出版大崩壊 (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 86
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166607983

感想・レビュー・書評

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  • 第4週 2/1(水)~2/7(火)
    テーマ メディアとコミュニケーション

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    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00174205

  •  

  • 出版業界に電子書籍という新しい風が吹いている。各出版社は対応に追われているが、はたしてそれは妥当なものなのか。2010年の電子書籍元年から現在に至る出版業界を観察し、様々な角度から内情を紹介してくれる。消費者はどういう立場で出版物、ひいてはコンテンツ産業と向きあえばいいかというヒントを提示してくれている。

  • 仕事柄よく知っておかなければならないことと思い購入したのだが、思った以上に電子書籍あるいはそれにまつわるビジネスについて詳細かつわかりやすく説明されており、非常に勉強になる本だった。

    kindleに始まる電子書籍ビジネスのひろがりとその問題点を指摘する本書は、今まさにこの問題に右往左往している既存の出版社にとって重要な指針を示すものと考える。

    このビジネスの、少なくとも日本における大きな問題は、「価格設定」「中抜き」「印税」の3点に絞られるだろう。

    価格設定はユーザーから見て、電子コンテンツは基本的に無料であるという感覚から、クレームにつながりやすい。これは私も日々の仕事のなかでまさに実感しているところである。

    中抜きは版元や取次、書店、またデザイナーなど、本作りに携わる仕事をする人に関わる問題である。これを擁護しようとすれば昨今のメディア批判の風潮から「既得権を守ろうとしている!」などという声が聞こえてきそうだが、コンテンツ制作のノウハウを持った人々を排除することは社会的な財産を失うことと同義であるように思う。情報が、本や雑誌といった「モノになる」までのプロセスは意外に複雑で、やはりそこに人の手が入ることは重要であり、必要だと私は考えている。

    最後に印税だが、著者は必ずしも書籍制作についての知識があるわけではないので、「海外の電子書籍の印税は数十%」と聞けば、日本でも同様の印税が発生すると考えるのは当然であろう。しかし、日本では電子書籍の市場も、制作プロセスも確立されておらず、同じ条件の印税支払いは無理であることは著者も指摘するとおりである。この点でのトラブルを回避するためには、電子書籍がどういったものであるか、著者・版元ともによく学ぶ必要があるだろう。

    著者は電子書籍ビジネスに触れ「仕組みを作り、プラットフォームを提供した者だけが儲け、コンテンツ製作者にお金が入らないのはおかしい」と指摘する。まったく同感である。どう考えても、このビジネスの主役はコンテンツなのだから、そこに最もお金が回らなければ、早晩ビジネス自体が成り立たなくなるのは目に見えている。現状が続くなら著者が言うように電子書籍ビジネスは自然に衰退するだろうし、そうでなければ道理に叶っていないと感じる。


    なお、星を一つ減じたのは、著者の使う表現が乱暴に思えるところが多くあったからである。一般の人の書くものを「ゴミ原稿」と呼ぶなどはその最たるもので、終盤にかけてだんだんとエスカレートするように感じた。
    このような言葉の使い方からは、「プロの編集者の確かな目こそ、よい著者を見つけ、育て、世に出すために必要だ」と強弁しているような感じさえ受ける。このような姿は、版元以外の方からは傲慢に思われても仕方ないのではないだろうか。もしかするとこれまでの編集者が持ってきた仕事に対する誇りが大きくなりすぎたことへの反発が、電子書籍を生む土壌になったのかもしれないとも、ふと思った。

  • 元光文社の編集者による電子書籍を取り巻く論評。今年3月の出版なので比較的情報が新しいとして、現在の電子書籍の販売点数の90%がエロ漫画というのはうすうす聞いていたが衝撃。180万部売れたとされる「もしドラ」も電子書籍版では数万点でしかなく紙の20分の1。でもなあ、「紙の20分の1も売れる時代が来た」と解釈するほうがいいのかもなあ。

  • クリエイターよりも場を提供してるだけのプラットフォーマーや他人のコンテンツを集めただけのポータルサイトが儲かる現状のデジタル化が進展すれば、既存のエンタメ産業は崩壊し高度情報化ならぬ低度(低質・低レベル)情報化社会を招くという指摘は、激しく共感すると共にエンタメ業界の未来へ暗澹たる思いを抱かされる。あとがきで触れられた、真に良質なコンテンツはオフラインへ回帰するという指摘が、唯一示された未来への一筋の光明のように感じた。

  • 題名は大げさな感否めないけど、中身も最後まで悲観的。副題の「電子書籍の罠」の方がいいかな。

    電子書籍は日本に広まってない。
    なぜかというと、メーカーも出版社も、日本的に多数集まって意見調整したうえでしかものごと決められなったから。著作権も利害関係者が多すぎて、しかも「オプトイン」だから合意の形成にとても時間がかかる。

    そもそもビジネスとしての電子書籍は、誰でも参入できるが故に、「クズ原稿」が大量にあふれて、リテラシーのない人には良書が見分けられない。プラットフォームを作って儲けるのが目的のIT人間には作品そのものをよくしよう、という熱意がない。(プロの編集者としてのプライドがにじみ出ていたのが、ネットにあふれる電子書籍や携帯小説を「クズ原稿」「ゴミ」とけなしまくっている)

    かつ、レコード会社の凋落にみられたように、「ネット上の情報はタダ」という常識から売値も相当安くなるので、母体数が増えても出版社は儲からない。ましてや、昔の出版社のように、時間をかけて、一人の作家を育てるということは無理。そもそも人間が読む本の数なんてIT化されたからといってそう増えるものではない。

    以上要約。

    本・新聞・CDといった、情報をパッケージにして売る職業が、ネットに侵食されていった結果、受け手としては情報量としては増えるし、コストも低くなる。
    反面、情報の選別機能はなくなりますがそれでもいいんですか。という反論は、劣勢に立ってる者の言い訳にしか聞こえないけど、確かにその面は強いのだろうなあ。

    旧メディア側が全部結束すればなんとかなる気もするけど、それでは本筋からずれるような。。。
    なにはともあれ、自分は最後まで作り手の立場でありたいものだ。

  • 私は電子書籍にはなかなか馴染めない。

  • 全11章構成、8章辺りまでとそれ以降で、著者自身のスタンスが180度違うのが興味深い。
    前半が公人として、後半が私人として、なのでしょうか。

    通してみると論旨としては破綻しているので、ちょっと座りが悪いですかね。
    個人的に興味深く読んだのは前半でした、、後半は横川君と同質の”穴”に嵌ってると感じましたが。

     - 既存メディアのなかで、「プロごっこ」は止めるときにきているのではないか

    グーテンベルク以来の情報爆発、なんていい方もされていますが、
    その時も、それ以前の「情報伝達メディア(口頭、木簡、粘土等々)」は縮退していったと思います。

    歴史は繰り返す、という訳でもないでしょうが、同じく情報爆発に伴う、
    情報伝達メディアの移り変わりの過渡期なのかな、、とそう感じました。

    そんな過渡期の混乱をよく顕している一冊なんですかね。。

    なお、個人的には、、

     ・ソーシャルリーディングへの対応
     ・wi-fiへの対応
     ・完全防水への対応
     ・長時間稼動可能なバッテリーへの対応
     ・10万タイトル以上の日本語コンテンツ

    辺りが安定して提供されるサービスになるなら、電子書籍に手を出したいです。
    今でも、消費性の高い雑誌などのコンテンツは電子でいいとは感じていますけど。。

    ん~、図書館辺りで試験運用とかできないですかね~、なんて。

  • 電子出版について、知識の高度化や教育面でも希望や可能性が大きいと考えている立場なので、反証として図書館で借りてみた。

    確かに著者の言っている、電子書籍ビジネスの厳しさや、コンテンツクオリティの低下は納得。そのとおりだと思った。けど、現在進んでいるコンテンツの電子化、ダウンロード化は基本的に消費者に便利になるわけで、紙媒体が復活するわけではないので、現実的にどう解決していくのかという事への言及はなかったと思う。

    しかし、電子化イコール解決策・明るい未来ではない点はよく検証されていて、なんでも反証確認は大事だと改めて感じた。

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著者プロフィール

1952年、神奈川県横浜市に生まれる。立教大学文学部を卒業後、光文社に入社。「光文社ペーパーバックス」を創刊し、編集長を務めた後、2010年からフリーランスになり、国際政治・経済・ビジネスの分野で取材・執筆活動を展開中。
著書には『出版大崩壊』『資産フライト』(以上、文春新書)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)、『「中国の夢」は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『円安亡国』(文春新書)、『地方創生の罠』(イースト新書)、『永久属国論』(さくら舎)、翻訳書に『ロシアン・ゴッドファーザー』(リム出版)などがある。

「2018年 『東京「近未来」年表』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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