政学
科学教養
→自然科学や統計学
大衆文化教養
→漫画やアニメも詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
西洋史が大半を占めていますが、とても勉強になりました。また、教養=読書の重要性を改めて再認識しました。
将来の日本を担う子供たちへ、今後も読書を強く勧めていきたいと思います。 -
教養を養うことが情緒を育む、教養を持っていたことが日本が完全に植民地化されなかった理由。だから若い人も本を読むべし、との主張。
老人の愚痴に感じる言い回しが気になってしまう。
なお、著者が現代の素晴らしい大衆芸術として例に挙げた 君の名は を自分はそれほど面白いと思えていません。 -
最終的には,読書を以てしか教養を得ることはできないと説く.残念ながら,多くの日本人は世界において自分が存在する,と考えず,個として世界を閉じているので,教養を獲得し,世界を俯瞰する,という必然性自体を必要と感じていない.だから,世界あるいは他者に対する寛容性が微塵もない世界が生成されるのだ.他者と自分とで構成されて世界が成り立ち,その一員として自分を客観視している人は,はじめから教養の必要性とその獲得方法は理解している.教養以前の段階に問題がある.
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国家を正しく導くためには真の教養が必要で、日本もドイツも偏った教養のために破滅の道を突き進んだ、という。また、第二次大戦前のアメリカの日本へのオレンジ作戦など、私の知らない記載が多く、目を疑った。世界には偏った教養ばかりで、真の抵抗は生まれなかった。▼「教養が哲学や文学に偏るのは危険で、人文教養・社会教養・科学教養・大衆文化教養の4つがすべて必要です。民主主義という暴走トラックを制御するのは、国民のこの4つの教養だけなのです」、と説きます。▼そのなかでも、日本古来の情緒あふれる文学や芸能は世界に誇るもの、大事にすべきと説きます。▼筆者の意図はよく分かるのですが、国民全体が筆者の説く教養を身につけることは、多大な努力を国民に求めるもので、残念ながら達成できる日は遠いと感じました。でも独自の考察には感心しました。読んで得るところは大きいです。
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教養は、世の中の一過性の流行や言動に流される事なく、自分としての意見を持ち正しい判断へと導くもなのだと痛感。少々書く内容に偏りがあるが納得できる所も多い。
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現代においては死語と化した「教養」について、『国家の品格』の著者が述べる文化論。
その衰退の要因として、次の4点を挙げる。
①生活を豊かにするのには役に立たないと見下す現代人
②アメリカ化
③グローバリズム
④二つの世界大戦
そして、教養を主体とした、ヨーロッパさらに日本の歴史が詳らかに綴られる。少数エリートに独占されていた教養は、戦争を押しとどめる上では無力だった、と。
しかし、民主主義は教養がなければ成り立たないと、解き明かす。
では、情報社会の現代に対応する教養とは何かといえば、「生を吹き込まれた知識、情緒や形と一体になった知識」だそうだ。
それには、我が国が誇る「大衆文化教養」が役に立つと述べ、アニメ映画『君の名は』にも触れる。
それらを自らの血肉にするには、読書が欠かせない、と強調する。
ブクログの利用者の中には、我が意を得たり!と、感嘆する人もいることだろう。 -
数学者であり世界各国のいわゆるエリート層ともかかわりの深い著者が「教養」の歴史を紐解きながら各時代の社会の中でどのような役割を演じていたか、もしくは演じられなかったかを解説し、それを元に現代社会への警鐘を鳴らしている。
内容は良いと思うが、著者の国際社会への見方は少々偏りがありその部分は話半分に聞くべきかなと思った。
特に事実認識と意見が混在しているときがあり、他に見方があるかもしれないのに断定的なのがちょっとなと思った。
とはいえ、その部分に目をつぶれば数学者ならではの雑学やスベッても気にしないユーモア(笑)もあり、楽しめる部分も多かった。
教養に関しては知識、情緒、形(徳目)を実生活に活かすべしというのがあり、それは同意である。
所謂、論語読みの論語知らずという奴だ。
あとはやはり読書は大事なようである。 -
非常に刺激的だった。
・教養の変遷という視点からではあるが、人類史における大きな流れや転換期をストーリーとして理解しやすくなる。歴史の一テキストといっても良いかもしれない。
・各イデオロギーにはそれぞれのデメリットがあるが、教養がその打開策になりうるというのは個人的に大きな発見だった。
・これまで民主主義は最善と考えていただけに、批判的思考がまだまだ足りていないと自覚されられた。
・本書の構成や解説は論理的でとても読みやすくありつつ、主観をしっかりと盛り込み、個人的な感情を明確に出している。このことこそが、教養ある人が持ちうる、いわるゆ「論理一辺倒ではなく情緒や形を基盤とした思考」である証左といえよう。
主張の内容を文体で体現しているこのスタイルは、他に頭に浮かんだものとしては(例として不適切かもしれないけれど)例えば漫画のバクマンなどにも共通している。
各所に英国仕込みと思われるユーモアも忘れない。
主観をはっきり打ち出すと、今日では「それはあなたの感想ですよね?」とでも揶揄されそうではあるけれど、教養や、ある程度のリテラシーがあればそれもまた一意見として受け止められるだろう。
著者の域に立ち、それを超えられるまで、更に精進していきたい。