アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集 (光文社古典新訳文庫)

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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334754181

感想・レビュー・書評

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  • ルゴーネスはアンソロジー『ラテンアメリカ怪談集』で「火の雨」を読んだことがあるだけだったので、まとまった1冊で読めてとても嬉しい。帯の言葉を借りるならアルゼンチン文学上「ボルヘス、コルタサルと並ぶラプラタ幻想文学の巨匠」ということになるらしいが、この本の収録作を読んだ限りでは、ボルヘスやコルタサルの幻想や不条理よりも、冒険小説やSF寄りのような印象を受けた。科学的な「オメガ波」植物学の「ウィオラ・アケロンティア」あたりを筆頭に、全体的にどの作品にも何らかの蘊蓄が多いからかもしれない。

    表題になっている2作は、ツタンカーメン王、ハトシェプスト女王の墳墓を暴いた呪いにまつわる連作。女王の生まれ変わりだという美しい女性の存在はさすがにフィクションだろうけど、発掘に関わった実在の人物(実際に不審な死を遂げている)も登場するので全部信じてしまいそうになる。「ヌラルカマル」や「黒い鏡」も遺跡からの発掘物などにまつわる考古学もの。

    個人的にお気に入りだったのは「チョウが?」。仲の良かった従妹がパリへ留学してしまったあと蝶の採集に夢中になった少年が、ある日みたことのない珍しい蝶をみつけ標本にするが、同じ頃パリの従妹は・・・という不思議な話。ヒキガエルを殺すと復讐されるという「ヒキガエル」、インコの一種である小鳥の呼び名にまつわる「小さな魂」などは、南米らしい素朴な伝承が題材になっていて好みだった。

    チョークで描いた円から出ると死ぬと信じている狂人の「円の発見」、自分は本当は死んでいるのだがそれを誰も信じてくれないがゆえに生きている男の「死んだ男」あたりはボルヘス的かもしれない。どちらも、それが事実だと本人なり第三者なりが認識した瞬間に本当に死んでしまう。子供のころに読んだどこかの国の民話で、バナナを食べると死ぬと信じている男に、こっそりばれないようにバナナ入りの料理を食べさせたところ、もちろん死なない、そこで実はバナナが入ってたんだよと種明かしした途端に男は死んでしまう、という話があったのを思い出した。

    絵の中の美女が絵から出てくる「ルイサ・フラスカティ」、壁の前に座り続けた少女の肖像が壁に浮かび上がる「イパリア」、分身のような猿の影を持つ男の「不可解な現象」、骨格標本集めが趣味の男と骨のない女性「カバラの実践」などもホラー味があり、なおかつ作者の、そういう現象に対する思想のようなものが投影されていて面白い。

    ※収録
    ヒキガエル/カバラの実践/イパリア/不可解な現象/チョウが?/デフィニティーボ/アラバスターの壷/女王の瞳/死んだ男/黒い鏡/供犠の宝石/円の発見/小さな魂/ウィオラ・アケロンティア/ルイサ・フラスカティ/オメガ波/死の概念/ヌラルカマル

  • ルゴーネス:アルゼンチンの作家 遺跡で発掘されたアラバスターの壺の香りを嗅いだ貴族が死んだ。壺の中には王の呪いが込められた死の香水が入っていた。その香りを纏う女シャイトが現れる。幻想的な話。

  • ジャーナリストが書いた幻想小説なんか面白いか?と半信半疑で手に取ったが、
    これはすごい。
    すごい知識量。知の怪物と謳われたボルヘスとはまた少し異なった類の博識。
    「オメガ波」あたりはSF小説としても通じそう。

    好きだったのは「イパリア」「ディフィニティーボ」「円の発見」「ウィオラ・アケロンティア」「オメガ波」。

    やはりラプラタ系はスペイン語の持つ独特のふしぎな語感がより一層異世界感を高めてくれて好きだ。

  • 科学と幻想は相容れるのだということが嬉しい。似非科学、科学、魔術、妖術、カトリックと地域の伝承、いろいろなものが混ざり合っている。その科学も百年後の我々からすると科学と似非科学が混ざっているのだが、それがもとの文章の中で描かれていた科学と似非科学、現実と幻想の曖昧さを、メタ的に我々の現実までもたらしている。

    黙々と読み進めるうち、まるで子どものころ何かに没頭していてふと我に返った時に、明るかった空がすっかり黄昏れて、部屋の中は暗くてなんとなくものの輪郭が見えるだけ、誰かがいても誰なのかは判らない、そんな心許ない感覚を思いだした。

  • 本のページ数も少ないが、話の一つ一つがとても短く、起承転結の起承あたりで話が終わる感じ。かなり読んでてガックリくる。世界観は非常に興味深い作り故に、より「なんか裏切られた感」がつきまとう。しばらくすると、タイトルの「アラバスターの壺」に行き着く。ちょっと長めでその分わかりやすく面白さもアップ。その次の「女王の瞳」も同じく。それを越えると、何だか慣れのせいか距離感が縮まりはまってくる。すっごいこの「光文社新訳文庫」のイメージにぴったりの本。

  • 古代エジプト王墓発掘を巡る怪異譚や、ミステリアスな女性にまつわる男の破滅譚、マッド・サイエンス的な科学と幻想の融合したような物語、全部が全部好みの作品というのは難しいだろうが、また新たな作家、作品を知ることができて、古典新訳文庫に感謝!

  • んんん、難しい。
    訳はわかりやすく注釈も読みやすい。その辺の配慮は絶妙だ。
    となれば、難しいと感じているのは内容で、難しいというより、面白みがわからない。同郷のボルヘスも合わんかったしなぁ…。

  • 『ラテンアメリカ怪談集』の「火の雨」的なものを期待して手に取ったものの、いくつかの(そしてルゴーネス研究者にとってはおすすめらしい)科学幻想ものは、あーもうその蘊蓄早回しでお願い!となったので、どうも今の自分はルゴーネスのある側面を楽しむ能力がないらしい。わたしはぶっとんだ想像力が見たいんだ。

    ということで全部がとても良いというわけにはいかなかったけれど、丸の中にいたい人、死んでいるのを信じてもらえない人の話は好き。意味不明なのがよい。

  • 『死んだ男』◎

  • ラテンアメリカの幻想小説。
    ぱっと読んだ感覚ではヨーロッパっぽいな〜という感じがしたのだが、読み進めるうちに、『あ、これ、ヨーロッパじゃないわ……』という感覚に変わっていった。土地柄ってあるなぁ。

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