- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167761028
作品紹介・あらすじ
映画化もされた第135回直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』の多田と行天が帰ってきた!相変わらず、汚部屋清掃、老人の見舞い、庭掃除に遺品整理、子守も料理も引き受ける多田便利軒。ルルとハイシー、星良一、岡老人、田村由良ら、お馴染みの愉快な奴らも健在。多田・行天の物語とともに、曾根田のばあちゃんの若き日のロマンス「思い出の銀幕」や岡老人の細君の視点で描く「岡夫人は観察する」など、脇役たちが主人公となるスピンアウトストーリーを収録。
感想・レビュー・書評
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『まほろ市は、東京都南西部最大の町。まほろ駅前で便利屋を営む多田のもとに、高校時代の同級生・行天が転がりこんできた』と、始まるこの作品は、「まほろ駅前多田便利軒」のスピンオフ作品です。私の場合、「便利軒」を読んでもう二か月近く経つにもかかわらず、読み始めた瞬間に、作品世界が一気に蘇ってきました。なんてったって多田と行天という、超濃厚なキャラの男性二人の物語。記憶が薄れても決して消えることなどありません。そして、この作品では、そんな二人の相変わらずのドタバタ劇と、そんな二人を取り巻く人たちの裏側に隠された物語が展開していきます。
7つの短編から構成されていますが、基本的には『まほろ』の世界のお話なので、それぞれが関連している部分もあれば、すれ違うキャラ同士であれば全く単独のストーリーとして展開します。そんな中で特に印象に残ったのは次の二つでしょうか。
『ここ三日ほど、多田便利軒は暇だった。雨がつづくと、便利屋への依頼は減る』と暇を持て余す多田。そこに『便利屋さーん、元気ぃ?』と、『聞き慣れた陽気な声が』響いてきました。『ルルとハイシーが立っていた』ともう「便利軒」の世界感そのままに一話目の〈光る石〉はスタートします。そんなところへ『便利屋さんですよね』と現れた『二十代半ばぐらいの女』。『行天の奇行と、ルルとハイシーの存在を目にしても、女は帰ろうとしない』と強い意志で多田の方へやってくると『便利屋さん。私もうこれ以上、あの女がエンゲージリングをしているところを見たくないんです!』と言う女性。『やっぱり厄介事だったか』と思う多田。女性は『0.45カラットなんです』と鞄からダイヤモンドの指輪を取り出しました。そして、『小夜のダイヤの方が大きいんです。0.75カラットもあるんですよ!』と、なんのことだか『話の要点がわからない』展開。夜までかけて話を聞くと、婚約指輪を選ぶのに同僚の小夜についてきてもらってティファニーで0.45カラットの指輪を買ったところ、小夜はニューヨークの本店で0.75カラットの指輪を恋人に買ってもらった。そして近々みんなを集めて自慢をしようとしているのが悔しい、というものでした。『明日、掃除の仕事が入ってますよね』という女性。『掃除のついでに、部屋のどっかに隠してください。お願いします。それじゃ』と封筒を置いて店を出て行った女性。『封筒を開けてみると、十万円が入っていた』という状況に考えこむ多田。一方で『囲炉裏屋のノリ弁当なら四百個。シャケ弁当なら二百六十三個買って六十円のお釣り』とぶつぶつ唱える行天。多田はどうするのか…。もう「便利軒」そのまんまな世界。全く違和感なくどっぷりと作品世界に浸れます。
もう一つは、多田と行天以外の登場人物が主役となる短編〈思い出の銀幕〉。『原節子だって目じゃないぐらいべっぴんだ』と言われていたのが曽根田のばあちゃん。『息子一家は、ただいま沖縄で夏を満喫中だ』という息子に代わって便利屋の仕事として代わりに病院に見舞いを続けている多田と行天。曽根田のばあちゃんから『私のろまんす、聞きたいかい』と若かりし頃、恋に燃えた話を聞かされます。『ばあさんが、なんだかすごくイイ女のように聞こえる』というほろ苦い『ろまんす』を聞いた二人。『この情景もいつか、記憶になるのだろうか。闇に浮かんでまたたく光、夜空に放たれる花火のような光に』といろんな思いに囚われながら帰途につきます。若き日々を語る曽根田のばあちゃんの活き活きとしたまなざしの遠くに見えるもの、そのあと話し終えて、今に感覚が戻ってきた後の姿を思うとなんだかとても物悲しくなると同時に、とても後を引くお話でした。
『どんな雑用でもお申しつけください』と多田が始めた便利屋というお仕事。『帳簿をめくりながら、「よしよし」と多田はうなずく』。去年の売り上げが一昨年より増えたことを喜ぶ多田。『働く手応えが数値となって表れたことに満足を覚え』ます。でも、どんなお仕事でも人である限りは何かしらプラスアルファが欲しくなるもの。『お金のためだけに働きつづけられるひとは、そう多くはない』と語る岡夫人。『金のためだけではなく、たぶん、惰性や愛着や人間関係ややりがいによって、ひとは働くのだ』というその考え方は我々含め働く人々みんなに言えることだと思います。『やりがいのある仕事』を求め、一方で自分の仕事に『やりがい』を見つける日々のその先に、きっと納得感のある人生が待っている。満足できる終着点が待っている。それが、生きていくということなのかもしれませんね。
『行天が暗いなにかを抱え、必死になにかと戦っている』という不穏な結末が見せる次に続いていく物語。まだまだ『まほろ』の町と、『まほろ』に生きる人々から目が離せそうにありません。でも、それは読者にとって、とても幸せなことだと思います。そう、多田や行天にまたきっと会えるから。
サクッと読めて、クスッと笑える安心安定の『まほろ』の物語。今回も存分に楽しませていただきました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まほろシリーズ第2弾。
第1弾に出てきたキャラのスピンオフ作品。
多田と行天のやり取りは、面白くて
心地よさ、みたいなものを感じますね。
さ、続き(第3弾)が早く読みたいなぁ。-
キョーさん、いつもありがとうございます。
まほろシリーズいいですよね。私もこの作品まで読みました。多田と行天のやりとりは相変わらず心地よい...キョーさん、いつもありがとうございます。
まほろシリーズいいですよね。私もこの作品まで読みました。多田と行天のやりとりは相変わらず心地よいです。
シリーズ三作品目も早く読みたいとても思います。
ありがとうございます。2020/07/29
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まほろシリーズ2作目。
1作目で主人公ではなかった人達のその後と視点で書かれている。
相変わらずな日々の中でかっこよくもなかったり変わらない中でも出てくる人達に惹きつけられるのは何故なのか。
無理せずその人達なりに毎日を生きている姿を丁寧に描かれていて、ちょっとした言葉が心に染みてくる。 -
便利屋さんの多田さんと、行天さんのお話は、前作に続き楽しめた。
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「まほろ駅前多田便利軒」の続編なんだけど視点が多田以外の話も入っていておもしろく、個人的には岡夫人目線が楽しかった。映画版は見ていないのに行天はずーっと松田龍平さんで脳内再生される。ぼかされていた行天の闇が明らかにされるのかな…?というところで次巻へつづく。
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狂騒曲、便利軒、番外編と読み進めていったが、狂騒曲で登場した人物との出会い、また依頼者の生活や思いを彼ら自身が説明していく章もあり、多田の観察により読み手が登場人物をイメージするのではなく、こんな人物であるとはっきりと理解ができた。
「由良公は運が悪い」とは、両親に約束をすっぽかされたこと、財布を無くしたことが運が悪いのではなく、行天と一日中過ごすことになったのが、運が悪いのか?と、思えてならない。 -
まほろシリーズ第二弾。七つの短編からなる本作。東京の外れに位置する都市南西部最大の町「まひろ市」で便利屋を便利屋を営む多田と行天が帰ってきた。
忙しい日常の中で、誰かの手を借りられればな。と思ったりする。
「重いタンスの後ろに年金手帳を落としたとき」
「庭掃除をしなければいけないのに気乗りしないとき」
「買い物に行きたいのにぎっくり腰になってしまったとき」
「なんとなく誰かにそばにいてほしいとき」
そこで登場するのが、多田便利軒だ。なんでも引き受けます。仕事の腕前は「終わり良ければすべて良し」。そんな感じ。
そんな便利屋が過ごす「まほろ市」での平凡(?)な日常を描く作品で安心して読めます。
「だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってこと」
日常のちょっとしたことに幸せが溢れている。
前作では、「幸福の再生」をテーマに物語は進みましたが、本作では、便利屋の周りの人物にもフォーカスが当てられ、便利軒の世界は一層広く、賑やかで、カラフルに楽しめます。二作目ではありますが、本作だけでも十分楽しめると思います。ただ前作「まほろ駅前多田便利軒」を読んでからであれば、本作を何倍も楽しめると思います。
「あ〜疲れたな〜」って「癒しがほしい〜」って
思う方がいましたら、まほろ多田便利軒に依頼してみてはいかがですか?
あなたの心を軽くしてくれること間違いなしだと思いますよ。 -
2022年5月にまほろ駅前多田便利軒を読んで、そのスピンオフストーリー
三浦しをんさんの小説に出てくる人々はとても魅力的
こどももお年寄りも人間くさくてチャーミング
スピンアウト小説楽しく読みました
とくに曽根田のばあちゃんと由来公の話しが好き
映画ドラマ観てないけど、瑛太と松田龍平ぴったりと思う -
多田と行天のまほろ駅前番外編。
愛すべきキャラの脇役たちを真ん中に添えたドタバタ活劇と思いきや、最後の「なごりの月」で行天の暗い一面が露出され、次作へと引き継がれる。行天の過去にはいったい何があったのか?そして多田との関係はどうなるのか?