- Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198638504
作品紹介・あらすじ
どの藩の経済も傾いてきた寛延三年、奥脇抄一郎は藩札掛となり藩札の仕組みに開眼。しかし藩札の神様といわれた上司亡き後、飢饉が襲う。上層部の実体金に合わない多額の藩札刷り増し要求を拒否し、藩札の原版を抱え脱藩する。江戸で、表向きは万年青売りの浪人、実はフリーの藩札コンサルタントとなった。教えを乞う各藩との仲介は三百石の旗本・深井藤兵衛。次第に藩経済そのものを、藩札により立て直す方策を考え始めた矢先、最貧小藩からの依頼が。
感想・レビュー・書評
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前半は、主人公・奥脇抄一郎が藩札掛として、成長して行く話。後半は、藩札万指南役として、北国の貧しい小藩・島村藩の経済立て直しを、三年の期限ではかる物語。前半では、抄一郎のどうしようもない姿が目立つが、後半の活躍はとてもカッコいい。また、島村藩の執政兼藩札掛・梶原清滝の生きざまが凄かった。
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赤貧の小藩を救う為の経済的指南を行う、今で言う
フリーのコンサルタント奥脇抄一郎。
抄一郎目線で話しは進みます。
めちゃくちゃ面白かった‼︎
潘の改革を命懸けで突き進む「梶原晴明」が格好よすぎです。
「もとより、鬼になるつもりでおります」って…
晴明の覚悟にちょっと震えました(/ _ ; )
「誰よりも鬼には向かぬ者が、誰よりも厳然と鬼をやっている。顎を震わせながら、鬼をやっている…」
文章も簡潔、センスがいい!
ラストの手紙で泣かされた〜。゚(゚´Д`゚)゚。
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予約をしていたこの本が手元に届いた直後に直木賞候補になったと発表になった。
もうちょっと遅かったら順番がなかなか来なかっただろう。ラッキー!
苦手な時代小説である上にテーマは藩札。
藩札とは各藩の領内でのみ流通する紙幣の事。
貧しい国では領内の経済流通を活性化させるために藩札を発行したんですね。
主人公は藩札掛を任命された奥脇抄一郎。
いや、最初は正直つまらなかった。
経済の話をされても良く分からんし、なかなか物語が動かない。
藩札を増刷に反対した抄一郎が国を飛び出し江戸でひっそりと暮らしていた。。
やがて藩札の指南役として北の小藩の経済を立て直すことになる。
お!段々面白くなってきた。
「鬼はもとより」というタイトルだけど、鬼って誰??と思いつつ読む。
鬼は執政である梶原清明だった。
いやー、この清明さんが格好いいのなんの。
命を賭して財政再建に取り組む姿は非道そのもの。
だがその裏の姿を抄一郎は見抜いている。
「誰よりも鬼に向かぬものが、誰よりも厳然と鬼をやっている。顎を震わせながら、鬼をやっている。」
しびれました。
本気で国を変えたいと思ったら、このぐらいの気概がないと。
最後は思わず涙涙になってしまったこの小説、とっても良かった!!
どこぞの国の首相への強烈な皮肉に思えて仕方がなかったのは内緒です(笑)
今回の直木賞、難しいなあ。
この作品も良かったし、大島さんにももちろん受賞してほしい。
今予約中の「サラバ!」も楽しみにしているし。
困りましたね・・・。 -
経済をテーマにした時代小説。
苦手なジャンルでもあり、
遅々として進まぬ頁ではあったが
傾きかけた国の復興方法について
主人公の抄一郎が(ひらめいた!)頃より
ぐん、と加速度がついた。
頭のなかを常にぐるぐる駆け巡っていたのは
「仕事とは幹である。」
と、言っていたニーチェの言葉。
豊かに葉を茂らせ、美しく花咲かせ、たわわに果実を結実させゆく樹木を私達は見上げ、
ほおっ、と思わずため息をついてしまうが
それもこれも、どっしり太い幹が
地道に命を繋いでいてこその成果。
時に女性に惑わされたり、
成果を共に分かち合える同志がいない、
と、落ち込む事があったとしても
今日も力強く自分を支えてくれる幹さえしっかりしていれば
やがて生きる方向性も見えてくる。
「鬼」の生き様や、それを目の当たりにしてきた主人公の痛みも心に強く残ったが、
人生の中で<仕事>が占める意味について一考させられた。 -
一気読みでした。
初期の別名義のミステリーを除けば、青山さん名義の作品は全て読んだと思っていたのですが、この一冊を読み残していました。どちらかと言えば初期の著者の5作目、2014年の作品です。
ひょんなことから藩札導入に関わり、そこに自分の生きがいを見出した主人公・奥脇抄一郎。上層部が決めた増刷を拒否して脱藩したが、藩札を増刷した藩はその信頼性低下から百姓一揆を招き、幕府にとがめられて廃藩となる。江戸で浪人していた抄一郎は、やがて様々な藩から藩札の相談を受ける事を生業とするようになり、やがて奥州の貧しい島村藩の経営コンサルタントとして招かれる。
武士による藩の経済改革は、例えば『小説・上杉鷹山』など色んな作品がありますが、何かちょっと印象が違います。藩の改革は成功するのですが、とんとん拍子で上手く行き過ぎ、その説明も十分ではありません。そもそも主題の藩札よりも隠れて利益をため込んでいた商人の改易のほうが効いている様だし、そういう意味では経済小説では無いですね。
やはり一番の主題は、常に死を間近に置き、必要とあらば目的のために命を賭せる、そんな武士の生き様の様です、たとえそれが「経済」であっても。抄一郎を招いた島村藩の改革推進役・梶原清明の「鬼となった」凄まじい生き様は、読みごたえがあります。
ただ、前半多くのページを使い、最後にちゃんと回収したけれど女性をサイドストーリーも、それにかかわるどこか狭量で極端な女性論も無い方が良かったと思います。 -
面白かった。最貧小藩を立て直す プロセスが興味深く一気に読めた。
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貧乏藩の立て直し。藩札を使った経営コンサルタント。上手に武士の覚悟も絡めいい作品になっている。それでも女性との関わりはやけに人間くさい。そこのアンバランスさも心地よい。いいの読んだ。
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結末は想像がついていたけど、それども最後の一行にうるっときました。
これで読むのは二冊めですが、この人の作品って好きです。 -
普通の時代小説を読んでる時には決して動かない脳の回路が活発になる面白本で、この分野に縁遠い人もきっと愉しめる。藩札をテーマにしたバブル批判の書で、全サラリーマン必読だと評してる人もいるみたいだが、常に死と寄り添った侍と現代の企業人を同列に考えるのは野暮というもの。ただ、無理をする覚悟が据わらぬ者の背中を突き飛ばす一冊であることは確か。無理を無理でなくす存在としての鬼であり女を、とりわけ男の潔さなぞ足下にも及ばぬ女の潔さを十分に描ききっていれば傑作になったであろうに、最後の主人公の叫びは読者の嘆息でもある。