「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)
- 筑摩書房 (2015年11月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480816795
感想・レビュー・書評
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以前からなんとなく気付いていたが、人文科学や社会科学、いわゆる文系学問は瀕死の状態にある。
法学や哲学が最先端のイケてる学問だったのは遥か昔の話。心理学で有名なフロイトや、ハーマンのトラウマ理論は何の根拠もないデタラメということで決着済みだ。
経済学が前提にしている常に経済的に合理的な人など存在せず、もはや科学とは言えない。
じゃあ文系学問はどうすれば良いのか?
実は、これらの分野では、遺伝学や進化心理学、複雑系、行動経済学といった分野で、知のパラダイスシフトが起こっている。
だったら、古いロジックで構築されている学問は捨てて、新しいロジックを学べば良いのではないかって話。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
橘玲『「読まなくてもいい本」読書案内』(筑摩書房、2015)
進化論の発展から各学問分野にビッグバンが起こり、枠組みが変化していることを示した橘流サイエンスガイド。
パラダイム転換以後の考え方を知り、「それ以前」の本を「とりあえず」読書対象から外してしまおう(パラダイム認識ができたのちに読む)という提案です。
もともとリバタリアンを自称し進化心理学によるヒトの性質に注目していた著者だけに、大いに説得力があります。
目次では複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義の5項目が示されますが、実はこれらは「進化」の考え方を基礎にしつつ、相互に関連・発展してきたものだと。
ここに挙げられた新しい「知」
そして、旧来の学問の「死」
進化生物学が意識の謎を解き明かしたことから、哲学の役割は終わる。
人はなぜ老いるのか → 思春期に生殖能力を最大化するため
病気はなぜあるのか → ウイルスと免疫との"軍拡競争
神はなぜいるのか → 脳のシミュレーション機能の自然への拡張
【本文より】
◯日本ではあいかわらず「文系」「理系」の二分法が使われていて、進化論は理系の世界の話だと思われているが、進化論はいま、社会学や経済学、心理学といった「文系」の分野にも拡張され、社会科学を根底から組み替えようとしている。(p.60)
◯1970年代になると、生き物の生態がゲーム理論で読み解けることがわかってきた。知能も感情もない生き物は進化論的に合理的な”機械”なのだから、「効用=自己の遺伝子の複製」を最大化する戦略をせっせと実行しているだけだ。(p.144)
◯ゲーム理論が超強力なのは、(生き物を含む)この世界がゲームの集合体だからだ。植物も、動物も、そして人間も、与えられた条件や環境の下で、自らの能力を最大限に使って利得(遺伝子の複製だったり、子孫の数だったり、お金の量だったり、幸福だったりする)を最大化しようとさまざまなゲームを行っている。(p.160)
◯ひとはものごころついたときから死ぬ瞬間まで、意識があるかぎり、「if... then...」の思考をひたすら繰り返している。仏陀はこの終わりのないシミュレーションを「煩悩」と呼び、修業によって「if... then...」の回路を遮断し、とらわれのないこころの静けさに至ることを目指した。(p.224) -
全般面白くて、効率的に役立つ知識を付けて行ける分野(複雑系)(進化論)(ゲーム理論)(脳科学)(功利主義)の紹介とオススメ文献が紹介させており、新しい分野への学びのきっかけとなる書。実際に私もこの後進化論、ゲーム理論の本を購入して読みました。複雑系は、内容が難しくちょっと入ってこなかったです。
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タイトル通りの本を想像してたため、思っていたものとはかなり違ったが、これはこれで面白かった。
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このタイトルは、ちょっとひねりすぎ。「こんな本は読む価値がない!」と、名著の数々をバッサバッサ斬り捨てる内容を想像するだろうが、そうではない。
副題の「知の最前線を5日間で探検する」のほうが、内容の的確な要約になっている。複雑系科学・進化論・ゲーム理論・脳科学・功利主義の5分野の概要と最前線を、手際よく紹介した概説書なのである。
それがなぜ『「読まなくてもいい本」の読書案内』になるかというと、“複雑系科学などの長足の進歩による「知のビッグバン」が起きたあとでは、それ以前の古いパラダイムで書かれた本は読むに値しない”との主張が根幹になっているから。
著者は科学者ではないから、進化論・脳科学・複雑系についての記述は、ありていに言って既成の科学書や論文の受け売りである。
ただ、この著者は受け売りの仕方が抜群にうまく、受け売りであることを読者に意識させない。いわば、“洗練された受け売りのプロ”なのである。ホメているように聞こえないだろうが、100%の讃辞として“受け売りの達人”と呼びたい。
全盛期の立花隆は、科学の最前線を手際よく読者に伝える優秀な「科学啓蒙家」であった。その役割を、本書によって同じタチバナ姓の著者(ちなみに、立花隆の本名は橘隆志)が受け継いだと言えそうだ。
私は当初、本書を図書館で借りて読み、半分ほど読んだところで「これは手元に置いて何度も読み返したい」と思い、Amazonに注文した。
「知の最前線」の的確な概説として、優れた内容だ。難しいことをわかりやすく説明する知的咀嚼力において、著者の力量は池上彰に匹敵する。
ただ、「知のパラダイム」によって、哲学などの古典的教養がすべて陳腐化したかのように著者が言うのは、やや勇み足。古典的教養は、科学の進歩によって無価値になるほど薄っぺらいものではないはずだ。
そのへん、大前研一の「古典的教養無用論」に通ずる底の浅さを感じてしまった。 -
1年間に出版される本は8万冊を超える。
そして、世界に存在する本は1億3000万冊。
100万年かけても追いつかないし、その間にまた莫大な数の本が出版される。
ならば、読むべき本でなく読まなくてもいい本を決めればいいじゃないか。
まず、20世紀半ばからの「知のビックバン」の原動力となった、複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義に注目。
これらの「知のパラダイム転換」で、「知の見取図」を手に入れて、読むべき本を決めていこうと著者は呼びかける。
世界を覆う問題群へ必要なことは、「新しい世界」のビジョンを受け入れた上で、進化するテクノロジーとどのように共生していけばいいのかを示す「新しい哲学」「生命倫理」ではないか? との著者の主張に大きく共感。
「日本の社会で『リベラル(自由主義者)』と呼ばれているひとたちは、大学の教員にしても、マスメディアの正社員にしても、自分たちの組織が弱者を差別していることには知らない顔をして、『国家権力』なるもの(安倍政権とか)とたたかう振りをしてカッコつけているだけだ。フーコーが教えてくれたように、ひとはエラくなるほど自らの内なる権力から目を背け、外に敵をつくって偽善を隠蔽しようとする」(あとがきより)
知の最前線に触れる感動と、目の前の問題解決能力を鍛える入門書。 -
哲学と科学の拮抗を題材にしているが、科学よりの論調である。個人的には哲学が好きなため、嗜好に合わなかった。
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それなりに説得力はあるものの全面的には賛成できない。私は、ほぼ筆者とは同じ世代だが、若い世代には過去の「知」も学んで欲しいと思うし、そこから得られるものもあると思う。
ただ、現在のAI発達のスピードなどを見ていると筆者が予見している通りの方向に進んでいるのだと思う。功利主義の章は勉強になりました。 -
とても読みやすいです。哲学とか心理学とかは嘘臭いと感じるものも多いです。でもそれをデタラメだ!というためにはかなり勉強しないといけない。それをやってくれてる感じです。
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この半世紀で起きた知のビッグバン(学問の序列の変動)以前の方は読書リストから一旦外して、知のパラダイムシフト以降の本を読んで最新の見取り図を手に入れた後に、以前の本を読もうという主張。
特に複雑系とゲーム理論が面白かったので、他の本も読んでもう少し深めていきたい。