- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163916897
作品紹介・あらすじ
『高瀬庄左衛門御留書』『黛家の兄弟』の著者による、清冽なる時代小説
消えた若君と、蠢く陰謀
その時、男は――。
江戸藩邸の“なんでも屋”――藩邸差配役・里村五郎兵衛
誰にもできぬお役を果たすのが、勤めにございます
里村五郎兵衛は、神宮寺藩江戸藩邸差配役を務めている。陰で“なんでも屋”と揶揄される差配役には、藩邸内の揉め事が大小問わず日々持ち込まれ、里村は対応に追われる毎日。そんななか、桜見物に行った若君が行方知れずになった、という報せが。すぐさま探索に向かおうとする里村だったが、江戸家老に「むりに見つけずともよいぞ」と謎めいた言葉を投げかけられ……。
最注目の時代小説家が描く、静謐にして痛快な物語
感想・レビュー・書評
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書店で見かけたかわいい野鳥”アオジ”と黄色のイチョウに彩られた表紙に惹かれ、内容もよく知らずに図書館で借りた時代もの。
主人公は江戸藩邸の差配役、今で言うとコンシェルジュのような存在。
穏やかで真面目なリーダー、冷静である反面、人間らしい一面も見え隠れする好印象な人物。
そんな五郎兵衛が、若君の失踪からいなくなった猫の捜索、お家騒動にまでも巻き込まれて行く。
そうは言っても全体に漂う空気感はとても静かで、
そこに咲く花や野鳥の鳴き声が見え聞こえするかのような描写にほっこりした。
この作品、これで終わりな感じがしない。
続きがありそうなエンディングに期待大。
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神山藩シリーズがおもしろく、こちらの本も読んでみました。
神宮寺藩江戸屋敷を舞台に何でも屋といわれる差配役が巻き込まれる事件。いなくなった若様を探し、入札の裏を探りと、時に不満を持ちつつも解決を図っていく中、藩内派閥抗争にも巻き込まれていく。
淡々と進む中、上司としての視点、上役からの圧力など現代にもみられるような管理職の動きもあれば、若様との交流などホッとさせる部分もあり、剣呑な話もある中落ち着いて読んでいける。
神山藩シリーズと異なり江戸屋敷であることから、現代も残る地名が出てくるのも入りやすい。
こちらは差配役に話として続くのかなぁという仕掛けもあり今後も楽しみです。 -
オール讀物2021年12月号拐かし、2022年3,4月号黒い札、6月号瀧夜叉、9,10月号猫不知、2022年12月号、2023年1月号秋江賦、の5つの連作短編を2023年4月文藝春秋刊。なんでも屋と呼ばれる40歳代の里村五郎兵衛の差配のスレスレ感あふれる手際良さが面白い。登場する、10歳の若殿、同居の娘達も楽しい。ラストの"秋江賦"での殿様との会話シーンが秀逸で心に響く。
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2年前に『黛家の兄弟』を読んだ以来の砂原さん。その時は強い印象を受けたが、今回はまだるっこさを感じながら読み進んでいた。しかしラストの”秋江賦”の展開で、差配役の頭として取りまとめをしていた里村五郎兵衛の存在感がぐんと増す。次女の澪の出生の秘密が明かされ、ミステリー仕立てに甘酸っぱさが加わり、終盤で本作を盛りたてたと思う。
藩主世子・亀千代の年齢設定はいったいいくつなのだろう。亀千代がおしのびで市中を出回った時『どれほど人出が多かろうと、結句、おのれ 一人いちにん であることにも変わりはなかった』と、こぼした言葉が忘れられない。亀千代が、時折り時代劇で描かれるようなぼんぼん風情でなく、藩主世子としての厳しさも窺え期待が増す。これほど粛々とした深い境地に辿り着ける聡明さを持つ彼はきっと立派な藩主になることだろう。 -
失礼ながらよくある武士の連作短編集かなと読んでいたけど、終盤の展開がとても面白く全体の印象ががらっと変わり輝いた。登場人物たちが魅力的だったので是非続きが読みたい!
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時代小説家はそれぞれ架空の藩を作り上げ、自らの想像力で登場人物たちを自由に羽ばたかさせ、独自のシリーズを構成する。
藤沢周平氏の海坂藩、葉室麟氏の羽根藩や扇野藩しかり。
著者の場合は神山藩、そして本書では神宮藩。
5編の短中編からなり、それぞれ独立した話であるが、全編に通奏低音の如くお家騒動の兆しが漂う。
神宮寺藩江戸藩邸の差配役里村五郎兵衛は、なんでも屋の異名があり、様々な揉め事が持ち込まれる。
その対応に追われるうち、最終編で、江戸家老と留守居役の対立が表面化する。
主人公にも絶体絶命の危機が訪れ、苦渋の決断を迫られる。
そして最後に、予想外の秘事が明かされ、読み手も思わず唸ってしまう。
格調高い語りと、自然描写の静謐な文章に、藤沢周平著『三屋清左衛門残日録』を思い出す。 -
七万石を所領する神宮寺藩江戸藩邸にて、差配役の頭として取りまとめをしている里村五郎兵衛。藩邸の雑務全般をする藩邸の運営には無くてはならない潤滑剤のような役目。しかし陰では〈なんでも屋〉とも揶揄される。
現代社会で言うところの総務婦庶務課帳といったところか。
五郎兵衛の元には、藩邸内のあらゆる揉め事が持ち込まれる。上役の家老等からの命令に従い、配下の武士が何故こんなことまでやらなくてはならないのかと憤ることもしばしば。
そんなときに五郎兵衛は「勤めというのは、おしなべて誰かが喜ぶようにできておると」と冷静に諭す。
揉め事にも真摯に取り組む姿勢、上にも下にも気を配るデキる中間管理職の鏡。
5作の連作短編だが、それぞれがゆるく繋がり、最後には読者を唸らせる内容。
季節を感じさせる情景描写、舌舐めずりしそうな江戸の食、そして上手い構成。上質の時代小説だ。