- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167193157
感想・レビュー・書評
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今年お亡くなりになった堺屋太一さんは、万博など数々のプロジェクトを提唱、実現されたほか、「団塊の世代」や「巨人、大鵬、卵焼き」など時代を的確に切り取る言葉を紡いだ方でした。
加えて、時代に埋もれ誤解されている人物を現代的な視点で解釈しなおし、歴史小説として物することも得意とされました。
本書は、天下人秀吉を内から支えた実弟小一郎秀長を、組織に不可欠の補佐役として再評価された、堺屋さんの代表作です。
主君信長の苛烈なまでの実力主義への適応力と持ち前の積極性で、異例の出世を続ける秀吉。急速拡大する家臣団は様々な出自で構成され、もめ事が絶えなかったといいます。
それを持ち前の寛容と抜群の調整力でまとめあげ、裏方として兄を支えたのが補佐役秀長だった、というのが堺屋さんの見立てです。
武勇の士や、知謀を謳われる参謀ではない。
メンバーのモチベーションを保ち、組織をさらなる成長へ向かわせるためには、こうした目立たない機能が必要だと見抜かれ、秀長の姿を通して鮮やかに描かれています。
実際に組織の中で働いている者にとっては非常に納得できる指摘で、堺屋さんご自身、万博事務局という寄せ集め集団、ともすればバラバラになり勝ちな組織をまとめてプロジェクトを成功に導いた体験の成せる技でしょう。
もうひとつ本書のユニークな点は、戦争を資金調達面から分析していること。
一般に、信長への豪勢な贈り物や、備中高松城の水攻めで大量の土嚢を高額で買い集めたエピソードは、秀吉の豪気さとして語られることが常です。
しかし筆者は、軍事行動に必要となる経費を積算し、実際の秀吉軍団は火の車で、信長の厳しいノルマ達成のため借金に借金を重ねていたこと、それ故さらなる成長を求めざるを得なかったことを喝破します。(こうした資金調達-出世競争に、織田家中の軍団長はさらされていて、そのことが結果として荒木村重や明智光秀を生んだとも推察されています)
元経済官僚らしい算盤勘定と言えましょう。
生前、一度だけ堺屋さんにお目にかかる機会に恵まれました。すでにご高齢でしたが、話し始められると、惜しげもなく深い知見をいきいきと語っていただきました。
今でも忘れ得ない大切な思い出です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
元上司が紹介していたのと、他の書評でも紹介されているのをみて、「こんなに紹介されるならおもしろいにちがいない」ということで、日本史に疎くて歴史小説は苦手なほうなんですが、読んでみました。実際に読んだのは「全一冊」のほうだったんですが、元上司の登録がこっちだったので、こっちで登録してます。
とても楽しかったです。日本史に詳しい人は「そんなのあたりまえやん」というようなことでも、疎い私は「そうだったのか」と驚くようなことが多かったです。秀長の存在もこの本で初めて知ったくらいですから。
戦国時代の話でも、やはり人間がすることだから、現代の人間関係などにも通ずるんですね。そういう、いろんな教訓がちりばめられていて、仕事をするうえでの心構えをすこし引き締められた気がしました。堺屋太一は昔のひと、と勝手に思い込んでいましたが、目を覚まさせられました。
図書館で借りて大急ぎで読んだのですが、これは買って、線でも引きながらじっくり読んだ方がいい小説でしたね。そして、折に触れてぱらぱらと読み返して刺激を受けることもできそう。とはいえ、すでに通読してしまった今となっては、また購入してまっさらな状態から再読することもないでしょう。貧乏性が災いしました。【2019年10月6日読了】 -
・下巻の3分の2までは信長の配下にいる羽柴兄弟の話。
・下巻を読んでいてわかったのが、秀長の卓越した軍事能力。
・一方で、先輩大将たちと若手文治派たちの間を取り成す調整能力。
・これができるのは豊臣政権では確かに秀長しかできなかった役割だったろうし、その役割を果たしていたのだろう。
・この人が亡くなった後、朝鮮出兵、秀次一族の虐殺など、豊臣政権の屋台骨を揺るがす事件が起きことからも、秀長が見えないところで果たしていた役割がわかる。
・解説で小林陽太郎氏が書かれているが、この本は織田信長や豊臣秀吉を描くことで豊臣秀長を浮かび上がらせており、本の中でも見事に秀長は補佐役を演じているのではないかと。その通りと感じた。 -
これで終わり?という感想です。
秀吉が天下人となってからの、秀長の様子が知りたかった。
途中何回も、同じ説明箇所があり、くどく感じました。 -
豊臣秀吉を支えた功績をほとんど語られていないが、実際の存在感は凄かっただろうと思う。大友宗麟に『公のことは、この小一郎に申されよ。』という言葉に凝縮されている。小説は賤ヶ岳の戦いで終わっているが、その後ももっと知りたいと思った。豊臣秀長公亡き後の豊臣家は確かに下降局面に入り、滅亡してしまった。豊臣秀長公の存在感はやはり凄いものがある。
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なんか全体的にふわふわした感じのストーリーでした。資料がないので確定的なことが書けなかったからでしょうね。
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豊臣秀吉の三歳違いの弟・秀長は史上類を見ない膨張を続けるその組織のなかで、経歴からいっても実績からいっても、万人が認めるナンバー2でありながら、自らの働きを誇ることなく、常に脇役に徹したまれにみる有能な補佐役であった。激動の戦国時代にあって天下人にのし上がる秀吉を支えた男の生涯を描いた異色の歴史長篇。
足軽から身を起こした秀吉は父祖伝来の領地もなければ親族も少く、将から兵にいたるまでその人材に乏しくていつも寄合所帯だった。秀長は人柄もよく、様々な実務に抜群の才があつたばかりではなく、いくさでも負けを知らなかった。兄の大胆さを補うに弟の手堅さ、秀吉の成功はこの人なくしてはありえなかった。
堺屋太一 -
豊臣家を語るうえで、百姓あがりで実子もなく、一族及び家臣が少なかったため、近江の浅井攻めがある意味重要な分岐点であった。
秀長は、兄の秀吉の補佐官として、近江出身、旧浅井家家臣を積極的に家臣として取立ていく。このことの果たした役割は非常に大きいものとなる。
秀吉は、秀長いたから天下人となれたとも言える。
それにしても、秀長は、お兄ちゃんが大好きだったんだろうね。 -
表に出ない補佐役、負けた者たちの話。全てが勝ち組ではない。
戦争の経済学の視点は、良い。 -
多くはないが、所々に閑話が入っているおかげで、長編小説にもかかわらず最後まで飽きずに楽しむことができた。
巻末にもある通り資料が乏しい、ということなのでどこからどこまでが史実か判断することはもちろん出来ないけれど、小説の中の秀長の人生は決して一代の英雄に見劣りせず、むしろ彼の生き方こそ稀有な存在だと思った。
能力が発揮できる場所があり、求められて、認められて、報いられる。うまく表現できないけれど、恵まれた人生なのではないかな、と感じた。羨ましいと思う。
大河ドラマの原作のひとつという事実は読み進めてしばらくしてから知った。大河ドラマを凄く熱心に観ていたことを思い出した。小説も、ドラマも、どちらも好み! -
秀吉ってほんとうに不思議な人ですね。ブレーキ役でもあった秀長を失ったことは豊臣家にとって致命的だったのですね。