- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344041165
感想・レビュー・書評
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歴史小説と社会派小説のハイブリッド。現代的な倫理道徳観を登場人物らに上手い事備えさせつつ、史実上のモノクロ空白部にドラマティックな想像という彩りを加える事に成功している。
江戸開府より100年余りの頃、当然ながらバリアフリーだとかダイバーシティなんて感覚など微塵も無かったであろうその当時。英君の呼び名高い将軍・徳川吉宗の後継候補である嫡男〈家重〉は聡明な質である一方、先天的に言語が重度に不自由、右手足に麻痺があるため歩行にも難儀し、更に頻尿症で襁褓が外せないというハンディまでをも抱えている。余りにも逆境、どう考えても辛い。
幼時より家重の言葉を解する者は周囲に誰一人として居らず、それは理解者である実の母〈深徳院〉や乳母〈滝乃井〉らとて例外ではなく、弟の〈宗武〉は誰もが一目置く若武者で常に比較に晒され、吉宗の頭には廃嫡が過り幕臣達も不穏である。いや逆境過ぎてもはや草だよ。
そんな彼の元に現れたのが、何故だか家重の言葉を理解できる無二の友にして股肱の通詞役を務める〈大岡忠光〉である。彼がどうして家重の言葉を聞き取れたのかは凡そ想像の範疇を出ないが、生来耳が良いからとか元来鳥が好きで家重の声が鳥の鳴き声に似ていたからといった説明がなされる。およよ。彼については史実でも作中でもミステリアス臭さがプンプンで、稀代の詐欺師である可能性すら有り得るキーマン。田沼意次と上手くやっているのも見ようによっては臭い。
物語後半にて、もう一人、家重の言葉を聞き取れる島津家家臣〈平田靱負正輔〉という人物が登場する。この設定は完全に本作オリジナルの要素のようなので(存在は実在ですよ!念の為)何らか意図があるように思うが、恐らく‘この広い世の中で家重の言葉を聞き取れるのが忠光ただ1人っていうのも寂しいし救いが無いので、本筋に影響し過ぎない手頃な人物’として白羽の矢が立ったのかなと想像。島津家と徳川幕府の関係って実際どうだったんだろう。遠隔だし好きにやらせとけ、くらいの感じだったのかな。この辺りについてはちゃんと本を読んで勉強したい。
むしろ正輔の存在がある事で、忠光の評価が絶対的でなくなるという深謀なのではなかろうか。
小説としては総じて爽やかな雰囲気でありながら、お幸の方の顛末やお千瀬の方といった家重の女性関係についてはアンタッチャブルなのかスッキリしない。お幸さんを牢獄に入れた史実は丸ごとオミットだし。比宮さんのことがあってから何がどうしてお幸さんと史実上こうなったのかについてはかなり一生懸命に辻褄を合わせている感じだが、もうちょっと家重の奥底に潜む薄汚さを曝け出して愛憎を描かれていたならばサイコインテリみたいなヤバさを引き出せたのかもしれない。お千瀬に関しては言うに及ばず、もはや物語を想像するのも厳しいか。。家重は女性関係はもっとグズグズに爛れていたと思うんだよなあ。
けど、あんなことをした宗武を出禁で済ませてあげるあたり、仁君だったのかもしれないし周囲に丸め込まれたのかもしれない。
吉川英治の『大岡越前』(9784061965454)をはじめ徳川吉宗を扱った小説も読みたくなりました。
12刷
2024.3.22詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ドラマで10代・家治が扱われたのは記憶に新しいところ、本作はその先代・家重の話
NHKの方には登場したんでしたね
こんな将軍がいたんですね
なかなか興味深い内容でした
登場人物が多いのと、主役がもう一つハッキリせず、群像劇っぽい描き方がちょっと難点 -
第八代将軍徳川吉宗の長男のお話。まいまいつぶろ、とは。権力争いの真っ只中にいるからこそ見えてくる人の心。一味違う歴史物でとても面白かった。
残念な点。人物相関図はない方がよかった。吉宗の跡継ぎが誰になるか相関図を見ると一目瞭然、関係する奥方たちも図に載ってしまってるし…。せめて幼少時代の相関図、跡継ぎ後の相関図、さらに次の代の相関図(ここで奥方たち情報を追加)、と展開に合わせて小出しにしてほしかった。 -
暗愚と疎まれた将軍の、比類なき深謀遠慮に迫る。口が回らず誰にも言葉が届かない、歩いた後には尿を引きずった跡が残り、その姿から「まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ馬鹿にされた君主。第九代将軍・徳川家重と生涯そのそばで代わりの口となり支えた大岡忠光の物語。
非常に感動できる良本でした。ただ途中からの話の展開にいまいちついていけず(内容というより私が悪いようにも思えるが、、、)一つ星減点の4。
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話す言葉は不明瞭で、体には麻痺があり排泄も困難。そんなハンデを持ちながら将軍になった人物がいたことを知らなかった。
マツケンが演じた八代将軍吉宗の子、九代家重。誰もが将軍職は不可能だと、一時は廃嫡の危機にありながら、唯一人言葉を解する小姓・兵庫(後の大岡忠光)との出会いが運命を変えていく。数々の困難に遭いながらも、家重と忠光が、将軍と家臣を超えた深い絆で結ばれ、寄り添って生き抜いていく姿に何度も涙しながら読んだ。
史実はもちろん、こんなに美しいことばかりではなかっただろうが、家重に障害があり、かつ将軍職を勤め上げたことは事実のようで、そこから生まれるフィクションとしてはとてもよくできた作品ではないかと思った。
仕事柄、はっとさせられる場面があった。
家重の回らぬ口の代わりだけを務めよ、目や耳になってはならぬ、と縁戚にあたる大岡忠相(大岡越前)にきつく戒めを受けた忠光が、見たこと聞いたことを家重に伝えられないことに悩み苦しむ場面で、忠相の言葉。
「長福丸様(注:家重の幼名)はご立派な目も耳も、頭もお持ちではないか。それをそなたが奪ってはならぬ」p58
支えが行過ぎては、本人の持つ本来の力を奪ってしまう。周囲からの策略への対処としての箴言かと思うが、家重の尊厳を守れよということでもあり、人間関係やケアの本質を突いた言葉だと思った。
伝えたいことをそれぞれの理由で伝えきれない二人に代わり、「目や耳」の役に徹しすべてを知っていてくれた御庭番・万里の存在に救われる。 -
家重と忠光。お互いがあってこその人生でした。
ともに聡明で気遣いができて…別れのシーンは泣けました。
大谷翔平君と一平氏もこうであればよかったのにー笑 -
九代将軍 家重は障がいを背負った不孝な生まれで下々のものにまでまいまいつぶろと噂される幼少期だった。
出会った通詞役が大岡忠光という、鳥の声も意味がわかるという秀でた家来。
その二人の生涯を幕政の明暗を描きながら将軍家のお家騒動にも展開されかねない時代の変遷、歴史の裏の裏までわかった気がした、ようなつもり。
折しも『大奥』と時代が被ってくる。
前半部分の面白さが後半は半減かな…
主人公がまだ若い頃の苦労のほうが切なく響く。 -
戦国時代や幕末期とは全く違う
こんな江戸時代の話も新鮮で良かった。
家重に寄り添う家臣の忠光と正室の比宮の2人には
泣かされました。。。。。