虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088314

作品紹介・あらすじ

9・11以降、激化の一途をたどる"テロとの戦い"は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは?-小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。

感想・レビュー・書評

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  • 何という哲学的、思索的なSF作品。
    難解。難解なんだけど、出てくるアイテムはカッコいいし、バトルシーンはまるで映画を見てるようで、そこには相当なエンターテイメントが溢れてる。面白い。

    種としての人間の業、あるいは生物の業
    個人が背負う罪と罰
    正義と悪
    意思と運命

    生命とは結局なんだ
    自分とはなんだ

    エンタメの裏には、そんな問いがずっと置かれている。

    それにしてもこの作者の深い教養とマニアックな知識ときたら。これでもか、と投げつけられて全部理解できないのが悔しいんだけど、刺激的で知的好奇心が揺さぶられ続ける。

    「ハーモニー」もそうだけど、この小説の世界は今の私たちの世界に近接してて、未来のことだとばかり思ってたらいつの間にかそうなってた、ということがありそう。テクニカルなことだけでなく、制度や文化も。ということは、虐殺の文法がついにこの本の中で語られることがなかったのは、それが語られると虐殺が始まるから?
    知りたかったような、知りたくないような。

  • 文章が端整で、頭の中に自然に場景が湧いてくるのがとても好ましく感じた。作者の他のを読みたい

  • 一気に読んでしまいました。「虐殺は人類の本能なのか?」と言うテーマは、後に出た高野和明「ジェノサイド」と共通していますが、結論は全く逆。読み比べるといろいろと興味深いです。かなりミリタリー要素が強い内容なので、慣れないと読むのが辛いかも知れません。しかしそれでもなお、この読ませる力は凄いです。「ハーモニー」が早く読みたい。

  • 一気呵成に書き上げられた、新しい時代のデビュー作として申し分なく堪能できた。間違いなく労作。
    ただし、そういった作品についありがちな、使い古された「文学的」な比喩の挿入は少々大げさで鼻についたのが玉にキズ。でもそれを差し引けば、無駄でだらだらした描写は少なく、要領よく構成されて読みやすいのは、読者、それも海外で翻訳されることをも意識されているのか、そんな印象さえ受ける。

    端折った感もある。
    やや詰め込みすぎかと思えるくらい、21世紀の幕を開けた人類文明が直面している倫理と科学の問題を展開させている。

    それにしても、SFは滅多に読まないので詳しくないが、こういう内容が、これまでの日本SFでは書かれなかったのって本当だろうか?それが正直な驚き。
    読んでみて、たしかに着想がいいし、そうやすやすと真似できない創作エネルギーに感心するのだけど、本作をもって21世紀日本SFの代表作、とまで世間に持ち上げられるのは言い過ぎだと思う。

    むしろ、新しい日本文学、いや世界文学の夜明けを告げる、若いエネルギーに満ちた、記念碑的作品ではないだろうか。

    なにせ、心理描写・比喩・構成など、伝統的な文学としての面で見れば、もっと完成度の高い名作は、他に山のようにごろごろあるのだし。

    ・・・と、つい偉そうに拙い筆を走らせてしまうのは、あまりに本作が注目されすぎ、著者の夭折も相まって(?)、なにやら揺ぎ無い古典のように祭り上げられてる印象が否めないから。でも、話題になっていろんな議論を生じさせるぐらいがちょうどいいのかもしれない。

    あと個人的には、本編最後から二つ目のパラグラフにおける主人公の「幻想」が気に入っている。「大げさな幻想」は、ここの文脈に一番ふさわしいと思った。(2013/11/9、編集)

  • 愛する者を守るため
    これを知った時愕然としました

    幾度となく繰り返される「人は見たいものしか見ない」
    そうです、私も。そして世間一般ではとても評価のされる行為、感動映画ではお決まりの題材「愛するものを守るため」
    何から守られているの
    でも私達はぼーっとしている限り、見たいものしか見れない

  • ▼第一部の時点で、傑作だというのは確定的に明らか。やばい。超ドキドキする。血が沸騰する。何これ!
    ▼読了。…………血が沸騰すると思って読み出したのに、最後で血が凍りついた。第三部くらいから、「あ、命と愛の話なのかしら」と思い込んじゃったのが痛恨のミスだった。セカイ系だと思ってたものがその……決断主義だったみたいな。第五部以降、たった50ページ程度のひっくり返しっぷりにびびった。寒気が止まらない。
    ▼「人が自由だというのは、みずから選んで自由を捨てることができるからなの」。イメージに残って序盤、しるしをつけて読んでたんだけど、最後のアレを読んでから思い返すと……うそ寒い。
    ▼こんな『覚悟』を、果たして人はすべきなんだろうか。主人公は、母親を殺すか殺さないかの二択を選んだ時とまったく同じことをしていないだろうか。つまり、思考停止。二択を受け入れた時点で、他の選択肢を消去していたことは考えられないだろうか。もっと別の方法はなかったのだろうか……いや、物語そのものよりも、この作家が何を言いたくてこの話を書いたのか、っていうことが、まずもって問題かもしれない。
    ▼この人は強く『覚悟しろ』と言っている。でも私は、それでいいのですか、と問う。この選択をして罪を被るくらいなら、私は何もしないことを選びたい。引用した台詞にならうのなら、責任だって、背負わない自由がある。『覚悟しない』自由や、虐殺の器官を捨てる自由が。でも『覚悟しない』を選ぶことで、捨てる自由ってなんだろう。そんなことを考えた。
    ▼きっといつか、誰かが収まる棺の中にこの本も一緒に入るだろうと思う。それくらい、影響力のある小説。(09/4/2読了)

  • サピア・ウォーフ仮説やらチョムスキーやら見たことのある単語が並ぶSF?
    発想は面白いが、ちょい冗長に思えるような。
    ピザが食べたくなる。

  • [この世界はクソみたいなもんだ]本当に…。
    ときたまこうやって本や映画で知らない悲惨な現実を見せられて何かを考え慮ったような気になった自分をなにがしか偉いと思ってしまう浅ましさ。
    そうして日常を過ごしているうちにそんなことは気にかけなくなっていく社会の巧妙さ。
    だからといってどうすることができるわけでもなく、自分のできることは小さな多分芥子粒にもかなわないほどで。
    だからこそジョン·ポールの言葉に私も頷きかけてしまう。そんな危うさがどこにでも転がっていそうだ。

  • 読む前は結構戦争的なSFが続くのかと思った
    フランクル的な戦争や人の命のやり取りを通してどう考えるかを描いた哲学的な作品だった。

    アレックスはキリスト教だったがそんな彼が「地獄はここにある」は格好良いし、人工筋肉欲しいし

  • 大学生1
    3月

  • この題材と設定で、この読みやすさと説得力。なるほどすごい。そこはあくまでも現実と地続きの世界で、各国の描写やラストの淡々とした絶望にやるせなさを感じる。人は見たいものしか見ない。ほんとにね。著者の新作が読めないことがとても残念。

  • 24:タイトルと表紙絵は通勤向けではないけれど、それらから連想されるようなスプラッタな内容ではなく(いや、ある意味そうかも)、言葉と意識、自我、意思、そういった関わりを描いた大作でした。残酷表現も多々含まれてはいますが、苦手意識を持つどころかガツガツ読めてしまいます。本屋に平積みされていた頃、興味を抱きながらもスルーしてしまったのが悔やまれます。むちゃくちゃ好み! 文庫版を購入予定。

  • これを只のライトノベルとか、単なる近未来SF小説というのは過小評価ではないか?
    かなり知的・思索的読み物となっている。
    アニメ映画では分かり難かったことが、原作ではよく分かる
    人間は言葉を操り、1対多のコミ二ケーションをはかれるようになった。
    言語は思考を規定するのか?しないのか?

  • 近未来の世界を描いてはいるが、現代の抱える諸問題や社会の構図、技術のトレンドを土台に緻密に構築された描写によって、リアリティとSF的な非現実が同居した独特の雰囲気を持っている。語り口にややくどさを感じる場面もあるが、非現実の舞台設定と事件の構図が徐々にリンクして1つの結末に収斂して行く構図は見事なもので、読み応えがある。読み終えてようやく、著者が敢えてこの舞台設定を選んだ理由が見えて来た。これもまた読み終えてから知ったことだが、著者は本書執筆時点で既に癌に冒されており、その後34歳の若さで夭逝したそうだ。次回作が読めないのが残念である。

  • 暗殺や虐殺などの死にまつわる陰惨な事柄を扱っているが、主人公の内面を探る思索がそれを感じさせない。また、SFの世界観を紡ぐ言葉が丁寧に選ばれているので、仮想の世界がリアルに思い描ける。
    自分の行為に対する許しが欲しい。というのはひとえに安心が得たいという事だろうか?物語の中核を通る文脈はこれに尽きると思う。
    虐殺器官→目や心臓の様に人間に元から備わっているものとしてジョン・ポールがみつけた。それを追うシェパード大尉。ルツィアとの関係。最後まで終わりが見えないミステリー。

    「僕は記録が欲しくてたまらなかった。自分の想像に根拠が欲しかったからじゃない。自分が想像すら出来ていない事を認めるのが怖かったからだ。」「見つめられる事の安堵は、息苦しさの表側に過ぎない。」

  • 銀座シックスの蔦屋書店で特集されていて気になって読みました。今年上半期のナンバー1です。
    10年前に書かれたと知り、クオリティにびっくり。作者がこの2年後に夭折していたことに更にびっくり。生きていれば、大作家になっていたのでは。

  • 映画を観た後に再読しようと思っていたので、手に取った。原作のラストが好きだったから、映画もそのままでやって欲しかった。

  • 上映前に読んでおこうと思ってやっと。

    読み終わり沈痛な面持ちのワイ。
    いや、面白かったです。

    「虐殺器官」のぼんやりとした設定が明かされて、主人公たち軍人が作戦前に施される感情調整および痛覚マスキングの詳細な説明を聞いてるうちに「あれ…?これは…」て思った。思うよね。思うよ。

    だからその先があるんだと思ったのよ。
    ジョン・ポールが虐殺の文法を用いて大量虐殺を生産し続ける理由にものすごく期待するじゃない?


    そこいらのカタルシスがちょっと期待外れというか、もっとこう、あらゆるピースがハマっておおお!みたいな快感があるかなぁと思ったんだけども…インドの悪夢みたいなドンパチがクライマックスになってしまった印象。
    あの辺りの描写はとても惹き込まれる。

    というか、ジョン・ポールさんが心中を語らんでも、主人公が母ちゃんの愛を確認できなくとも、物語として語られるべきことは語られているはずなんだけど、あえてその理由を理由として語ろうとしている部分が蛇足に感じられてしまうのがとてももったいない。
    物語の核になる部分が作者の意図していない部分に発現してる感じ。狙ったとこじゃないとこに顔を出してるというか。
    それの最たるものがルツィアさんかなぁ…キーマンなはずなのに、大事なところで(この人邪魔だわぁ)ってなる。


    近未来テクノロジーの描写は10年前とは思えなくて、ああ確かにこんな感じになっていくんだろうなぁと思ったし、軍事関係の諸々のテクノロジーは攻殻感あって正直ちょっとワクワクしちゃうし、それはそうと9.11後そう間もない時期にこういうお話を作れるのはすごいことだなぁと思う。

    あと結構大事なことなので2回言いました的に同じ表現、同じ文章がよく出てくるけど、これはとても映像的でなかなか好きです。強度が増して、印象が深まる。
    コメディの基本は繰り返しだ、ってのも2回言ってて、それ自体はその通りだけど、この話の内容を鑑みると色々考えちゃって、それはそれでなかなか面白い。

  • 近未来、テロを先導する謎の男を追う米軍特殊部隊と言うメインプロットは面白い。10年近く前に書かれた作品ながらディテールまで描きこまれた様々な近未来のガジェットも良く出来ている。
    しかし、話が長くて退屈。このプロットをテンポよく進めば面白かっただろうが、ここに特殊部隊ということで生殺与奪を繰り返す主人公の死生観が長々と、それも何か所でも出てきてこの思索描写が冗長。
    特に母親との絡みが繰り返され、挙句”罰してほしい”という心理変化など全く表層的な描写で退屈。

    ガジェットが詳しいのも同様で、筋肉組織を使ったポッドなど面白いのだけど、その”筋肉”の説明が延々とあったり…。
    近未来の世界観が確立しているのは十分わかるから、不要な説明は省いた方がずっと面白くなったと思う。
    この2/3程度の長さで十分。しっかりとした編者がいれば「機龍警察」レベルの傑作になったろうに、残念!
    作者は映画が好きなようで、様々な作品・俳優が会話に登場するがすべて現在の実際の作品。
    (ただし、カラス神父が落ちるのは「オーメン」ではなく「エクソシスト」)
    この作品自体をしっかりとした脚本で映画化したら面白くなるだろうけど。主演はジョエル・キーナマン辺りがいいかな?

  • やっと読むことができた早逝の作家『伊藤計劃の虐殺器官』
    1974年東京都生まれ、武蔵野美術大卒
    この作品でデビュー。

    アエラだったか、何かの雑誌の書評欄で、
    有名な売れっ子作家がその文章のうまさに
    仰天したった2年の活動に残念がっていた作家。

    話は9・11以後、
    激化の一途をたどる世界中のテロ行為。
    サラエボにテロ組織の手製核爆弾が落ちたことにより、
    先進国のID管理はますます精密で厳格化する。
    かたや、貧困にあえぐ第三国では内戦状態が激化。

    アメリカでは特殊部隊が国が指定する悪玉を
    密かに抹殺する部隊がますます活躍する。
    ある時、同胞である一人のアメリカ人の殺害が依頼される。

    秩序が失われ、いつ内戦が激化し、その火の粉が
    先進国にも飛び火するのではないかという地域が
    その男が入国ししばらくすると必ず内戦が起こり
    血を血で洗う凄惨な状況に陥るというのだ。
    そこにその男の意図がある確かな証拠が。

    交通事故で脳死の母親の生命維持装置を切るという
    決断をした兵士が、その内面に悩みながら
    淡々と死を与えてゆく様は、近未来の脳活動をも
    科学的操作で、コントロールする国家と
    戦争という悲惨な現実に陥ることを選択する側の
    論理と向き合う。

    細かく散りばめられたエピソードや小道具も
    読む者を飽きさせない臨場感溢れる作品だった。
    映画のジャンルで「戦争もの」はあまり好まない私だが
    そんな私でも息をもつかせぬ内容があった。
    戦争、起こす側の論理、
    それを求めてしまう国民の論理
    何が始めさせてしまうか、
    なぜ止められないのか、
    そんな真理も描かれる。

    現実世界にもあまりに近いそんな作品は
    楽しめる方が多いように感じた。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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