マギル卿最後の旅 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488106089

作品紹介・あらすじ

新発明の設計図を携えて、息子の元に旅立ったロンドンの富豪、ジョン・マギル卿が北アイルランドで消息を絶った。しばらくして、彼の遺体が息子の家の庭から発見されるが、息子にも他の容疑者たちにもアリバイがあった。失踪直前のマギル卿の不可解な行動、謎の男、アリバイの秘密など、もつれた糸をフレンチ警部は着実に解きほぐしていく。著者の作品の中でも一、二を争う名作。

感想・レビュー・書評

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  •  1930年発表であるから、今(2021年)から90年以上前の作品。現代風の洗練された作風ではないが、フレンチ警部の一歩一歩事件の真相解明に向けて進んでいく粘り強い捜査活動の描写に、読んでいて徐々に同調させられる。

     アイルランドのベルファスト周辺、イングランドでは、ロンドンからダムフリース、カースル・ダグラス、ストランラーへと向かう鉄道沿線、またフレンチと今回その相棒役となる北アイルランド、アルスター警察署のマクラング部長刑事とが汽車や自動車で裏取りのために動き回る場面や、他の登場人物がスコットランド沿岸をランチで周遊する説明がなされたりと、さながらトラベルミステリーのようで、当時の読者にとっては観光案内としても楽しめたのだろうな。


     強固なアリバイをどう崩すのかが推理の焦点になるのだが、いくら粘り強い捜査といっても、そう都合良く目撃者が出てくるものか、また犯行方法そのものについては正直?のところもあるものの、フレンチの推理過程はかなり読み応えがあったし、犯人に対するカマの掛け方にも頷けるものがあった。


     創元推理文庫の年一回の復刊フェア、クロフツの作品が毎回1冊ずつ復刊されていて、都度購入しているのだが、創元で刊行されていた作品をコンプリートするのが楽しみ。ただ、一体あと何年かかるだろう?
     どうか復刊事業、これからも続きますように!

  • ロンドンを旅立った富豪が、行方知れずに。北アイルランド警察の要請で、フレンチ警部も捜査に参加する。
    関係者の発言をうのみにせず、裏をとるのが警察であり、フレンチ警部。それが今回は、確認できることを確認せず、ややご都合主義な感じ。あくまでお手伝いの立場で、思うとおりに行動できないところも、もどかしい。

  • 2022/08/21読了

  • ベルファストに消えた老富豪 ロンドン~北アイルランド 
    見知らぬ訪問者とコロナ三号を フレンチ警部が追う!

    FWクロフツ(1879~1957)は、そもそも鉄道技師である。
    それが病気をし、療養中の手遊びに、推理小説なぞを書いてみた。
    それが名高き『樽』である。

    「『樽』が翻訳された時はすごかった。
    周りのミステリファンが皆こぞって読んで、『樽』はいい、『樽』は素晴らしいって、絶賛していた」
    70年代にそれを読んだ人から、そんなことを聞いた。
    「ただ、私は、なにがいいやらさっぱりわからなかった」

    実は私もその口だ。
    2010年代に読んではみたが、ピンともツンとも響かなかった。
    突然出来した樽の跡を、大の大人が二人、頭を絞り駆けずり回って追っていたように記憶している。

    『マギル卿最後の事件』も、それだ。
    消えた老富豪の足跡を、大の大人が、頭を絞り駆けずり回って追っていくのだ。
    ロンドン警視庁と、アルスター警察の合同捜査で、中心となるのはもちろんフレンチ警部である。
    大枠は『樽』と同じでも、こちらは面白かった。楽しんで読んでいた。

    ダブリン生まれアルスター育ちのクロフツが、馴染んだ風景を描く。
    得意の鉄道で、フレンチたちを行き来させる。

    『列車からストランラー港に降り立ってみると、東の空には、華やかな色模様が夜明けの先ぶれをしていた。ホームの寝台車の入り口には、どこにも姿を現わすさっきのボーイがたっていて、「フレンチさま、お早うございます。ご乗車ありがとうございました」と挨拶し、自分の列車の停まっているホームの一番はずれまで見送ってくれた。』 (58頁)

    列車の旅はなかなかゆったりしていて、朝には件のボーイが紅茶まで運んでくれる。
    うらやましい旅である。

    フレンチ警部の私生活は出てこない。
    彼はアルコールの問題を抱えていないし、
    突然暴力をふるう男でもない。
    家族との間に隙間風もふいていない。
    安心して読んでいられる。

    せっかくあちこち行き来しているのだから、その地の食べ物でも書いてくれたら嬉しいのに、それもない。
    ひとこともない。
    兎に角、推理だけなのだ。

    なにがあったのか?
    誰がどのように行ったのか?

    アルスター、ベルファスト、キャリクファーガスなどの地名を目にして、嬉しくなってしまった。
    馴染みのところなのだ。(『レイン・ドッグズ』『ガン・ストリート・ガール』『トーイン』)
    「行ったことはないが馴染みの地」がこうして増えていくのも、海外ミステリを読む楽しみの一つなのである。

  • 行方不明になった富豪マギル卿を探すフレンチ警部の活躍。

    アリバイ崩しもの。
    犯人との駆け引きではないので派手な展開はなく、丹念に捜査過程を描いていく。
    事件の真相も「えっ!?」ではなく「う〜む」って感じ。変に凝ったものではないので、結構読みながら想像がつく。
    フレンチの推理と合わせて自分の推理も正しいかを確かめながら読んでいくようになって、それがまた楽しい。本格の醍醐味だよなぁと思う。

  • フレンチ警部シリーズ

    リンネルの新しい発明を持ち長男ヴィクターの棲むアイルランドに旅立ったジョン・マギル卿。ベルファストまでの道のりで目撃されるマギル卿。行方不明になったマギル卿の捜査を開始するアイルランド警察マクラング部長刑事とスコットランド・ヤード・フレンチ警部。捜査本部に届けられたX・Y・Zを名乗る人物からの密告状から長男ヴィクターの自宅の庭から発見されたマギル卿の遺体。睡眠薬を飲まされた形跡のある遺体。旅立つ前にマギル卿の元を訪れたアーサー・コーツの正体。コーツとともに夜行列車にのったマギル卿。船で旅をしていたヴィクターと友人たち謎のコーツ氏と落ち合ったティーア。船に遅れて合流したチャールズ・ジョス。フレンチ警部の事件の再現と洞窟に隠された密告状を書くのに使用したタイプライターの謎。


     2007年3月3日購入

     2009年3月23日再読

     2011年6月7日再読

  • 小説の最初の方のある文章で、 ○○が犯人ではないかと予想できてしまった。そのような 結論にならない事を願いつつ読み進めたが、見事当たってしまい多少がっかりした。事件は共犯者の複雑なアリバイづくりが 見事であり、犯人の予想は 出来たが この事件の展開は小説の最後の方まで分からなかった。フレンチは 事件の再現を行い、見事に犯行が実現可能である事を示しており、 これについては細部の事までよくふれられていると思う。ただ、この事件、現代の血液鑑定があれば一発で事件解決するのにと思ったが、これは言ってもしょうがないことかな。

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著者プロフィール

フリーマン・ウィルス・クロフツ(Freeman Wills Crofts)
1879年6月1日 - 1957年4月11日
アイルランド生まれ、イギリスの推理作家。アルスター地方で育ち鉄道技師となったが、40歳で病を患い入院。療養しながら記した『樽』を出版社に送ったところ採用、1920年刊行。名声を博し、推理作家デビューとなる。50歳まで本業の技師を続けながら兼業作家を続けていたが、体調悪化で退職して作家専業に。その後、英国芸術学士院の会員にまで上り詰める。
本格推理作家として、S・S・ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カーと並んで極めて高い評価を受けている一人。代表作に前述の『樽』『ポンスン事件』、フレンチ警部シリーズ『フレンチ警部最大の事件』『スターヴェルの悲劇』『マギル卿最後の旅』『クロイドン発12時30分』 など。

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