文体練習

  • 朝日出版社
3.95
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本棚登録 : 1974
感想 : 208
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255960296

感想・レビュー・書評

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  • 22.11.14読売新聞

  • 最近『さまざまな空間』で知って,すっかり好きになってしまったフランスの作家,ジョルジュ・ペレック。ペレックと一緒に「ウリポ」という名前で活動していたのがレイモン・クノー。実は映画を観たことがあるルイ・マルの有名な『地下鉄のザジ』の原作者でもあったということを後から知って驚いた。映画としてもかなり奇異な作品だが,それの原作があるとは。
    まあ,フランスといえば,シュルレアリスムのお国柄だし,文学においてもアラン・ロブ=グリエなど前衛的,実験的作家が多いので驚くべきことではないが,本作の試みもなんともユーモアがきいていて思わず笑ってしまうのだ。本書はその名の通り,文体の練習をしているだけ。とても小説とはいいがたいもので,むしろメタ小説といえるのかもしれない。本書は99の断章から成っている。そして,その99の文章は全て同じ出来事を記述しているのだ。一応,語り手がいる。
    その語り手が乗り合わせたバスのなかに,首が長く奇妙な帽子をがぶった若者がいる。とても混みあった車内で,彼はある乗客に文句を言う。何度も足を踏みつけていることに対して。しかし,文句をいったきり,彼は空席を見つけて逃げるように座ってしまう。ここまでが第一の場面。それから2時間後,第二の場面でやはり語り手はバスに乗っているのだが,バスの外にまたその若者を見つけるのだ。今度は似たような男と一緒にいて,その男に若者は着ているコートのボタンの位置がおかしいから付け直した方がいいと意見されている。という2つの場面だけ。
    この出来事について99種類の文体で記述をするという試み。99の書き方にどんなものがあるかは説明するのが大変なのでやめておくが,本書を読み終えると,フランス語から日本語へと翻訳した訳者の苦労が身にしみる。でも,日本語そのものも面白く,日本語を読みながらフランス語ではどんな表現だったのかを想像するのも面白い。そして,訳者はそれらのことを言い訳も含むように,60ページ弱も費やして「訳者あとがき」を書いているのだ。例えば,原著では「ギリシア語法」と題した断章は,「古典的」と題して,枕草子風な文体で書いているのだ。これは翻訳というより解釈である。
    小説というのは一般的に,物語そのものを楽しむものである。文体というのは,ビュフォンの「文は人なり」という言葉にあるように,また英語ではstyleという語を使うように,個人が身につけたものだとされる。小説における文体とはその作家の個性であり,ミュージシャンの歌声の質のように,読者が感覚的にその作家を好きかどうか判断するものであるともいえる。音楽は他人の作った歌を唄ったり,独自のアレンジをすることで別の表現を生むが,文学では同じストーリーを別の作家が別の文体で描くということはそう多くない。そういう意味でも,本書の試みはいろんな意味合いを含んでいる。
    その意味合いは,もちろん文学批評としても極めて真面目に論じることができる。しかし,それをこうして創作の場で,パロディたっぷりでやっているところがいいのかもしれない。そして,それを日本語に翻訳した朝比奈氏に感謝を。

  • とてもいいしよくわかるのだけど高い。
    ので★-1。

  • 翻訳はかなりがんばっている。日本に古来からある文体を駆使している。「枕草子」風のところなど、かなり笑わせてもらった。しかし読めば読むほど、言語で読みたいなあ、という気分にさせられるのだ。いや、決して翻訳が悪いというわけではなく。

  • 松岡正剛「千夜千冊」第138夜

  • バスの中で首の長い変な帽子を被った若者が
    隣の客に文句をつけた後そそくさと空席に座り、
    さらにその若者が別の場所で友人にコートのボタンについて
    指摘されているのを見た。というだけの物語を99の文体で。
    隠喩を用いて、擬音、荘重体といった文法的なものから
    語尾の類似、音の反復、古典的、リポグラム、
    イギリス人のために、のような言葉遊び、
    さらには哲学的、集合論、医学、動物たちまで。
    造本・本文レイアウト:仲條正義

    これはすごい。同じ内容の文章を様々な文体で言い換えていくという
    それだけと言ってしまえばそれだけなんだけれども
    その文体の発想のバリエーションが途方もないです。
    99+3つの文体があるのですが
    あとがきによればたびたび改変が加えられていたようで
    実際にはもっとたくさんの文体を考えていたクノー。

    さらにすごいのはこれを翻訳した朝比奈さんです。
    原文にはフランス語ならではの言い回しや洒落や
    フランス人の共通認識である古典なんかが
    存分にベースに使われているのを全て日本人向けに訳し直すという
    膨大な作業を成し遂げています。
    そして日本人にとってはほぼ直訳の文体よりも
    大幅に改編された言葉遊びのほうがきっと面白いはず。
    枕草子や短歌、全てに濁点をつける、女子高生言葉、
    ばび語、エセ関西弁にエセ漢文。よくぞこれだけ。
    ルイス・キャロルの作品も訳してくれないかなぁ。英語だけど。

    そして装丁の見事さにも言及しておきたいです。

    「あしふみの 長きバス首 さわげども のちのボタンは さん=らざりけり」

  • 138夜

    読みたい

  • 久々に当たった!と思った本

  • コレハ変な本。フランス語がちょっとわかるとなお楽しめる。

  • 極上の文章読本!

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著者プロフィール

一九〇三年ル・アーヴル生まれ。パリ大学で哲学を学び、シュルレアリスム運動に参加。離脱後、三三年に「ヌーヴォ・ロマン」の先駆的作品となる処女作『はまむぎ』を刊行。五九年に『地下鉄のザジ』がベストセラーとなり、翌年、映画化され世界的に注目を集める。その後も六〇年に発足した潜在的文学工房「ウリポ」に参加するなど新たな文学表現の探究を続けた。その他の小説に『きびしい冬』『わが友ピエロ』『文体練習』『聖グラングラン祭』など、詩集に『百兆の詩篇』などがある。一九七六年没。

「2021年 『地下鉄のザジ 新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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