- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334744649
感想・レビュー・書評
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『すぐに門灯がともり、その灯におびえるように周囲の暮色は黒く陰り、花が光って見えるのが、蒸し暑さのために脂汗をしたたらせているかのようでした。』
この家には戦地経験のある桂造、その息子の立介と妻の聡子、娘の佳代の4人が暮らしている。
聡子には幸子という妹がいて、その幸子にも直子という4歳になる娘がいるのだが、最近カルチャーセンターに通い始めたという理由から頻繁に直子を預けに来る。聡子はそれをとても迷惑だと感じている。なぜなのかは、複雑な彼女なりの事情があるのだが、上手く断り切れずにまた直子を預かることになってしまった。その日佳代と歯医者に行っている間に、直子が行方不明になってしまった。やがて、その庭のノウゼンカズラの木の根元に埋められている死体が発見されることになる。
冒頭の文章は、その直子が発見される直前の文章だ。
なんて趣のある文なんだろうと思った。夕暮れの色が暗くなる様を「おびえて黒く陰る」と表現するなんて。前にこの著者の本を読んだときも感じたが、ミステリーなのだが文章がすごくいい。時々はっとさせられる。
語り手が次々と代わるように、もっとも疑わしいと思われる人物も目まぐるしく変わっていき、読み手は非常に混乱させられる。今日はここまで読んで続きは明日にしようと思いながら、気がつけばまたページをめくっている。ずるずると後ろ髪を引っ張るのだ、この本は。
事件の関係者はほぼ全員、少なからず思っている。
「直子は死ななくてはならない存在だったのだ」
だから殺人はこのような形で行われたのだ。
真実と呼ばれるものは、まずは誰に都合のよい角度でその顔を見せるのか。
クラシカルな話が苦手な方でなければ、是非手にとってもらいたい一冊だ。
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場面だけでなく登場人物の心情や行動にまで、真夏のジリジリとした暑さとジメっとした湿気をまとっている。愛されていないとは思いたくないが、たしかに「救い」なんてひとかけらもない。
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何が面白いのかさっぱり分からない。
登場人物が入れ替わり立ち替わり、「私が犯人だ」「私の罪だ」と言ってるだけの小説。
もう誰だっていいよ。 -
ある一人の少女の死をきっかけにごく普通の家族がみるみる崩壊していく。
関係者全員の独白により事件前後の詳細が明らかになるが各々の誤解や勘違い、妄想等により二転三転する真相にはお見事としか言いようがない。
不愉快極まりない展開なのに淡々とした語り口によってさらっと読めてしまう。 -
女の子が殺されたという事実が軽く扱われすぎて、「もうあんたらの真相なんてどうだっていいわ!!!」と思えてくる。創作なのでそういった視点でかんがえる必要はないのだろうけど。
語り手の告白が真相のようで、次の語り手がまた別の真相を告白する、という展開は面白かった。同じ場面が別の見え方になる。
湊かなえの「母性」みたいな感じ。 -
老人の描写から入るこの作品は、ひどく暗くおどろおどろしい雰囲気をかもし出している。
少女殺害から、それぞれの人間関係があらわになっていくのだが、そんな人間関係とは関係のない少女が殺されることが最後まで不憫でたまらなかった。
いろいろな事情はあると思うが、子どもを巻き込むのはあまりにも大人気ないし、少女殺害きっかけで大人の事情があかるみになったからって、なんの意味があるのだろうと思った。 -
ある事件をきっかけに『家族』の秘密が露わになっていく物語。
『家族』といっても夫婦、姉妹、親子、祖父母と孫などいろいろなかたちがある。その登場人物全員が複雑に絡み合い、そして秘密や闇を抱えている。次々と事実が発覚していくが、本当に愛する誰かのために行動するその姿が儚い。
それぞれの視点から少しずつ事件が明らかになっていき、その都度「なるほど」「そういうことだったのか」と納得。全てが伏線となっており、何度も読み返した。真相に近づくたびに鳥肌が止まらない。 -
平凡な家庭で、ほんの僅かな時間のお留守番で、預かっていた幼い姪が殺される。
事件か事故か?
事故なら何があったのか。
事件なら誰がこんなことをしたのか。
家族それぞれが抱えた家族にも言えない思いが少しずつ交差する中で、たどり着いた結末には驚く