白光 (光文社文庫 れ 3-6)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334744649

感想・レビュー・書評

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  • とても上質な心理ミステリーだった。
    祖父である桂造、桂造の長男・立介、長男の嫁・聡子、立介夫婦の長女・佳代。
    4人暮らしの家族は、2年前から痴呆の気が出てきた桂造の面倒が大変なくらいで、どこにでもある普通の家族にみえていた。
    何かと理由をつけては桂造宅を訪れ、実の姉である聡子に自分の娘・直子の世話を押しつけている幸子の存在が少しずつ桂造の家族を蝕んでいたのかもしれない。
    わがままで自由奔放で、何でも自分の考えを押し通し、姉である聡子は子供の頃から我慢を強いられてきた。
    あの日も、幸子は不倫相手と会うために桂造宅を訪れ直子を姉・聡子に押しつけていく。
    直子が殺された。
    桂造宅の庭に埋められ、遺体となって発見されたのだ。
    登場するすべての人に直子殺害の動機がある。
    それは積極的な殺意だけでなく、「直子がいなくなってくれれば…」といった消極的な願望も含めてだけれど。
    はっきりとした殺意があれば、事件が起きて犯人が逮捕されて、責任を追及されて罰を受ける。
    けれど、消極的だけれども「消えてほしい、消えてしまえ」という思いのもとの行動した場合は、いったいどうやってその責任は償われるのだろう。
    一番弱い立場だった直子。
    周囲の者たちが抱く妄想や不満や憤りや苛立ちが、すべて直子に集中してしまった結果の事件のような気がする。
    読み終わった後の後味の悪さは超一級だ。
    複雑に絡み合い交じり合った感情が、ひとつの事件を引き起こしていく過程は、まるで心理劇をみているようだった。

  • 事件そのものはシンプル。その背景に、過去の出来事、家族内の複雑な人間関係、裏切りと報復の連鎖がある。
    後半は、各個人だけが知っている事実に基づく多重推理、多重告白の連続。芥川龍之介の「藪の中」を連想した。予想だにしていない人物の意外な告白もあって、意表を突かれた。
    真犯人と言うべき人物は、想定外の人。エンディングも情緒があって、すばらしい。
    ある意味では、「お互いに協力していないのにも拘わらず、全員が犯人」と言えるような物語。このような不思議なストーリーを実現させた作者の手腕に拍手。

  • 「白光」連城三紀彦◆平凡な家族が住む家で、幼い姪が殺され、庭に埋められた。徐々に明らかになる家族の本当の姿、そして真犯人は…?一見普通の家族というのが怖いです。文庫の表紙が白い光を浴びるノウゼンカズラでとても美しいのですが、読み終わってから改めて見るとぞわっとします。

  • 人間関係もどろどろしてるうちが華だな。
    無味乾燥の果てに起こった事件という感じ。唯一人間らしいおじいちゃん。
    文章がしっかりしていて良かった。表現が丁寧なのにくどくなくて美しい。

  • 連城三紀彦の小説を好きになって27年くらいがたつ。最初に読んだ直木賞受賞作でもある「恋文」は、モラルのない大学生だったころ、渋谷の映画館で拾ったヴィトンのバッグの中にはいってたハードカバーを読んだものだった。ちなみに、一緒にでかけた友人がそのLVのバッグを、もう一人がLVの財布を ボクが本をもらった。中に入ってたお金は、そのあと居酒屋で全部飲んで使ってしまった…。そんな罪深い思い出にまみれた連城だけど、それ以来ずっと好きで読み続けている。(先生すみません)
    今回の作品は、ミステリーなのか、ホラーなのか、はたまた彼の得意とする愛情のもつれを描いた恋愛小説なのか… だれにも殺意があり、誰にも愛情があった。誰もが、人間として暗い部分を抱えながら、誰一人として徹底的な悪党などはいない。救いようがない作品と否定的にとらえる向きが多いようだが、ボクには、如何にも人間的な作品に思えた。

  • 聡子は、妹の娘・直子を自宅で預かった。しかし自分の娘を歯科に連れて行くため、直子を舅と二人、家に残して出かける。聡子が帰宅すると、直子は殺され、庭に埋められていた……。

    章ごとに聡子たち登場人物の視点が変わり、それぞれの立場からこの事件が描かれ、徐々に真実が明かされていく。視点が変わるごとに事件の真相も二転、三転。芥川龍之介『藪の中』にも似ているし、救いのなさは湊かなえ『告白』にも似ている。しかし、誰もが心にもっている暗い悪の部分を次々に明かしていく点でそのどちらよりも面白い。

  • 連城三紀彦の名前と、表紙の写真の美しさに惹かれて買った小説。

    聡子が歯科に娘を連れていくため、家を空けたその一時間半のあいだにそれは起こった。
    留守番として義父と共に家に置いていった姪が、何者かによって殺され、庭に埋められていたのだ。
    警察は痴呆も激しく攻撃的な義父に疑いの目を向けるが、一方で若い男を見たという証言も出てくる。
    さらにこの殺された姪は聡子の妹・幸子と聡子の夫との不義の子であることがわかり、家族の誰にも動機があることが明らかになってくる。
    犯人は義父か、若い男か、幸子か、その夫か、それとも聡子か、聡子の夫なのか、はたまた他の誰なのか。

    くるくると新しい像を結んでいくストーリー展開は見事。
    かなり早い段階でひとり目が自首してきたので、これは何かあるだろうなあと勘繰っていたら案の定、真犯人はこの人、いや違うこいつだと、疑いがたらいまわしに。
    幸子や聡子が言った「いいのよ」は、プロバビリティの犯罪だなあ、しかし何かもやっとして終わるな・・・、と思っていたらその先にもう一段階あって、最後はものすごく綺麗にオチがつけられていました。
    さらに同時に、この物語の人々はそれぞれ矛盾した発言をしているけど、彼ら自身の中ではそれが疑いようのない事実であって、どれも間違いなどではないんだな、ということを痛感し、改めて「客観的な事実」などという言葉の空々しさを感じました。

  • 後味がマジで悪い!最高〜
    個人的には(内容には関係ないけど)文字が小さいのか文章の間が狭いのかでやや読みにくさを感じたので、目が悪いとつらいかも?

  • シンプルに面白い

  • 様々な思いが水面下で一人の子供に集中していることが恐ろしかった。色んな感情や出来事が絡み合ってて、真実は一つって感じじゃ無い。人の数だけ真相があった。
    視点がどんどん入れ替わることで、登場人物の印象も変わっていく。他の人視点の時は嫌な人だなぁという印象だったのに、その人視点になると思ってたより悪い人じゃ無いなぁみたいな。語り手の主観に引っ張られちゃう。

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著者プロフィール

連城三紀彦
一九四八年愛知県生まれ。早稲田大学卒業。七八年に『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞に入選しデビュー。八一年『戻り川心中』で日本推理作家協会賞、八四年『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞、同年『恋文』で直木賞を受賞。九六年には『隠れ菊』で柴田錬三郎賞を受賞。二〇一三年十月死去。一四年、日本ミステリー文学大賞特別賞を受賞。

「2022年 『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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