持続可能な魂の利用 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.65
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本棚登録 : 1512
感想 : 165
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120053061

感想・レビュー・書評

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  • とても面白い本だった
    おじさんの生態というか女性から見たおじさん像がいかに醜いかがとてもよくわかった
    時々出てくるエッジの効いたユーモラスなディスはおもしろかったが、そのディスを他人事とは段々思えなくなっていき、読み進める手が一瞬止まることがあった。それぐらい重みのある言葉だった
    すごく考えさせられる本。誰かとこの話について共有したい

  • 2020年12月
    「おじさん」(カギカッコ付きの「おじさん」)は既得権益を振りかざし、自分よりも弱い立場の人間の尊厳を踏みにじる存在の象徴なのだろうと思う。
    出だしの不思議な世界についての記述はすぐにひっこみ、リアルな社会の描写、そしてまた不思議な文章が重なる。
    鋭く、無駄のない言葉。媚びが徹底的に排除されている。
    映像とかに起こしにくそうな複雑な世界観で、文章表現っていうのは独特だなぁと改めて思う。
    異世界の物語のようでいて、読者には現実がビシビシと突き刺さってくる。やっぱり松田青子ってすごい。

  • 自分の中のモヤモヤが具現化して、口からドロドロと流れ出たあと、さらにそこから這い上がってみせる。そんな気分になった。読み終えて一晩経ってからの方がこの本が私の中に灯した何かが大きくなってきている。

  • 生きているだけで良いと思っていたとしても、
    世の中は理不尽に溢れているし、唐突に思いもよらないところから傷つけられたりすることはある。
    そんな時に魂は確実にすり減る。
    人から見たら平気なことでも、自分にとっては大問題で少しずつ確実に損なわれていく。
    だからすり減った魂を持続させなくてはいけない。
    それは趣味で、推しで、それ以外にも自分を生かしてくれる何かは必ずある。
    そう思うと理不尽とも戦える気がする。

  • 借りたのは6月だったんですが、図書館から来た本とか『ハリポタ』とかを優先していたら今ごろに(ごめんよー)。タイミング的には欅坂の終焉でちょうどよかったかと思います。
    
    「おじさん」の世界から少女たちが消え、少女たちの世界から「おじさん」が消えた国の話。
    
    欅坂がモデルになっているとは聞いていたのですが、モデルとかモチーフというよりあからさまに欅坂で、欅坂というグループと平手友梨奈が存在しないと成り立たない物語だということに戸惑いました。
    いくらヒットしてるからと言って、これ読む人って欅坂の歌とか世界観とかどれくらい知っているの? 知らない人にはなんの話だかわからない部分もたくさんあり。
    
     むしろ全編、欅坂というアイドル論であり、ファンレターもしくは二次創作だと思って読んだ方が納得できる。
    
    それから「おじさん」ディスが強すぎてひるみます。(ここでいう「おじさん」とはかならずしも中年男性ではなく、中学生でも女性でも、女性たちを性的に精神的に搾取しようとする存在であれば「おじさん」となります。)
    
    彼女たちの怒りは共感できるんですが、毒が強すぎて気持ち悪いというか、「おじさん」が消えればいいのかというモヤモヤが最後まで残りました。(最終的に物語として解決してないしね。)
    
    あと、物語と現実を一緒にするなって感じではありますが、自分たちの内部崩壊さえ解決できない少女たちに世界が革命できるのかと。
    

    以下、引用。
    
    少女たちは、見られる、ということから解放された。
    セーラー服も体操着も、「おじさん」に見られることがないなら、別の意味を持つこともなかった。
    
    世の中では、女性は男性がいると安全とされていた。女性は男性に守ってもらうものだと。
    けれど、敬子が普段から築いている防御の壁が、男性といるからこそ崩れ、弱まると感じられることがあった。敬子が感じる危険を感じない相手に、敬子を守ることがはたして可能なのだろうか。
    
    買う側と売る側が対等な関係で、日常会話の延長に過ぎないやりとりを交わすことに一度慣れた身には、店員と客とを上下に分断する過剰な接客は、どちらにとっても不幸せに感じられた。何か大切な、明るいものが失われているように思えた。
    
    男性にとってかわいくあることを、男性にとって従順であることを強制されている女の子たちの姿がテレビで流され続ける毎日に。
    
    この黒魔術みたいな踊りで、もしかしたら、普段彼女たちを操っている男たちを殺せるんじゃないか、このダンスでいつか本当に殺すんじゃないか、と信じられるほどの気迫を感じるからだ。
    
    後ろにいる男たちになにか別の意図があるのだとしても、××たちのこのかっこいいパフォーマンスを見た若い世代は、後ろに誰がいるかなんて考えずに、歌の意味をそのまま受け取る可能性のほうが高いんじゃないだろうか。
    
    「それじゃ若い女の子に鼻の下を伸ばしてる日本の男たちと一緒じゃないかな。アイドルになる女の子たちも女の子たちだよね。わざわざ自分から性的搾取されにいくようなもんだよ」
    
    反抗しろ、と男たちが書いた楽曲を反抗せずに言われるまま歌っている、従順な彼女たちの歌に、こんなに惹きつけられるのはなぜだろう。
    
    社会という搾取と消費の構造の中で生きている敬子たち市民だからこそ、惹きつけられるのかもしれなかった。その構造の中で生き抜くことが、どれだけ大変で、難しいことかわかっているからこそ。
    
    毎日がレジスタンス
    
    ××の系列のアイドルグループは脈々と、学校の制服を衣装として取り入れてきた。
    もともと、この国の男たちは、女性の制服姿に異常に敏感だった。
    
    もしかしたら、普段の彼女たちの声の小ささは、防御壁なのかもしれなかった。大人たちに、男たちに見つからないように、付け入る隙を与えないように、小さな声で自分自身を、自分たちの世界を守っているのだ。女性が大きな声を出すと、必要以上に周囲の目に留まり、苦々しい表情で注意されることも少なくない。そんなこと、女なら誰でも知っている。女が楽しんでいると、釘を刺されることを。
    
    少女は永遠に少女のままじゃない
    強い女性に成長し、あなたの世界を破壊しに戻ってくる
    ーラリー・ナサール性的虐待事件の裁判における被害者女性の証言
    
    歌わせるだけ歌わせて、女の子が歌から一切の影響を受けないと思っていたのなら、彼女たちをナメすぎというものでしょう。
    
    そして、以上のことからわたしたちがもう一つ確信したのは、日本の女性アイドルは、長きにわたり、日本人男性のために存在していたという、動かしがたい事実です。


  • 韓国のフェミニズム小説が翻訳されて話題になっている中、アイドルグループを取り上げたアンサーソングを日本の作家が書いたかのようだ。冒頭と最後の部分はSFのように奇抜だけど蠱惑的な創造世界ではある。

  • すごい勢いで読んだ。おじさんを排除する、おじさんに勝つ話。でもおじさんは単におじさんだけじゃなくて、おじさん的な価値観を持つ人はみんなおじさん。男性的価値観の中で生きる私はおじさんに近いんだろうな、反省。でも結局おじさんって、おじさんに反して生きるってなんなんだろう。とりあえず、流されながらニコニコしながら生きていくのはやめたいな〜っておもった。

  • 1部と2部の繋がりが(一読しただけでは)よく分からないのが残念だが、”おじさん”(中年の男性、という意味ではなく、女体を消費・支配してくる家父長制を搭載している人間という意味)、アイドルの在り方、少子化等ここ10年位のジェンダー関連の薄気味悪さ(おじさん以外の人にとっての)が煮詰められている。なので、小説なのであるが、ドキュメンタリーの味わいもある点で、中山七里のエンタメ作品とか、映画『新聞記者』に近い味わいだ。日本の女性政治家にもいますよね、この作品でいうところの”おじさん”が…そしてもちろん自分の中にも”おじさん”分が0ではないところが恐ろしいところです。
    最後の部分は、ちょっと発想を飛ばした設定になっているのだが、政府は少子化対策したいのではなくて、少子化にしたいのかと思うと、むしろ納得させられた。

  • 「おじさん」から自由になるレジスタンス小説。
    「おじさん」とは、年齢・性別を問わない、家父長制や男尊女卑を内面化した人のことを指している。
    差し込まれる一節やセリフがところどころ鋭く、自分の中の「おじさん」に気づかされ、読んでいて居心地悪くさせられる。

    『わかんないけど、日本って特に、悪い意味で、女性のことしか見ない国だよね。家父長制が徹底しているっていうかさ。女性にそうさせている男性の存在は無視して、女性だけを問題にして、非難することが当たり前になってる。そのシステム自体は絶対に問題視しない。これじゃ男性はまるで透明人間』

    ご丁寧に、そんな「おじさん」自身も幸せそうではないという指摘もされており、日本社会が退行しているんじゃないかという実感とリンクする。

    それで、「おじさん」から自由なるための抵抗の方法は何か。
    ひとつの方法は、おばちゃんが実践してきた、ルールを守らず「なあなあ」にするという方法だった。しかし、それでは鈍感な「おじさん」には伝わらなかった。
    そこで、本書では別の方法が取られる。

    「少女は永遠に少女のままじゃない/強い女性に成長し、あなたの世界を破壊しに戻ってくる」

    少女が連帯して革命を起こすという方法である。
    この革命を先導するのが欅坂46をモデルにしたアイドル××なのだけど、この辺から話について行けなくなる。
    革命の先には「おじさん」から見られることがなくなった(身体を失った?)少女の楽園がある。楽園の描写も魅力的には思えず、ディストピア感漂うものである。

    この小説は基本的に褒めなければ反動的みたいな感じはあるが、諸悪の根源は「おじさん」で、全て「おじさん」のせいで社会が悪くなっているという前提が単純すぎなんじゃないか。
    twitterなんかでは「おじさん」批判は飽和していて、本小説自体が「おじさん」に対してこう反撃してやったというタイプのtwitter説話を反復しているように感じた。というか第2部の最後の方は「おじさん」の問題から「おじさんが作り出した制度」の問題に飛躍しているし。第1部と第2部に分けたのもあんまりうまく機能してない気がする。
    痛快に感じる読者もいると思うけど、この本はそんなに新しいか?そんなに面白いかな。

  • 松田青子さんの小説。エッセイも読みやすくて好きだったが、小説もとても読みやすくてすぐに読み終えてしまった。強烈な「おじさん」ディス。

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著者プロフィール

作家、翻訳家。著書に、小説『スタッキング可能』『英子の森』(河出書房新社)、『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)など。2019年、『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)収録の短篇「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞候補に。訳書に、カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』『レモン畑の吸血鬼』、アメリア・グレイ『AM/PM』(いずれも河出書房新社)など。

「2020年 『彼女の体とその他の断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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