「昭和天皇実録」の謎を解く (文春新書 1009)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610099

作品紹介・あらすじ

最強メンバーは1万2000ページに及ぶ激動の記録をどう読んだか?初めて明らかにされた幼少期、軍部への抵抗、開戦の決意、聖断に至る背景、そして象徴としての戦後。天皇の視点から新しい昭和史が浮かび上がる。第一章 初めて明かされる幼年期の素顔第二章 青年期の栄光と挫折第三章 昭和天皇の三つの「顔」第四章 世界からの孤立を止められたか第五章 開戦へと至る心理第六章 天皇の終戦工作第七章 八月十五日を境にして第八章 ‟記憶の王”として

感想・レビュー・書評

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  • 自分が受けてきた教育は、かなりかたよっていたと実感した。張作霖爆殺事件にあたって、昭和天皇が田中義一首相をやめさせたとき、西園寺公望は、「憲法の精神に反しては」いけないと天皇を戒めた。終戦は、鈴木寛太郎首相が憲法違反を承知で天皇のところに乗り込んで行って進めたという。つまり、明治憲法下では、天皇親政は認められないという了解があったのである。しかし、私は、戦前は天皇が何でもできたと学校で教わった。
     また、原爆が投下されても日本では降伏が話題にならなかったが、ソ連が参戦して降伏を決断したと習った。これは、ファシズム体制が社会主義によって敗れたという左翼イデオロギーによるバイアスがかかっているという。

  • うーん…。
    やっぱり近現代史は難しいというか、いまだ歴史になっていないというか、敬語を用いる相手は「研究対象」ではないよなあというか。著者たちが(敬語なしで)書いている近現代史や天皇・皇族ものの「研究書」は、とても面白く読んできたのだけれど。
    先帝陛下についてのみならず、近衛から松岡から、全方位的に言い訳をしているような感じ。てか、昭和20年8月以降がほとんどオマケになってしまっている時点で…昭和は64年もあったんですけどね…。
    実録というものが「公」に編まれることの意義はとてもよくわかったが、「私」がそれに言わずもがなの補足を付ける必要はないように思った。

    2015/3/21〜3/22読了

  • h10-図書館2019.12.27 期限1/17 読了1/11 返却1/12

  • 東2法経図・6F開架:288.4A/H29s//K

  • 宮内庁「エース」による昭和天皇の「実録」を4人の座談会でディスるという体裁。お蔵入りだった史料の公開もあり、学者的には新たな発見や裏付けもあったようだが、あくまでも宮内庁編纂による昭和天皇の歴史なので、当然天皇批判と解釈される史実は省かれているのだろう。一級史料には間違いないし、実証主義的でもあり、さすがに虚偽記載はないだろうが、記述のモレ・ヌケ・印象操作等々の懐疑は拭えないといったところか。

  • 本文中にもあるように、この『実録』が編纂されたものであるなら、すべて鵜呑みにすることはできないけど、読みながら史料をもとにした戦争前後の考察の追体験ができておもしろかった。
    平成生まれの自分としては、昭和天皇は記憶に残る人物ではなく、歴史上の人物である。でも、幼少期や部屋に飾られた肖像のエピソードから、一人の人間としてのイメージもわいたように思う。

  • 掛けた歳月24年5カ月、総ページ数12,000ページ。87年に渡った昭和
    天皇 の生涯を綴った『昭和天皇実録』の編纂が終了し、今上陛下に
    奉呈された のが2014年9月。

    そして、今年3月から一般刊行が始まった。早々に予約をしたのは
    いいが、 全19巻を5年かけて刊行することを予約語に知って愕然とした。
    それまで 何があっても生きていなくちゃ。

    既に刊行された2巻は手元にあるのだが、未だ手を付けていない。
    読もうと思った矢先に、本書が出版されたからだ。昭和天皇の
    崩御後、関連の書籍が多く世に出たので時間のある限り読んだ
    のだが、それでも知らないことが多い。

    なので、『昭和天皇実録』に取り掛かる前段階の予習として本書は
    最適なのではないだろうか。昭和史に詳しい4人それぞれが、持論を
    展開しながらも『昭和天皇実録』の主要と思われる部分を読み解いて
    いる。

    本書のメインとなっているのが戦前から終戦までだったので、『重臣たち
    の昭和史 上・下』を読んでおいてよかった。これが予備知識として
    役に立った。

    幼少時の話も興味深かったのだが、今まで昭和天皇の関する作品を
    読んでいて何故、軍部の暴走をみすみすお許しになったのか疑問に
    感じてたんだよな。

    だが、半藤氏の以下の発言ですとんと自分の中で何かが繋がった。

    「実は私は、昭和天皇には三つの顔がある、と考えているんです。
    ひとつは「立憲君主」としての天皇、もうひとつは陸海軍を統帥する
    「大元帥」。そして両者の上位にさらに、皇祖皇宗に連なる大祭司で
    あり神の裔である「大天皇」がおわす、というのが私の仮説です。」

    ふたつの異なる立場の間で、板挟みになっている昭和天皇像が
    克明に浮かび上がるではないか。

    もうひとつの発見は、これまで内容が明らかにされていなかった
    「拝聴録」である。折々に昭和天皇が侍従を相手にご自分の胸の
    うちを語られた聞き書きである。

    やっぱりあったんだな。だた、どこにあるのかがはっきりされていない。
    今上陛下のお手元にあるのではないか…とも言われるが。

    この「拝聴録」がいつか一般に公開されたら、昭和史が今以上に
    興味深くなるかもしれない。

    本書の4人の語り手の解読を参考に、そろそろ『昭和天皇実録』に
    取り掛かろうかな。でも、その前に昭和史を今一度復習しておいた
    方がいいかも。

    『昭和天皇実録』本体を読み通すのは無理…と言う人でも、昭和史に
    興味がある人にはダイジェストとしていいかもしれない。

  • 読むのに疲れちゃった~~大した歴史好きじゃない我が身には何が何だか解らないが、研究者には「実録」を書いた人間の意図が見えるらしい

  • 主に戦時下において、情勢と周囲の人間に翻弄された昭和天皇心中や発言を「昭和天皇実録」を題材として解説している。権力と責任の所在が統一されていない・曖昧である時、いかなる状態を招くのか、という点において、先の大戦は、将来の日本を考える上で、最も参考とすべき出来事だと思う。

  • 「昭和天皇実録」が発刊されるということで、昭和に生まれた者として、気になるなとは思ったものの、19巻もの大冊を予約注文なんてできないよなと思ってたら、1巻が出された頃に一緒に本屋に並んでいたこの本を購入。
    1年強、積読になっていましたが、平成今上天皇陛下の退位が話題となり、「昭和」を語る上で欠かせない真珠湾攻撃から75年となる12月8日に読了。
    「昭和史」や「日本のいちばん長い日」の半藤一利が、保阪正康と一緒に政治学者や歴史学者とともに、「実録」に描かれている昭和天皇について語る。
    戦争前後の姿はいろいろ描かれているので、見聞きしていることもあるけれど、立憲君主制の中で、天皇陛下の苦悶のあとがうかがい知れる。
    幼少期の素顔も興味深い。

  • 【二星潤先生】
    『昭和天皇実録』は、宮内庁が24年以上をかけて編集した、昭和天皇の87年の生涯を記述した12000ページに及ぶ歴史書です。2015年から刊行が始まっていますが、『昭和天皇実録』自体を読み進めることは、学生の皆さんにとっては少し大変なことかもしれません。この新書では、昭和史に詳しい学者や作家の4人が、『昭和天皇実録』を読み込んだ上で分析を加えています。対談形式であるために大変読みやすく、昭和天皇の幼年期のエピソードから太平洋戦争の開戦と終戦など、昭和天皇の実像と激動の昭和史がよく分かる構成になっています。『昭和天皇実録』は、国家が編纂した歴史書である古代の「六国史」のように、1000年先まで読まれ続けていくものです。この新書を手始めに、『昭和天皇実録』の世界に分け入ってほしいと思います。

  • 新書文庫

  • 「実録」の編纂者の中に「エース」の存在を仮定し、その人物の思考を考慮しながら読み解いていく点に興味を持った。
    まだ手を付けていないが「実録」を読む楽しみが増えた。

  • 非常に中身が濃い。実録の内容が掲載されているが非常にビックリした。

  • 4氏揃っての対談ではなく、注目していた磯田氏は最初の2章のみで残念。とはいえ実に示唆に富む指摘が続々と。まず、軍部独走の起源は長州藩にあるという指摘。下が独走して上を従わせるというのは、長州とその派生体である陸軍に共通する構造だったと。また実録から、二・二六事件に便乗した石原莞爾の反革命構想や、近代的とは程遠い神的なものを強く内面化された昭和天皇の姿、さらには大東亜共栄圏の嘘まであぶり出す。天皇も、松岡のソ連を巻き込んだ四カ国同盟の大構想を承認していたという、これまでの「松岡悪人説」の見直しも迫っている。

    本書では、実録に「天皇の五感に触れる記述が少ない」という不満の表明も。当然ながら天皇の立場から書かれているので、政治的配慮を要するものを巧みに避けながら、責任の追求に及びそうな都合の悪い部分は省かれている。ただ、決して嘘が書かれているわけではないので、これからの歴史家には、底本となった未公開資料の公開請求と合わせて、こうした書かれなかった部分の解読という作業が残されている。

  • →感想、他引用。

    半藤 (略)昭和6年といえば、天皇はまだ30歳ですよ。その若さで海千山千の面々に向き合わなければならなかった。
    保阪 50代、60代の陸海軍大臣や参謀総長には、「この若造をいっぱしの君主にしてやろう」という考えがあったといわれています。実際に戦後、指導部に籍を置いた軍人を取材している時に、そういう声があったと証言していました。よく陸軍では、「大善」「小善」という言い方をしていたと、軍内の秘密結社・桜会の会員だった軍人にも聞いたことがあります。「大全」とは、陛下の一歩前に出て、陛下のお気持ちを察して、我々の手で名君主にしていこうとする考え方、「小善」は、軍人勅諭にひたすら忠実であろうとする考え方、この「小善」の代表が東条英機だったとされています。でも「小善」だけの軍人ではダメだというんですね。いずれにしても、この満州事変以降、軍は大元帥としての天皇と、立憲君主としての天皇をうまく利用していくわけです。
    →天皇がもっと積極的に日米開戦に反対していればと思うことがある。しかし、天皇はその時36歳。その重責を担うには若すぎる。まして『実録』に書かれているように、幼少から自分の発言や行動を抑制されていればなおさらだろう。開戦に反対すれば、陸軍がクーデターを起こすと考えたという『独白録』の発言は、GHQが導こうとする陸軍悪玉説に乗った発言と捉えられるが、意外に本音も含まれているようにも思える。

  • -2015/09/01
    ①特別攻撃隊の戦果報告を聞いた裕仁天皇は、「そのようにまでせねばならなかったか。しかし、よくやった」と語ったという。前半は天皇としての言葉、後半は大元帥としての言葉に裕仁天皇の苦悩があった。
    ②天皇はアメリカの短波放送で日本軍の所在を知る状態であったという。陸海軍が天皇に事実を伝えていなかったという事実。

  • 立憲君主制下の君主として、ごく数回の例外を除いて明治憲法で定められた「あるべき君主像」を自らに課し、そしてそれが故に、軍部の独走を抑えられず、却って国土の荒廃と数百万の国民を犠牲においやってしまったナイーブでインテリな君主。戦争を実力で止めなかったが故に法的な責任を逃れえたが、一方で同じ理由で道徳的・精神的な咎に、一生苛まれていたに違いない。本書では、昭和天皇の人間的な姿を、はしばしに見つけることができる。一方で、実録を編纂した宮内庁の恣意的な情報公開と秘匿が、この第一級の資料に与えたインパクトについては評価が分かれるかな。

  • 半藤一利氏、保阪正康氏、御厨貴氏、磯田道史氏4名が『昭和天皇実録』を読んでの感想を諸々述べている本。4氏の話の中から垣間見られる『実録』の内容からはとくに「新発見」の類はないようだが、新たな史料の存在も示唆されているようで興味深い(ただし、原本の公開は難しいのかも)。

    最後に保阪氏が「「昭和天皇は生きている」との感がしてならなかった」と述べている。自分も「昭和生まれ」のひとりとして『実録』から漏れ聞こえてくる昭和天皇の息づかいに触れてみたいと思う。

  • 陛下のご本心を知ったからといって、今更何が変わるのか?ということはあるが、とはいえ戦前の厳しい御決断を迫られる局面での陛下の息遣いを、生硬な文書から読み解く試みは、好奇心を大いに刺激するとともに、既知の日本近代史の解釈に、別の視座を与えてくれる、非常に興味深い一冊だった。

  • 非常に面白かった。機内で瞬殺で読めちゃいます。

  • これはこれで学ぶところが多かった。

  • 昭和史の研究家・半藤・保阪氏などの対談・鼎談集。昭和天皇の幼少期の意外な話から、摂政時代、そして昭和まで。実に豊富な記録が残っているのは歴史解明において有効だと思い、このような記録が発表されたことへの半藤氏たちの喜びが感じられる。一方であまり書かれなかったマッカーサーとの対談への不満も。戦争勃発後、昭和天皇が母・貞明皇太后に叱責されることに気を遣う様子など、昭和天皇の人となりを感じる一方で、軍・政から実権のない立場に祭り上げられ利用された人生への同情も禁じ得ない。「トラトラトラ」、「日本で一番長い日」などの映画を見た記録が残っているのも実に面白い。やはり戦争との関わりを読み解くことが最関心事であるが、1921年に第1次大戦の激戦地ヴェルダンを訪問し、「戦争は実に悲惨」と感想を漏らされたことも。開戦、逆に終戦を決意するまでの詳細な記録、平和を望んでいた方だとは分る一方で、12/8は大元帥として軍服姿でニュースを聞いたなどとエピソード満載。

  • 本当なら、全61巻、12000ページあるという「実録」そのものを読みたいところではありますが、さすがに躊躇してしまうので、とりあえず昭和史の研究家の何人かが語っているこの本で概略をつかんでおこうと思いました。

    ・そもそも「実録」を残すというのは、古代中国の皇帝が亡くなった時に編纂する伝統が生まれ、その後朝鮮やベトナムにも広がったものだそうで、それでも平安時代には世界中で途絶え、復活したのは「孝明天皇紀」。その後「明治天皇紀」が編纂され、今や日本にしか残っていない伝統とのこと。

    ・特に昭和天皇は、世界を相手に戦争を行った昭和という時代の帝であるということから、その時天皇はどう判断し、どう行動していったのかを記録に残しておくのは、後世の日本に対して絶対に必要なことでありましょう。

    ・そんな難しいことはさておき、いくつか得られた知見をいくつか残しておこうと思います。

    ・昭和天皇がお生まれになったのは明治34年で、その養育担当としては、薩摩出身の川村伯爵なる人物がなったそうですが、その候補選びの中には、「花燃ゆ」に登場している小田村伊之助(楫取素彦男爵)も上がっていたそうな。伊之助は今ドラマで文の姉・寿と結婚しているが、今後、寿とは死別し、その後文と再婚して、維新後は明治天皇の皇女の養育担当になっていくらしい。

    ・幼少のころは、「世界すごろく」と「相撲」が大好き。動物や魚介類にも関心が高く、現物と図鑑を照らし合わせ、分類や名前を把握することに熱中されていたとのこと。また、イソップ物語を愛し、自ら創作もしていたとのこと。

    ・4歳の時に、日露戦争における日本海海戦(バルチック艦隊を破る)勝利の報告を受ける。昭和天皇は生まれた時から、軍人としての教育を受けて育つ。

    ・大正10年に皇太子としてヨーロッパを訪問。エッフェル塔に登ったり(塔を設計したエッフェルさんの案内)、初めて地下鉄に乗ったりしたそうで、「自分の花は欧州訪問の時だった」と晩年侍従長に回顧している。ちなみに、その欧州訪問には「天皇の料理番」も同行しているはず。

    ・天皇が即位された昭和の初めは、満州事変が勃発し、陸軍を中心に日本は中国大陸に進出。欧州訪問の際、第一次世界大戦の跡地を訪問して戦争の悲惨さを実感していた天皇は、陸軍の戦争拡大には大いに懸念を示していたようで、時には明確に反対の意思表示もされていたよう。

    ・特に国際連盟脱退のきっかけとなった「熱河作戦」の取消には、相当頑張って内閣や軍に「中止」を求めたようですが、軍部からクーデターまがいの脅しを受けて相当苦悩したとのこと。ここでもう少し天皇が頑張って作戦を中止させていれば、その後の軍の暴走は止められたかもしれないとのこと。まだ若かった天皇にはそれが出来なかったのでしょう。

    ・天皇は「日独伊三国同盟」にも反対され、再三政府に政府に問いただしたが、その時の松岡外務大臣が延々とその利を説明し、その中で、いずれソ連を加えた「日独伊ソ4ケ国同盟」にする作戦を聞かされる。ヨーロッパはドイツとイタリア、東欧はソ連、アジアは日本が抑えれば、アメリカは戦争に参加できなくなる、という構想。

    ・しかしその構想は進まず、やがて日米間での戦争が避けられない状況の中で、天皇は最後まで「交渉」による戦争回避を望まれ、ローマ法王による調停の可能性まで言及されている。また、開戦を推していたのは陸軍だけで、海軍は勝ち目なしと判断、政府自身も反対姿勢をとっていた。その天皇がいつ、開戦やむなしと決断したのかについては、この実録でも実際には述べられていない。

    ・この本の中で解説している半藤一利は、その決断は真珠湾攻撃開始の1ケ月前の11月8日、その日行われた東条英機首相らからの説明で、初めて真珠湾攻撃が準備されていることを知り、「そこまで進んでいるならやむなし」と。

    ・ただ、その際、天皇が「この戦争の大義は何か?」という問いに対し、東条は「目下研究中にて、いずれ奏上する」と答えている。欧米が支配するアジアを解放して「大東亜共栄圏を作る」という大義は全くの虚構であったようです。

    ・そして真珠湾攻撃のその日。天皇は午前3時には起き、作戦部隊である海軍の軍服を着て「トラトラトラ」の報告を聞く。決心したうえは、大元帥として勝たねばならぬ、という決意だったのでしょう。

    ・最初は優勢に進めた戦争ですが、やがて劣勢となってきて、軍部はミッドウェイ海戦や本土空襲について、あるいは国内の兵器状況や食料状況について、天皇には偽装した内容、水増しした内容を報告。一方天皇は、実はアメリカの短波放送を通じて世界の戦況を直接聞いており、状況は把握していたとのこと。また、戦力の把握についても戦力査閲使を使って把握していたとのこと。

    ・天皇が敗戦を覚悟したきっかけの一つとして、皇太后からの叱責があったとのこと。空襲がはげしくなり、天皇が皇太后に疎開を進めた際、母である皇太后は「私は何があろうと帝都を去らない」とピシャリと断った。これは皇太后から戦争責任を厳しく問われたこととなり、その直後天皇は一両日病床につかれてしまったそう。その後広島と長崎に原爆が投下され、ソ連が参戦してきて、敗戦を決意したのではないかと。

    ・日本の政治判断は、常に天皇に責任が及ばぬように、内閣が決定しそれを天皇が承認する形で進めてきましたが、この敗戦だけは天皇が決断される。今後本土決戦を視野に入れた戦争継続か、無条件降伏かを内閣で審議した結果、結論付けることができず、当時の鈴木首相が、天皇にご判断を仰ぐということでそれは実現。このシナリオは、実は鈴木首相と天皇との合作によったとのこと。

    と、ページをめくりながらつらづらと記載してきましたが、これまで本や映画でしか昭和の歴史を知らなかった自分としては、随分生々しい天皇に関する情報がいっぱいで、非常に興味深く読みました。その時、その時の天皇のご判断がどうだったのかはについてよくわかりませんが、なんにせよ、今後この「実録」は、昭和を研究する学者たちにとって極めて貴重な資料になることでしょう。

  • 「昭和天皇実録」の第1巻、第2巻が書店に並んだとき、思い切って買ってみようかとかなり悩んだ。でも、今後刊行される分を含めてすべてを読み通すことは難しいし、読んでも十分理解できないと思い、この種の解説本を待つことにした。
    本書で取り上げられた部分は、大方の日本人が関心を持つ部分であり、既に知られている資料との異同も含めて触れられているので、一人で実録を読むよりよほど意味があった。できれば、新書一冊というボリュームでは取り上げ切れなかった他のテーマについても、また解説してほしいと思った。

  • 宮内庁が編集した『昭和天皇実録』は、単に事実を載せるだけではなく、どの様に昭和天皇を見せたいのかの意図が働いていると著者達は語っている。
    しかも重要な部分では”エース”が登場していると推測しており、宮内庁と著者陣との攻防も楽しめる。

    この様な著者陣の豊富な知識、洞察力があって初めて『昭和天皇実録』を読み解くことが出来るのであろう。

    さらに違う場面を取り上げた続編を是非出して欲しい。

  • 半藤一利ワールド全開の対談集(笑)。
    膨大な編纂資料のようだが、既出資料からの引用と思しき部分が多く、一次資料としての価値はやや"?"

  • タイトルには謎を解くとあるが、実録の記述を引きながら、推測していく作り。そうなるしかないけど。実録が刊行された際に特集された番組にメインの著者たちも出演していたが、内容が結構被っていた。そういう意味でもそれほど目新しさは感じなかった。

  • (欲しい!/新書)

  • 2014年に刊行された昭和天皇実録についての対談集。少年時代の遊びや叱られたこと、乃木希典への敬慕。欧州遊学。摂政として国の舵取り。熱河作戦の阻止失敗。2.26事件への対応と石原莞爾への不信。三国同盟と松岡洋右。開戦への気持ちの変化と軍部への不信。嘘の上奏ばかりで短波放送を聞いて情報を得る。終戦工作と陸軍への説得。大元帥と天皇と大天皇。マッカーサーとの信頼。沖縄基地問題。A級戦犯の靖国合祀問題。実録は後世への歴史責任を果たす為、かなり中立に抑制的に書いてある。また天皇の生の感情も抑制的に書いてある。六国史に連なる国紀が書かれていることの重要性。24年掛けた大作に感謝。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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