地球の未来のため僕が決断したこと

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100436

作品紹介・あらすじ

温室効果ガスの排出量をゼロにするしか、我々が生き残る道はない。「気候大災害」を回避するために、ビル・ゲイツは政治・経済・科学のあらゆる側面から分析を進めてきた。10年の調査が結実し、パンデミックをも予期した著者の描く未来像が明らかに。20年ぶりの著作。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    環境問題は、身近な問題である一方で議論が漠然としている。
    パリ協定は「2030年までに温室効果ガス25%減」を目標としている。しかし、それに向けて行うべきはクリーンエネルギーの開発なのか、石炭・火力発電所の新規建造の停止と段階的な廃炉なのか、はたまた電気自動車の普及なのか、何を中心に取り組めばいいのかイマイチ分かりづらい。「地球温暖化」と一言で言っても関係するファクターが多岐に渡るため、どの手段を用いればもっとも有効に作用するのかがハッキリしてこないのである。

    この「取っ散らかり」をわかりやすく整理し、エンジニア的思考から読者に明確な目標を与えてくれるのが、本書の著者であるビル・ゲイツだ。

    なぜIT企業の創設者であるビル・ゲイツが環境問題の本を著したのか。
    ゲイツは元妻のメリンダとともに2000年に「ゲイツ財団」という世界最大規模の慈善団体を設立しており、アフリカやアジアの発展途上国において貧困問題に取り組むうちに、貧困を解決するためにはもっともっとエネルギーが必要であることに気づいた。照明や機械、エネルギーとなる電気が無ければ生活水準が向上していかないからだ。
    ただし、そのエネルギーは
    ①クリーンなもの
    ②既存のエネルギーと同じぐらい安価なもの
    でなければならない。貧困解決と環境保全は両者とも喫緊の課題であり、どちらかを蔑ろにすることは不可能だ。そのため、自身が支援活動を行う中で気づいた環境問題のイロハを、まるまる一冊の本を使って解説しようと試みたのである。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――
    まずは①の「クリーンなエネルギー」について。
    ゲイツは持続可能な環境のために「ゼロ排出」が必要であると説いている。

    ゼロとは、完全な排出量ゼロではなく、人間が出した分と植物などが吸収する分の差し引きが釣り合うこと、つまり「実質ゼロ」のことである。
    ゼロを達成しなければならない理由は単純だ。「いま現在」排出されている温室効果ガスは、非常に長いあいだ大気中にとどまる。二酸化炭素のおよそ5分の1は、1万年後も残り続けるという研究結果が出ており、炭素を大気中に排出しつづけながら、地球温暖化が止まるというシナリオはありえないからだ。しかも、いまこの瞬間も温室効果ガスによって地球が温まり続けていることを念頭に置けば、ゼロでも足りず、マイナス排出が必要となる。

    温暖化は気候変動を生み、気候変動は食料危機を生む。今世紀なかばまでに地球の気温上昇によって、コロナと同じぐらいの死者が出て、2100年にはその5倍の死者が出る可能性があると言われている。

    では、そもそも人間活動の何がどれぐらい温室効果ガスを排出しているのか?
    ビル・ゲイツは排出源別に分類を行っており、
    ・ものをつくる…31%
    ・電気を使う…27%
    ・ものを育てる(植物・動物)…19%
    ・移動する…16%
    ・冷やしたり暖めたりする…7%
    が温室効果ガスの主たる発生源とし、各分野において効果的な解決方法を模索している。例えば「ものをつくる」であれば製造工程の改善と副産物として出るCO2の回収方法について論じ、電気であれば既存の火力発電よりも排出量を減らせる発電方法について検討している。この分類→検証という思考の枠組みはまさにエンジニアのビル・ゲイツが得意とする手法であり、多くの要素に触れながらも、非常にロジカルにまとまっているためすんなり腹落ちする。

    また、ゲイツが本文中で強く言及しているのが②、「既存のエネルギーと同じぐらい安価なエネルギー」についてである。
    鍵となるのが「グリーン・プレミアム」という概念だ。これは、既存のエネルギー源を炭素ゼロエネルギーに切り替える際に追加発生する費用のことである。
    ゲイツは「環境保護のためにはとにかく削減しろ」というスタンスではない。既存のエネルギーと代替エネルギーの価格差を埋めることで、大損せずにクリーンエネルギーを導入することを促している。こうした「乗り換え需要の発生」に強くこだわっているのは、自身が貧困国を支援してきた経験があるからだ。貧しい住人は日々の暮らしに困っており、そのような人々に先進国の立場から高額なエネルギーを使わせるのは不平等である。世界全体として見れば、モノやサービスが「もっと提供されて」しかるべきであり、気候変動を悪化させることなく、低所得者が経済発展のはしごを上れるようにすることが必要であると考えているのだ。

    こうした考えからグリーン・プレミアムを中心に議論が進んでいくのだが、中には「無理なく」消費者に選ばせるのは少し難しいのではと思う場面もある。
    例えば自家用車においては、グリーン・プレミアムを払ってEVに変えるという選択肢があるが、走行距離1マイルあたり10セントのプレミアムが発生する。年間1万2000マイル運転するなら、1年辺り1200ドルのプレミアムがつく計算だ。ガソリン単体で抜き出してみれば、ガソリン1ガロンあたり2.43ドルに対し、次世代バイオ燃料は5.00ドル、電気燃料は8.20ドルである。完全にクリーンな燃料に変えるためには3.3倍も高い価格に耐えなければならないというわけだ。
    これは「電気自動車」という選択肢がある「車分野」だからこそ、まだ安めの値段に抑えられているわけであって、同じく石油から精製されるプラスチックなどを全てクリーン素材に変えていてはコストが跳ね上がってしまう。何と言っても石油は1リットルあたり0.26ドルなのだ。ミネラルウォーターより安いこの魔法の液体を、環境のために高いものに変えるというのは、先進国はまだしも貧困国の間では難しい。まずは先進国の「プレミアムを払う余裕がある人」に働きかけることから始めなければならないが、いずれにせよ、実現には代替素材の値段を安価に抑えるためのイノベーションが必要であることは間違いないだろう。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――
    本書の所感だが、まずなにより、もの凄く分かりやすい。ビル・ゲイツ自身が「環境問題については初心者だった」と述べているとおり、徹底した初学者目線の話題から始まっていく。地球温暖化によって何が起こるのかという基礎的問題から、政府レベルと市民レベルでできる行動は何か、という複雑な問題に至るまで、データと図表を交えて丁寧に説明されている。数字はもちろんたっぷりあるのだが、複雑になりそうなときにはいったん具体例を出して話を整理しているため、専門的になりすぎない。このバランス感覚が本当に見事で、あっという間にスルスルと読めてしまった。
    環境問題に詳しい人もそうでない人も、これからのロードマップを俯瞰的に眺められるおすすめの一冊である。
    ―――――――――――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    1 本書のねらい
    ゲイツ財団を立ち上げたころ、ゲイツの目標はサハラ以南アフリカなどの低所得国の人々にもっとエネルギーを提供することだった。エネルギー使用量と国民一人あたりの所得は相関しているからだ。しかし、地球温暖化が進んだことで問題解決はより一層困難になった。安いエネルギーを安定して提供するだけでは足りず、そのエネルギーはクリーンでなければならなくなったからだ。世界全体として見れば、モノやサービスが「もっと提供されて」然るべきであり、気候変動を悪化させることなく、低所得者が経済発展のはしごを上れるようにすることが必要である。

    今後の世界的ミッションは次の3つ。
    ①気候大災害を防ぐには、温室効果ガス排出実質ゼロを達成しなければならない
    ②太陽光や風力といったすでにある手段を、もっと早く効果的に展開する必要がある
    ③目標達成を可能にするブレークスルーを生み出し展開しなければならない

    ゲイツの考えは政治学者ではなくエンジニアのものであり、気候変動の政治問題を解決する方法はわからない。そのため、ゼロの実現に何が必要かという議論に焦点を絞る。


    2 なぜゼロなのか
    ゼロとは、完全な排出量ゼロではなく、人間が出した分と植物などが吸収する分の差し引きが釣り合うこと、つまり「実質ゼロ」のことだ。
    ゼロを達成しなければならない理由は単純だ。排出された温室効果ガスは非常に長いあいだ大気中にとどまる。いま排出した二酸化炭素のおよそ5分の1は、1万年後も残り続けることになる。炭素を大気中に排出しつづけながら、地球温暖化が止まるというシナリオはありえないからだ。

    産業革命以前と比べると、気温はすでに最低でも摂氏1度は上昇している。炭素の排出を減らさなければ、おそらく今世紀なかばには摂氏1.5〜3度、21世紀末には摂氏4〜8度も上がることになる。ちなみに、最終氷河期の平均気温は今よりたった6度低いだけだった。

    暑さが増すことで暴風雨が深刻化する。また蒸発する水の量が増え、豪雨地域と干ばつ地域がより一層明確になり、災害も深刻化する。今世紀末には、アメリカ南西部の土に含まれる水分は10-20%減り、干ばつのリスクは最低でも20%増える。4000万人近くに飲料水を提供し、7分の1を超えるアメリカの農作物にかんがい用水を供給しているコロラド川の水が涸れるおそれもある。また、気候変動により山火事や海面上昇などの災害も起こっていくだろう。

    温暖化は気候変動を生み、気候変動は食料危機を生む。今世紀なかばまでに地球の気温上昇によって、コロナと同じぐらいの死者が出て、2100年にはその5倍の死者が出る可能性がある。


    3 ゼロへの道は険しい
    化石燃料をクリーンなエネルギーに変える、というのはやはりとても難しい。化石燃料はエネルギー源から衣服にまであらゆるところに使われている。
    たとえば石油は、世界で一日に40億ガロン使用されている。そこまで大量に使っているものを一夜にして使用停止することはできない。また、化石燃料はとても安く、石油は1リットルあたり0.26ドルだ。代替エネルギーをその水準まで安くしなければ乗り換え需要が起こらない。

    加えて、エネルギー移行には長い年月がかかる。1840年から1900年までのあいだに、石炭が世界のエネルギー供給に占める割合は5パーセントから50パーセント近くまで増えた。しかし、1930年から1990年までの60年間で、天然ガスは20パーセントまでしか増えていない。

    4 地球温暖化の議論を整理する5つの枠組み
    ①温室効果ガスの年間排出量は510億トン
    温室効果ガスのトン数を目にしたら、510億の何%になるのか計算しよう
    ②温室効果ガスは5つの異なる活動から排出されている
    ・ものをつくる…31%
    ・電気を使う…27%
    ・ものを育てる(植物・動物)…19%
    ・移動する…16%
    ・冷やしたり暖めたりする…7%
    ③どれだけの電力を必要としているか
    ・世界…5000ギガワット
    ・アメリカ…1000ギガワット
    ・中規模都市…1ギガワット
    ・小さな町…1メガワット
    ・平均的なアメリカの家庭…1キロワット
    ④発電には空間が必要だ
    ・化石燃料…500-10,000(1平方メートルあたりのワット数)
    ・原子力…500-1,000
    ・太陽光…5-20
    ・水力…5-50
    ・風力…1-2
    ・木質などのバイオマス…1未満
    ⑤グリーン・プレミアムの費用を考えよう
    グリーン・プレミアムとは、既存のエネルギー源を炭素ゼロエネルギーに切り替える際に追加発生する費用のこと。いくらクリーンな資源を使おうとしても、それが中所得国が払える安さになっていなければ意味がない。


    5 電気
    世界の電気の3分の2が化石燃料によって供給されている一方で、太陽光と風力は7%にすぎない。
    今後必要とされる電気をすべてゼロ排出で供給できるのかというと、主体が国か世界全体かで異なってくる。
    アメリカを例にあげれば、すべての電力系統を炭素ゼロの電源に替えると、一ヶ月あたり18ドルのグリーン・プレミアムが発生する。決して払えない金額ではない。一方、アフリカやアジア諸国など、貧困にあえぐ国が環境改善のために高いエネルギーを導入するのは、経済的な観点からかなり厳しい。

    電気のグリーン・プレミアムを押し上げている最大の要因は、安定供給の難しさだ。風力や太陽光などの自然由来のエネルギーは、発電と消費の融通が効かない。昼に使った電気を夜に向けて蓄えなければならない、夏と冬の季節の違いによって使用量に差が出る、などの理由で、追加コストが莫大になる。これらは「間欠性の問題」と呼ばれている。

    炭素を排出しないエネルギー源で唯一、地球上のほぼどこでも一年を通じて昼夜を問わず安定して電力を供給できるのが原子力だ。
    原子力は発電所建造に占めるコストあたりのエネルギー量がかなり効率的であり、また原子力発電によって死ぬ人は、たとえ悲惨な事故を計算に入れても、どの化石燃料による死者よりもずっと少ない。
    安全性の追求や核反応のコントロールなど技術面でのイノベーションは必要だが、現状、世界がふたたび原子力エネルギー分野の進歩に真剣に取り組むことは、持続可能な開発のために不可欠である。

    また、安定供給の面から見れば洋上風力発電も有望な選択肢の1つだ。アメリカには利用できる洋上風力がかなりあり、特にニューイングランド、北カリフォルニア、オレゴン、メキシコ湾岸地域、五大湖には豊富にある。アメリカの電力使用量はおよそ1000ギガワットだが、理屈のうえでは、アメリカは洋上風力で2000ギガワットを発電できる。ただ、そのポテンシャルを発揮するために、タービンをもっと設置しやすくするなど、お役所手続を簡素化する必要はある。


    6 製造
    ①可能なかぎりすべての工程を電化する
    少なくとも精製段階における化石燃料の使用を止め、炭素の排出を防ぐべき。
    ②脱炭素化された電力網からその電気を獲得する
    ③残った排出分には炭素回収を用いる
    鋼鉄やセメント、プラスチックという人類の発展に不可欠な資源の製造段階で、必ず炭素が排出される。中でもプラスチックの製造時には、化学反応により必ず二酸化炭素が生まれる。それを回収することで排出量ゼロを目指す。
    ④資材をもっと効率的に利用する
    セメントや鉄鋼の使用量を減らすように建築物を設計すれば、単純に炭素の量が減る。


    7 ものを育てる
    食用に動物を育てることは、温室効果ガス排出の大きな一因である。専門家が「農業、林業その他の土地利用」と呼ぶ部門のなかで最大の排出源だ。ちなみにこの部門には、家畜の飼育から作物の栽培、木々の伐採まで、広範囲に及ぶ人間の活動が含まれる。
    農業では最大の悪者は二酸化炭素ではなくメタンと亜酸化窒素だ。二酸化炭素と比べると、メタンは100年間で分子ひとつあたり28倍、亜酸化窒素はなんと265倍もの温暖化を引き起こす。メタンと亜酸化窒素の年間排出量を合わせると、二酸化炭素70億トン超に相当する。農業、林業、その他の土地利用部門の全温室効果ガスの80パーセントを超える量だ。

    また、人々が豊かになると、より多くのカロリー、とりわけ肉と乳製品をたくさん食べるようになる。ニワトリは人間に1キロカロリー分の鶏肉を提供するのに2キロカロリー分の穀物を食べなければならず、牛は6キロカロリー分を必要とする。人々が肉食に移行すればするほど、その肉のために多くの植物を育てなければならない。
    これが難問で、いまよりはるかに多くの食料を生産する必要があるのに、いまと同じ方法で生産していたら気候大災害を招いてしまう。牧草地あるいは耕作地1エーカーあたりで生産できる食料を増やせなければ、100億人に食べ物を提供するために、食料関係の温室効果ガスの排出は3分の2増えることになる。


    8 移動する
    ガソリンは莫大なエネルギーを持っており、何より安い。輸送における炭素排出量との戦いはまさにガソリンとのコスト競争になる。
    輸送の中で、最も多くの排出量を占めるのは自動車とバイクであり、全体の47%。次にゴミ収集車、バス、トレーラーの30%、船の10%、飛行機の10%とつづく。

    自家用車においては、グリーン・プレミアムを払ってEVに変えるという選択肢がある。その車を所有するすべてのコストを見ると、走行距離1マイルあたり10セント、年間1万2000マイル運転するなら、1年辺り1200ドルのプレミアムがつく計算だ。ガソリン単体で抜き出してみれば、ガソリン1ガロンあたり2.43ドルに対し、次世代バイオ燃料は5.00ドル、電気燃料は8.20ドルだ。もちろん、これらはガソリン価格がクリーン燃料の価格を超えていることを前提としたものである。

    また、電気は短距離移動型の路線バスには最適だが、長距離の大型トラック、飛行機、船には全く実用的ではない。今の技術ではガソリンと同じ量を得るにはガソリンの35倍の重さのバッテリーが必要になり、重すぎてバッテリーしか積めなくなるからだ。

    輸送からの排出量を減らすには、乗り物に乗る頻度を減らし、燃費のよい自動車を作ること、そして代替燃料の値段を下げるためのイノベーションが必要になる。


    9 ゼロ達成に向けた計画
    新しい装置を開発することだけがイノベーションではない。新しい政策をつくり、そうした発明品をできるだけ早く市場に出して展開できるようにすることも、イノベーションの一部である。
    世界各国のリーダーは、いかに世界経済を炭素ゼロへと移行させるのか、そのビジョンを明確に示す必要がある。火力発電所や工場に許される排出量のルールを定めたり、金融市場を導く規制を作ったり、化学研究への投資家になったりすることで、民間部門を主導することができる。

    政府部門
    ●イノベーションの供給を増やす
    ・これからの10年で、クリーンエネルギーと気候関係の研究開発予算を5倍にする
    ・高リスク高リターンの研究開発プロジェクトに、より多くの資金を投じる
    ・研究開発を最大のニーズとマッチさせる
    ・はじめから産業界と協働する

    ●イノベーションの需要に弾みをつける
    ・政府特有の購買力を行使してクリーン資源の工事を発注する
    ・民間セクターにインセンティブをあたえて、環境に優しい製品を選ばせる
    ・新技術がほかと競合できるようにルールを変える(カーボンプライシング、クリーン電力基準など)

    市民部門
    ・政治的行動を起こす(政治家への電話、対話集会への参加、選挙への出馬など)
    ・家庭での排出を減らす(電気をLEDに変える、窓を断熱にする、冷暖房システムをヒートポンプに変える、電気自動車を買うなど)

    産業部門
    ・社内炭素税を導入する
    ・低炭素ソリューションにおけるイノベーションを優先させる
    ・政策形成のプロセスに参加する
    ・政府資金による研究とつながりを持つ

  • 超一流の人間には超一級の情報量、思考力、行動力(etc…)が搭載されていた。

    地球温暖化に関する記事がつい先日回覧板でまわってきた。聞き覚えのある弊害に「ゼロカーボン化計画」とどこの自治体でも言ってそうな表明。そんな情報の羅列がゲイツ氏の最新著書でようやく実体化された。(技術者だから解決手段を具体的に紹介してくれたおかげでイメージしやすかったのかも)

    環境問題と貧困を関連づける発想はなかった。将来自分達が見るであろう痛い目を既に10億人が経験済みなのは脅威でしかない。回覧板の記事によると、ここらの平均気温は‘80年-’21年にかけて2℃上昇しているという。その気温上昇が地球規模だと「温暖化だなー」では勿論済まない。開始早々緊張感が芽生えた。

    新しいエネルギー源を取り入れるのに何十年も要したり、激安な化石燃料を卒業してクリーンな資源でカバーするのも容易じゃなかったりと色々もどかしい。グリーン・プレミアムも必要費なんだろうけど邪魔くさい…

    ・生活様式も丸ごと変えなきゃいけないのでは?
    ・手段がどれも目新しいというか、未来めいているけど本当に実現するのか?
    とかギリギリついて行きつつも、リアリティを見失ってしまうことも。

    それでも著者は数字や実例を駆使しながら「実現可能」をリピートする。
    「クレイジーなアイデアに賭けるのを恐れてはいけない」
    問題提起が程よく挟まれ、自分みたいに目が慣れてくるとふにゃふにゃ流し読みしちゃうのを何気に防止してくれる笑 各章のラストで綺麗におさらいしてくれるのも嬉しい。

    個人的に一番興味を持てたのが第4章の「電気を使う」。(電気については4章以外でも手厚く取り上げられている)初耳&画期的な発電方法も紹介されていて、これは知っておいても損はないはず…筆者みたいに発電所の仕組みを見ておくのも面白いかもしれない!

    「テクノロジーの巨人」が地球や子孫、今を崖っぷちで生きる貧困国を心に留めて、世界中を飛び回り絞り出した知恵を授けてくれたってところか。アメリカ目線だったり分かりにくい事もありはしたけど、読後改めて回覧板の記事に目を通してみたら重みが明らかに違っていた。

  • ビル・ゲイツの新著『次のパンデミックを防ぐ方法』が出版へ | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
    https://forbesjapan.com/articles/detail/45753

    解決策ではなく方向性を示すビル・ゲイツ、書評「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」 | TechCrunch Japan
    https://jp.techcrunch.com/2021/09/07/2021-08-28-bill-gates-offers-direction-not-solutions/

    地球の未来のため僕が決断したこと──気候大災害は防げる | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014892/

  • 気候変動に対処する技術や計画を論じる際、温室効果ガスの年間総排出量をゼロにするという目標達成に対する位置づけを明確にすることが役立つ。
    目標を軸に考える際、下記のポイントに注目すると良い。

    ・温室効果ガスの年間総排出量(510億トン)のどれだけを削減できるのか?
    ・鋼鉄やセメントの製造からの排出分はどうするか?
     (製造からの排出分の割合も大きい)
    ・ある発電方法で、どれだけの電力をまかなえるのか?電力使用量に対する比較をする必要がある(目安:アメリカは1000ギガワット)
    ・ある発電方法に、どれだけの空間が必要か?
     発電方法によっては空間を必要とするため、必要な電力をまかなえるか考えるべき。
    ・どれだけのコストが必要か?炭素ゼロ燃料にした際の割増し額を算出し、その額を世界中の人が払える程度まで下げる必要がある。

  • いろいろな報道がある中、気候変動とその対策に関して全体像をつかみやすくしてくれる本だと思う。

    まず、年間排出量は510 億トンと考え、この数字とそれぞれの対策での排出削減量を比較することで、効果的、投資すべきかどうかの判断材料とする。
    次に、排出量の打ち分けを5つに区分して、その区分の中で現在ある技術の可能性と限界を論じる。(電気を使う、ものをつくる、ものを育てる、移動する、冷やしたり暖めたりする)
    さらに、技術的ブレークスルーの必要性については、グリーンプレミアム(代替技術を使うために、どれだけ余分名コストが生じるか)を計算し、到達するまでの難易度を考慮する。

    ものをつくるための排出が31%、非常に大きい。自動車や機械や日用品を製造するのに、鋼鉄、プラスチック、セメントが必要であり、その工程で二酸化炭素が排出される。
    P142 1トンの鋼鉄をつくると、およそ1.8トンもの二酸化炭素が発生する。セメントは1トンつくると1トンの二酸化炭素が発生する。
    今のやり方では持続可能性はない、炭素ゼロの鋼鉄、またはそれに替わる素材が必要ということ。
    プラスチックの問題はまた別で、炭素のおよそ半分はプラスチックの内部に留まる。分解に何百年とかかるので、残存するプラスチックが問題なのであり、気温上昇の原因とはならない。

  • 気象変動に対する様々なアイデアや新技術の報道は多いが、どのくらいの効果があって、成し遂げるためにどれだけの困難があるのか、そこまで考えたことはなかった。
    本書では、なぜ排出ゼロを目指すのかから始まり、発電、製造、農業、移動、暖房などのカテゴリーで何が取り組まれてて、何が必要なのかを技術的な観点も含めて解説してくれたことで理解できたことが多い。
    2050年に・・・というキャッチフレーズも実は絶望的な位に困難であることがわかるが、一方でゲイツ氏の楽観的な見方や我々に行動を促すポジティブな姿勢に励まされる気がする。
    感染症対策も問題提起はされていたが、十分な対策をとらなかったことで、今回の惨劇を招いてしまった。気象変動もこのままでは二の舞になる、という警告はとても心に響いた。

  • グラスゴーで行われたCOP26での議論は、インドの最後のちゃぶ台ひっくり返し的な主張(石炭火力発電を「廃止」ではなく「削減」としたこと)がクライマックスだった。日本の存在感や主張はほとんど聞こえてこず、単なる政治ショー的なものとなった印象だ。自動車産業が経済の根幹の一部をなしている日本にとって、内燃機関の自動車が電気自動車に置き換わっていくことはマイナスだという主張も散見される。

    そのような中で、11月17日には、ビルゲイツが出資するテラパワーというベンチャー企業が、ナトリウム冷却高速炉という新世代の原子炉を、ワイオミング州のケマラーという街に建設するという発表をしていた。

    小型のナトリウム冷却高速炉は、原子炉の制御上の危険性を原理的に解決しているとして、以前からゲイツが推進していたのは知っていた。この本においても、ゲイツによるナトリウム炉推進のボジショントークをするのだろうと想像して読みだしたのだが、タイトルどおり、もっと壮大かつ網羅的な話だった。

    そもそもなぜ2050年の二酸化炭素排出ネットゼロを目指さなくてはいけないか、ということへの説明から始まる。

    CO2は年間510億トン排出されている。これを減らすのではなく、なくすために何ができるか、ということを詳述している。

    具体的には「電気を使う(年間510億トンの27%)」、「ものをつくる(同31%)」「ものを育てる(同19%)」「移動する(16%)」「冷やしたり暖めたりする(7%)」という形で原因を分解。それぞれの人間の行動における技術開発の事例を紹介している。

    上述のナトリウム高速反射炉は「電気を使う」だけでなく、それ以外の経済開発も電力を使うことになる以上、もっとも重要な技術のひとつとなる。

    さらに、暖かくなった地球に国家はどのように対応すべきかという議論や、国家・地方自治体の政府がとりうるアクションについても議論。

    悲観的なトーンはなく、ハンスロリングの「ファクトフルネス」を引用し、「何をすべきかを知っていれば楽観的でいられる」としていて少しだけだけど気が楽になった。

  • ビルゲイツの博識ぶりに驚かされた。相当勉強している。それは世界の貧困をなくすことから発生し、地球温暖化のツケが、いわゆる先進国ではなく、低所得とか新興国の人達に回されていることだ、という強烈な問題意識がある。まずは年間でCO2換算で510億トンもの温室効果ガスが排出されていることを覚えよう。
    加えて、鉄鋼だけでなく、セメント作りや、食肉用の家畜、特に牛を育てる過程でもCO2が相当排出されていることを学んだ。
    これ一冊でも、温室効果ガス、地球温暖化、CO2排出実質ゼロに対する理解が相当深まった。

  • ・ビルゲイツがどう見ているか、という点に興味があったが、その点で非常に面白かった。
    ・定量的に捉えること、目的達成を軸に考えること、仕組みを変えること、など、本質的に改善するために必要なことが語られており、優秀なビジネスマン感がすごい(加えてオプティミストだから、ビルゲイツってたぶんすごくポジティブなエネルギーをもった人なんだろうなあと感じた)
    ・2030年までの炭素削減は、2050年の炭素ゼロの悪影響にさえなり得る(それぞれアプローチが異なるが削減のために作ったものを20年で使わなくなることは減価償却できないという意味で難しい=削減の取り組みが2050年時点でも残らざるを得なくなる=削減の取り組みを続けたら50年にゼロは達成できない)の視点は、環境問題に対して今からできるアクションを、的なスローガンを掲げてる人からは出てこないと思う。

    あと、訳者のあとがきが本筋の大事なところをバッチリ抜き出しておりビルゲイツだからこそのこの本であることを適切に要約しており、素晴らしかった。(エンジニア・ビジネスマンとしての視点で書いたこと。イノベーションが重要であること。ただしイノベーションを正しく成功させるためには、政治も市場も技術も噛み合わせる必要があること)

  •  カーボンニュートラル、という途方もなく、スローガンになりがちな目標に向けて、地に足のついた議論を展開されている。また著者自身が(評論ではなく)活動されているため、内容に説得性が生まれていた。
     前向きな内容で勇気が持てる。

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著者プロフィール

1955年、シアトル生まれ。13歳のときにプログラミングを始める。1973年、ハーバード大学に入学。在学中にポール・アレンと共にマイクロソフト社を創業。MS-DOS、Windows の開発により、同社は世界的ソフトウェアメーカーに。2008年以降は慈善事業に専念するため同社の仕事から徐々に離れる。『フォーブス』の2015年世界長者番付1位。

「2015年 『[生声CD&電子書籍版付き]対訳 セレブたちの卒業式スピーチ ――次世代に贈る言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ビル・ゲイツの作品

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