はじめての宗教論 右巻 見えない世界の逆襲 (生活人新書)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140883082

感想・レビュー・書評

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  • ・近代という時代の到来とともに、「見えない世界」に関することは捨象され、「見える世界」が中心的に扱われるようになりました。そのため人間は、「見えない世界」について論理的に思考することが苦手になってしまったわけです。しかし、苦手になったとはいえ、その問題を解決したいという気持ちはある。なぜか。それはわれわれが必ず死ぬからです。そして人間が死ぬことを予知できるからです。つまり人間は、死についての根源的不安を抱えている動物です。
    …死あるいは死後の世界、すなわち「見えない世界」に対する関心や恐れはどうしてもある。だからこそ、宗教なんてもう時代遅れのものだと思っている人ほど、宗教と名乗らない宗教(自己啓発、マルチ販売など)にたやすくひっかかってしまうわけです。

    ・「実体的ではないもの」や「目に見えないもの」、あるいは数値化不能でカネへの換算ができないものが理解不能になってしまいます。慈しみとか、思いやりとか、愛情とか、友情とかが分からなくなってしまう。そのあたりに注目したのが、心理学という学でした。「見えない世界」を人間心理という形で処理したわけです。これはかつて、神学者たちが神学の領域でいじっていた問題でした。

    ・官僚の仕事というのは合理的で、宗教とは程遠いものに思われるかもしれません。官僚とはまず、マニュアルどおりに動く存在です。あるポジションに就いた人間がマニュアルに即して仕事をやると、誰がやっても同じ結果が出る。これはかつて外務官僚であった私が言うのだから、間違いありません。
    この点は宗教、特に祭祀(宗教儀式)と一致しています。祭祀では、ある特定の手順を踏まえれば、同じ効果がでてきます。余人をもって代えがたい人間というのはいません。禊にしても祓いにしても、手順が重要です。この祭祀と魔術も親和的です。

    ・ヨーロッパにおいては人間が動物になることがある。狼男がそうですね。ところがヨーロッパには化け猫はいません。動物が人間に化けることはないのです。なぜでしょうか?
    仏教的な世界観においては人間と動物の間に区別はありません。息をするものは皆、平等に動物です。動物の特徴は何かといったら痛みを感じることです。植物は生き物ではあっても痛みを感じないとされるとため、動物とは区別されます。だから、植物は食べても良いが、動物は痛みを感じるので、食べてはいけないという発想が出てくるのです。これは、痛みを感じるようなことを他者にしてはいけないという考え方に基づいています。
    キリスト教の場合はどうか。聖書では、神が人間を創ってそこに息を吹き込む、となっています。
    …他方、神は人間以外の猫や犬、いのししを創るときは空気を入れていません。
    そのため、キリスト教では人間は特権的な地位をもっており、他の動物を食うことができるわけです。特権的な地位のところに動物が上がっていくことはできません。逆に人間が破門された場合は、動物に堕ちていくことがあるのです。

  • 著者の本を初めて読んだ。どんな本を書いているのか興味があったのだがが、本書については、膨大な知識を雑多に盛り込んだだけのようで残念梛な印象。著者が、大学院で神学を専攻したプロテスタントのキリスト教徒だったのは初耳。

  • この本の目的ではないのだが、唯名論と実念論の箇所が理解しづらい。
    おそらく、そこが理解できれば本書もクリアに読み進められるのではないだろうか。

  • 日本人とキリスト教。

  •  神学の世界は、そんなに新しいものが出てきていないようだ。著者の専門である、政治的な捉え方が面白い。後半に展開される類型として紹介される、魚住忠一の『日本基督教の精神的伝統』の考え方はとても面白く、もっと早く知りたかった。

  • 「サウロはやがて改名してパウロになり(132ページ)」という部分は、違うのではないかと感じた。「サウロ」は「パウロ」のヘブライ名というだけで、そもそも同じ名前ではないのかな…。「ペテロ」と「ケファ」みたいな関係で。そういう点が一つ見えると、全体的に見て内容は奇抜で興味深いのだが、自分の分からない分野(哲学的な部分など)について、内容をそのまま鵜呑みにするのが怖くなってしまう。

  • フォトリ52。内容濃く、行きつ戻りつしながら読みました。理解できていない点も多いので、きっと、また、読み返します。貨幣に置き換えることのできないもの、具体的な事物の形を取らないものを論理的に語るのが神学、そして、人は元来、何かを信じることなく生きるものではない都いう説明が、私にはしっくりきました。

  • 週刊誌や月刊誌のエッセイなどはよく読むけど、纏まって読むのは初めての佐藤優の本。
    以前パラッと立ち読みした別の著作に寄れば、この人大変な読書家で、1日に3冊4冊は当たり前だそうだ。勿論全部を精読はしていないだろうけど、でも、あれだけたくさん原稿を書いているところからして、恐らくこの人は1日26時間くらい起きているのではないだろうか。
    そんな作者の宗教論。右巻と云うからには左巻もあるわけだが、そちらはまだ未読。次に図書館に行った時に借りよう。
    本の感想はその時にでも。
    でも、作者と基本的な教養のレベルに差があり過ぎて、はっきりってついて行けない部分が多々ある。

  • 何のために神学を勉強し、知識をつけるのか、それは救済のため。
    ユダヤ教で電気は火の仲間。シャバットではエレベーターは利用できない。ホテルでは専用エレベータがある。車に乗ることも許されない。
    ユダヤキリスト教では1日は朝から始まるのではなく夕方から始まる。
    安息日は金曜の夕方から始まって土曜の日没まで。

    中世においては神学に最高の治世が集約されていた。ものの本質や存在がどうなっているかということについては、神学部でしか研究できない。自由学芸ではものの本性の研究ができないばかりか、本性への問、つまり、なぜそうなっているものかという質問、中世で哲学では何性、を発することも許されていない。許可されているのは神学部だけ。

    キリスト教世界では入場料をとるとか会費を取るという感覚はない。組織の運営にいくらかかるかわかっているから、缶を1つ置いておけばよい。

    神学を勉強するときはドイツ語は必修。

    イエズス会のイグナチウス・ロヨラは軍人だったから上官の言うことは絶対に正しいという上意下達で官僚的なヒエラルキー組織を作り、軍隊に準じた手法で訓練するようになる。こうして作られたのが全世界各地にあるSophia University、上智大学。
    上智の外国語学部出身者は語学が良くできる。それは教育手法が軍隊の語学プログラムに基づいているから。上智で公務員試験や司法試験の合格者がぐっと伸びたのも教えられたことをきちんと暗記してそれを反復する、軍隊式の教育方法を取り入れているから。

  • こちらの方が先に書かれたもののようだったが、左巻に続き読んだ。上下ではなく、左右なので問題ないだろう。左巻は「宗教、特にキリスト教信仰が実社会に与えた影響」を解いているのに対し、右巻は「宗教、キリスト教とは」を語っている。著者が真面目なクリスチャンである立場からの言説が、いやらしい客観性を持たず心に残る。人間は宗教的な生き物であるという前提にまず納得。我々の生き方と見えない世界との接点をよく伝えてくれる一冊。

    13/04/16

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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