くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152086037

感想・レビュー・書評

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  • この一人称を自閉症の人間の内面として捉えることには大きな抵抗があるが、一面は映していたようにも思う。

    ハッピーエンドとも、そうでもないとも言えるなんとも言えない終わり方。

    しかし良書であることは間違いない。

  • 自分を自分たらしめているものは何なのか。

  • 2022年10月28日再読。自分が2010年に★5をつけていたが読書メモを残しておらず、当時何を感じたのか知りたくなり再読した。

    自閉症の主人公の物語。
    「ノーマル(健常者)」と「それ以外」という枠組みを軸に物語が進んでいく。
    タイトルの「くらやみの速さ」は「光と暗闇」という枠組みに違う見え方の可能性を気づかせる。

    物語の中で私は「ノーマル(健常者)」と「それ以外」の境目でその評価の反転や往復を何度もした。ニーチェ以来のニヒリズムについて言うまでもないが絶対が失われた世界で、悪に描かれがちな資本の論理まで含め、どれが正しということもないのだろうと思った。
    ただ、常に、一人の人間の生きた物語があるということなのだろうと思う。
    自身の人生についてもだが、できうることなら、それが、人の心を動かすものであればと思わずにいられない。

    SFであり自閉症の主人公という「自分からの遠さ」を忘れる生々しさを感じた。
    この物語は、読み手に、強く、今までと違うものの見方を、問いかけるように思う。

    果たして10年前の自分は、どう感じたのか、改めて読んでも、実は思い出せなかった。素晴らしい物語であることは間違いないが、その時に何が心を打ったのか。
    本書のテーマといわれる、「自己の連続性(アイデンティティ)とは」という問を、その意味でも考えずにいられない。

  • 近未来のお話。
    医学の進歩で、幼児期に治療を受ければ自閉症を治療できる。そして、生まれるのが早くてその進歩の恩恵を受けることができなかった自閉症の人びとのために、新しい治療法の臨床実験を始めることになった。
    自閉症の中でも、特殊な能力を持ったイデオ・サバンの主人公ルウが、障害を持つことが悪いことなのか?このままの自分ではいけないのか?ノーマルであるということがどういうことなのか?を問い続ける物語。

    どんな障害を負っていたとしても、廻りの人々と調和していこうと努力をすること。そして健常者の側は、そういった障害者のありのままを受け入れること。それは、それほど難しいことではないはず。

  • くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

  • 「近未来小説」ということを忘れる。読み始めてから間をおかずに読了。そしてこの小説はそういう読み方のほうがいいと思う。
    読んでいて名作『アルジャーノンに花束を』を思い出す。
    結局元に戻ってしまったチャーリー・ゴードンに本書のような治療が施されたらどうなるだろうか、などと余計なことも考える。

    「何かを得るには何かを捨てなければいけない」と成功法則の本ではよく言われる。
    これは「自分がどんな選択をしてその結果どうなってもじたばたしない、失うものなど何もない」という、肝の座ったというかある意味切羽詰まって追い詰められた人間が一か八かで博打としてやる行動で、自分のようなプチリア充野郎は光も闇も速度のない生ぬるい現状でぬくぬくしているのが一番なのである。
    本書の主人公はその賭けをするわけだが、彼が賭けに勝ったのか負けたのかは読み手の判断にゆだねられる。
    私の場合は全編を通じて主人公に感情移入してしまったので(多くの人もそうなると思う)、結末は複雑な心境だ。

    また、自己啓発書でよく言っている「あなたはいまのあなたでいい」という言葉がなんと薄っぺらいお花畑的発言なんだろうか、ということを再確認できるすぐれた小説。

    終盤、主人公の周囲にいる人物の名前がジャニスとヘンドリックスという、オーバードースで死んだロックスターの名前なのがなんだか意味有りげ。

  • 自閉症が幼年期であれば治療できる時代に、成人でも治療可能かも?と云う機会を与えられたら、どうするのか?そしてどうなるのか?
    と云う筋書きで、物語の9割程度が治療に対して悩んだりなんたり、残りはその決断後の話と云う構成にまずちょっと意外でした。SFヒューマンドラマかと思いきや、物語自体にはSF要素は殆ど無く、現代社会の何かに置き換えて読んでも違和感無いんじゃないかな、なんて。
    前に読んだ「真夜中に犬に起こった~」の主人公より遥かに読みやすいのは、著者の体験の違いかなとも(エリザベス・ムーンは自分の息子、マーク・ハッドンは患者との経験を基にしていた…はず。)
    ルウが総じて聡明な人間であることが、この物語の救いになっていると思いました。ハッピーエンドと云うには、ちょっとなにかモヤモヤするので。
    しかし、面白かった!
    訳者が小尾芙佐さんで、先述の他作品と同じ方です。「なぜかというと~」が出てくると「あぁ…」という気持ちに(笑)

  • 自閉症者からみた視点はこんな感じなのかと驚く。会話すらパターン化して意識的に行っていた。なるほど、これは普通に生活するのは大変だと思う。また、ノーマル(正常)の人ならとか、ノーマルの人だったらと、意識しすぎてしまうところも、物事をより難しくしていると思った。
    自分の置かれている立場を、『ノーマルを求められる反面、ありのままの自分を愛せと言われる』とルウは表現した。確かに、自分ならルウに都合よく場面場面に応じて相反することを言ってしまいそう。また、その時々はきっと自分は真剣に相反することを言っているのだと思う。ルウの言葉にはこれと同様にギクリとさせるものがある。
    自閉症者としてのルウに長い間(ページ数)寄り添っていたため、この結末は寂しかった。良かったねって気にはなれない。言うならば、すごいですね、くらいよそよそしい感がある。
    作中で亡き両親は治療を望むのかという問いがある。私は逆に現在のルウを両親はどう感じたのか知りたい。喜ぶのか、寂しく感じるのか。自閉症の子を持つという著者はどう思ったのだろうか。すでに他界している両親という設定に著者の考えが隠れているのだろうか。

  • フォローさせていただいている本読みの方のツイートから興味を持ち、地元の図書室でお借りして読了。
    貸出カウンターの係の方に「変わったタイトルですね。光には速さがあるけどね……」って声を掛けられて初めて「ああマジだ!」とびっくり。ダメですね、もっとちゃんと考えて生きないと。

    で、このタイトルのような疑問を抱いているのは、主人公にして自閉症患者のルウ・アレンデイル。本作の大半は彼の視点で語られます。
    私の中の自閉症スペクトラムに関する知識は微々たるものなのですが、以前スクールカウンセリングをかじった時に知った、いわゆる「自閉症の症状」。これがルウの心象描写の随所に見られて、非常に興味深かったです。頭の中でこう考えているからこういう行動になるんだ、というのが、読んでいる側にスッと入ってきました。

     確かに、私とあなたは違う。
     違うことで、辛いこともある。
     しかし、だからといってそれが不幸だとは限らない。

    ……っていうアイデンティティの問題は、主人公のみならず全ての人に関係する永遠のテーマだよねえ。なーんて切なさを感じながら読みました。

    読了済みの人とオチについて語りたくて仕方ありません。
    身の回りにそういう人がいなくて非常に残念。

  • 「くらやみの速さはどれくらい」読んだ http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/11693.html … せつない。。。アスペの話とは知らずタイトルに惹かれて書棚に手が伸び。SFに区分されていたりアルジャーノンの枕が付いていたりするけど全然違う、これは自己認識と客観評価(社会受容)の話だ(つづく

    複雑な内面世界と高い知能を持ち、企業で専門職に就き成果を出し続けていても、定期カウンセリングでは自閉症患者として一括りに幼児扱いされたり、対人反応が相手にとって標準外だと知的障害扱いされたり。自分の尊厳のために決断をしたルウの気持ちは理解できる。わたしにも覚えがある(つづく

    ルウの思索や人間観察が美しい。こういう繊細さを持つ思慮深い人間になりたい。題になっている光と闇のエピソードは印象深い。比喩としてもたびたび出てきてその度に考えさせられる。闇と光、そして教会での苦悩のシーン、そこだけでも読む価がある。別の訳で読みたいな、原著を読むべきか。。(おわり

    人的資源部とはhuman resourceの訳か?ふつう人事部って言うと思う、デスク型パソコンはデスクトップ、携帯パソコンはモバイルかパームのこと?何これ昭和に出た本なのと思う訳語が無数に。こんな例があると他もしっちゃかめっちゃかなんじゃないかと思えてしまうんだよね。。

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