NHK 100分 de 名著 レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 2021年6月 (NHK100分de名著)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142231263

作品紹介・あらすじ

本が燃やされる「ディストピア」は、SFか、現実か。

読書が有害とされ、本を所持しているのが見つかるとファイアマンに家ごと焼き払われてしまう全体主義的な近未来社会。人びとは甘い仮想現実世界に浸り、考えること、記憶することを放棄している。職務に忠実なファイアマンである主人公モンターグは、ある少女との出会いをきっかけにその職務や、社会のあり方、自らの実存に疑問を感じ始める……。「近未来SF」の姿をとりながら、反知性主義が広がる「現実」を鋭く風刺するこの予言的作品に込められたメッセージを、「思考」「知識」「論理」についての著作も多い科学哲学者の戸田山和久氏が読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 未来予知に関してはかなりの精度を誇るが、終わり方含めてこんな未来しかないのだろうかというストーリー。
    本編で気づかなかった観点からの考察をもらえるのは嬉しい。
    先生がこの話を好きじゃないと仰ってたのも新鮮でした。
    過去の名作を自分が紹介しにきてるのにテレビで好きじゃないと言えるのは先生のこの話の考察の説得力を上げていると思いました。

  • 「戸田山節」成分は少なかったが、相変わらずこの先生はおもしろい。映画との差分も知れて良い。

    終わり方に関しては、「蒙を啓く」ことで終わるのもあまりに楽観的(というか、作中通りの単純なストーリー展開になりさがってしまう恐れがある)ではあるから、批判されて然るべき(むしろ批判があることに意味がある)だとは思うが、あえて真の理想郷ではなくて、諦めのうえにある理想郷を創ることにしたのではないかと考えた。

  • 本を書くことの大変さを指摘した文章がある。「その人間が、考えていることを書物にするまでには、おそらく一生を費やしたのじゃないかな。世界を見、人を見、一生を賭けて考え抜いたあげく、書物のかたちにしているのだ」。書物を消滅させてしまうことは重大な損失である。

    本を否定する署長は「性と麻薬。機械的に反射作用をもたらすものにかぎる。テレビ・ドラマが愚策で、映画がつまらなく、演劇が気がぬけて、退屈してきたら、チクッと薬品を注射する」。書物の対極にある破滅的な快楽がドラッグになる。

    警察はモンターグの代わりに無関係な別人をモンターグであるとして殺害する。面子のために冤罪を作る。日本の冤罪事件と共通する警察の体質である。

    本を求める人々にとって希望が戦争になっている。戦争が体制を破壊しなければ救いが来ない。物語としては区切りをつけた終わり方であるが、現実味が乏しい。戦争で破壊されても、太平洋戦争後の日本のように官僚機構は生き残ることが多い。戦争で体制が滅びれば言論弾圧がなくなると期待できるだろうか。

  • 華氏451度を読み終わりこちらも読む。解説の本であるためわかりやすい。
    解説により解像度もあがるというものです。
    こちらも共に手にしてよかった。

  •  『華氏451度』を読んだ後に、この本に目を通してみた。『華氏451度』を最初に読んだ時は、現実の風景を描写しているのか、雰囲気を作り上げるために想像の場面を表現しているのか分かりにくいところがあった。私が想像の場面だと思っていたところが、この解説本では現実の風景の描写だと述べられていることもあって、もう一度読み直したくなった。
     『華氏451度』を読みながら、本が忌むべきものとして扱われているディストピア的な社会の物語から、過去を記録することや疑問や疑いの目を持つことの重要さを受け取ったけど、それって常に素晴らしいものでありうるのか?とも感じていた。だから、解説本で、啓蒙は「目覚めることを強要する暴力」でもあると言っているところに共感した。

  • とても面白い
    本作を読んだこと無いけど、十分すぎるほど楽しめた。
    遠い未来の話ではなく、そこかしこに身近で起こってることが散りばめられており、日常の中の小さなデストピアをたくさん発見することにつながった

  •  作品内にちりばめられた対比の構造が面白かった。たぶん、解説が無ければ気づかなかったであろうレトリック 暗喩についてまでも解説されたので、たいへん濃密な読書体験だった。(もちろん、通常の読書体験とは別物であることには留意されたい)
     映画版への言及があったのもよかった。私は映画版の存在を知らなかったし、きっと知っていても、価値を見出せなかっただろう。映画版でより洗練された描写がある、という指摘は、まさしく解説ありきの支店だった。
     原著の伏線の数々には脱帽する。特に、鏡の暗喩については言われなければわからなかっただろう。そういったこまごまとした伏線=物語としての説得力の強さが、この原著の魅力の一つなのかもしれない。
     それだけに、未熟な読者である私は「啓蒙」の手段を教えてほしかったと悲嘆せずにはいられない。現実を生きる私たちにとって、神の鉄槌による強制リセットはあまりにも非現実的で、期待できない手段だ。私たちがこれからどうしていくのか、それは、それこそ悩みぬいた主人公のように、私たち自身で悩めということなのだろうか…わたしは、このめくらの洞窟から抜け出せるのだろうか。まさしく鏡を覗き込むような読後感だった。

     ざんねんなところ。少しだけ解説者の政治思想が現れていたのが目に障った。当たり前だが、外国の昔の人間である原作者は、今の日本の政治なぞ知らないし、考慮していない(していたとしてもせいぜい母国のそれだろう)。だのに現在の日本の政治を揶揄するのは、名著の解説といった役割から逸脱していたように思う。
     それだけ原著が克明に未来を見据えたものであったといいたいのだろうけれど、それこそ読者が察するべきところであって、口(文字)で説明するのはナンセンスだ…美意識の違いなのだろうか。

    原著は……いつか読めたらいいね……

    自分のブログ記事より引用しました。

  • NHK
    20221219 本作を読了

    朗読をした朝倉あきさん、玉置玲央さんがすばらしかった

  • 破壊する炎→継承する炎。
    メディアはどんどん簡略化していく。知識人にならなくても生きていける世界になる。

  • 反知性主義。2020年代の課題。また言語(読み書き)が失われて、感情が他者に取り出されるほど浅くなってしまっている。本を読めばいい。本を。画面ではなく本を。本が燃やされる社会とは、画面をみる社会なのではと。

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著者プロフィール

1958年生まれ
1989年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学
現 在 名古屋大学大学院情報学研究科教授
著 書 『論理学をつくる』(名古屋大学出版会、2000年)
    『誇り高い技術者になろう』(共編、名古屋大学出版会、2004、第2版2012)
    『科学哲学の冒険』(日本放送出版協会、2005)
    『「科学的思考」のレッスン』(NHK出版、2011)
    『科学技術をよく考える』(共編、名古屋大学出版会、2013)
    『哲学入門』(筑摩書房、2014)
    『科学的実在論を擁護する』(名古屋大学出版会、2015)
    『〈概念工学〉宣言!』(共編、名古屋大学出版会、2019)
    『教養の書』(筑摩書房、2020)他

「2020年 『自由の余地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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