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感想・レビュー・書評
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舞台は片田舎、禄高十万石の神山藩。主人公、高瀬庄左衛門は郡方の下役。郡方は、担当する郷村を廻っては、村の様子を把握し、米の出来具合を調べ、穫れ高を記録するお役目。「各村の庄屋から申告された収穫高や、みずからおこなった検見、見聞きした現地のようすなどを御留書と呼ばれる帳面にしるし」上役に提出する。
村々を廻り歩くのは、五十になる庄左衛門にはいささか辛い。息子も既に郡方に出仕しており、ボチボチ引退も見えている。そんな庄左衛門の息子が、お役目で村を巡る途中に事故死してしまう。子がなかったため、嫁の志穂を実家に帰したが、懇願され、手すさびの絵を教えることに。庄左衛門は、志穂から素行不審な弟のことを相談され、調べているうちに、藩を揺るがす事件に巻き込まれてしまう。郡奉行の役宅に「強訴の企てあり」との投げ文もあり、藩内に不穏な空気が漂う。
ほろ苦い青春エピソードあり、藩を揺るがす陰謀や強訴事件あり、因縁の真剣勝負あり、老いらくの恋あり、と内容は盛り沢山。そして物語は淡々とした筆致で展開していくので、かえって味わい深かった。庄左衛門、志穂、弦之助、余吾平、半次…と登場人物も魅力的なキャラばかり。特に、軽輩だが誇りを持って堅実に生きようとする庄左衛門の姿が眩しい。
藤沢周平の「蝉しぐれ」や「三屋清左衛門残日録」を彷彿とさせる、良質な時代小説だった。実に面白かった! 著者の作品、これから注目していきたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み始めたら明日は月曜だというのに夜中までかかって一気に読んでしまった。若い頃はそんなことは多々あったが、この年になってそこまで入り込んだのは初めてだ。気品が感じられる。文体にも登場人物にも。静かに物語は始まるのだが、次第に熱を帯びてゆき、最後にはすべての伏線を回収しながら突き抜けるように最高潮を迎える。この作家の作品をもっと読みたくなった。
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「人などと言うものは所詮生きているだけで誰かの妨げとなるもの。されど、時に誰かの助けとなる事も出来ましょう。ならして平ならそれで上等。」
静かに凛とした切なさが流れる、素晴らしい時代小説。 -
映像化してほしい。
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いやあ、評価が難しい。設定がいい。息子を亡くした郡方の貧乏武士。趣味は絵で、喪失の穴を埋めるようにその絵が次の物語を連れてくる。主人公の庄左衛門が人々の心の揺れに触れたり触れなかったりする塩梅も物語の進行にうまく乗って、すいすいと読める。それなのに「この感じ、読んだことあるな」と思ってしまう惜しさとクライマックス前の場面のリアリティのなさ。大きな事件がなくてもよかったのに、と惜しくなる。
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オーディオブック
定年間際の老武士が、藩内の派閥抗争に巻き込まれ、自分の息子を失いつつも、事件を解決するミステリ。といっても解決したという能動的な感じではなく、淡々と生きていたら、結果的に解決したので、ミステリではなく、事件簿かもしれない。事件自体は大したことはないが、主人公の淡々とした所作、考え方、行動が日本画の淡い色彩で目に浮かび、BGMはなんとなくポクポクという単調な足音が聞こえてくるような、読了の爽快感はないが、好きなラジオをながら聞くように集中しないで聞ける(読める)小説 -
暮らしを中心とした風俗描写
巻き込まれてつつ芯の強い主人公
1人ひとりのキャラクター性
読後の満足感○ -
本当に本格的な時代小説。藤沢周平、池波正太郎の系統に続く作家だと思う。
一貫してゆったりとした時間が流れ、その中から人物の心理がくっきりと浮かび上がってくる。ふだん聞かなくなった言葉遣いが、さりげなく使われていて、格調高い。
いい脇役の出る小説はそれだけで評価できるんだけど、この作品もそうだ。弦之助、半次、余吾平。いなくてはこの小説は成り立たないと思わせる脇役たち。
読んで充実感のある本だった。世の中にあふれている本からこういう作品を見つけられると、よくやった自分、と言いたくなる。 -
時代小説にほしい要素がふんだんに盛り込まれている。
まんま良質の映画になりそう。
次作以降も大いに期待できそうな作者さん。