- Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122051584
作品紹介・あらすじ
美しくて、かよわくて、本を愛したミーナ。あなたとの思い出は、損なわれることがない-ミュンヘンオリンピックの年に芦屋の洋館で育まれた、ふたりの少女と、家族の物語。あたたかなイラストとともに小川洋子が贈る、新たなる傑作長編小説。第四二回谷崎潤一郎賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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1972年3月16日、山陽新幹線が岡山まで延びた。
その翌日に岡山から新幹線で芦屋の親戚の家に1人で引っ越しする私(朋子)が語る物語。
朋子は小学6年生の12歳で4月から中学生。
実際の小川洋子さんが10歳の年だから、朋子は小川洋子さんの分身として読んだ。
ミーナは本当の名前は美奈子で1960年生まれ、引っ越し先の子で朋子より1学年下だ。
カバ(コビトカバ)のポチ子は、当時病弱だったミーナを乗せて歩く行進手段という役割を持っていて、物語のアクセントになっている。
ミーナはマッチ箱を宝物にしていて、マッチ箱に描かれた絵から「お話」を作ることを楽しんでいる。
我が家にはマッチ箱がまだ7箱残っていたが、今どきの家庭にマッチはあるのだろうか。
線香に火をつけるのもライターになってきてるみたいだ。
物語はもちろん良かったが、しばしば懐かしさに浸ってしまった。
「樋屋奇応丸」や「オキシフル」なんて忘れかけていたし、「フレッシー」というジュースは「プラッシー」の記憶と重なった。
子供の頃に飲んでいたジュースは、お米屋さんが届けてくれたビタミンCをプラスした「プラッシー」に決まっていた。
オリンピック前には「ミュンヘンへの道」という男子バレーボールを取り上げた番組があって確かに盛り上がっていた。
当時男子バレーには凄く影響を受けて「ミュンヘンの12人」という本も買った。
本書ではミュンヘンオリンピック開催中に発生したパレスチナ武装組織によるテロ事件も取り上げられていた。
イスラエルのアスリート11名が殺害されるという悲しい結果となった事件だ。
それから50年以上経っている現在(2024年)、イスラエルとパレスチナの紛争は激しさを増している。
現在のイスラエル戦争は、アメリカ各地の大学でデモまで引き起こしていて根深い問題だ。
ミーナは健康を取り戻した後はケルンで、朋子は故郷の岡山で長い年月暮らしている。
二人が濃密に過ごしたのは1972年の1年だけで、それ以降はほとんど会うこともなく別々の人生を歩んでいる。
共に過ごした家もなくなり、何十年も経った今は記憶の中にしか残っていない。
子供の頃の思い出を懐かしむ、ただそれを物語にしただけなのだが、私もその時代を懐かしみました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「博士が愛した・」「ことり」と小川さんの作品では不思議な主人公が出てくるが、この作品ではコビトカバに乗って小学校へ通学するミーナが中心に描かれている。
現在から遡って、むかし母と娘の二人暮らしから、伯母さんの家に1年間居候する朋子の視点で語られる。伯母さんの家は芦屋で、以前は近所に動物園として開放していた庭付きの大豪邸。義理の伯父さんが小さい頃に親から買って貰った動物達で、今はコビトカバだけ残っている。相当の高齢だが大人しくて、体の弱い小6のミーナを乗せて学校まで往復(行進)してくれる。表題の基となったようだ。
ミーナは本好きで、自分でも物語を作るが、唯一の読者は朋子。マッチ箱を集めていて、その裏側に小さい字で書きつける。ミーナの初恋らしきも語られ、甘酸っぱい気持ちになる。
ミュンヘンオリンピックの時代のことで、その時代の世相が詳しく描かれて、場面場面に懐かしさを感じる。 -
子どもの頃に経験した夢のようなひととき。
その時に感じたときめきや切なさ、風景から零れ落ちる匂い、流した涙や汗の温もり。
2人で過ごした秘密の時間、家族の笑い声が響く食卓。マッチの炎、図書館の貸し出しカード……。
たくさんの記憶のかけらたちが、時間が経つほどに鮮やかに蘇り胸の奥に根ざしていく……。そんな感覚、かつて子どもだった大人たちにはわかるんじゃないでしょうか。
まるでミーナと朋子が芦屋の洋館で過ごした季節は、大人になってしまうととけてしまう魔法にかかっているような時間でした。
時の流れは、例えば祈りのようで。崇高で尊いものに触れることを許されたような気持ちになります。物語をぎゅっと抱きしめたくなりました。 -
昭和初期の優しい日本の暮しをイメージして読みました。
事業に成功した家で生活する家族の日々。
そこで暮らす娘と、その娘が大切にするもの。
大事にするものがあることは幸せです。
本の中では数十年という日々が流れていきます。
出会いも別れもあります。
悲しいことも受け止めなければいけない。
それが人生であり、暮しなのですね。 -
きっと誰にでも、こんな宝物のような、子供の頃のかけがえのない思い出ってあると思う。
ミュンヘンオリンピックやジャコビニ彗星など、キラキラした記憶がちりばめられていて、何とも心温まるお話でした。
こんなことさりげなく物語にしてしまうなんて、すごい。 -
小説の舞台となる芦屋の近くに住んでいるので、小説なのか身近なところで起こってる噂話に耳を側立ててるのか境界が曖昧になるとても不思議な読書体験でした。
芦屋山手商店街の和菓子屋さんてアレやな…、芦屋でいちばんの洋菓子店Aのマドレーヌってアレね…とか、打出の図書館に神社…散歩コースやん!と土地勘のあるものが次々と出てきた上に、ミュンヘン五輪のバレーボール!
私がいちばん必死になんてみたオリンピック!そして競技!
本の感想というより、卒業記念文集を読んでるような気分にもなりました。 -
小川洋子さん、好きなんです。声や語り口調、雰囲気。ラジオも必ず聴いています。小川洋子さんの存在自体は30年ほど前から知っていました。まだ世に出たとは言えない時期ではないでしょうか。当時、お付き合いしていた女性から高校の後輩が、文筆業をしていると聞いたのです。その人が小川洋子さんだと気づいたのは、その後です。この作品に登場する子供たちは、ほぼ私と同年代。芦屋周辺にも少々馴染みがあります。「ミュンヘンへの道」を必死に見ていた記憶、テレビの前でブルガリア戦を泣きながら見たことも思い出しました。優しい物語。随所随所に出てくる挿絵の色やデザインが素晴らしい。小川洋子さんの世界を満喫しました。
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物語の始まり、朋子を優しく迎えてくれた一家はまるで夢の中の住人のように完璧な存在に思えた。
朋子がお姫様であるかのように接してくれる伯父さん、入学式についてきてくれる伯母さん、優しく部屋に招き入れてくれるおばあさん、愛情たっぷりのご馳走を作ってくれる米田さん、静かに見守ってくれる小林さん、愛らしいポチ子、そして聡明な美少女ミーナも。
なんて素敵な家族だろうと、朋子と一緒になって感激してしまう。
物語を読み進めていくと、彼らが最初に考えていたような完璧な人達ではないことが分かってくる。
そして、夢の住人に見えていた時よりもずっと好きになってしまっていた。
私はミーナのマッチ箱の物語がとても好きだ。
彼女の点す美しい明かりを見てみたい。
朋子とミーナがローザおばあさんと米田さんにバレーボールを披露しているところが見たい。
出来ることなら参加したい。
一緒にジャコビニ流星雨を待ちたい。
2人の少女の宝石のような秘密の時間を一緒に過ごすことが出来たらどんなに素敵だろう。
…なんてことを考えてしまうけれど、この物語は十分に夢のような時間を与えてくれたとも思う。
とっても幸せな優しい時間を。-
はい!きっと大丈夫です。
「何か面白い本ないか」はなかなかハードルの高い要求ですよね。
私も自信を持って薦めた本が空振りに終わったこ...はい!きっと大丈夫です。
「何か面白い本ないか」はなかなかハードルの高い要求ですよね。
私も自信を持って薦めた本が空振りに終わったことが何度もあります。
最近は、たくさんの人に薦めることが、ダメージから身を守る最も有効な方法のような気がしています。
1人でも好きと言ってくれる人がいたら、何十人にダメと言われても(実際にそんなに大勢に薦めたことはありませんが)へっちゃらなんです、意外と。(私だけかもですが‥)2012/07/14 -
あぁなるほど… たくさんの人にすすめる… それはイイですね!
なんだかいい言葉をもらいました。ありがとうございます!
職場なんかでもやって...あぁなるほど… たくさんの人にすすめる… それはイイですね!
なんだかいい言葉をもらいました。ありがとうございます!
職場なんかでもやってみるかなあ。2012/07/15 -
2012/07/16
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芦屋の洋館で育まれた二人の少女と家族の物語。
この気持ちを何て言葉にすればいいんだろう…。
朋子がミーナと過ごした思い出はキラキラしてて、いつまでたっても色あせない。
喘息持ちで本が好きなミーナ。偶蹄目カバ科コビトカバ属のポチ子。誤植探しが趣味の叔母さん。ドイツ出身のローザおばあさん。住込みお手伝いの米田さん。庭師の小林さん。
みんなとの毎日が幸せで、何てことない日常がじわりと沁みてくる。
静かで穏やかなこの世界観が落ち着く。
コビトカバのポチ子もミーナが創りだす小さな箱の世界も好きでした。
大人になってから思い出す子どもの頃って、なぜか実際以上にキラキラしてて濃密な時間のように感じる。
朋子とミーナの宝物みたいな1年を疑似体験。
小川さんの文章が心地いい。
優しい読後感も良かったです。